かぐや様は告らせたい 〜ありもしない噂(うそ)〜   作:おたっきー

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白銀御行は働きたい(4)

『四宮、すまない。心配をかけた。今日から俺は奉心祭に戻る』

 

『お元気そうで何よりですわね、会長。でも今更何かのご用ですの? 奉心祭は、私が代行して、全て筒がなく無事に終わらせますので、どうぞ病室に戻ってもらって結構です。それとも、噂の「ゆう」さんと、奉心祭を回ってきてはいかがですか?』

 

『……っ!? 四宮、話を聞いてくれ! 世間で言われている(ゆう)の噂だが、あれは事実無根だ。俺は週末お前以外の女と外出していない。そして俺が泊めたのは金曜日の「ゆう」だけで、やましいことは何もない! それにあいつはお前の思っているような奴じゃない!』

 

『……やましい事がない? 私が思っている様な人間ではない? ではなぜ、その『ゆう』という(ひと)の本当の素性を頑なに隠すのですか? 私に言えないような特別な関係だというのですか!?』

 

『そ、それはあいつの過去を守るためであって、特別な関係じゃ……いや、俺たちには『コンインノキズナ』があるんだ!!』

 

『……またその(コンインノキズナ)ですか。あの週末、いえ、それ以上前からの私との間にあったものよりも、その女との絆が深いというのですか!? 』

 

『四宮ァァァァァァ!! なぜだ! なぜ俺の想いが通じないんだ!! 俺が一番大切に思っているのは、いつだって四宮、お前なんだ。……他の誰でもない、お前だけなんだよ……っ!』

 

『……嘘です……っ! なら、どうしてあんな噂が立つような真似をしたんですか……! 私だけが特別なら、なぜあの日……私をあんなに不安にさせたんですか……っ!!』

 

『……悪かった。俺が、不甲斐ないばかりに……!! 俺は、お前を不安にさせるつもりなんてなかった。……俺が不器用なせいで、無用な誤解を招いてしまった。本当にすまない。だが、これだけは誓って言う! 俺の心には、いつだって四宮、お前しかいないんだ!』

 

『……謝罪など求めておりません。言葉では「私が一番」などと甘いことを言いながら、結局貴方は、その噂の相手の名前すら明かそうとしない。……ご自分の「男気」とやらを満たすために、私をこれ以上惨めな道化にしないで頂戴』

 

『し、四宮……! 俺は、今のお前の気持ちがわからない! いつもの四宮、今の四宮。どれが本当の四宮なんだ? 俺は、お前の本当の気持ちを――』

 

『あなたはいつもそう…。全て自分一人で抱え込み、何も語らず、強い自分を見せたがる…。私に、そんなに素顔を見せられませんか? 』

 

『そ、それは…』

 

『貴方が見せてくれないから、私はあるがままを見せているのです! 弱い部分を見せたんです! 会長は? 『ゆう』という素性も明かせない人をお得意の『強がり』で隠しているではありませんか!』

 

『俺はただ、他人の過去を暴くような真似をしたくないだけで、誰かを優先しているわけじゃない! お前への想いは嘘じゃないんだ!! それに、本当に好きな相手だからこそ、見せられない顔だってあるだろう!? お前の言っている事は『持っている奴』の言葉なんだよ!』

 

『……もう結構です。私は『心を隠さない関係性』を望んでいますが、今の会長にはご理解できないようですね。明日の奉心祭、貴方のような堕落したカリスマは不要です。どうぞ、そのまま一生ベッドの上で、ご自分の不実を呪いながら悔い改めることですわ。……さようなら、会長』

 

『待ってくれ四宮!! 四宮ァァァァ!』

 

ここだけをお見せすれば、互いを深く想い合いながらも、完全に仲違いしてしまった悲劇のカップルのように見えなくはない。

 

だが! 嘘である!!

 

現在、この不器用な二人の間には、病室と生徒会室を繋ぐ『二人の通訳(フィルター)』が存在している!! それがどのような惨劇を生み出したのかをお見せしよう。

 

……真相はこうである!!

