彼女が俺を責めてくれない   作:散髪どっこいしょ野郎

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聴罪

「かっ、加賀山~!二十社受けて全部落ちたんだがぁ~!」

 

「そこまで来たらなんか原因あるだろ。とりあえずES見せてみろ」

 

 

 三年になり、就活が始まった。今俺が相談されている相手は坂口でも二旅でもない、友人未満の関係。それでもほっとけない辺り、俺は損な立ち回りをしているなと思う。

 

 

「……お前、ちょっとは盛ってもいいんだぞ?バカ正直に書かなくたって、事実を元にして面接でも矛盾のないように調整すれば少しは通るだろ」

 

「じゃあどうすりゃいいんだよ!」

 

「逆ギレかよ……」

 

 

 目の前のコイツは友人がいない。あまりにも熱しやすく、逆恨みしやすいとのことで周囲から見放されていた。

 

 本当に面倒だ。好きでもないヤツに心を砕くのは。それでも泣かれるよりかはマシだ、と自分に言い聞かせ、相談に乗っていった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『加賀山ー、模擬面接手伝ってくれよー』

 

『加賀山くん、代返頼めない?』

 

 

 なんでよりによって俺なんだ。模擬面接は先輩かキャリアセンターに頼めよ。代返はしないで素直に出席しろ。

 

 ああだのこうだの勘考しながら結局引き受けてしまう(流石に代返は拒否したが)ことを期に、『便利屋の加賀山』などという不名誉極まりない呼び名が同じ学科の連中の間で流行っていた。非常に気に入らない。

 

 その所為か、相談を振られる俺がNNTなのに相談を受けたヤツは内定を獲得するという意味の分からない状況が増えていた。

 

 

「ハァ……」

 

「お疲れのご様子ですね、加賀山さん」

 

「この時期は誰だって疲れるだろ」

 

 

 ちなみに二旅は一流企業に就職を決めている。坂口は……アイツどうしてんだ?

 

 

「ハァ……俺も誰か頼るしかねぇのか」

 

「私では力不足ですか?」

 

「いいのか?」

 

「貴方に頼っていただけるなら、それ以上の喜びはございません」

 

 

 自覚しているが俺は甘え下手だ。親にも心情を曝け出したことはない。

 

 ずっと一人で自己満足(ひとだすけ)に耽っていた。だから誰かを頼るという選択肢すら無かった。

 

 それでも人は一人きりでは生きていけない。必ず誰かの手を借りる時が来る。というわけなので、

 

 

「じゃあ──頼む、二旅。ちょっと助けてくれ」

 

「──はい。承りました」

 

 

 助力を求める俺に、やはり二旅は笑うのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はい……はい。そうです。はい。……ありがとうございます。……それでは、失礼します」

 

「先方は何と?」

 

「……内定だってさ」

 

 

 一気に肩の力が抜ける。二旅のように超一流とはいかなくとも納得のいく就職ができた。

 

 

「おめでとうございます。今日はお祝いにしましょうか」

 

「ん。じゃあお前の祝いも兼ねて豪華な晩餐にするか」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「で、なんでお前までここにいるんだよ、坂口」

 

「なんだよぉ~、食材買ってきてやっただろ?」

 

「そもそも呼んでねぇんだよ」

 

「私がお誘いしたのです。……ダメ、ですか?」

 

「……。ハァ。変なことするなよ」

 

 

 何故俺たちの間に坂口を挟むのか。いやまあ一対一でも俺にとっては気まずいだけだが、人選ってもんがあるだろう。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 何処其処の芸人による茶番がテレビから部屋に充満する。俺たちはその中で箸を使い、スプーンで掬い、フォークで刺した。

 

 

「お前ほんっと遠慮しないな」

 

「むぐむぐ……んー?なんか言ったかー?」

 

「ふふ、相変わらず坂口さんは健啖家ですね」

 

 

 食材を持ってきたとはいえ調理するのは俺だ。その料理の数々を坂口は無遠慮に胃へ収めていた。

 

