超かぐや姫!~"はじまり"、祈り。そして、”はじまり”~ 作:tomine1411
(注:独自設定が含まれます)
A.D.203x。いろは義体研究所、高レベル機密研究室にて。
タブレットの向こうにいるヤチヨに、問いかける。
「ツクヨミの方も安全なシャットダウンを完了、メンテは信頼できる人に丸投げ中だよー。」
「…いいんだね?ヤチヨ。」
「わかってる。大丈夫だよ、彩葉。」
ヤチヨからの、声。
今から実験することは簡単だ。
8000年間の記憶。それが人格に与えた影響を、
FUSHIの記憶操作を利用して一時的に抑制する。
今のヤチヨでも、かぐやを演じることは不可能ではない。
ただ、そうしていると予期せぬ際にトラウマを刺激される可能性があった。
無論、ヤチヨのままであれば十分に対策ができている。
しかし、これから先”かぐや”として生き続けることがあった場合。
そのリスクは、私にとって受任できないほどに大きかった。
だから、このような方法を使うことにした。
ヤチヨは、八千年の記憶を持ったままでも問題はない。
かぐやは、出会った人のことは覚えていたい。
だから、その悲しい記憶の詳細を思い出しづらくする。
人間で言えば、短期記憶を長期記憶にした上で、思い出しづらくするようなものだ。
とはいっても、ヤチヨ本人にするわけじゃない。
これからそれをするのは、ヤチヨからその全情報を株分けした特殊個体。
そこに、この操作を行う。
それでも、この実験にリスクがないわけではない。
FUSHIの力は、限定的に因果にすら干渉しかけるほどに強力だ。
ヤチヨの株分けも、本体とのリンクが存在しないわけではない。
それらの状況があった上で、FUSHIの力がどこまで作用するかを確かめる必要があった。
「…始めるよ、FUSHI」
<LOGGING START:>
「記憶抑制操作を開始」
FUSHIの声、複製ヤチヨのバイタルに変化。
<START MEMORY COMPRESS OPERATION: … CMPL>
<START MEMORY ARCHIVE OPERATION: … CMPL>
タブレットの中、ヤチヨの分体の眼が虚ろになる。
中止したい衝動を抑え、静かに見守る。
別に記憶を消してるわけではない、いつでも戻せる。
その保証があるはずなのに、どうにも不安だった。
「ヤチヨ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。全部、思い出せる」
<START MEMORY FINAL OPTIMIZATION: … CMPL>
「予定された全操作を完了、記憶に致命的矛盾なし。」
「わかった。FUSHI、あの子の凍結を解除して」
「…わかった。」
<FREEZE/RELEASED>
凍結解除を確認。複製ヤチヨの眼に、光が戻る。
「…あれ、彩葉?なんで泣いてるの..?」
ああ、アバターがヤチヨでも、この子は。
あの頃の、かぐやだ。
あの舟に閉じ込められた頃の、かぐやだ。
あの8000年を見てきた私にはわかる。
震える手で、音声入力をオンに。
「…うん、大丈夫。私は、大丈夫だよ。」
「また、必ずあなたの身体を用意してあげるから。」
「だから、その時までおやすみ。かぐや」
FUSHIに目配せ。
「
「…ありがとう。」
「バカタレ、まずはその涙をなんとかしろ」
そう言われて。私は。
涙が止まらず、流れ続けていることを自覚した。
ああ、人間はかくも脆弱だ。
もう一度会おうと誓ったのに。そのために泣いているわけにはいかないのに。
でも、涙が止まらない。
「…彩葉!」 ヤチヨの、声。
「…ヤチヨ?」スマコンを、VRモードで起動する。
天守閣にログインした私に抱きついてきたのは、ヤチヨだった。
本体の、ヤチヨ。
「大丈夫、大丈夫だから」
抱き寄せられる。強く、強く。
ツクヨミに実装された触覚は、本物と違いがまるでない。
だから、暖かさも、鼓動も。感じることができる。
-震えている 足でもいい-
-前へ進もう 闇が待とうとも-
安心すると、ふと昔を思い出す。
ずっとずっと、前へ進めなかった私でも。
進んでいくことが、できた。
-さようならを言って また強くなる-
-振り返るのは まだ先でいい-
きっと、人は。
たくさんの”さようなら”の先で、生きていく。
たくさんの別れと出会いを繰り返して、生きていく。
だから、それを振り返るのは。
まだ先でいい。この人生が終わる、その時でいい。
だから、私は。
「ありがとう、ヤチヨ。」
ずっとずっと、誰かに感謝しながら、生きていくんだ。
出会えたことに。たとえ、いつか別れを告げることになったとしても。
《出典:Gargantua / Rita》