いつか途切れた、音の続きを   作:いつかの音色

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全員で同じ場所を目指して

 

 

 滝先生が協力者となった翌日。

 滝先生は放課後一番に全員を集めてのミーティングを行なうとアナウンスした。

 

「皆さん、まずは謝罪させてください。私は合奏をより良いものにしようと、そればかり考えて視野が狭くなっていました。その結果、合奏すらままならない本末転倒な状況となりながらも、その状況を改善出来なかったのは皆さんも知っての通りです」

 

 指揮台に立ちながら滝先生は語る。

 そして、頭を下げた。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 普段、粘着悪魔などと言われていたのだ。そんな滝先生がこうして謝るというのは、一定の衝撃があったのが周囲から見て取れた。

 

「部長、これを皆さんに」

「あ、はい」

 

 そして、滝先生は晴香さんに紙の束を渡した。

 手元に回ってきた紙に視線を落とす。それは私が昨日滝先生に渡したものだ。全てのパートの楽譜が書かれたフルスコア。

 

「これは自由曲『ラプソディー・イン・ブルー』のスコア表です。ですが、皆さんに以前配ったものと少し変更している部分があります」

 

 両面印刷をしてはいるものの一セット当たり二十枚を超える。よくもまあ、一日でこんなに印刷出来たものだと思う。ただ、それも滝先生の誠意の一つではあるのだろう。

 

「あの、滝先生……これって」

 

 ペラペラと紙をめくる音が色んな方向から聞こえてくる中、最初に声を上げたのは香織さんだった。

 

「はい。トランペットソロを高坂さん、そして中世古さんの二人に担ってもらう事にしました」

 

 案の定と言うべきか、みんなからは驚愕の声が上がる。

 

「オーディションの時、トランペットソロには高坂さんの力強い音が合っていると私は判断しました。ですが、それもソロは一人と視野が狭くなってしまっていました。高坂さんだけでなく、中世古さんも北宇治の大切な戦力です。活かさない手はありません」

 

 滝先生はちゃんと私ではなく自分が考えたような体で話している。

 正直に言うと、このやり方もちょっと高坂さんの自尊心を傷付けてしまう可能性はある。自分一人では足りないからもう一人を追加したと。あるいは滝先生が部員たちからの圧力で無理矢理そういう変更をせざるを得なくなったという風に見えるか。

 ただ、もうここに関しては高坂さんが納得してくれるように祈るしかない。これ以上の案は私にはなかったし、恐らく滝先生にもない。あったら私の案ではなくその案を使うはずだから。

 

「なりふり構わないと思われてしまうかもしれませんが、全国大会に行くためにはこれが最善だと判断しました。皆さんには少し負担をかけてしまう事にはなりますが、コンクールはこの編曲でいこうと考えています」

 

 みんなからの反対は出なかった。

 

「それと、合奏練習の指揮ですが……」

 

 一部ではあるものの楽譜が変わったため、その後はパート練習・個人練習となった。

 

 ▼△▼△▼△

 

 クラリネットパートはすぐに修正分を完璧にし、個人練習となった。ヒロネさんのありがたいお言葉によってクラのパートは技術面に関してはほとんど私が取り仕切っているため、形になるのが早い。

 個人練習の時間になったら私は適当に学校内を回っていて、最近はB編成の方に多めに顔を出している。B編成は初心者の子も多い。B編成には一曲仕上げるという課題が出されていたらしいけれど、それはもう出来るようになったし、次は何の曲が良いか。

 

「倉崎さん、今倉崎塾は空いてる?」

 

 なんて考えていたら、後ろから香織さんに声をかけられた。

 

「空いてますよ」

 

 倉崎塾は誰かが言い出した私のアドバイスの事だ。そんな大層な事はしていないけれど、邪魔だと思われていないようで一安心。

 

 香織さんの手にはトランペットと譜面台。

 そのまま屋外の香織さんの練習場所に向かう。

 

「これ、倉崎さんだよね?」

「あー、分かります?」

「まあね。こんなに私に合った編曲が出来るのは倉崎さんだけだって思ったから」

「内緒ですよ? 優子先輩に嫉妬されちゃうので」

「滝先生の話じゃないんだ……」

「冗談です」

 