 俺が傷つけてしまった(にたび)に、怖気立つ程関わってくる(さかぐち)。到底楽しいとは言えない環境だ。……その、筈なのに。

 

 

「……」

 

 

 心に、仄かな温度を感じた。

 

 

「はー食った食った。なあ加賀山、煙草吸いに行かねえか?」

 

「……一本だけだぞ」

 

「お二人とも、お気をつけて」

 

 

 ヤニはそこまで好きではないが、断りきれない俺はやはり損なヤツだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふぅぅ……美味えぇ~……」

 

「……こんなものの、何がいいんだか」

 

 

 せっかく手の込んだ食事を味わったというのに、これでは煙草の煙で上書きされてしまう。やはり俺と坂口は相容れない。

 

 

「……で、なんだよ本題は」

 

「あ?」

 

 

 坂口は奇々怪々だがバカではない。わざわざ二旅を置いてまで俺を誘ったのだから、それなりの理由がある筈だ。

 

 

「たまにはこういうのもいいだろ?加賀山いつも肩肘張ってんだから」

 

「帰る」

 

「待てって」

 

「……」

 

 

 腕を掴まれ引き戻され、思わずジト目になる。俺は早く二旅の所に帰りたいというのに。

 

 ──?いや、待て。俺は今、何を考え──

 

 

「わーったわーった、言うから本題。ったく加賀山は冗談通じねぇな」

 

「お前のは殊更に通じにくいんだよ」

 

 

 違和感は前々からあった。頭のどこかで予想もしていた。しかしそんな前準備を経ても尚、その言葉の衝撃は強かった。

 

 

「あー、加賀山、二旅から逃げるなよ」

 

 

 言われると同時に坂口の胸ぐらを掴む。動悸が止まらない。

 

 

「お前、どこまで知ってる」

 

 

 かなり力が入っているのにも関わらず目の前のコイツは涼しげな顔で俺を見る。なんだ、なんなんだ、お前は。

 

 

「ことのあらましは二旅から聞いた」

 

 

 つらつらと語り出す。中学時代から、二旅と坂口は俺という共通の話題で繋がっていたとのこと。

 

 

「で、オレ度々考えてたんだよ。どうしたらお前と二旅が結ばれるかって」

 

「……何の理由があって、そんなこと考える」

 

「?……あぁ、そういや言ってなかったな」

 

 

 坂口の視線は真っ直ぐだった。対する俺は蟻走(ぎそう)感に駆られ、目の前が上手く見えていない。

 

 

「あー、オレ、お前らのこと好きなんだよ。両方の意味で。でもどっちかだけを選ぶことなんてできない。だから──お前らをくっつけて幸せにさせようと思ったんだ」

 

 

 バイセクシャルなことは特に変ではない。そういう人も世の中には大勢いるだろう。だが、よりによって、コイツが。

 

 

「じゃ、オレ帰るわ。二旅によろしく言っといてくれ。明日は柿ってことで。いやウツボも捨てがたいな……」

 

 

 場に残されたのは、紫煙のみ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あら、坂口さんはお帰りになられたのですか?」

 

「……ああ」

 

 

 交わす言葉はいつも最小限。そんな俺の何が二旅に刺さったのか、未だに分からない。

 

 

「二旅」

 

「はい?」

 

 

 もう俺たちは大人になる。捻れた環境にはトドメを刺すべきだ。

 

 

「お前は、どんな時に幸せを感じる」

 

「加賀山さんを感じられた時です」

 

 

 即答だった。一切の冗談が無い、真剣そのものの答えだった。

 

 

「俺は、お前に幸せになってほしい」

 

「ありがとうございます」

 

「だから……ああ、言葉が出てこねぇな」

 

 

 俺ではダメだ。……本当に?

 

 

「俺じゃなきゃダメなのか?俺のような咎人じゃ、お前に相応しくない。少なくとも俺はそう考えてる。だから──」

 

「はい。貴方とでないと、私は幸せになれません」

 

 

 口をつぐむ。なんだこの違和感。それが二旅のためになるならなんでも良かったのに、俺は、

 

 俺、は。二旅を、求めている──?

