廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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二十四話目です。廃墟に予想外の来客が重なります。


一章 第二十四話「情報屋と騎士と、道化師の人形」

 

 

【ウェイブ視点】

 

 今日こそ、ちゃんと話しかけよう。

 

 ウェイブは廃墟の前に立ちながら、そう心に決めた。前回は名前を教えてもらった……でもそれだけだ。もっと話したい!もっと知りたい!

 

――(ふぅん。俺ほどの騎士がこんなに緊張するとは珍しい。でも、これは緊張じゃない。作戦を練っているだけだ)

 

「……入っていいか?」

 

 廊下の奥から、扉がゆっくりと開いた。

 

――(よし! 今日も許可をもらえた!)

 

 ウェイブが廃墟に入ろうとした……そのとき。

 

 後ろから足音が聞こえた。

 

「……邪魔だ」

 

 振り返ると、黒髪の男が立っていた。黒いローブ……いや、軽い皮鎧か。短剣を腰に下げた、目つきの鋭い男だ。

 

「……な、誰だ!?」

 

「通してくれ」

 

「通す? ここは俺が先に来ていたんだが! ふぅん!」

 

「……関係ない」

 

 男はウェイブを軽く押しのけて、廃墟の中へ入っていった。

 

――(押しのけた!? 今、押しのけたぞ!?)

 

「こ、こいつ……! ふぅん! ふぅん!!」

 

 

   *   *   *

 

 

【ネル視点】

 

 ミネルバと一緒に、黒髪の男が廃墟に入ってきた。

 

――(これが……クロウ?)

 

 男はボクを見て、しばらく無言で観察した。情報屋らしい目だ。値踏みするような、でも感情のない視線。

 

「……なるほど」

 

 それだけ言った。

 

――(なるほど、って何が?)

 

 ミネルバが口を開いた。

 

「ネル。こいつがクロウだ。昨日話した」

 

 頷く。

 

「クロウ。こいつがネルだ」

 

「……ああ」クロウが短く答えた。「道化師の人形……か。なるほど」

 

――(また「なるほど」だ……何がなるほどなんだ)

 

 クロウがボクの周りをゆっくりと歩いた。観察している。人形としてのボクを、情報屋の目で確認している。

 

「……魔物じゃない」クロウが静かに言った。「でも人間でもない。廃墟に住んでいて、魔物も近づかない。……ミネルバが庇う理由がわかった」

 

 ミネルバが少し目を細めた。

 

「……それだけでわかるのか」

 

「情報屋だからな」クロウが短く答えた。それ以上は何も言わなかった。

 

 そのとき。

 

「ネル! 失礼するぞ!!」

 

 廃墟の入り口から、白と青の鎧の騎士が飛び込んできた。

 

――(ウェイブ……!?)

 

「ネル! 俺だ、ウェイブだ! また来た! ふぅん↑」

 

 ウェイブがクロウを見た。クロウがウェイブを見た。

 

 沈黙。

 

「それでお前はいったい誰なんだ? どんな理由でここにいる!!」

 

「……通りすがりだ」

 

「通りすがり!? こんな廃墟に通りすがりで来るやつがいるか!!」

 

「……いる」

 

「ふぅん!!」

 

――(ウェイブとクロウが……なんか火花を散らしている)

 

 ミネルバがため息をついた。

 

「……ウェイブ。こいつは俺の仲間だ。問題ない」

 

「仲間!?」ウェイブがミネルバを見た。それからクロウを見た。それからボクを見た。「……ミネルバの仲間が、なんでここに……?」

 

「ネルに会いに来た」クロウが短く言った。

 

 ウェイブが固まった。

 

「…………ネルに?」

 

「ああ」

 

「…………」

 

――(ウェイブの顔色が変わった……)

 

「ふ、ふぅん!!」ウェイブが急に背筋を伸ばした。「そ、そうか! ネルに会いに来たのか! ふぅん!! 俺も同じだ!!」

 

――(同じ、って……)

 

「……騎士が、なぜここにいる」クロウが無表情で言った。

 

「そ、それはっ……個人的な視察だ!! ふぅん!」

 

「……そうか」

 

 ミネルバが額に手を当てた。

 

「……静かにしろ、二人とも」

 

 

   *   *   *

 

 

【ウェイブ視点】

 

――(まずい……ライバルが現れてしまった!)

 

 ウェイブはクロウを横目で見ながら、必死に考えた。

 

 あの男……なんだ? 目つきが鋭い、短剣を何本も持っているし……ミネルバの仲間らしい。そして「ネルに会いに来た」と言った。

 

――(ネルに会いに来た……それはつまり……)

 

 ウェイブは胸の前で腕を組んだ。

 

――(俺と同じ気持ちがあるということでは!? ふぅん!!)

 

 完全な誤解だった。

 

「……何を考えている」クロウが静かに言った。

 

「な、なんでもない! ふぅん!」

 

「……顔に出ている」

 

「出てない!!」

 

 ミネルバがもう一度ため息をついた。

 

 ネルは廃墟の中央で、固定された笑みのまま、この騒動を眺めていた。

 

――(……平穏はどこへ)

 

 アウラが静かにボクの隣に立った。白い瞳がこちらを向いている。その表情が、いつもより少し……楽しそうに見えた気がした。

 

――(アウラ、お前まで……)

 

 廃墟の外で、夕暮れの風が木々を揺らしていた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。「まずい……ライバルが現れてしまった!」……ウェイブの誤解、笑っていただけましたか?
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