かぐや様は告らせたい 〜ありもしない噂(うそ)〜   作:おたっきー

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白銀御行は守護りたい(1)

――完璧な週末だった。 金曜日、僕は参謀として二人の進展を後押しした実績を上げた。さらに日曜日は、視察と交流会の名目で秀知院中等部の文化祭へ二人で赴き、二人の絆は深まった事だろう。

 

僕は、清々しい気分で月曜日の登校風景を眺めていたのだ。

 

……なのだが。

 

「……え、聞いた? 会長、終末はずっと女の子を連れ込んでたらしいよ」

 

「しかも日替わりで別のメイドがデリバリーされてたって……」

 

耳に飛び込んできた会話に、僕は思わず足が止まった。

 

廊下を歩くたびに噂の尾ひれは凶悪なまでに肥大化していく。

 

「会長が『もう帰さない』って玄関先で女性の手を掴んでたって……!」

 

「金髪の美少女が白銀家から出てくるのが目撃されたらしいわ」

 

「金曜日の土砂降りの中、メイドを連れ込んでったって!」

 

……ちょっと待て。週末の「捏造された目撃情報」の中に僕の思考は完全に埋もれていく。

 

いや、そんなはずはない! 会長に限って……! そう思い直そうとした時、女子の声が刺さる。

 

「しかも、今朝の会長見た!? あのトレードマークのクマが完全に消えてて、肌のツヤが半端なかったんだけど!」

 

「見た見た! 完全に『夜の営み』で心身ともに満たされた男の顔だったよね!」

 

「四股の絶倫野郎……! 普段の真面目な顔の裏で、どんだけ遊んでたのよ……!」

 

僕は自分の耳を疑った。 僕が知っている白銀会長は、常に睡眠不足とカフェイン過多で、目の下にはブラックホールのようなクマを飼っている男だ。

 

ツヤツヤ? 満たされた男の顔?

 

いや、待てよ。……もし、もしもだ。 僕が帰った後、会長が本当に誰かを連れ込んで、週末を最高のリフレッシュ(意味深)に費やしていたとしたら?

 

どこまでが僕の知っている事実で、どこからが学園の妄想なのか、境界線が見えなくなってきた。

 

疑惑と胃痛に震えながら、僕は生徒会室の扉を開けた。 そこでは、僕の混乱をあざ笑うかのような、さらなる地獄が幕を開けていた――。

 

昼休憩時、伊井野監査のラインで召集願いを受けた生徒会メンバーが集まったその場の空気は、もはや裁判所のような物々しい雰囲気だった。

 

中央のテーブルには、伊井野監査が鼻息荒く並べた「証拠物件」が、まるで動かぬ証拠のように鎮座している。

 

「いいですか、会長! 逃げ得は許されません! 金曜夜のメイド服から始まり、土日の美女目撃情報……。これは秀知院生徒会の純潔を揺るがす大スキャンダルです! 会長、貴方は何をしたんですか!?」

 

伊井野監査が机を叩いて吠える。

しかし、その追及の的となっている白銀会長は――いつもならドブ色になっているはずの顔に、10時間熟睡した後のような清々しい笑顔と、謎の色気(フェロモン)を漂わせていた。

 

「落ち着け、伊井野。だから、あれは全て誤解だと言っているだろう?」

 

低く、よく通る爽やかなバリトンボイス。 カフェインを抜き、深い睡眠をとったことで脳に酸素が完全に行き渡った会長は、己の全ステータスが「陽キャ(イケメン)」へと全振りされていた。

 

「ひっ……!」

 

その無駄な色気と余裕のある態度に、伊井野が一瞬たじろぐ。

 

「そ、その『完全に心身が満たされたツヤツヤのお肌』が何よりの証拠です! 不潔です!!」

 

「はいはーい! ラブ探偵チカの見解は違いますよぉ!」

 

ここで藤原書記が、キラリと目を光らせて参戦してきた。彼女の「邪悪な笑み」は、いつになくピンク色の妄想に染まっている。

 

「ミコちゃん、私だけが知っている真相を教えます。会長が連れ込んだと噂されるメイド少女の正体は、石上くんか、上澤くんのどちらか……いえ! 二人同時の可能性すらあります! その証拠に、金曜の夜に残っていたのは、会長、石上くん、そして上澤くんの三人。つまり! つまり!?」

 

「ふむふむ」と、検察官の答弁を聴くように頷いていた伊井野会計も、次第に顔色を変えて、仕舞いには頬を赤く染め出す。

 

「はあああ!? 何でそうなるんですか!?」

 

急に矛先が向いた 石上会計は、ギョッとした表情でのけぞって悲鳴を上げる。

 

僕も同様のリアクションだよ…石上会計。表情に出さずとも、僕は平静を保った。

 

そんな二人をよそに、藤原書記はイキイキと話続ける。

 

「いいですかぁ? 会長は孤独の王。そこに仕える二人の美少年……。禁断の主従関係から生まれる、背徳の三角関係(トライアングル)!」

 

僕は、あまりの展開に胃を抑えて蹲りたくなった。僕がここで冗談でも「それは僕です」と名乗り出れば、藤原書記のBL脚本台本に強制出演させられる未来しか見えない。

 

しかし、そんな絶望的な空気の中、ツヤツヤの白銀会長は立ち上がり、まるで太陽のように眩しい、ポジティブ全開の笑顔を向けてきたのだ。

 

「ははっ! 藤原書記の想像力にはいつも驚かされるな!」

 

「えっ……」

 

予想外の余裕の返しに、藤原書記の妄想がピタリと止まる。

 

「だが、違うぞ。俺は、何もやましいことはしていない。俺が守りたいのは、あの夜に分かち合った、純粋な誓いだけなんだ! ……お前たちは、俺のこの想いを分かってくれるよな?」

 

バチコーン! と、白銀会長のクマのない綺麗な三白眼から、爽やかなウインクのような視線が僕と石上会計に飛んでくる。

 

「…………」

 

僕と石上会計は視線を交わす。互いに苦笑いで意思疎通する。

 

ダメだ、この人! ちゃんと寝て脳がクリアになったせいで、逆に自己肯定感が高まりすぎて、ただの『遊び慣れたポジティブなクズ男』にしか見えない!!

