廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい 作:糸守ものち
【ザガン視点・朝】
朝が来た。
ザガンは執務室の窓から、王都の朝焼けを見た。静かだ。まだ誰も知らない。誰も気づいていない。
――(では……始めましょうか。くひひ)
ザガンは目を閉じた。
意識を王都全体へと広げる。
仕込んだ雷の魔力が……まだ、そこにある。騎士たちの体の中に……魔法師団員たちの体の中に、静かに眠っている。
ザガンは、その全てに同時に――
引き金を引いた。
* * *
【マグナス視点】
朝の巡回は……いつも通りだった。
マグナスは騎士団の詰め所を出て廊下を歩いていた……今日も天気はいい。任務の報告書もそろそろ仕上げなければならない。
……そのとき。
体に、電流が走った。
――(な……?)
足が、止まった。
いや、止められた。
自分の意志では決してない。足が動かない……腕が動かない。体が、まるで糸で引っ張られているかのように……動かない。
――(な、なんだ!? くそっ……体が動かない!!)
だが意識はある……思考は働いているはずだ……
視界の端で、廊下の騎士たちが同じように止まっているのが見えた。全員が……人形のように静止している。
――(これは……まさか……ザガンの仕業か!?)
そのとき、廊下の奥から静かな声が聞こえた。
「さあ……少しの間、私の駒になってもらいましょうか……くひひひひ!」
執務室の扉が静かに開いた。
ザガンが廊下に出てきた。ゆっくりと、マグナスの目の前まで歩いてくる。
黒いローブに穏やかな顔……でもその目は……笑っていない。
マグナスの体が、ゆっくりと動き始めた。
自分の意志ではない。
女王の間の方へ……向かい始めた。
* * *
【レイニー視点】
異変に気づいたのは、朝の巡回のときだった。
廊下を歩いていると……騎士たちが一斉に動きを止めた。次の瞬間、向きを変えて……女王の間の方向へ歩き始めた。
――(これは……!)
レイニーは瞬時に状況を把握した。
雷魔法……それも恐ろしく高度な。体の乗っ取り?こんなことができるのは間違いなくザガンだ。
「やっぱりあの時、釈放すべきではなかった……あいつ!!」
レイニーは走り出した。女王の間へ。セレシア様のもとへ。
廊下を走りながら、魔力を手に集中させる。騎士たちが行く手を塞いでくる。操られた味方だ……殺すわけにはいかない。
「どきなさいのよ!!」
手加減した拳で、一人ずつ吹き飛ばしながら走り続けた。
――(セレシア様……今すぐ行きます!!)
* * *
【セレシア視点】
報告が入ったのは、朝食の途中だった。
「女王陛下……騎士団と魔法師団員が、一斉に動きを止めました。そして……こちらへ向かっています」
側近の声が、かすかに震えていた。
セレシアは静かに立ち上がった。
――(このタイミングで急に……なるほど、ザガン……やはり、あなたでしたか)
「レイニーは?」
「今、こちらに向かっているとの連絡が届きました」
「わかりました」
セレシアは杖を手に取った。
水色の宝石が、朝の光を反射して鋭く輝いた。
部屋の温度が、わずかに下がった気がした。
窓の外で、王都が静かに混乱し始めていた。
――(「容赦しない」と言いましたよ……覚えていますね、ザガン)
女王の瞳が、静かに、冷たく、光った。
* * *
【ザガン視点】
全てが動いている。
ザガンは執務室の窓から王都を見下ろした。騎士たちが動いている。魔法師団員が動いている。全員が、ザガンの意のままに。
――(くひひ……くひひひひ)
笑いが止まらない。
でも……まだ終わりではない。
ザガンは外套を羽織った。
今度は、自分が動く番だ。
「くひひ……廃墟へ、参りましょうか」
執務室を出た。
廊下には、待機していた精鋭の魔法師団員が二十人、整列していた。
「行きますよ」
ザガンは静かに言った。
二十人が、一斉に動き出した。
王都の朝に、静かな雷鳴が響いた。
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