ポストアポカリプス世界でTS少女になりました〜廃墟の聖女と呼ばれるまで〜   作:Naito

14 / 27
第14話 ユキの決断

 スズキさんの部隊が去った翌朝、ダイヤの砦の空気は重く冷え切っていた。

 

 いつもなら、広場のどこかで誰かが怒鳴っている。

 吊り橋を走る子供の足音がして、焚き火のそばでは芋を煮る匂いがして、鉄骨の上では洗濯物が風に鳴っている。

 

 けれど、その朝は違った。

 大人たちは口数が少なかった。子供たちも、いつもより声が小さかった。

 

 そして、誰もが私を見ないようにしていた。

 見ていないふりをしながら、見ていた。

 

 救護所の前でアキさんの手伝いをしていると、広場の端にいた大人たちの視線が、何度もこちらへ滑ってくるのが分かった。

 

 恐怖。

 困惑。

 打算。

 その全部が、薄い膜みたいに空気の中へ混ざっていた。

 

 昨日までは、私は「アキさんのところにいる小さな子供」だった。

 よく手伝いをして、子供たちと遊んで、時々アキさんの白衣の後ろに隠れる女の子だった。

 

 でも、今は違う。

 金色の光を出した子。

 数トンの鉄骨を弾いた子。

 夢の国のスズキさんが欲しがった子。

 

 私は、そういうものになってしまった。

 

「ユキ」

 

 アキさんが、私の名前を呼んだ。

 ちゃん付けではなく、ただ、ユキと。

 

「無理しなくていいわ」

「……うん」

 

 私は頷いた。

 でも、何が無理なのか、自分でもよく分からなかった。

 視線に耐えることか。

 笑うことか。

 ここにいることか。

 答えが出ないまま、私は膝の上の包帯を畳み続けた。

 

* * *

 

 その午後。

 

 スズキさんから、面会の申し出があった。

 場所は、広場の端に置かれた、あの錆びたコンテナだった。

 アキさんは最初、強く反対した。

 

「駄目よ」

 

 短い言葉だった。

 でも、その声には、取りつく島がなかった。

 

「行かせないわ」

 

 アキさんは私の肩を抱いて、スズキさんからの使者を睨むように見ていた。

 使者の男は困ったように眉を下げる。

 

「スズキさんは、ユキさんご本人とだけ、少しお話をしたいと」

「だから駄目だと言っているの」

「もちろん、危害を加えるつもりはありません。コンテナの外には皆様もいらっしゃいますし、扉も開けたままで構いません」

「そういう問題じゃないわ」

 

 アキさんの手に力が入る。

 私は、その手に自分の手を重ねた。

 

「アキさん」

「ユキ」

「……話だけ、聞いてみる」

 

 アキさんが私を見る。目が揺れていた。

 

「どうして」

「分からない」

 

 本当に、分からなかった。

 行きたいわけではない。会いたいわけでもない。

 スズキさんが怖くないわけでもない。でも、逃げてはいけない気がした。

 

 昨日、広場で私の名前を呼んだ声。

 ユキさん、と落ちた、あの丁寧な響き。

 あれを聞いた時から、私の中で何かが引っかかっていた。

 

 このまま救護所に隠れて、アキさんの白衣の中に隠れて、何も聞かなかったことにはできない。

 そう思ってしまった。

 

「扉、開けたままなら」

 

 私は小さく言った。

 

「アキさんが、外にいてくれるなら」

 

 アキさんは長い間黙っていた。それから苦しそうに息を吐いた。

 

「……少しだけよ」

「うん」

「何かあったら、すぐ呼ぶこと」

「うん」

「向こうが変なことを言ったら、聞かなくていい。途中でも出てきていい」

「……うん。分かった」

 

 アキさんはまだ納得していない顔だった。

 でも、それ以上は止めなかった。

 

* * *

 