 編曲も個性が出たりする。

 まぁ、親しい人にはバレる事もある。香織さんなら言いふらしたりしないだろうから、大丈夫だろう。

 

「聞いてくれる?」

「もちろんです」

 

 定位置につき、新しく作ったソロの部分を吹く香織さんの音を聞く。

 やっぱり香織さんに合ってる。自画自賛にはなるけれど。

 

「どうかな?」

「めちゃくちゃ良いです」

「お世辞はいいの」

「お世辞じゃないんですけど……まぁ、強いて言うなら出だしのここの部分と2拍目のところ、あと……は後で言うとして。出だしとかは特にソロですし、もっと主張して良いです。アンコンとは規模感が違いますし」

 

 正直、オクテットのメンバーは『ラプソディー・イン・ブルー』をかなりのレベルにまで仕上げていたから、今さらダメなところというのもそんなにない。あるとすれば、アンコン用の編曲とコンクール用の編曲の違い、八人と五十五人という人数の違いなど諸々の違い、その差の修正。

 

「うん。ありがとうね」

「いえ、この程度のアドバイスは」

「それもあるけど」

 

 そう言って香織さんは一度譜面を見たかと思えば、顔だけこちらに向けて微笑んだ。

 

「ソロ、吹きたかったんだ」

 

 吹奏楽部のマドンナなんて呼ばれているらしい、その理由が分かったような気がした。

 

「……優子先輩には内緒という事で」

「そんなに優子ちゃんに内緒にしたい!?」

 

 ▼△▼△▼△

 

 香織さんと雑談をしつつ、ほどほどにアドバイスもしてから校舎に戻ると、ちょうど香織さんがいる場所からは見えない場所で優子先輩が待ち構えていた。

 

「あー……聞いてました?」

「アンタが私をどう思ってるのかは聞きたいところだけど、まぁいいわ」

 

 腕を組んで壁に寄りかかっていたから、これから説教でもされるのかと思った。

 優子先輩は顎をしゃくってついてこいと合図する。これまた体育館裏にでも呼び出されそうな動きである。

 

 2階に上がって、3階に上がって。

 廊下を突き進み、突き当り。行き止まりに背を預け、優子先輩は天井へと顔を向けた。

 

「アンタのこと、過小評価してた」

 

 そのまま、優子先輩は天井に向かって語り始めた。

 

「クラリネットはビビるぐらい上手いし、歌もひっくり返るぐらい上手いし、なんならピアノなんて初めて聞いた時意味わからなかったし。他の楽器も上手いし、金管も木管も出来るかと思えばバイオリンとか弾き出すし」

「ちょっとばかり人より才能がありまして」

「これでちょっとなら私とか他のやつはどうなのって話よね。まぁ、今さらだしそんなのどうでもいいんだけどね」

 

 顔は上を向いたまま、壁の汚れでも触ってしまったのか、優子先輩の左手の人差し指と親指が擦り合わされる。

 

「夏紀はあんな感じだし、希美もあれでアンタの事相当買ってるのよ。みぞれだって、この前のあがた祭りでアンタとストロー笛やったの楽しかったって言ってたわ。あんまりそういう事言わないのに」

 

 人差し指と親指が、指についた何かを落とすというより何かをこねているような動きになっていく。

 

「たぶん、人を惹き付けるカリスマみたいなのが本当の強みなのよね」

「そんな大げさな。ちょっとみんなに気に入ってもらえるように頑張ってるだけですよ」

 

 過大評価だと思う。私はただみんなに気に入ってもらえるように努力しているだけで、そんな人を惹き付ける魅力が元々備わっていた訳ではない。だって、南中時代は今みたいに目立っていなかったし、小学校時代だってそう。

 カリスマで言うなら晴香さんとか希美先輩の方がよっぽどあると思う。そもそも、部長に推薦される時点でという話ではあるけれど、そうでなくても晴香さんは私を救ってくれた時点でそういう次元の枠には収まらないし、希美先輩は南中時代も今の北宇治時代も周りに人が溢れている。

 