 

 

***

 

 

僕は金曜日の放課後、再度白銀会長の元にお見舞いに訪れた。

 

「やぁ、白銀会長。調子はどうだい?」

 

「上澤。今日も来てくれたのか。ありがとう。ジッとしているのは性に合わないのだが、『きちんと休み、私を納得させてくれたのなら、君の言い分も聴こう』と、先生が言ってくれてな。早ければ明日の午前中、遅くても明後日の午前中には退院できる。やはり規則正しい生活は大切だな…」

 

さすがは白銀会長。超人的な回復スピードだ。食事と睡眠に加え、点滴を受けて、すでに退院が視野に入っているようだ。

 

それは、白銀会長の執念にも似た努力の賜物だろう。

 

目的に向かってひたむきに努力する、もはや彼のルーティンだろう。

 

白銀会長は、まっすぐな瞳を向けて申し出る。

 

「そこでなんだが…上澤。明日の午後には退院して、俺は奉心祭に戻る予定だ。その時に、四宮の誤解を解くための最適な言葉をシミュレーションしたい。お前、四宮の役をやってくれ」

 

どこまでも努力を重ねる姿に僕は胸を打たれる。

 

「……分かったよ、会長」

 

僕は提案を受け入れる。そこで、妙案を思いついた。

 

スマホから密かに早坂さんへメッセージを送る。

 

「ちょっと待ってね」

 

病室のカーテンを閉めて、白銀会長にはあえてシルエットのみ見えるようにする。

 

髪の長さは足りないが、持ち合わせていた輪ゴムで髪を結い、シルエットを寄せる。

 

そして、声のチューニングを行い、会長ご要望のシミュレーション準備を行う。

 

「ん”ん”ー。あー、あー。『ごきげんよう、会長』」

 

「!? お前、その声…」

 

驚く白銀会長の声に、僕は密かな笑みを浮かべる。

 

僕は模倣する相手の特徴から入るタイプだ。

 

きっと彼女に似た、妖艶な笑みをしているだろう。

 

『どうです? これで、シミュレーションしやすいのではありませんこと?』

 

僕は四宮副会長に寄せた声とわざとらしいお嬢様言葉で返す。…今更だが恥じらいを感じている。

 

「…上等だ! いつでも来い、上澤! いや、四宮!」

 

白銀会長はやる気十分に臨むようだ。意気込みが伝わってくる。

 

恥じらっている場合ではない。今は僕がこの不器用で心優しい生徒会長を支えるのだ。

 

そこに、早坂さんからメッセージが返ってくる。

 

〈……上澤さん、状況はわかりました。かぐや様も乗り気のようです〉

 

〈それは好都合だ。リアルタイムの『本音のぶつけ合い』と行こう〉

 

〈では、私も準備しますので、少々お待ちください〉

 

ーー数分後

 

〈さて一度話を整理します。題して、『かぐや様と会長の、本音レスババトル・リアルタイムシミュレーション!』〉

 

〈早坂さん、ちょっと遊んでるでしょ?〉

 

〈そんなことありません。主君らの恋路を心から応援しているまでです〉

 

早坂さんから、箇条書きで状況整理とルールが送られてくる。

 

・かぐや様は早坂が、会長は上澤さんが、それぞれ本音を引き出す。

 

・それを、かぐや様と早坂はラインのビデオ通話、会長と上澤さんはその場で直接やりとりする。

 

・二人の本音は、早坂上澤というフィルターを通して要約し、互いに開示。

 

※冷静かつ客観的な本音を引き出すため、またプライバシー保護とするため、早坂上澤はフィルターとして機能するものとします。

 

・かぐや様は生徒会室でお仕事に邁進されてます。多少のレスが遅れる事をご容赦してください。

 

・また、ラインのビデオ通話とチャットを使いながら、密かにやりとりします。

 

イメージ

 

早坂(別室)←かぐや様(生徒会室)

上澤さん(病室)←会長(病室)

 

〈プライバシーの件…盗聴してたのによく言うよ〉

 

〈『てへぺろスタンプ』〉

 

〈それでは始めましょう〉

 

僕は四宮かぐやのーーいや、氷のかぐや姫の仮面を被り、早坂さんから送られてくるメッセージを感情を込めて読み上げる。

 

