彼女が俺を責めてくれない   作:散髪どっこいしょ野郎

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かなり短めですが最終話です













断罪

「二旅、す(・)る(・)ぞ」

 

「はい」

 

 

 俺はもう″善″になれなくてもいい。醜く、卑しいこの姿こそが俺だ。

 

 俺たちは現在大学四年生。単位取得が終わり卒論も提出したため卒業まで暇をもてあましていた。

 

 今まで無視してきた分、欲の荒ぶりは酷いものだった。毎日毎日、飽きることなく二旅を欲する日々。責任を取る筈が俺は俺のために二旅を貪っている。……それは前からもそうか。

 

 

「……悪いな、毎回」

 

「ふふ、私は貴方が求めてくれるのならどんなことでも喜んで受け入れますよ」

 

 

 コトが終わり、体を投げ出す。あんなにも乱れた所為か、心臓は未だに煩かった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「加賀山くん、変わったね」

 

「……そうですか?」

 

 

 店長お手製のいなり寿司を食みながら言葉を咀嚼する。変わった、とは。

 

 

「前まで様子がちょっと危うかったけど……なんかいいことでもあったの?」

 

「……色々と、気づかせてもらったので」

 

 

 償いをするつもりが、一方的に欲をぶつけるだけになった。それはきっと良くないことだ。この淀んだ関係の決着としてはギリ赤点と言ったところだろう。

 

 それでも、今さら軌道修正する気にはなれない。何故なら俺は二旅に惚れてしまったから。

 

 恋心というものは得てして面倒だ。人を惑わせ、狂わせる。二旅にそうさせたように。

 

 お互い、面倒なものを抱えたものだ。これからもきっと、変わることなく。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

『あー、それで加賀山とはどうなったんだ?』

 

「無事成熟した関係になれました」

 

 

 私が通話をしている相手は坂口さん。以前は大学での加賀山さんがどのようなご様子だったかなど、様々な情報をいただいていました。学部が違うため貴重なニュースでした。

 

 

『そーかいそーかい。ま、幸せになれよ、二人とも』

 

「ありがとうございます坂口さん。貴方にも色々とお世話になりました」

 

 

 坂口さんと協力関係になったのは中学時代の頃。視線で加賀山さんを追っていると、坂口さんはこう問いかけました。

 

 

『二旅、お前加賀山のこと好きなのか?』

 

 

 思わず肝を冷やしました。吹聴されて回られるようなら非常に困りますから。

 

 しかしその後に続いた言葉は、予想の遥か先を行っているもので。

 

 

『オレさあ、二旅のこと好きなんだけど加賀山のことも好きなんだよ。だからお前らくっつけ』

 

 

 後にも先にもそのような提案を投げかけるのは坂口さんのみでしょう。とにかく、そこから助力を得るようになりました。

 

 そして、今。通話が切られます。そして理解しました。

 

 恐らく、これから先坂口さんと私たちが関わることは無いのでしょう。軽い別れですが確信に近いものがあります。

 

 

「ただいま。ん、誰かと話してたのか」

 

「はい。ちょうど今終わったところです」

 

 

 願わくは、坂口さんにも良い相手が見つかりますように。そんな希望を、空気に泳がせました。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「加賀山さん、もうお昼ですよ」

 

「んー、もうそんな時間か……」

 

 

 惰眠と二旅をむさぼる日々。確実に人間として堕落していくのを感じるが、止められない。

 

 

「今日は何かご用事ありますか?」

 

「特に無い。どうしてだ?」

 

「近くにオムライスのお店ができたので。よろしければ、ご一緒にと」

 

「分かった。じゃあ行くか」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「……あ」

 

「どうかしましたか?」

 

 

 そういえば、と思い至る。

 

 そういえば最近坂口との時間が減っている。俺からすれば願ってもないことだったので特に気にしていなかったが、何故ピタリと関わらなくなったのだろう。

 

 目の前の彼女に聞けばその答えを知ることもできるだろう。それでも俺は静観を決め込んだ。薮蛇をつつく趣味は無い。

 

 

「……いや、なんでもない。それはそうとして、ここのチキンライスは美味いな」

 

「ふふ、前評判が良かったので期待して来ましたが、見事に応えてくれました」

 

 

 ケチャップと卵と鶏もも肉。至ってシンプルな具材で構成されていながら幾層にも渡って旨みの暴力が襲い来る。

 

 きっと俺には何かを楽しむ資格なぞ無いのだろう。二旅の足を奪っておいて、人並みの享楽を得る権利など与えられるべきではない。

 

 だが、それでもいいと、開き直る。どうしたって過去は変えられない。今を生きる彼女は罪悪感に駆られる俺を望んでいる。だから、

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 苦しむ。ちゃんと呻吟しながら、前に進む。それがこの大学生活で培った、俺の在り方だった。

 

 

「ふふ、美味しかったですね」

 

「ああ」

 

 

 コツ、コツと、俺を責めたてる音が隣から響く。俺はあの雨の夜を想起しながら、しばらくぶりに笑ってみせるのだった。

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