ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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グレーバッジを手に入れたカグヤ。
次のジムがあるハナダシティへと向かう前に、2人はお互いに自由時間を作る事を決め別行動をする事にした。


第6話 〜新たなる出会い!? チャンピオンシロナ〜

「それじゃあレイジ、夕方頃になったらセンターに集合よ?」

「わかってる」

「それと、知らない女の子についていったりしたらダメだからね?」

「僕はそこまで子供じゃない……というか、普通女の子限定にはしないと思うけど……」

「……そういえばそうだね、何でだろ?」

僕に振られても困る、そう言わんばかりの表情を見せるレイジ。

 

「まあいいや。それじゃあみんな、頑張って強くなろうね?」

既にボールに出したエネコとチコリータに視線を向けてそう言うと、カグヤは街の外へと走っていってしまった。

〈……カグヤ、凄く元気だね〉

「明るいのがカグヤの良いところだからね。

 それよりティナ、今日は博物館に行くからボールの中に入ってて」

〈はーい〉

おとなしくボールに戻るティナ。

それを確認してから、レイジはニビシティの博物館へと足を向けた。

 

………。

 

入場料を払い、さっそく中に入る。

人はまばらで混んではいないようなので、レイジはほっと安堵のため息を漏らす。

化石や書物が飾られているショーケースに手を置き、中身を確認しようとするが、古代語なのか理解できない。

「…………」

この博物館には主に古代ポケモンの化石が展示されているが、カントー地方で見つかった古い書物や石版も少ないながらも展示されている。

だがレイジはそんなものに興味があるわけではなく、ましてや考古学者を目指しているわけでもない。

では何故ここに来たのか、それは――自分の手がかりを得るため。

 

――ポケモンの言葉を理解し会話する能力、それがレイジには備わっている。

 

オーキド博士などは、赤ん坊の頃に親の言葉を聞いて自然と言葉を覚えるのと同じ理由で、ポケモンの言葉を理解する事ができたのではないかと言っていた。

だが、レイジにはそれだけが理由ではないと思うのだ。

そもそも、それではあの場所に居たポケモン達以外のポケモンの言葉は理解できないという事になる。ポケモン毎に言語は違うのだから。

それはすなわち、この能力はオーキド博士の推測とは違う理由で得られたという事になる。

更に、普通の人間が得られる事など絶対にありえない能力であり、その為レイジは古代の石版や書物にならばこの能力の手がかりが見つかると考えたのだ。

今までもオーキド博士の研究所に置いてある書物を読み漁ったり、自分のできる事はやってきた。

しかし手がかりはまったく掴めず、ニビシティの科学博物館ならばとは思ったのだが……。

やはり展示されている物には、そういった記述など何一つ載っていない。

資料室にならばあるいはとは思ったが、一般人が入る事はできないだろう。

 

――別に、今の自分に不満があるわけじゃない

 

自分を育ててくれたゲンジにルリコ、そして孫のように可愛がってくれるオーキド博士。

更に、自分の傍に居てくれたカグヤ。

自分の境遇は、決して悲観するものではなく、むしろ恵まれていると言っても過言ではない。

だが知りたいのだ、“自分”という存在が何の為に在るのか。

この能力は何のために存在するのか、どうして自分にはこんな能力が備わっているのか。

それが、どうしても知りたかった。

 

「………?」

ふと、一枚の壁画が視界に入り、そちらに向かう。

(何だ、これ……)

その壁画には、二体の怪獣のような生物が対になって描かれていた。

一体は身体の至る所に白いラインが走り、後頭部は結晶のように大きく突き出した形状をしている。

そしてもう一体は、両肩に真珠のような球体が埋め込まれ、対になった一体と同じように、身体にラインが走っており、背中には翼のような2対の鰭が生えている。

ポケモン、なのだろうか……壁画でありながらあまりに神々しい姿に、言葉を失ってしまう。

それに、何故だろうか。

自分は、この生き物を、何処かで……。

 

「ディア、ルガ……パル、キア……」

自然と、口が動いていた。

「ぇ………」

どうして、そんな名前が自分の口から出てきたのか、わからない。

自分は知らない、このポケモンの名前など知るはずがないというのに何故――

 

「あったあった。……ふーん、本当にカントー地方で見つかったのね。

 にわかには信じられないけど……これは歴史的発見かも」

 

「……………」

背後から聞こえる若い女性の声。

ただそれだけ、おそらく彼女もただ博物館を見学している一般人のはず。

だというのに、レイジは身体が凍りついてしまうほどの緊迫感に襲われてしまう。

「っ!!」

無我夢中で飛び退き、おもわず睨むように後ろに居た女性と対峙した。

 

「…………」

対する女性は、当然ながらレイジの態度にキョトンとした表情を浮かべていた。

(気のせい……じゃない、この人……強い)