かくして、秀知院学園史上最も不毛な、『本人同士は気づいていない、代理人を介したリアルタイム恋愛頭脳戦』と、『それを代理人同士が実況チャットする』という奇妙なワンシーンの幕が開ける。

 

 

***

 

 

「四宮、すまない。心配をかけた。今日から俺は奉心祭に戻る」

 

〈ーーっていう話から入るみたいよ。どうぞ〉

 

〈了解。……かぐや様、現在お茶を一口飲みましたが、あまりの不機嫌さにカップの底にヒビが入りました。……返答を中継します。上澤さん、"氷のかぐや"のトーンを20%増しで。情感は一切捨ててください。……「噂の『ゆう』さんと回ればいい」と、最大限の嫌味を乗せて〉

 

『お元気そうで何よりですわね、会長。でも今更何かのご用ですの? 奉心祭は、私が代行して、全て筒がなく無事に終わらせますので、どうぞ病室に戻ってもらって結構です。それとも、噂の「ゆう」さんと、奉心祭を回ってきてはいかがですか?』

 

「……っ!? 四宮、話を聞いてくれ! 世間で言われている(ゆう)の噂だが、あれは事実無根だ。俺は週末お前以外の女と外出していない。そして俺が泊めたのは金曜日の「ゆう」だけで、やましいことは何もない! それにあいつはお前の思っているような奴じゃない!」

 

〈……ハァ。相変わらず「あいつは女ではない」と言えば一秒で終わる話を、騎士道精神(ジェントルマン)のせいで迷宮入りさせていますね。……かぐや様の顔色が、今『土壁』のような色に変わりました。上澤さん、トドメの尋問を。……『素性を隠す理由』について問い詰めてください〉

 

〈二人の感情の間に挟まれて辛いですわね……もぉ!〉

 

『……やましい事がない? 私が思っている様な人間ではない? ではなぜ、その『ゆう』という(ひと)の本当の素性を頑なに隠すのですか? 私に言えないような特別な関係だというのですか!?』

 

「そ、それはあいつの過去を守るためであって、特別な関係じゃ……いや、俺たちには『コンインノキズナ』があるんだ!!」

 

〈あ、また言っちゃってますわ!「コンインノキズナ」。 会長、それ「外部入学」の絆のことだけど、そちらに伝わるかしら…〉

 

〈……おっと、本日最大のエラー。上澤さん、私の端末が「婚姻」と誤変換しました。…ところで、さっきからふざけているのですか?〉

 

〈コンインの誤字…早坂、わざとやりましたの? …失礼、今の私は四宮かぐやですわ〉

 

〈誰にでも間違いはあります。なるほど、面白い取り組みですねあとで本人に伝えておきます。本物のかぐや様の脳内は今、ウェディングベルの音が葬送曲に変わったところです。……現在、かぐや様はのスマホのレンズを指先で弾き飛ばしました。……「絶交宣言」を転送します〉

 

〈早坂、冗談はおよしなさい…。お願いだから、それだけはっ…〉

 

『……またその(コンインノキズナ)ですか。あの週末、いえ、それ以上前からの私との間にあったものよりも、その女との絆が深いというのですか!? 』

 

「四宮ァァァァァァ!! なぜだ! なぜ俺の想いが通じないんだ!! 俺が一番大切に思っているのは、いつだって四宮、お前なんだ。……他の誰でもない、お前だけなんだよ……っ!」

 

〈……上澤さん。会長は絶叫をあげているようですが、かぐや様の耳には『浮気男の必死な保身』としてトランスレートされています。……悲しいですね。あ、鉛筆を一本真っ二つにへし折りました。……次は、彼女が一番言いたくて、一番言えなかった「不安」の吐露です〉

 

〈早坂! 会長がベッドの上でぜっきょうしてのたうち回ってますわ!?〉

 

〈…やっちゃってください〉

 

『……嘘です……っ! なら、どうしてあんな噂が立つような真似をしたんですか……! 私だけが特別なら、なぜあの日……私をあんなに不安にさせたんですか……っ!!』

 

「……悪かった。俺が、不甲斐ないばかりに……!! 俺は、お前を不安にさせるつもりなんてなかった。……俺が不器用なせいで、無用な誤解を招いてしまった。本当にすまない。だが、これだけは誓って言う! 俺の心には、いつだって四宮、お前しかいないんだ!」

