廃墟に潜む道化師人形は、ひっそり静かに暮らしたい   作:糸守ものち

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四十三話目です。長かった王都の戦いも、これで決着。……ただ、最後にひとり、とんでもない目に遭う人がいます。クロウと一緒に、見届けてあげてください!

ミネルバのイラスト↓
【挿絵表示】



一章 第四十三話「隙あり」

 

 

【クロウ視点】

 

 戦いは、もう何時間も続いていた。

 

 俺は短剣を振るいながら、操られた兵を一人、また一人と昏倒させていく。殺さないように急所は外して……面倒な戦い方だ。

 

――(キリがない)

 

 集めた冒険者たちも……よくやっている。Dランクも、Eランクも、Fランクの新人まで。統率はないが、数でなんとか押し止めている。

 

 だが、終わりが見えない。

 

 操られた連中は、倒しても倒しても起き上がってくる。糸を引いている本人――ザガンをどうにかしない限り。

 

――(やはり……鍵は王都じゃない)

 

 ちらり、と城の奥へ目をやった。女王の間……あそこで女王の剣がまだ戦っている。

 

 金色のツインテールが跳ねていた。

 

 レイニー・ブラッドフォート。あの女がたった一人で、操られた騎士団長を抑え込んでいる。

 

「【鉄砕】!」

 

 拳がマグナスの鎧に叩き込まれる。だが――硬い。傷一つつかない。

 

――(あれが……マグナスの代名詞と呼ばれる技【金剛】か……厄介な)

 

 あの拳でも、あの絶対防御は破れない。本気の一撃を使えば別だろうが――ここは城の中だ。あの女もそれはわかっている。

 

 だから、膠着していた。

 

――(長引けば、こっちが消耗する。早いとこなんとかしねえと……)

 

 そう思った、その時だった。

 

 

   *   *   *

 

 

 ふっ、と。

 

 空気が変わった。

 

 俺が相手にしていた兵の動きが――止まった。

 

「……ん?」

 

 操られていた連中の体から、糸が切れたように力が抜けていく。虚ろだった目に、光が戻ってくる。

 

「……あ、れ? 俺は……何を……」

 

「ここは……うわっ、なんで剣なんか持って……!」

 

 正気に戻ったのだ。

 

 一斉に。王都中の、操られていた者たち全員が。

 

――(……ザガンを倒せたんだな)

 

 遠く、廃墟の方角を見やった。誰がやったのかは知らない。だが――操られていた者たちが解放されたということは、それをやっていた奴が倒れた……ということだろう。

 

――(ミネルバ……もしかしてお前か?)

 

 口の端が、わずかに緩んだ。

 

 

   *   *   *

 

 

 女王の間でも、同じことが起きていた。

 

 マグナスの巨体が、ぴたりと止まる。槍斧を構えたまま、きょとんと目を瞬かせている。

 

「……む? むむ? 吾輩は今、何を……」

 

 操られていた騎士団長が、正気に戻った。

 

 己の手を見て、女王へ向けられた槍斧を見て……状況をようやく飲み込んだらしい。顔から、見る間に血の気が引いていく。

 

「じょ、女王陛下に刃を……っ!? ま、待て、これは違う、吾輩は操られて……!」

 

 あたふたと弁明を始めるマグナス。

 

 悪い奴ではない。見ていれば、それはわかる。本気でうろたえている。

 

 だが。

 

 

   *   *   *

 

 

「――隙ありっ!」

 

 レイニーだった。

 

 弁明している、その無防備なマグナスの襟首を……レイニーががしっと掴んだ。

 

「な……っ!? レ、レイニー殿!?」

 

「ゴチャゴチャうるせーのよ! よくも、わたくし様をこんなに走り回らせてくれたわね!」

 

 そのまま――ぶん、と。

 

 レイニーがマグナスの巨体を、軽々と窓の外へ放り投げた。

 

「ちょっ!? ちょっと待つのである!!! 吾輩は正気に――」

 

「【王拳】ッ! ……手加減版、なのよ」

 

 窓の外、宙に投げ出されたマグナスへ。

 

 レイニーの拳が……唸りを上げて突き刺さった。

 

 どぉん、と。

 

 空気が震えた。手加減されているはずの一撃……それでも、前方二十メートルほどを吹き飛ばす威力だ。

 

 マグナスの巨体が、青空の彼方へと――小さな点になって消えていった。

 

「……でああああるーーー……っ」

 

 間の抜けた悲鳴を、引きずりながら。

 

 

   *   *   *

 

 

 俺は、その一部始終を黙って見ていた。

 

 正気に戻ったばかりの男。必死に弁明していた男。それを最後まで聞かず、窓から投げて、ぶん殴った女。

 

 ……。

 

「……いや」

 

 思わず声が出た。

 

「聞いてやれよ」

 

 誰に言うでもなく、呟いた。

 

 まあ――あの男。鎧は頑丈そうだったし……死にはしないだろう。

 

 ……たぶん。

 

 

   *   *   *

 

 

 女王の間に、静けさが戻ってきた。

 

 操られていた者たちは正気に戻り、その場に座り込んでいる。混乱と安堵の入り混じった、ざわめき。

 

 その中心で。

 

 女王セレシアが、静かに杖を下ろした。氷の檻が、淡く解けていく。

 

「……騒ぎは、これまでです」

 

 凛とした声だった。たった一言で、ざわめきが収まる。

 

「みな、よく耐えました。あとの始末は私が引き受けます」

 

 女王の威厳が、王都に秩序を取り戻していく。

 

 レイニーが、その傍らへ、すっと膝をついた。

 

「セレシア様。ご無事で何よりですの」

 

「……遅いですよ、レイニー」

 

「うっ……め、面目次第も、ございませんっ」

 

 

   *   *   *

 

 

 俺は短剣を鞘に納めた。

 

 集めた冒険者たちも、戦いの終わりを悟って、武器を下ろし始めている。誰からともなく、ため息と安堵の笑いが漏れ出した。

 

 長い戦いが終わった。

 

 もう一度、廃墟の方角を見やる。

 

 あそこでも戦いがあったはずだ。ミネルバと――それから、あの道化師の人形たちのいる奇妙な場所で。

 

 王都に、静けさが戻ってきた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
レイニーの容赦のなさと、クロウのツッコミを楽しんでもらえていたら嬉しいです。
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