廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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三十話目です。ついにザガンが動き出します。


一章 第三十話「魔法師団長の夜」

 

 

【ザガン視点】

 

 ザガンは部屋に戻ると、静かに椅子に座った。

 

――(いったい誰が?……可能性として一番高いのは……レイニーと言ったところでしょうね。独断……いや、女王の命令か)

 

 焦りはない……これは想定の範囲内だ。いずれこうなることはわかっていたのだから……ただ、もう少し時間があると思っていた。

 

――(計画を……前倒しにする必要がありますね。くひひ)

 

 笑いが漏れかけたが、今は封印する。

 

 ザガンは静かに考えた。廃墟への奇襲。あの人形の確保。不老不死の儀式。全ての準備は整っている。あとは実行するだけだ。

 

――(不老不死さえ手に入れれば……レイニーも、女王も、関係ない。くひひ……)

 

 そのとき、廊下から足音が聞こえた。

 

 複数の足音。重い鎧の音。騎士団だ。

 

 扉が激しくノックされた。

 

「ザガン! 開けろ! 吾輩だ!」

 

 ザガンは静かに立ち上がった。

 

 深呼吸。笑いを封印する。穏やかな魔法師団長の顔を作る。

 

「……はい。今開けます」

 

 扉を開けると、マグナスが騎士たちを引き連れて立っていた。

 

「ザガン! 女王陛下の命により、お前を連行する!」

 

「……それは」ザガンが静かに言った。「どういう理由で?」

 

「禁忌の研究だ! 証拠がある!」

 

「……なるほど」

 

 ザガンは少し考えるふりをしてから、静かに頷いた。

 

「わかりました。女王陛下のご命令であれば……従いましょう」

 

 マグナスが目を丸くした。

 

「……な!? 抵抗しないのか?」

 

「する理由がありません」ザガンが穏やかに言った。「わたくしは何も悪いことはしていませんから。きちんと説明すれば、ご理解いただけるはずです」

 

 マグナスが眉をひそめた。

 

「……怪しいな」

 

「くひひ……いえ、失礼。ご安心ください。大人しく参ります」

 

 ザガンは静かに外套を羽織った。

 

――(焦る必要はない。今夜はおとなしくしていればいい……くひひ)

 

 廊下を歩きながら、ザガンは夜の王都を窓越しに見た。

 

 今はまだ、夜だ。

 

 

   *   *   *

 

 

【マグナス視点】

 

 牢屋まで連行しながら、マグナスはどうにも落ち着かなかった。

 

――(なぜ大人しく来た? あのザガンが……)

 

 ザガンという男は、マグナスが長年苦手にしている相手だ。丁寧な物腰。でも目の奥が笑っていない。何を考えているのかわからない。

 

「……吾輩はお前のことが信用できん」

 

「それは光栄です」ザガンが穏やかに答えた。

 

「褒めてないのだぞ!!」

 

「存じております。くひひ……失礼」

 

 マグナスは舌打ちしたいのを堪えた。

 

 牢屋の前に来ると、ザガンは自ら中に入った。振り返って、にこりと微笑んだ。

 

「では、明日のご説明を楽しみにしております」

 

 鉄格子が閉まった。

 

 マグナスはしばらく牢屋の前に立ったまま、ザガンを見た。

 

――(……こいつ、何を企んでいる)

 

「吾輩は……なんか嫌な予感がするぞ」

 

 側近の騎士が「団長らしくない発言ですが」と呟いたが、マグナスは聞こえないふりをした。

 

 

   *   *   *

 

 

【ザガン視点・牢屋の中】

 

 静かだった。

 

 ザガンは壁に背をもたせかけて、目を閉じた。

 

――(明日……女王陛下と話す機会がある。それで十分です)

 

 計画の修正は頭の中で既に完成している。廃墟への奇襲は……もう少し後でもいいでしょう。女王の問い詰めを乗り越えて、釈放されてから動く。

 

――(不老不死さえ手に入れれば……全ては些末なことに過ぎない)

 

「くひひ……」

 

 誰もいない牢屋の中で、静かに笑った。

 

 夜はまだ、長い。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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