「私、去年みんなに謝り回ってた時、正直バカじゃないのって思ってた」

「え、そうだったんですか……?」

「だってそうじゃない? 勝手に罪悪感感じて遥々高校まで来て、それを一人ひとりよ? 最後はつむぎ追いかけて東京まで行ったらしいじゃない。正直引いたわ」

「あれは東京観光のついでという建前で……」

「建前って言っちゃってるじゃないのよ」

 

 衝撃の事実が発覚してしまった。

 そりゃ、全員に好意的に受け止めてもらえるとは思っていなかったけれど、まさか優子先輩にそんな風に思われていたなんて。

 

「でも、そういうところなんでしょうね。行動力というか、そういうの。キャラ作ってたのだってそう。天性の才能と、それだけじゃない覚悟みたいな。部活見学の初日なんてやった事と言えば寒いギャグ言ってそこから話を広げて」

「あのぉ〜、あれでも一生懸命考えてきた渾身のギャグなんですけど……」

「音楽の才能みたいに真似出来ないものじゃない。誰でも出来る。その覚悟と強ささえあれば。それが出来るのが、アンタの強み」

 

 渾身のギャグが誰でも出来る扱いをされている……。

 

「私には、出来なかったから。高坂ともあんな風になって。滝先生を追い出す事になったのも、きっかけは私よね。私が滝先生にあんな風に言ったから」

「あれは100%滝先生が悪いです」

「あぁ……うん」

 

 優子が視線を天井から下ろして、まっすぐ私の方を見た。

 

「ありがとう。それと、悪かったわね。私の尻拭いで大変な事になって」

「まぁ、滝先生を追い出した件は遅かれ早かれだったと思いますし、やるなら早い方が良かったと思うのでむしろファインプレーだったかもです」

「香織先輩のソロも、私にはどうにも出来なかったから」

「ちょっとだけ頑張りました。ああ、それと。滝先生はどっちでも良いんですけど、高坂さんとは出来るだけ仲良くやってくれると助かります」

「そうね……謝っておくわ」

 

 滝先生の件は確かに優子先輩の行動で激化した節はあるものの、高坂さんと滝先生が元々知り合いだったという話は広まっていたから、優子先輩が動かなくてもいずれ誰かが動いたとも思う。それに、中途半端にやるぐらいならあれぐらい大胆にやった方が良い。

 

「……その行動力に音楽力が合わさったら無敵ね。でも、あんまり無理するんじゃないわよ。私が言うのも、だけど」

「え〜、心配してくれてるんですか〜?」

 

 頭にチョップが落とされた。

 

「……好きでやってる分にはいいわ。まぁ、何かあったら頼りなさい。不甲斐ないかもしれないけど、これでも一応先輩なんだし」

「頼りにしてますよ、優子先輩。つきましては、最近空気が重い事が多いのでみんなの前で一緒に一発ギャグを……」

 

 もう一発チョップが落とされた。

 

「出来る範囲で頼りなさい」

「今、思い付きました。優子先輩のそのリボンを外して別のリボンを取り出して、リボンがreborn(リボーン)! みたいな。プフッ」

 

 急に降りてきたものだけれど、今まで考えた一発ギャグの中でもかなりの完成度な気がする。優子先輩がやるところを想像すると自然と笑ってしまう。

 リボンが、リボーン……! 

 天才かもしれない。

 

「なに自分で言って自分で笑ってるのよ……やらないから」

「え〜……」

「や・ら・な・い、から!」

「優子先輩ノリわるーい」

 

 優子先輩はあからさまにため息をついた。

 

「まぁ、ギャグは置いておくとして。ここまでさせて負けましたじゃ終われない。まずは府大会。勝って関西行くわよ」

「……そうですね。行きましょう、関西」

 

 関西大会進出。実はそこまで不可能ではないラインまで北宇治の吹奏楽部は進化している。それはみんなの一人ひとりの意識が変わったというのもあるし、滝先生の指導もあるだろうし、ちょっとぐらいは私のアドバイスもあったと思う。

 だから、行ける。このままみんなが同じ場所を目指していけば。

 

「じゃ、私は戻るから」

 

 優子先輩はひらひらと手を振って背を向けた。

 

「リボンがリボーン……」

 

