廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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三十五話目です。廃墟に……ついに奇襲が迫ります。


一章 第三十五話「奇襲、廃墟に迫る」

 

【ネル視点・朝】

 

 朝は静かだった。

 

 いつも通りアウラが窓の外を見ていて……ミネルバはまだ眠っている。昨日の依頼が長引いたらしく、今日は珍しく廃墟に泊まっていた。

 

 ボクは廃墟の奥で、素体に魔力を注いでいた。

 

――(あと少し……あともう少しだけで戦闘に特化した人形ができる)

 

 この人形の完成まで、もう少しだ……

 

 そのときだった。

 

 アウラが、突然ピタリと動きを止めた。

 

――(アウラ?)

 

 白い瞳が廃墟の外……森の方向を向いている。

 

――(何か……いるのか?)

 

 ボクはアウラの視界に意識を集中した。

 

 森の木々の向こうに……人影があった。

 

 一人、二人どころじゃない……大勢だ!

 

――(!!)

 

――(戦える人形は、まだ完成していないのに……間に合わなかったんだ)

 

――(はやくミネルバを……起こさないと!)

 

 

   *   *   *

 

 

【ウェイブ視点】

 

 今日も廃墟に来てしまった。

 

 ウェイブは森の小道を歩きながら、少し反省していた。ネルに会いに来るのは構わない。でも最近……来る頻度が少し多すぎる気がする。

 

「……ふぅん↑ まあいいだろう。俺が来たことでネルも喜ぶはずだ……ふふ!間違いない!(確信)」

 

 などと一人で納得しながら歩いていると……

 

 前方の森の中に、人影が見えた。

 

 一人ではない……大勢だ。黒いローブの人物を先頭に、同じ服装の人間が整列して歩いている。

 

――(……なんだ?)

 

 ウェイブは思わず木の陰に隠れた。

 

 先頭の人物……見覚えがある顔だ。

 

――(あれは……ザガン魔法師団長? なぜこんなところに……しかも、こんな大人数で)

 

 嫌な予感がした。

 

 廃墟の方向に向かっている。

 

――(まずい……!)

 

 ウェイブは走り出した。廃墟へ。ネルのもとへ。

 

 

   *   *   *

 

 

【ネル視点】

 

 急いでミネルバを起こした。

 

「ふぁ……(大きなあくびをしながら)……そんなに慌てて……どうしたんだ?」

 

「まだ早朝だぞ……」

 

 アウラが森の方向を指した。

 

 ミネルバがすぐに察した。眠気が、一瞬で消えた。

 

「……来客か」

 

 頷く。

 

「何人だ?」

 

 ボクは両手の指を使って二回示した。それから首を振って、まだいると伝えた。

 

「……二十以上か」ミネルバが静かに立ち上がった。「誰かわかるか?」

 

 アウラの視界で確認する。先頭の人物……黒いローブ。痩せた体。

 

――(ザガンだ)

 

 ボクはアウラに、相手の正体を伝えてもらった。

 

 ミネルバの目が、鋭くなった。

 

「ザガン……か。ついに強硬手段に出てきたってところか」

 

 低い声だった。

 

「わかった」ミネルバが斧を手に取った。「ネル……奥に隠れていろ。アウラも一緒に」

 

――(ミネルバ……一人で二十人以上は……)

 

「心配するな」ミネルバが静かに言った。「全員相手にするつもりはない。入り口で食い止める」

 

 その時、廃墟の入り口から声が聞こえた。

 

「ちょ、ちょっと待て!!」

 

 ウェイブだった。息を切らして廃墟に飛び込んできた。

 

「ザガンが来てるぞ! 大勢の部下たちを連れて……!」

 

 ミネルバが静かに言った。

 

「知っている」

 

「え?」

 

「今から迎え撃つ」

 

 ウェイブが顔を青くした。

 

「あ、あの人数をひとりで……?!」

 

「ひとりじゃない……ネルもいる」

 

 ウェイブが廃墟の奥のボクを見た。ボクは……頷いた。

 

「……ふぅん」ウェイブが少し間を置いた。「……なら、俺も残る」

 

 ミネルバが眉を上げた。

 

「お前が? 逃げなくていいのか」

 

 ウェイブが少し強張った顔で言った。「ネルの前で……好きな相手の前で(小声)……逃げるわけにはいかないだろう!!」

 

――(……こいつ)

 

 ミネルバが小さく息を吐いた。

 

「……好きにしろ」

 

 廃墟の外で無数の足音が近づいてくる。

 

 大地がわずかに震えていた。

 

 ザガンが、大勢の部下を引き連れて……ここに来る。

 

 平穏を望む道化師の人形は、廃墟の奥で静かに拳を握った。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
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