 コンテナの前に立つスズキさんは、昨日のことなどなかったみたいに、穏やかな笑顔を浮かべていた。

 整えられた髪。

 色褪せたテーラードジャケット。

 汚れの少ない靴。

 昨日、土埃の中で膝をついたはずなのに、今日も少しも乱れていないように見えた。

 

「お時間をいただき、ありがとうございます。ユキさん」

「……話だけ、聞きます」

「ええ。それで十分です」

 

 コンテナの扉は開けたままだった。

 外にはアキさんがいる。

 ザキさんも、少し離れたところに立っている。

 見張り台の方には、たぶんテツさんもいる。

 

 それでも、コンテナの中に入ると、空気が少し重くなった。

 スズキさんは、向かいの椅子を示した。

 

「どうぞ」

 

 私は迷ったけれど、椅子には座らなかった。

 出入り口の近くに立ったまま、スズキさんを見る。

 スズキさんは、それを気にした様子もなく、自分も座らなかった。

 

「まず、昨日の件についてお詫びを」

「……お詫び?」

「威嚇射撃によって、砦の構造物に損傷を与えました。その結果、子供たちを危険に晒した」

 

 スズキさんは、静かに頭を下げた。

 

「私の判断です。申し訳ありません」

 

 丁寧だった。

 あまりにも、丁寧だった。

 だからこそ、どう返していいか分からなかった。

 

「……でも、撃たせたのは、スズキさんですよね」

「はい」

 

 スズキさんは顔を上げる。

 

「必要だと判断しました」

 

 悪びれた様子はない。

 必要だった。だからやった。その結果を謝っている。

 そういう顔だった。

 

「怖がらせるために?」

「争えば、皆様がどれほど不利かを理解していただくために」

「それ、同じことじゃないの?」

 

 言ってから、自分でも少し驚いた。

 声が震えていた。でも、引っ込まなかった。

 

 スズキさんは、少しだけ目を細めた。

 怒ったのではない。

 むしろ、興味深いものを見たような目だった。

 

「そうかもしれません」

 

 彼は静かに言った。

 

「ですが、恐怖によって避けられる流血もあります」

 

 私は何も言えなかった。

 スズキさんは言葉を続ける。

 

「夢の国には、千五百人を超える人々がいます」

 

 昨日も聞いた数字だった。

 

「子供もいます。老人もいます。怪我人も、病人も、働けない人もいます。彼らに毎日食事を配り、寝床を用意し、夜の安全を守るためには、秩序が必要です」

 

 スズキさんの声は穏やかだった。

 

「秩序がなければ、人はすぐに奪い合う。疑い合う。弱い者から順に押し潰される。私は、それを何度も見てきました」

 

 その言葉だけは、少しだけ本物に聞こえた。

 

「だから、私は国を作っています」

「国……」

「ええ。夢ではなく、国です。飢えず、凍えず、夜に怯えず、明日も同じ場所で目を覚ませる場所」

 

 スズキさんは、そこで初めて少しだけ笑った。

 

「名前は『夢の国』のままですが」

 

 私は笑えなかった。

 

「そこに、わたしを連れていきたいんですか」

「はい」

 

 即答だった。

 

「どうして」

「あなたには、人を集める力がある」

 

 私は指先を握った。

 

「魔法のこと?」

「それだけではありません」

 

 スズキさんは、私をまっすぐ見ていた。

 

「昨日、あなたは子供たちを守った。自分がどう見られるかより先に、助けることを選んだ。その姿を、皆が見た」

「……みんな、怖がってた」

「ええ。恐れもしたでしょう」

 

 スズキさんは否定しなかった。

 

「ですが、人は恐れたものを、やがて意味に変えます」

 

 意味。

 その言葉が、嫌だった。

 

「私は、その意味を正しく置きたい」

「正しく?」

「ええ」

 

 スズキさんの声は、どこまでも穏やかだった。

 

「あなたのような存在が、怯えられ、隠され、ひとつの砦の中で消耗していくのは、あまりにも惜しい。あなたはもっと多くの人の前に立つべきです」

「立ちたくないって言ったら?」

「それでも、いずれ立つことになるでしょう」

 