 そう呟くと、スタスタと早足で戻ってきた優子先輩が何度めかのチョップを私の頭に落とした。

 

 というか、みぞれ先輩が楽しかったと言ってくれていた、なんて。あの希美先輩しか見えていないみぞれ先輩が、希美先輩も含めたセッションではなく私と二人でやったストロー笛が楽しかったと言ってくれたなんて。

 謝罪回りを優子先輩に引かれていたとか、そんな事どうでも良くなるぐらいの衝撃。

 あとでちょっかいかけに行ってみようかな……。

 

 ▼△▼△▼△

 

 コンクールの結果に拘らないなんて考える私でも、今さらそんな事を言って部をかき乱すような事はしない。みんなが全国大会を目指すなら、私だって全力でそれに協力する。

 

「では倉崎さん。よろしくお願いします」

「ええ」

 

 最初は滝先生の代わりに指揮者をすると思って始めた、私を指揮とする合奏練習。対立から始まったこれは、協力者となってからも続ける事になった。

 全国大会に行くために使えるものは何でも使うという滝先生のスタンスを考えれば当然の結果だったかもしれない。滝先生も練習時間中すべてを指導出来る訳ではないため、滝先生が見られない時間を私がという事になったのだ。課題曲を私が、自由曲を滝先生が指導するという形にひとまずはなった。

 

 滝先生との打ち合わせを終えて、職員室から出る。

 そろそろ予め決めてあった合奏練習の時間だ。

 

「コンクールまでそう時間はありませんし、課題曲は早めに仕上げちゃいましょう」

 

 指揮台に立って、合奏の前に語る。

 

「では、さっそく最初から」

 

 そして、指揮棒を振った。

 

 かなり形にはなっている。このままでも関西大会には進めそうなぐらいの完成度はあるけれど、だからといって、みんながやる気を見せている以上妥協する意味もない。

 

「全体的にですが、スタッカートはただ音を跳ねさせれば良い訳じゃないので気を付けてください。音を短く切る必要はありますが、音の余韻がなくなってしまうともったいないので、それぞれもう一瞬ずつだけ音を長くしてみてください。例えばこんな風に……」

 

 手元にクラリネットを置いているから、それでみんなにイメージしやすいように音を出す事も出来る。

 

「これを意識して、BからDを通してみましょう」

 

 基礎的な演奏力は多少意識を変えたところでそれほど変わる事はないけれど、表現としては少し意識を変えるだけで変わる事もある。

 

「良い感じです! 無理に伸ばそうとしなくても、ちょっと意識するだけでちょうど良い感じになるので、その意識だけ忘れないようにお願いします。

 それとなんですが、Iに入ったところのピッコロ、フルート、オーボエ、エスクラのトリル、合わせましょう。スネアのロールとも合わせたいところですが、基準がないと難しいと思うので、今から吹くのを聞いてください」

 

 そうして少しずつ仕上げていく。

 少しずつ、けれど確実に一歩ずつ。

 

 そして、満を持して滝先生が音楽室へと現れた。

 

「それでは、最後に一曲通してやりましょう」

 

 滝先生が聞いている前で最初から最後まで本番のように通す。最終的に指揮をするのは滝先生だから、今の状況を伝えておくためにも大切な事だ。

 

「という感じです」

「分かりました。大変良くなっています。では、時間も惜しいのでこのまま自由曲を始めましょうか」

 

 滝先生と入れ替わるように指揮台を降りて、最前列に一つ空席のまま置いてあった椅子に座った。

 

「それでは冒頭から」

 

 自由曲の『ラプソディー・イン・ブルー』冒頭はクラリネットソロ。

 私はクラリネットを構えた。

 

 ▼△▼△▼△

 

 自由曲の香織さんと高坂さんのダブルソロはかなり良い感じにまとまった。滝先生の指導は言い方こそアレな部分はあるものの、内容自体は悪くない。

 ひとまずはトランペットソロ問題もなんとかなったという事でモチベーションも回復して、本当にあとはただ全力でという形。一時はバラバラになりそうだったけれど、なんとか良い形に着地出来た。

 

