キタカミに向かう飛行機の中で、スズカとおれは一緒に映画を見ていた。事前に買っていたお菓子をつまみながら、映画を見て笑う。すごく…幸せな時間だ。
映画では、主人公が憧れの女の子に告白するけど断られて、それからその女の子の知らない一面を知っていく…っていう話。おれは恋愛ものとかよく分かんないけど…スズカと一緒に見るとすごく恥ずかしい。
スズカをキタカミに誘ったとき、ねーちゃんはびっくりしていた。ねーちゃんは地元大好きだから、いわゆるよそ者のスズカが来るのが嫌だったみたい。それでもおれがお願いしたら…しぶしぶ許してくれた。本当にしぶしぶ。多分だけど……おれがあんなにねーちゃん相手に意固地になったのが初めてだったからじゃないかな。今までおれはねーちゃんの影に隠れてばっかりだったから。
隣でグミをつまむスズカを見ると、映画に集中しているのかすごく綺麗な真顔だった。いつも笑顔のスズカが黙っていると、すごく美人だ。いやいつも可愛いんだけど。
キタカミの里についたら、スズカにいっぱい教えないと。りんごの美味しさ、鬼さまの伝承、お祭りにそれから……
そう考えながら、おれは眠りについた。
「っしゃ〜!着いたし、キタカミの里!」
「うん、何事もなくって良かったな」
「ここがキタカミの里よ、あんたみたいなギャルはいないけど…まああたしのような美少女を輩出するいいところよ!」
「確かに、ゼイユっちの美人さはナチュラル系だよね〜」
「ふふん、分かってるじゃない。」
「おうい、こっちだよ」
キタカミについて少し歩くと、公民館の管理人さんが手を振ってくれた。懐かしいな、ねーちゃんと一緒によく怒られたっけ。管理人さんはスズカを見てたいそうびっくりしてた。
「初めまして!スグリくんとゼイユさんの友達のスズカでっす!」
「なんと……こんな華やかな子がキタカミに。ようこそいらっしゃいました」
「あれ、そういえばブライア先生は?」
「スグ、聞いてなかったの?ブライア先生はグレープアカデミーの方に行ってるわよ、なんかテラスタルの本場に行きたいんですって」
「ああ、ブライア先生はテラスタル好きだからな……」
「グレープアカデミーの人たちが来るのは明日ですからね、今日はゆっくりしてください」
「は〜い、ありがとございます!」
「はは、素直でいい子だねえ」
まあ確かに。ねーちゃんは素直というよりは変な方向にまっすぐだからなあ。スズカみたいに素直にいい子なのはキタカミじゃ珍しいか。
「それじゃ、あたしたちは家に荷物置いてくるから。あんたは公民館に荷物置いてきなさい」
「あ、待ってねーちゃん」
「なに?」
「その…スズカのこと、じーちゃんたちに紹介したいな、って」
「……ふーーん??まあ確かに、スグの友達だもんね。いいわよ、許可するわ」
なんかねーちゃんが変な視線で見てくるけど…おれはただ友達を紹介したいだけだべ。じーちゃんとばーちゃんを安心させてやりたいしな。
「おじいちゃん、ただいまー」
「おおゼイユ、おかえり。それにスグリと……!?」
「あ、初めまして!スグリくんとゼイユさんの友達のスズカです!」
「なんと……!!ばあさん、ギャルが来たぞ!」
「えっ」
「あらまあ……すごいわねえ、本物のギャルだわ」
「あはは……どもども」
「スグリの友達か、そうかそうか…疲れただろう、上がっていきなさい」
「わーい、お世話なりまーす!」
じーちゃんもばーちゃんも…本物のギャルを見てびっくりしてるな。まあキタカミにはギャルなんていないからな……前にねーちゃんが目指した事もあるけど、性格がきつすぎて周りがドン引きしたんだっけ。
「はい、こないだアップルヒルズで採れたりんごですよ。こんなものしかなくてごめんなさいねえ」
「うわ〜、マジ美味しそう!あてぃし、スグぴっぴからキタカミのりんごの話聞いてマジ楽しみにしてました!いただきま〜す!」
「ど、どう?」
「……めっちゃ美味しい!みずみずしくて甘くて、でもさっぱりしてて…なんか新鮮!これ食べたら他のりんご食べられないかも」
「にへへ、良かった」
「それにしてもスグリに友達ができるなんてなあ。ゼイユの後ろに隠れてばかりだったスグリにこんなギャルの友達が…」
「や、やめてよじーちゃん。確かにおれとスズカは正反対かもだけど…でも明るくて優しい子だから、おれも一緒にいて楽しいんだ」
「ねー。あてぃしとスグぴっぴマジマブだし」
「ふふ、それなら良かった。良かったらうちでご飯も食べていく?」
「えー、いいんですかぁ?キタカミの料理マジ楽しみ!」
「そんな大層なものは出ませんよ、天ぷらとかそれぐらいで…」
「いやいや、天ぷらって手間かかるでしょ。わざわざ作ってくれるとかマジ感謝です」
「あらまあ……スグリ、いい子を友達にしたねえ」
「にへへ、だろ?」
「………」
おれたちとスズカが話している所に、ねーちゃんは入ってこなかった。キタカミ好きなねーちゃんなら自慢してきそうなものだけど……
それから夜、スズカも一緒にご飯を食べて、スズカを公民館まで見送っておれたちは別れた。その間も、ねーちゃんはすごく静かだった。ぶ、不気味……!!