 静かな断言だった。

 

「ダイヤの砦に残っても、あなたはもう以前のようには扱われません。助けてほしい人が来る。怖がる人も来る。利用しようとする人も来る。あなたを守ろうとする人が、あなたのために誰かを敵に回すこともある」

 

 アキさんの顔が浮かんだ。

 胸が痛くなる。

 

「それならば、最初から大きな秩序の中に置いた方がいい。あなたを中心に生まれる混乱を、国の仕組みで受け止めることができる」

「……わたしを、使うってこと?」

「役割を持っていただく、ということです」

「同じに聞こえる」

 

 スズキさんは、少しだけ黙った。

 それから、穏やかに答える。

 

「そう聞こえるなら、私の言葉が足りないのでしょう」

 

 否定はしなかった。それが、余計に怖かった。

 

「ユキさん」

 

 名前を呼ばれる。私は顔を上げた。

 

「私は、あなたに今すぐ返事を強要するつもりはありません。ただ、知っておいてほしいのです」

「何を」

「夢の国には、あなたの力を必要とする人がいます」

 

 その言葉は、ずるいと思った。

 必要としている人。

 助けを待っている人。

 泣いている人。

 

 そう言われたら、私はきっと想像してしまう。

 熱にうなされる女の子。

 痛いよと泣く子供。

 清潔な布が足りずに膿んでいく傷。

 

 この世界には、そういう人がいくらでもいる。

 私は、それを知ってしまっている。

 

「……わたしが行けば、砦はどうなるの」

 

 やっと、声が出た。

 

「砦への攻撃は行いません。食料と医療品の支援も約束します」

「本当に?」

「はい」

「わたし一人で?」

「あなたが望むなら、同行者を認めます」

 

 スズキさんは、開いた扉の向こうへ一瞬だけ視線を向けた。

 外にいるアキさんの方へ。

 

「もちろん、アキさんも」

 

 心臓が跳ねた。

 アキさんの名前まで出された。

 それだけで、逃げ道を一つ用意されたような気がした。

 いや、違う。逃げ道じゃない。私が断りにくくなる道だ。

 

「……考えます」

 

 私はそう言った。

 今度は、すぐに答えなかった。スズキさんは満足そうに微笑む。

 

「ええ。どうか、ご自分の意思で」

 

 その言葉が、少しだけ重く残った。

 

* * *

 

 コンテナを出ると、アキさんがすぐに私を抱き寄せた。

 

「大丈夫?」

「……うん」

「何を言われたの」

 

 私は答えようとして、少し迷った。

 アキさんの顔が怖かったからではない。

 言えば、アキさんが傷つく気がした。

 

「夢の国のこと。国を作ってるってこと。わたしに、来てほしいってこと」

「……そう」

 

 アキさんの腕に力が入る。

 

「行かなくていいわ」

 

 即答だった。

 

「行く必要なんてない。ここにいればいい。私が守るから」

 

 その言葉は、嬉しかった。

 胸が温かくなった。

 でも同時に、胸の奥のどこかで、別のものが動いた。

 昨日、私から距離を取った大人たち。

 声をかけられなかった子供たち。

 ザキさんの沈黙。

 スズキさんの言葉。

 そして、私の力。

 

 ここにいれば、守られる。

 でも、ここにいることで、何かが歪んでいく。

 そんな気がした。

 

 その夜まで、私は何度も考えた。

 救護所のゴンドラで、包帯を畳みながら。

 広場の端で、子供たちの声を聞きながら。

 夕食の薄いスープを飲みながら。

 夢の国へ行きたいわけではない。スズキさんを信じたわけでもない。

 

 でも、行かなきゃいけない気がした。

 怖いとか、嫌だとか、そういう感情より先に、行く、という言葉が自分の中にあった。

 理由は、その後から追いついてくる。

 

