廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

26 / 27
二十五話目です。女王の剣が、ついに動き出します。


一章 第二十五話「女王の剣は村へ行く」

 

【レイニー視点】

 

 辺境の村は、思ったより小さかった。

 

 レイニー・ブラッドフォートは村の入り口に立ちながら、周囲を一瞥した。石造りの家が数十軒。小さな広場。井戸。畑。王都からは馬で半日ほどの距離だが、ここには王都の喧騒など欠片もない。

 

――(のどかなのよ……でも、今日は仕事なんだから。)

 

 レイニーは近衛兵の青い鎧の胸を軽く叩いて、村の中へ入った。

 

 最初に声をかけた老人は、レイニーの鎧を見て目を丸くした。

 

「な、近衛兵様……?」

 

「そうですわ。女王陛下の近衛、レイニー・ブラッドフォートですの」レイニーが腰に手を当てた。「この辺りの廃墟について聞きたいことがあるんですけど、よろしいかしら?」

 

「は、はあ……もちろんでございます」

 

「じゃあ聞くわよ」

 

 老人がこくこくと頷いた。

 

「あの廃墟……最近、何か変わったことはあった?」

 

「変わったこと……そうですね……」老人が少し考えた。「白い娘が住んでいると噂になっていますが……それくらいで」

 

「白い娘ね」レイニーが眉を寄せた。「その娘について、もっと詳しく」

 

「詳しくはわからないのですが……村の子どもたちが何度か廃墟に行ったとかで……でも危険なことは何もなかったようで……」

 

「子どもたちが廃墟に……?」

 

「ええ。ロイドという子が特に仲良くしているようで……ただ、その娘とは話せないようで……声が出ないとか」

 

「声が出ない……」

 

 レイニーは少し黙った。

 

――(声が出ない……何か事情があるのね)

 

 もう一つ引っかかることがあった。

 

「Bランクの冒険者が出入りしているという話も聞いたけど……知ってる?」

 

「ああ、ミネルバさんですね」老人が頷いた。「あの方は頼りになる方で……廃墟の様子を見てくれているようですが、詳しいことは……」

 

「ミネルバ……」

 

 聞いたことのある名前だ。Bランク上位の冒険者。セレシア女王への報告書にも名前が出ていた。

 

――(ただの廃墟じゃないのよ……確かに)

 

 

   *   *   *

 

 

 村の中をゆっくり歩きながら、レイニーは別の家の前で立ち止まった。

 

 洗濯物を干していた中年の女性が、レイニーを見て驚いた顔をした。

 

「あら……近衛兵様?」

 

「少し聞いていいですの?」レイニーが声をかけた。「近くの廃墟の話なのだけど……」

 

「ああ……廃墟ねえ」女性が少し顔を曇らせた。「最近、なんか怖いって言う人も出てきて……」

 

「怖い?」

 

「夜中に森の方に人が出入りしているとか……なんか、魔法師団の人が来てたとか……うちの旦那が見たって言ってて」

 

「魔法師団……」

 

――(やっぱりザガンが動いているのよ)

 

「その人たち、どんな格好だった?」

 

「黒いローブ……だったって。夜中に、こそこそっと……」女性が少し身震いした。「なんか怖いですよね、近衛兵様……」

 

「……あなたたちは安心していいのよ。わたくし様が調べますから。」

 

「は、はあ……よろしくお願いします」

 

 女性が頭を下げた。レイニーは頷いて、歩き出した。

 

 

   *   *   *

 

 

 村を一通り歩いて情報を集めたレイニーは、村の外れで立ち止まった。

 

 遠くに、森が見える。その奥に、廃墟があるはずだ。

 

――(白い娘。声が出ない。Bランク冒険者が庇っている。夜中に黒いローブが出入りしている)

 

 情報を整理すると、一つの絵が見えてくる。

 

――(ザガンはあの廃墟の何かに目をつけている。そして……女王陛下もあの廃墟を気にし始めている)

 

 レイニーは腕を組んだ。

 

「……直接、見に行くしかないのよ」

 

 独り言が、風に溶けた。

 

 森の向こうの廃墟は、今日も静かに、そこにあった。

 

 

   *   *   *

 

 

【ネル視点・同刻】

 

 廃墟は今日も……やや騒がしかった。

 

「クロウ! 俺のことをライバルだと思ってるか!?」

 

「……思っていない」

 

「正直に言え!!」

 

「……思っていない」

 

「ふぅん!! その落ち着きが怪しいんだ!!」

 

 ミネルバがジョッキを置いた。

 

「……うるさい」

 

――(……今日も平穏じゃない)

 

 アウラが窓の外を見ていた。その方向には、村がある。

 

――(……何かいる?)

 

 ボクはアウラの視界で周辺を確認したが、特に異常はなかった。

 

 ただ、なんとなく……遠くの方に、誰かの気配を感じた気がした。

 

――(気のせい……か)

 

 廃墟の外で、夕暮れの風が木々を揺らしていた。

 

 平穏を望む道化師の人形は、まだ知らない。

 

 「女王の剣」が、すぐそこまで来ていることを。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。「女王の剣」がすぐそこまで……次回をお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。