 

〈早坂、会長がまたボケつをほってますわ。上澤の消したい過去を守るために沈黙を貫こうとして『愛人を守るクズ』にしか見えないですわ……!〉

 

〈はぁ、仕方ないですね。かぐや様、その『誰かを守る沈黙』を、自分への最大の侮辱だと受け取っているんですよね? 本物は、今度はボールペンを真っ二つにへし折りました〉

 

『……謝罪など求めておりません。言葉では「私が一番」などと甘いことを言いながら、結局貴方は、その噂の相手の名前すら明かそうとしない。……ご自分の「男気」とやらを満たすために、私をこれ以上惨めな道化にしないで頂戴』

 

「し、四宮……! 俺は、今のお前の気持ちがわからない! いつもの四宮、今の四宮。どれが本当の四宮なんだ? 俺は、お前の本当の気持ちが知りたい!』

 

〈早坂! 会長、自分が「完璧」じゃないと見捨てられるって恐怖でパニックになってますわ!?〉

 

〈今、本物のかぐや様は、会長が|素顔を見せないことを「自分を信頼していない証拠」だと受け取って、虚空に向かって首絞める様なジェスチャーをしてます……皮肉なものですね。お互いのプライドと優しさがノイズになって、真実をかき消していく。最後の通告を転送します。上澤さん、最大出力の絶対零度で、彼の『強がり』にトドメを刺して差し上げなさい〉

 

〈胃が病みますわ…〉

 

『あなたはいつもそう…。全て自分一人で抱え込み、何も語らず、強い自分を見せたがる…。私に、そんなに素顔を見せられませんか? 』

 

「そ、それは…」

 

〈氷の仮面とはかぐや様の見せたくない姿でもあるのです。『弱さと言う素顔を見せてほしい』と言うのが本心です。でも、会長にはそれができない。平行線ですね。……今、万年筆が無残に供物となりました〉

 

〈『貴方が見せてくれないから、私はあるがままを見せているのです! 弱い部分を見せたんです! 会長は? 『ゆう』という素性も明かせない人をお得意の『強がり』で隠しているではありませんか!』〉

 

「俺はただ、他人の過去を暴くような真似をしたくないだけで、誰かを優先しているわけじゃない! お前への想いは嘘じゃないんだ!! それに、本当に好きな相手だからこそ、見せられない顔だってあるだろう!? お前の言っている事は『持っている奴』の言葉なんだよ!」

 

〈『「仮面(ペルソナ)」すら愛してほしいと望み、相手が仮面(ペルソナ)」を外さないことを『不誠実な裏切り』だと責める。かたや、仮面(ペルソナ)」を外すことで愛される資格を失うと捉え、相手の仮面(ペルソナ)」を『何が本物か』と困惑する……。これ以上は無意味ですね〉

 

〈頭を抱えるスタンプ〉

 

〈……終了ですね。本物のかぐや様、完全に心を閉ざしました。最後の通告を転送します。上澤さん…いえ、かぐや様、最大出力の絶対零度でお願いします〉

 

〈気が引けますわ…〉

 

『……もう結構です。私は『心を隠さない関係性』を望んでいますが、今の会長にはご理解できないようですね。明日の奉心祭、貴方のような堕落したカリスマは不要です。どうぞ、そのまま一生ベッドの上で、ご自分の不実を呪いながら悔い改めることですわ。……さようなら、会長』

 

「待ってくれ四宮!! 四宮ァァァァ!」

 

〈……通信終了。かぐや様、無機質な事務作業(仕事)に戻りました。……そちらの『堕落したカリスマ』は?〉

 

〈……完全に燃え尽きている。白銀会長の熱意が、四宮副会長のプライドを逆撫でして完全に心を閉ざしてしまった。……もう、言葉(シミュレーション)は十分だね〉

 

〈同感です。ロジックや言葉ではもう、あの二人の『氷』と『男気』の防壁を砕くことはできません。お疲れ様です〉

 

僕は、髪を元に戻し、カーテンを開ける。

 

切ない表情で拳を握り俯く白銀会長の肩に手を置き、病室の窓の外に広がる夜景を見つめた。

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