 この砦で受け取った温かさを守りたい。

 自分の力が何なのか確かめたい。

 スズキさんが何をしようとしているのか、この目で見たい。

 夢の国にいる人たちを、知らないままにはできない。

 いくつも理由は浮かんだ。

 

 でも、本当はどれも、あとからつけたもののような気がした。

 行く。

 それだけが、先にあった。

 

* * *

 

 夜。

 

 救護所のゴンドラには、ランタンの淡い光が揺れていた。

 アキさんは一人で、棚の薬草を整理していた。

 

 包帯。

 針。

 消毒に使う瓶。

 乾燥させた葉。

 いつもと同じ動きのはずなのに、少しだけ乱れているように見えた。

 

「アキさん」

 

 私が声をかけると、アキさんの手が止まった。

 

「……なに?」

 

 振り向かない。

 私は膝の上で、小さな手を握った。

 

「わたし、行かなきゃいけない気がする」

 

 アキさんの背中が、ほんの少し固まった。

 

「夢の国に」

 

 ランタンの炎が、部屋の端で静かに揺れていた。

 長い沈黙だった。

 波の音が聞こえる。鉄骨が、遠くで低く軋む。

 

「……そう」

「……ごめんなさい」

「謝らなくていいわ」

 

 短い返事だった。

 また沈黙が落ちる。

 私は、言わなければいけないことを探した。

 

「怖くないわけじゃないの」

「ええ」

「スズキさんを、信じたわけでもない」

「ええ」

「でも、ここにいたら……たぶん、ずっとアキさんが、わたしを守ることになる」

 

 アキさんは振り向かなかった。

 

「それは、だめな気がする」

「どうして」

「分からない。でも……アキさんが、砦の全部より、わたしを先に見てるの、分かるから」

 

 言ってから、胸が痛くなった。

 言ってはいけないことだったかもしれない。

 でも、言わなければいけないことでもあった。

 

 アキさんは、ゆっくりとこちらを向いた。

 表情は静かだった。

 静かすぎて、怖いくらいだった。

 

「私は、それでいいわ」

「わたしは、よくない」

 

 自分でも驚くくらい、すぐに言葉が出た。

 アキさんが目を見開く。

 

「アキさんが、わたしのために何かを捨てるのは、いや」

「ユキ」

「でも、一人で行くのも、いや」

 

 声が震えた。

 ここからが、一番言いたかったことだった。

 

「……アキさんは」

「なに」

「一緒に来てほしいって……言ってもいい?」

 

 今度の沈黙は、さっきとは違う重さだった。

 アキさんは、私を見ていた。

 じっと。

 逃げ道を探すような目ではなかった。怒っている目でもなかった。

 ただ、何かを決める前の目だった。

 

「……分かった」

「え」

「行くわよ。一緒に」

 

 あまりにもあっさりとした返事だった。

 私は瞬きをする。

 

「……なんで?」

 

 アキさんは、まっすぐにこちらを見た。

 

「あなたが行くから」

 

 それだけだった。私は何も言えなかった。

 砦がある。

 仕事がある。

 ここで守ってきた人たちがいる。

 アキさんを必要としている怪我人も、病人も、子供たちもいる。

 

 それでも、アキさんは「あなたが行くから」と言った。

 その言葉の色を、私は受け取った。

 でも、名前をつけるには至らなかった。

 

「……いいの?」

「よくはないわ」

 

 アキさんは少しだけ笑った。

 

「でも、決めたの」

「アキさん……」

「あなたを一人で行かせるくらいなら、私は一緒に行く」

 

 アキさんは私の前にしゃがみ込んだ。

 

「夢の国がどんな場所でも。スズキさんが何を考えていても。あなたが何を見つけるとしても」

 

 両手が、私の頬に触れる。

 

「私は、あなたのそばにいる」

 

 その言葉に、胸の奥がほどけた。

 

 怖い。

 怖いのに、アキさんが来てくれる。

 それだけで、足元に少しだけ地面が戻ってきた気がした。

 

