かぐや様は告らせたい 〜ありもしない噂(うそ)〜 作:おたっきー
――恋愛は
将来日本を背負って立つエリートが集う秀知院学園。 その頂点たる生徒会室で、二人の「天才」は今日も静かな火花を散らしていた。
四宮財閥の令嬢・四宮かぐやと、泥水をすするような努力で頂点に立つ男・白銀御行。 惹かれ合っていることは、誰の目にも明らかだった。しかし、二人の高すぎるプライド(天才ゆえの呪い)が、決して素直になることを許さない。
かぐやの視線が、白銀の横顔を捉える。
(……私の『隣』に立つのなら、それに相応しい品格と覚悟を持った男でなければならない。現在、この日本において、彼こそが私の隣に並んで立つに相応しい。だからこそ、彼の方から跪かせ、私に永遠の愛を誓わせなければならないのよ! この奉心祭で、必ず……!)
天才たちによる、互いの全てを懸けた恋愛頭脳戦。 その究極の死闘が、今、幕を開けようとしていた――。
『かぐや様は告らせたい 〜奉心祭伝説:ありもしない
***
「――会長。今年の奉心祭、出し物で使用する最終確認ですが」
秀知院学園、生徒会室。 午後の柔らかな陽光が差し込む室内で、四宮かぐやは至極落ち着いた動作で書類を差し出した。その指先一つ、視線の配り方一つに至るまで、四宮家の令嬢としての完璧な作法が息づいている。
「ああ、助かる。確認させてもらうよ、四宮」
白銀御行は、連日の作業でさらに深くなったクマを湛えながらも、鋭い眼光で書類を受け取った。 一見すれば、有能な会長と副会長による、祭りを目前に控えた事務的なやり取り。
……だが、その内側は、爆発寸前の火薬庫にも似た「恋愛頭脳戦」の最前線であった。
(……来たわ! 今、会長の視線が『キャンプファイヤー』の項目で0.5秒止まった! 奉心祭の伝説の一つ、キャンプファイヤーの火が消える瞬間に想いを告げた男女は永遠に結ばれる……。これほど露骨な項目を提示したのです。さあ、どう来るのですか会長! 私にキャンプファイヤーを一緒に見ようと、今ここで誘いなさい!!)
かぐやの脳内では、勝利を確信したファンファーレが鳴り響いている。 対する白銀も、その思考はフル回転していた。
(……誘い受けだ! キャンプファイヤーというワードを餌に、俺に『二人で見よう』と言わせる腹だな!? 冗談じゃない、そんなことを言えば、俺が四宮と永遠に結ばれたがっていると自白するようなものだ! だが、ここでこの項目を無視すれば『興味がない』と思われ、四宮の機嫌を損ねるリスクがある……。ならば!)
「……四宮。キャンプファイヤーの薪の調達、実行委員に任せきりにしないで、俺たち生徒会の誰か二人がペアになって確認した方がいいかもしれないな。どう思う?」
「……っ!!」
かぐやの心臓が跳ねた。
(…… 確認作業という名目で、私を祭りの夜に連れ出す口実を作ったつもり!? なんという破廉恥な……! でも、でもそれって実質的な……!!)
「あーっ! カイチョー! かぐやさん! また二人でコソコソ悪い相談ですかぁ!?」
その時、生徒会室の扉が、まるで物理法則を無視したような勢いで開け放たれた。 現れたのは、学園の秩序を乱す(本人は守っているつもりの)カオス理論の体現者――藤原千花である。
「藤原書記……! 別に悪い相談などしてない、最終確認の話だ!」
「そうですわ、藤原さん。ノックくらいなさい」
「むー! 嘘です! 私の『ラブ探偵アンテナ』がビンビン言ってますよ! さては二人でこっそりキャンプファイヤーの特等席を予約しようとしてましたね!?」
「「……っ!!」」
図星を突かれた二人が同時に硬直する。 そこへ、石上優が、キーボードをタイピングしながら、幽霊のような表情で呟く。
「藤原先輩、うるさいですよ……。キャンプファイヤーなんて、リア充が火を囲んで『俺たちマブダチ!』とか『ずっと一緒だよ!』とか言って、後で黒歴史を量産するだけの儀式じゃないですか。炭素の無駄遣いですよ」
石上の言葉に語気を荒げながら伊井野ミコが続く。
「ちょっと石上! 聞き捨てならないわ!奉心祭の伝説はロマンでしょ!?」
「ロマンで腹は膨れねーよ。それより会長、例の『外部発注の資料』、先輩がまとめておきましたって……」
石上が指差した先。 生徒会室の華やかな中心部から遠く離れた、窓際の予備デスク。 そこには、あまりにも「普通」すぎて、今の今まで誰もその存在を意識していなかった一人の生徒が、無言でパソコンを眺めていた。