廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい 作:糸守ものち
【ウェイブ視点】
ザガンが廃墟の前に立った。
大勢の魔法師団員を従えて……ゆっくりと、静かに。
ウェイブは廃墟の入り口に立ってそれを見ていた。
足が震えている。手も震えている……息が上手く吸えない……
――(怖い……こわいこわいこわい……………)
(逃げたい、怖い、自分はなんでこんなことを?)しかし……足は動かなかった。
「……あなたは?」
「蒼剣騎士団の騎士だよ。名前はウェイブ」ウェイブが腰の剣に手をかけた。「なかなかの腕前だって言われてるんだよね……ふぅん↑」
嘘だ。腕前は平均的な騎士と大して変わらない。
「……並みの騎士よりも強い力を持つ魔法師団員が二十人ほどいます」ザガンが穏やかに言った。「あなた一人では……どうにもならないと思いますが?」
「そうかな?」ウェイブが笑った。「でも俺は……ここを通すわけにはいかないんだよね」
――(なんで……なんで俺はこんなことを言っているんだ?)
――(怖い。本当に怖い。でも……)
「理由を聞かせてもらえますか?」
「理由?」ウェイブが少し考えた。「……大切なものが、この中にあるから」
それは、嘘ではなかった。
ザガンが、わずかに目を開けた。
「……面白い」
「そうだろう!」ウェイブが剣を抜いた。「俺は面白い男なんだよ……ふぅん↑」
――(足が震えてる……声が震えてる。でも……剣は抜けた)
ザガンが静かに右手を上げた。
魔法師団員たちが前に出ようとした。
その瞬間。
「待ってもらおうか」
廃墟の奥から重い足音が響いた。
ミネルバが大斧を担いで、ウェイブの横に並んだ。
「……随分と大人数で来たものだな、ザガン団長」ミネルバが静かに言った。「そちらが二十人程度なら……こちらは二人で十分だろう」
ウェイブがミネルバをちらりと見た。
――(……助かった)
「……Bランク冒険者……」ザガンが穏やかに言った。「それも……上位に位置するあなたも……ここを通さないと? 事前の情報通りですね、ミネルバ殿」
「ああ」ミネルバが斧を構えた。「通さない」
ザガンが静かに微笑んだ。
「……なるほど」
その笑みが、ウェイブには不気味に見えた。
「では……試してみましょうか。くひひ」
* * *
【ネル視点】
廃墟の奥で、ボクはウェイブを見ていた。アウラの視界を通して。
足が震えているのがわかった。声が少し上ずっているのも……
――(……ウェイブ……)
ボクは廃墟の奥の素体を見た。
――(急がないと……)
廃墟の外で戦いが始まろうとしている……
ウェイブが立ちはだかった。そして……ミネルバも並んだ。
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