廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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三十四話目です。いよいよ...一章クライマックスが始まります。


一章 第三十四話「雷鳴、王都に轟く」

 

【ザガン視点・朝】

 

 朝が来た。

 

 ザガンは執務室の窓から、王都の朝焼けを見た。静かだ。まだ誰も知らない。誰も気づいていない。

 

――(では……始めましょうか。くひひ)

 

 ザガンは目を閉じた。

 

 意識を王都全体へと広げる。

 

 仕込んだ雷の魔力が……まだ、そこにある。騎士たちの体の中に……魔法師団員たちの体の中に、静かに眠っている。

 

 ザガンは、その全てに同時に――

 

 引き金を引いた。

 

 

   *   *   *

 

 

【マグナス視点】

 

 朝の巡回は……いつも通りだった。

 

 マグナスは騎士団の詰め所を出て廊下を歩いていた……今日も天気はいい。任務の報告書もそろそろ仕上げなければならない。

 

 ……そのとき。

 

 体に、電流が走った。

 

――(な……?)

 

 足が、止まった。

 

 いや、止められた。

 

 自分の意志では決してない。足が動かない……腕が動かない。体が、まるで糸で引っ張られているかのように……動かない。

 

――(な、なんだ!? くそっ……体が動かない!!)

 

 だが意識はある……思考は働いているはずだ……

 

 視界の端で、廊下の騎士たちが同じように止まっているのが見えた。全員が……人形のように静止している。

 

――(これは……まさか……ザガンの仕業か!?)

 

 そのとき、廊下の奥から静かな声が聞こえた。

 

「さあ……少しの間、私の駒になってもらいましょうか……くひひひひ!」

 

 執務室の扉が静かに開いた。

 

 ザガンが廊下に出てきた。ゆっくりと、マグナスの目の前まで歩いてくる。

 

 黒いローブに穏やかな顔……でもその目は……笑っていない。

 

 マグナスの体が、ゆっくりと動き始めた。

 

 自分の意志ではない。

 

 女王の間の方へ……向かい始めた。

 

 

   *   *   *

 

 

【レイニー視点】

 

 異変に気づいたのは、朝の巡回のときだった。

 

 廊下を歩いていると……騎士たちが一斉に動きを止めた。次の瞬間、向きを変えて……女王の間の方向へ歩き始めた。

 

――(これは……!)

 

 レイニーは瞬時に状況を把握した。

 

 雷魔法……それも恐ろしく高度な。体の乗っ取り?こんなことができるのは間違いなくザガンだ。

 

「やっぱりあの時、釈放すべきではなかった……あいつ!!」

 

 レイニーは走り出した。女王の間へ。セレシア様のもとへ。

 

 廊下を走りながら、魔力を手に集中させる。騎士たちが行く手を塞いでくる。操られた味方だ……殺すわけにはいかない。

 

「どきなさいのよ!!」

 

 手加減した拳で、一人ずつ吹き飛ばしながら走り続けた。

 

――(セレシア様……今すぐ行きます!!)

 

 

   *   *   *

 

 

【セレシア視点】

 

 報告が入ったのは、朝食の途中だった。

 

「女王陛下……騎士団と魔法師団員が、一斉に動きを止めました。そして……こちらへ向かっています」

 

 側近の声が、かすかに震えていた。

 

 セレシアは静かに立ち上がった。

 

――(このタイミングで急に……なるほど、ザガン……やはり、あなたでしたか)

 

「レイニーは?」

 

「今、こちらに向かっているとの連絡が届きました」

 

「わかりました」

 

 セレシアは杖を手に取った。

 

 水色の宝石が、朝の光を反射して鋭く輝いた。

 

 部屋の温度が、わずかに下がった気がした。

 

 窓の外で、王都が静かに混乱し始めていた。

 

――(「容赦しない」と言いましたよ……覚えていますね、ザガン)

 

 女王の瞳が、静かに、冷たく、光った。

 

 

   *   *   *

 

 

【ザガン視点】

 

 全てが動いている。

 

 ザガンは執務室の窓から王都を見下ろした。騎士たちが動いている。魔法師団員が動いている。全員が、ザガンの意のままに。

 

――(くひひ……くひひひひ)

 

 笑いが止まらない。

 

 でも……まだ終わりではない。

 

 ザガンは外套を羽織った。

 

 今度は、自分が動く番だ。

 

「くひひ……廃墟へ、参りましょうか」

 

 執務室を出た。

 

 廊下には、待機していた精鋭の魔法師団員が二十人、整列していた。

 

「行きますよ」

 

 ザガンは静かに言った。

 

 二十人が、一斉に動き出した。

 

 王都の朝に、静かな雷鳴が響いた。

 




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