 翌日からも大まかな形は同じ。

 前日の合奏練習で見つかった課題を克服するためのパート練習・個人練習の時間から始まり、私が指揮をする課題曲合奏練習の時間、そして滝先生が指揮をする自由曲合奏練習。

 個人練習になったら、B編成か前日の合奏練習で課題が多かった人を中心に詰まってそうであればアドバイスをして回る。

 

「んー、指が回りにくいか」

「指っていうか、指もそうなんだけど、どっちかと言うと息の方が……」

「たぶん黄前さんは運指の方にいっぱい意識が持っていかれてて、そのせいで他の部分に不備が出ちゃってると思う」

 

 昨日の合奏練習で特に指摘される部分が多かった何人かの内の一人が黄前さんだった。

 

「ユーフォ吹く時って大きく分けて運指と息の二つで音を作ると思うんだけど、黄前さんはどっちの方が得意? それか、どっちの方が苦手とかある?」

「うーん……どっちかと言うと運指の方がまだ得意かも」

「なるほど。黄前さんって、中学で使ってたユーフォも同じタイプ? 4番ピストンとか」

「中学まで使ってたのは並列式でして……」

「あー、それもあるかもね。高校では心機一転みたいな? それか北宇治って並列式余ってなかったり?」

「えっと、こっちにしたのはあすか先輩におすすめされて……もう一個あったんだけど、そっちは見てなかったかな……」

「田中先輩に……。まぁ、慣れればどっちがダメって事もないし、練習あるのみ!」

 

 同じ楽器だし多少運指は変わるけれど、どちらでも問題ないとは思う。ただ、中学三年間で染み付いた癖というものはなかなか取れないだろうし、そういう意味では頑張ってもらうしかない。

 

「たぶん、得意だからこそ詰まったら余計に意識がいっちゃってるのかな。黄前さんはピストンを押すのに必要な最小の力とか意識した事ある?」

「ピストンを押すのに最小の力?」

「そうそう。案外見落としがちなんだけど、運指が複雑になればなるほど力が入っちゃうんだよね。だから、力を抜くのが大事って事で、ピストンがちゃんと押せるか押せないかギリギリぐらいの力加減で一回やってみて? 逆に押せなくても良いから」

 

 塚本くんも結構苦戦してたみたいだから、この次は塚本くんのところに顔を出してみようかな、なんて考えながらアドバイス。

 

「あ、ちょっと良い感じかも」

「根本的な解決にはならないかもしれないけど、そういうちょっとした違いでもこの先の伸びが違ったりするから、次から意識してやってみると良いかも。本番でもそうやって余計な力を抜いて出来ればベストかな」

「自分じゃ分からない事ってあるんだね……」

「まぁ、自分の身体って言っても客観的に見るのは難しいよね。で、次は具体的な運指の話なんだけど……」

 

 そうして、黄前さんへのアドバイスもほどほどに。個人練習の時間を邪魔し続ける訳にはいかないので、別の場所に移動しようとした時。

 

「あ、あの!」

「うん? どうしたの?」

「今、ちょっとだけお話出来る……?」

「それは出来るけど、練習はいいの?」

「ずっと、話してみたかったから」

「今までも話してたんじゃ?」

「そうなんだけど、そうじゃなくて……」

 

 黄前さんに止められた。

 全然話ぐらい出来るけれど、なにやら普段と様子が違う。これまでも普通に喋っていたのに、まるで初対面の人に話しかけるような。同級生の友達同士なのに、そんな雰囲気を感じた。

 

「うん、いいよ。椅子、持ってきた方がいいかな?」

 

 どんな話かは分からないけれど、話ぐらいいくらでも付き合おう。

 いつになく真剣な眼差しの黄前さんに、私は微笑んだ。

 

 

 





 ○吉川優子
 主人公の音楽の才能もカリスマも全て正しく理解しているし、尊敬もしている。その行動力に関しては、同じように行動すれば理論上自分にも出来るからこそ、音楽の才能以上に評価している。
 ただし、どんなに才能があって行動力があっても後輩は後輩なので、頼り切りになるのは不甲斐なさを感じるし、頼ってほしいとも思っている。

 ○主人公
 優子と話した後、ウキウキでみぞれにダル絡みをして、塩対応をされて泣いた。 
 
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