「……ありがとう」

 

 私は小さく言った。

 アキさんは答えず、私を抱き寄せた。

 その腕は、強かった。

 でも、昨日までのように、閉じ込める強さではなかった。

 一緒に行くための強さだった。

 

* * *

 

 翌朝。

 

 荷物を背負って広場に出ると、砦の子供たちが遠くにいた。

 広場の端。

 焚き火の近く。

 壊れた遊具の陰。

 

 リクも、ナナも、ハルもいた。

 誰も近づいてこない。

 

 分かっていた。

 昨日の光のことを、みんなまだ覚えている。怖いと思うのは、正しい反応だ。

 それでも、胸は痛かった。

 

(……そっか)

 

 私は荷物の紐を握り直した。

 アキさんは隣にいる。

 白衣ではなく、動きやすい上着を着ていた。

 鞄の中には、包帯と薬草と、小さな刃物が入っている。

 もう、出発の準備はできていた。

 

「あ」

 

 広場の端で、一人だけ小さく手を振っている子がいた。

 ビー玉をくれた、あの女の子だった。

 小さく。遠くから。

 

 私は足を止めた。

 

 胸の奥が、きゅっと痛む。

 私はそっと、手を振り返した。

 

 リクが、その子の横で迷うように拳を握っていた。

 ナナは口を開きかけて、閉じた。

 ハルは目を伏せていた。

 

 誰も、近づいては来なかった。でも、完全に背を向けてもいなかった。

 私は、それだけを胸にしまった。

 

* * *

 

 分厚い鉄扉の前に立った時、ザキさんも、テツさんも、広場にはいなかった。

 見送りには来なかった。

 

 けれど、遠くの見張り台に二つの影があった。

 ザキさんと、テツさんだ。

 

 二人は、こちらを見ていない。

 外の荒野へ鋭い視線を向けている。

 

 まるで、いつも通りの見張りをしているだけみたいに。

 でも、ゲートの上の狙撃位置は、いつもよりずっと丁寧に整えられていた。

 外へ続く道の左右には、さりげなく砦の戦闘員たちが散っている。

 そういう配置だった。

 

 私は、なんとなく分かった。

 それが彼らなりの、不器用な別れの作法なのだ。

 

 私は見張り台の方へ深く頭を下げた。

 ザキさんは振り返らない。テツさんも、たぶん振り返らない。

 それでよかった。

 

 ギギギ、と音を立てて、鉄扉が開く。

 防壁の外の空気が流れ込んできた。

 

 砦の中より、少し冷たい。

 湿った鉄と、泥と、遠い海の匂い。

 

 外には、夢の国の部隊が整然と待っていた。

 スズキさんが、列の先頭で穏やかに微笑んでいる。

 

「お待ちしておりました、ユキさん。アキさん」

 

 私は小さく息を吸った。

 怖い。

 でも、足は動いた。

 

 アキさんの手が、隣から差し出される。私はその手を握った。

 一歩。

 防壁の外へ出る。

 

 背後で、ダイヤの砦の巨大な鉄扉が、軋む音を立てて閉まり始めた。

 

 私は一度だけ振り返る。

 錆びた鉄板。

 歪んだゲート。

 観覧車の鉄骨。

 吊り橋。

 洗濯物。

 子供たちのいた広場。

 アキさんと暮らしたゴンドラ。

 

 最初の居場所。

 そして、出ていく場所。

 

 鉄扉が閉まる。重い音が胸の奥に落ちた。

 私はもう一度だけ、深く頭を下げた。

 

「……ありがとう、ございました」

 

 誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。

 アキさんが隣で私の手を握り直す。

 

「行きましょう、ユキ」

「……うん」

 

 私は前を向いた。

 防壁の外の空気は、砦の中よりわずかに冷たかった。

 その冷たさを頬に受けながら、私は夢の国へ続く道を歩き出した。




次回「城が見えた」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。