 

普段のボロボロの会長が必死に弁明するなら「何か事情があるのかも」と同情の余地もある。

 

しかし、今のこの「お肌ツヤツヤで余裕たっぷりのイケメン」が言う「あの夜の誓い」という台詞は、どう聞いても藤原書記の妄想である「二人の美少年を侍らせた絶倫王の余裕」を補強するものでしかなかった。

 

僕が絶望のあまりキーボードを叩き割る寸前までいった、まさにその直後だった。 絶妙に最悪なタイミングで、生徒会室の扉が開いた。

 

四宮副会長だ。朝のホームルームで遅刻するとの連絡を教師から聞かされており、今登校したようだった。

 

学園中の噂に心を痛めているか、あるいは嫉妬に狂う氷の表情を想像していた。

 

だが、様子がおかしい。 周囲には、ぽわぽわとしたピンク色の(オーラ)が乱れ咲き、瞳からは知性の光が完全に消失している。

 

「かぐやちゃん!」

 

その異変に一番早く反応したのは、藤原書記だった。彼女はいつもと違う呼び方で四宮副会長に歩み寄り、嬉しそうにギュッと抱きつく。

 

「ふぇ? かぐや……ちゃん?」

 

伊井野監査が困惑の声を漏らすと、藤原書記はドヤ顔で解説を始めた。

 

「いいですか! これは『かぐやちゃん』です! かぐやさんは、極度の体調不良や、脳の処理能力を超えるほどの『強烈な幸福感』を味わうと、自己防衛本能で脳みそがみかん一個分

のサイズまで退行してしまうんですよぉ! 今の彼女は、IQ3のレアキャラなんです!」

 

藤原書記に抱きつかれたまま、かぐやちゃんは焦点の合わない目で宙を見つめ、だらしなく笑っている。

 

……脳みそが、みかん一個分? 強烈な幸福感…? 僕はその光景を見て、別の意味で血の気が引いた。

 

身に覚えがありすぎる。金曜日、日曜日と、参謀として二人の時間を作った。その後の反応からそれ相応の関係の進展があったのだろう。余韻が強烈すぎた結果、彼女の知能は完全にショートしたように思える。

 

「……かいちょ。かいちょ、やっぱ、かっこいい……えへへぇ……」

 

かぐやちゃんは、フラフラと白銀会長のもとへ歩み寄り、その裾を掴んでだらしなく笑った。

 

会長もポジティブになりすぎて、 四宮副会長がいつもと違うことにも気が付いていないようだ。

 

「おお、四宮か! 聞いてくれ! 俺が泊めたのは、決して浮気相手なんかじゃない! 俺と同じ場所から這い上がってきた、かけがえのないパートナーなんだ! 俺の想いは、あの日からずっと変わっていないんだ!」

 

会長!? 相手、今みかんだよ!?

 

それにその台詞、今の『ツヤツヤのイケメンフェイス』で言うと、完全に「お前が一番だけど、あいつも大事なんだ」っていう遊び慣れたクズ男の二股宣言にしか聞こえてないから!!

 

案の定、かぐやちゃんの脳内では、白銀会長の無駄に色気のある熱い言葉が「愛の囁き(ノイズ)」として心地よく響いただけだったらしい。

 

まるで深夜のトレンディドラマの主人公のような、甘く爽やかな笑顔を浮かべている。カフェインレスの深い睡眠がもたらしたその破壊力(イケメン度)は凄まじい。

 

見つめ合い、互いの名前を呼び合う二人。 一見、互いを深く認め合った美しいシーンのようだが、片方は「知能3の廃人」、もう片方は「全力で的外れな弁明中の無自覚絶倫イケメン」である。致命的なすれ違いである。

 

「……かいちょ、かいちょ……」

 

「……四宮、わかってくれるのか……! 四宮! ちのみや、ちのみや……」

 

二人はやがて同じ波長で万歳し出す。そしてそれを見る藤原書記は、「愛人(美少年)を匿う絶倫王が、余裕の笑みで本妻を甘く口説く背徳シチュエーション」という特大の供給を受け、今にも鼻血を出しそうな勢いで興奮していた。

 

石上会計は「良かった、僕は…受けでも攻めでもない………」と死んだ目をしながら安堵の涙を流す。

 

それを見た伊井野監査は「ちょっと石上! 何言ってるのよ、もぉ!」と顔を真っ赤にして叫んでいる。

 

……カオスすぎて収拾がつかない……!

 

眼鏡の奥で、じわりと涙が滲むのを感じていた。

 

今この状況下で、僕が何を告げたところで、この「裁判」「BL妄想」「知能退行」「無自覚絶倫イケメンの二股疑惑」が煮詰まった闇鍋のような状況が好転するとは、到底思えなかった。

 

とりあえずもう一人の参謀に連絡した方が良さそうだ。

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