 

 

「告解しましょうか。私は、加賀山さんに振り向いてもらえないなら、せめて消えない傷痕になりたかった」

 

 

 傷痕って、それは俺がお前に作らせてしまったものだ。そう言いたいのに声が出ない。

 

 

「義足を受け取らなかった理由もお教えしましょうか。私は貴方に悩んでほしかった。苦しんでほしかった。私の足が失われたことをいつまでも後悔してほしかった」

 

 

 その思念は大ハマりだ。現に俺は罪過に潰されかけている。

 

 

「二旅」

 

「はい」

 

「──今からお前を抱く」

 

「はい」

 

「お前が泣き叫んでもやめない。死ぬほど抱く。覚悟はいいな」

 

「はい」

 

 

 ああ、こんな時でも、お前は笑ってみせるんだな。

 

 それは欲か、或いは安堵か。少なくとも愛なんて高尚なものではない。

 

 ずっと性欲は悪しきものだと振り払ってきた。が、俺は悪に堕ちる。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 腰が痛みます。易々終わるものではないと思っていましたが、ここまで激しくなるとは思いませんでした。

 

 宣言通り、彼は一切手加減をしてくれませんでした。ただそれでも、眠りにつく直前に私の頭を撫でた手つきだけは優しいものでした。

 

 私は人より少々勉強ができて、容姿が良いだけの人間です。彼のように魔を隠しながら″善″であろうとする求道者にはどうしたって敵いません。

 

 貴方が好き。そう思わされた時点で、私は負けていたのです。

 

 生々しい話になりますが避妊はしました。加賀山さんは無責任に孕ませるような方ではありません。ですがこの繋がりが、彼を私に縛りつけるものだということは確かです。

 

 

「……ふふ」

 

 

 今度は私が、眠る彼の頬を撫でます。むず痒そうに眉をひそめる加賀山さんでしたが、起きる様子はありません。

 

 こんなにも、貴方を感じられた。それだけで私はもう完成されていました。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、加賀山お前ここだけ日記欠けてるぞ」

 

「その日は……ちょっと書ける状況じゃなかったんだよ」

 

 

 一線を超えた。超えてしまった。そして理解した。恐らく俺は、二旅に惚れている。

 

 この想念に気づくまで長い時間がかかった。そして理解したとて到底受け入れられるものではない。

 

 俺の所為で二旅は足を失った。その罪の意識は、これからも変わることはない。ない、が、それでも償いの在処を探し続けることはやめない。それが、今の俺の使命だから。

 

 

「ゼミ行くの面倒くせぇなぁ……」

 

「流石に顔出しとけよ」

 

「んー、オレ起業しちまったし大学通う意味も持てなくなってきてんだよなぁ……」

 

「学歴は武器になる。いくらお前が天才だからって人生何が起こるか分からないんだから──」

 

「わーったわーった、行けばいいんだろ行けば」

 

 

 歩を進める。卒論や残存単位のことを思考に入れながら坂口の首根っこを掴み歩いていった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「「乾杯」」

 

 

 今日はバイトがオフ。ということで俺と二旅は居酒屋に顔を出していた。

 

 酒は特別好きではない。……俺は好きでもないことについて考えすぎるようだ。が、二旅と送る時間であるならなんでも良かった。

 

 彼女の左足を盗み見る。罪の意識は今も鮮明に脳を抉るが、その痛みすらも人生の糧となるようにと、思考を切り替える。これが俺の、俺なりに見つけた生き方だった。

 

 

「加賀山さん」

 

「なんだ」

 

「私、今とっても幸せです」

 

「……お前がいいなら、俺もいい」

 

 

 あの夜を過ごしても素直になれない俺だが、二旅はきっと全てを察している。ならそれでいいかと諦めながら、酒を呷った。

 

 

 

 


















次回で最終話にするつもりですが中々続きが思いつかないので今回の話で終わるかもしれません
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