普通の人間にはない力強いオーラを感じ、どうしても構えを解く事ができない。

それにしても――目の前の女性はとんでもなく綺麗な女性だとレイジは認識した。

きわめて端正な顔立ちはもちろん、長い金髪は見る者を否応なく魅了するほど美しい。

黒を基調とした暖かそうなコートも彼女によく似合っており、事実周りに居る人間は全員彼女に見惚れていた。

 

「えっと……私の顔に何かついてるかしら?」

「あ、いえ……すみません」

まずった、相手には敵意の欠片もないというのに睨んでしまうなど、失礼極まりない。

本当にすみませんでした、もう一度しっかりと謝ってから、急ぎその場を後にしようとするが。

「待って」

女性に呼び止められ、おもわず足を止めてしまった。

 

「……なんでしょう?」

「貴方、今この壁画を見て言ってたわよね。――ディアルガとパルキアの名を」

「っ、知ってるんですか!?」

「知ってるも何も、ディアルガとパルキアはシンオウ地方の神話に出てくる神と呼ばれるポケモンだもの。大抵の人は知っているはずよ?」

「あ………」

女性の言葉で、ようやく思い出した。

そうだ、あのポケモンはシンオウ地方に伝わる神話に出てくる時と空間を司るポケモン。

(……なんだ、忘れてただけか)

知らない名前が自分の口から飛び出したのだと勘違いした自分が恥ずかしい。

 

「カントーの人がディアルガとパルキアの名前を知っているから、少し驚いたの。もしかして、シンオウ地方の出身なの?」

「いえ。ただオーキド博士から聞いた事があったので……」

正確には今の今まで忘れていたのだが、それは黙っておく。

「オーキド博士……貴方、博士の知り合い?」

「いえ。僕の両……育ててくれた人達が、オーキド博士の助手で、僕も博士に色々と教わったものですから……」

「なるほどね」

納得したような声を漏らし、女性は柔らかな笑みを浮かべる。

……まだ、警戒を解けない。

わかってはいる、しかしこの女性は今まで見た事がないほどの強いオーラを纏っている。

おそらくポケモントレーナーだろう、それも自分など比べる事すらできないほどの実力者。

 

「……そう警戒されると、私もどう接していいか困ってしまうわ」

「すみません……あの、あなたのオーラが今まで出会ってきたどの人よりも強いものですから、つい……」

「オーラ?」

「……わかるんです。トレーナーとしても人間としても強い人には総じてオーラ――上手く説明できませんけど、力のようなものを感じ取る事ができて……。

 それで、あなたに特別強いオーラを感じ取ったものですから……」

「……不思議な事を言うのね、そんなことを言われたのは初めてよ。

 でも、ふふっ……そう言ってくれるのは凄く嬉しいな、ありがとう」

「えっ……?」

「だって、私をトレーナーとしても人間としても強いって褒めてくれたじゃない。

 ポケモンの事で褒められたのはもちろん嬉しいけど、何より人として強いって言ってくれたのは、君が初めてだよ」

だから嬉しいの、本当に嬉しかったのか無邪気な笑みを浮かべながら女性は言った。

敵意も嫌味も威圧感もなく、自分の言葉に気味悪がるどころか感謝の言葉を口にした。

嬉しいと感じる反面、変わった人だという感想も抱いた。

 

「ごめんなさい。自己紹介もしないでペラペラ喋ったりして。私はシロナ。考古学者よ」

「……僕は、レイジです」

「レイジくん、ね。レイジくんも考古学に興味があるの?」

「えっと……まあ、そんなところです」

本当の事は言えず、とりあえず相槌を返す。

……それにしても、とレイジは目の前のシロナという女性を見つめる。

(シロナ……どこかで聞いた事があるような)

それにこれだけのオーラを感じ取れる事ができる人物だ、ジムリーダーどころかポケモンリーグの四天王クラスと言っても過言じゃ――

 

「あ」

「? どうかした?」

思い出した、というかこれだけの有名人を忘れる自分もどうかしてる。

彼女の正体、それは少なくともそこいらにいるような人物ではなく。

「――シンオウリーグのチャンピオン、シロナさん……」

四天王どころか、シンオウ地方での最強トレーナーだった。

 

「……あれー? どうしてわかっちゃったの?」

心底意外だったのか、目を見開いて驚きの声を上げるシロナ。

「いえ、オーキド博士が言ってましたから……」

「って事は、ナナカマド博士がベラベラと余計な事を話したのね……。

 もぅ、私は極力目立ちたくないのにどうして私の名前を周りに言いふらすのかしら……」

ぶつぶつとナナカマド博士とやらに文句を告げるシロナ。

その様子は、とてもチャンピオンには見えず普通の女性そのもの。

雲の上の存在だと思っていたが、今の彼女を見るといい意味で期待を裏切られた。

 

「……ははっ」

「むっ、どうして私を見て笑うのかなー?」

「いえ、その……チャンピオンなのに、随分普通だなって……」

「当たり前です。私だってチャンピオン以前に一人の人間なんだから」

「そうですね、すみません」

「いいのいいの。みんな私がチャンピオンだって知るとね、随分美化させて見てくるんだけど、正直そうやって見られるのは嫌なの。

 私はシロナっていう人間なんだから」

 