「……ねえ、スグ」
「どうしたの、ねーちゃん」
「スズカって……いい子よね」
「え、なに今さら」
「いや……おじいちゃんもおばあちゃんも、あんなにスズカのこと甘やかしちゃって。スグの友達だから嬉しいのは分かるけど…甘やかしすぎじゃない?それとも都会から来たキラキラギャルにはみんなあんな風になるのかしら?」
「ねーちゃん……嫉妬?」
「うっさい!!別に嫉妬なんかしてないわよ、別に……久しぶりに帰ってきた孫より、赤の他人をあんなに可愛がるものなの、って思っただけ」
「あ、赤の他人なんかじゃない!スズカはおれの友達で、すごくいい子で……」
「分かってるけど……いくら仲良くたって、よそ者じゃない」
「!!」
顔が熱くなるのを感じた。ねーちゃんはいつもそうだ、キタカミが大事って言ってるけど…結局は自分の気に食わないものが入ってくるのが嫌なだけだ。スズカがいい子なのはねーちゃんだって知ってるくせに……
「だからねーちゃんには友達いないんだ!よそ者よそ者って…結局ねーちゃんがビビりなだけだろ!」
「なっ……なによ、スグのくせに!」
「おれはキタカミもスズカも好きだ。だから、どっちも大事にしたい。そんな考え方してると、周りから人さいなくなっちまうぞ」
「…………」
まずい、言いすぎたか?でもねーちゃんが殴ってこないってことはブチギレてはないのか。
「…あたし、ちょっと散歩してくる」
「え、あ、うん……」
ねーちゃんは静かに、キタカミセンターの方に歩いていった。何事もなければいいけど……
「…はあ、やんなっちゃう」
ゼイユは、キタカミセンターの階段に座って石ころを蹴っていた。
そもそもよそ者のスズカがやってくること自体嫌だったのに、スグリが押し切って無理やり連れてきたのだ。しかも、管理人も祖父母もスズカにデレデレで……
そしてなにが1番嫌かというと、スズカにやきもちを妬く自分が嫌なのだ。ブルーベリー学園での生活でスズカの人の良さは十分知っているし、あのスグリの友達、という点でも皆が注目するのも無理はない。
ロトロトロト…
「もしもし?」
『あ、ゼイユっち?今大丈夫?』
「…まあ、普通だけど。どうしたの?」
『いや実はさ〜、あてぃし今散歩してるんだけどめっちゃいい景色撮れたから!ゼイユっちにも見せたくて!』
「いい景色?キタカミはどこもいい景色よ」
『あはは、確かに!でもマジで映える景色だから!ちょ今から送るわ!』
「あ、ちょっと……」
そう言って、写真が送られてきた。それは、イルミーゼとバルビートが光って踊る、綺麗な写真だった。
「……きれいね」
『しょ?ゼイユっちこの景色見たことある?』
「舐めないでよ、子供の頃から見慣れてるわ」
『あっはは、さすがー。でも綺麗だったから共有したくってさ』
「ふうん……ま、受け取ってあげるわ」
『えへへ、ありがと!それじゃあおやすみ〜』
「あ、ちょっと待って」
『どしたの?』
「……あたしね、あんたがキタカミに来るの嫌だったの。あんたみたいな都会人が来ても面白くないだろうって」
『………』
「それに、おじいちゃんもおばあちゃんもあんたにデレデレで……なんかつまんなくって」
『まあスグぴっぴの友達だし、多少はね?』
「でもやっぱあんた……いい子だわ」
『……ふふ』
「なによ、なんかおかしい?」
『別にー。ゼイユっちのデレはいい成分だなって』
「何よそれ。まあいいわ、林間学校…楽しみましょうね」
『うん、それじゃあね!』
電話を切った。正直まだ気に食わない所はあるが……それよりもスズカの人の良さが上回ったのだった。
翌日
「初めまして、スズカさん!僕、グレープアカデミーのハルトっていいます!」
「僕と、お付き合いしてください!!」
スズカ
コミュ力の化け物。キタカミに珍しいギャルなので皆をデレデレにさせた。
ハルト
爆弾を持ち込んできた。