廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい 作:糸守ものち
【ザガン視点】
ザガンは部屋に戻ると、静かに椅子に座った。
――(いったい誰が?……可能性として一番高いのは……レイニーと言ったところでしょうね。独断……いや、女王の命令か)
焦りはない……これは想定の範囲内だ。いずれこうなることはわかっていたのだから……ただ、もう少し時間があると思っていた。
――(計画を……前倒しにする必要がありますね。くひひ)
笑いが漏れかけたが、今は封印する。
ザガンは静かに考えた。廃墟への奇襲。あの人形の確保。不老不死の儀式。全ての準備は整っている。あとは実行するだけだ。
――(不老不死さえ手に入れれば……レイニーも、女王も、関係ない。くひひ……)
そのとき、廊下から足音が聞こえた。
複数の足音。重い鎧の音。騎士団だ。
扉が激しくノックされた。
「ザガン! 開けろ! 吾輩だ!」
ザガンは静かに立ち上がった。
深呼吸。笑いを封印する。穏やかな魔法師団長の顔を作る。
「……はい。今開けます」
扉を開けると、マグナスが騎士たちを引き連れて立っていた。
「ザガン! 女王陛下の命により、お前を連行する!」
「……それは」ザガンが静かに言った。「どういう理由で?」
「禁忌の研究だ! 証拠がある!」
「……なるほど」
ザガンは少し考えるふりをしてから、静かに頷いた。
「わかりました。女王陛下のご命令であれば……従いましょう」
マグナスが目を丸くした。
「……な!? 抵抗しないのか?」
「する理由がありません」ザガンが穏やかに言った。「わたくしは何も悪いことはしていませんから。きちんと説明すれば、ご理解いただけるはずです」
マグナスが眉をひそめた。
「……怪しいな」
「くひひ……いえ、失礼。ご安心ください。大人しく参ります」
ザガンは静かに外套を羽織った。
――(焦る必要はない。今夜はおとなしくしていればいい……くひひ)
廊下を歩きながら、ザガンは夜の王都を窓越しに見た。
今はまだ、夜だ。
* * *
【マグナス視点】
牢屋まで連行しながら、マグナスはどうにも落ち着かなかった。
――(なぜ大人しく来た? あのザガンが……)
ザガンという男は、マグナスが長年苦手にしている相手だ。丁寧な物腰。でも目の奥が笑っていない。何を考えているのかわからない。
「……吾輩はお前のことが信用できん」
「それは光栄です」ザガンが穏やかに答えた。
「褒めてないのだぞ!!」
「存じております。くひひ……失礼」
マグナスは舌打ちしたいのを堪えた。
牢屋の前に来ると、ザガンは自ら中に入った。振り返って、にこりと微笑んだ。
「では、明日のご説明を楽しみにしております」
鉄格子が閉まった。
マグナスはしばらく牢屋の前に立ったまま、ザガンを見た。
――(……こいつ、何を企んでいる)
「吾輩は……なんか嫌な予感がするぞ」
側近の騎士が「団長らしくない発言ですが」と呟いたが、マグナスは聞こえないふりをした。
* * *
【ザガン視点・牢屋の中】
静かだった。
ザガンは壁に背をもたせかけて、目を閉じた。
――(明日……女王陛下と話す機会がある。それで十分です)
計画の修正は頭の中で既に完成している。廃墟への奇襲は……もう少し後でもいいでしょう。女王の問い詰めを乗り越えて、釈放されてから動く。
――(不老不死さえ手に入れれば……全ては些末なことに過ぎない)
「くひひ……」
誰もいない牢屋の中で、静かに笑った。
夜はまだ、長い。
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