「……そうですよね。ごめんなさいシロナさん、不快な思いをさせてしまって」

「そんな事ないわ。……でも嬉しい、さっきの言葉といい今だって私をチャンピオンじゃなく私として見ようとしてくれているから」

「でも、シロナさんもそういう風に見られるのは嫌だって言ってましたから……」

「それでもね。チャンピオンなんて肩書きがあるとみんな私を特別扱いしてくるの。

 仕方ないのはわかってる、でも私はただポケモンが大好きでひたすら強くなろうと努力して、いつの間にかチャンピオンになってただけだから。

 特別でもなんでもない、それがわかってもらえないのはちょっと悲しいわね……」

「シロナさん……」

「でも、君みたいに私を私として見てくれる人がいるってわかったから、わざわざシンオウからカントーに来て良かった」

ニコリと、見とれてしまうような笑みを見せられ、おもわず視線を逸らしてしまう。

 

「そうだ。ねえレイジくん、この後何か予定はあるかしら?」

「いえ、別に……」

「なら、一緒にお昼ごはんでも食べない?

 せっかく出会う事ができたのだし、それに……私、なんだか君に興味が湧いたから」

「は、はあ……」

どうしようか迷ったが、特に断る理由もなかったのが、彼女の提案に頷きを返す。

すると、パァッと瞳を輝かせるシロナ。

 

「ありがとう。それじゃあ早速行きましょう!」

「わっ……」

いきなり手を引っ張られ倒れそうになるが、どうにか堪える。

(……やっぱり、変わった人だな……)

大人の雰囲気を見せながらも、行動や言動はどこか子供っぽい。

もはやチャンピオンとして見ろと言われても無理な話だ。

尤も、彼女はそんな事を望んでいるわけではないので、好都合ではあるが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――うーん」

「…………」

先程からメニューを見ながらうなり声を上げているシロナに、レイジはなんともいえない表情を浮かべるのみ。

シロナに連れられ、近くにあったレストランに足を運んだレイジ。

食事はそこそこ美味しく、カグヤに悪い事をしてしまったなと思いつつ、シロナと共に最後のデザートを決めようとしているのだが……。

(……いつまで悩んでるんだ?)

自分の注文は決まった、だがシロナはさっきからメニューとにらめっこを続けるだけで、いまだにデザート一品決める事ができないでいた。

普通の食事では割とすぐに決めたというのに、何故かデザートはなかなか決められないようだ。

なんだかますますチャンピオンとしてのイメージが崩れ、今まで自分が抱いていたチャンピオン像は何だったんだーと言えなくもないが、彼にとっては今のような彼女の方が好ましい。

 

「……ごめん。まだ決まらない」

「気にしないでください、ゆっくり決めてくれればいいですよ」

「レイジくんは優しいのね、ゴヨウやオーバには考えられないわ。私がデザートで悩んでると「早く決めろ」って煩いの」

(まあ、仕方ない感は否めないけどね……)

今までカグヤに振り回されてきたせいで、随分我慢強くなれたと思う。

 

「うーん……よし、決めた!!」

ようやく決まったようだ、ちなみにメニューを開いてから軽く一時間は経過していた。

レイジはオーソドックスにバニラアイスだが、シロナが選んだのは……とてつもなく大きなパフェだった。

「……甘いもの、好きなんですね」

「うん。だって甘いものを食べたら幸せな気持ちにならない?」

「僕にはいまいち理解できませんけど……それ、カグヤも言ってました」

「カグヤって、貴方の彼女?」

「いえ、幼なじみで一緒に旅をしてるんです。

 彼女の夢はポケモンマスターで、いつかはシロナさんを倒してチャンピオンになるそうですよ」

 

「あら、それは楽しみね。……けど、レイジくんはただの付き添い?」

「ええ、まあ」

「……なんだか勿体ないわね。貴方、トレーナーとして凄い才能を持ってるのに」

「……それ。カグヤや他の人からも言われましたけど、僕はそんなつもりなんてないんです。

 ただ色々なポケモンが見たいだけだし、それに……戦うのは嫌だから」

「……戦うのが嫌?」

ほんの少し、眉を潜めながらシロナはレイジの言葉に反応する。

 

「僕は、たとえポケモンバトルでもポケモンに傷ついてほしくないんです。だから、極力バトルはしたくない」

リオンなどは不満に思っているようだが、バトルを好まないレイジにとってその不満は解消する事はできない。

「……その考えが間違いとは言わないわ。でも……貴方、どこかバトルをポケモンを傷つける悪いものと思っていない?」

「…………」

ピクリと、シロナの言葉に反応するレイジ。

やっぱり、心の中で彼の心中に対しため息をつきながら、シロナは言葉を続けた。

 

「レイジくん、確かにポケモンバトルでポケモンは傷ついてしまうわ、それは絶対に変わったりしないし事実よ。

 でもね、バトルを通じてでしか成長できない所もあるの。勝ちたいと思う心、もっとポケモン達と仲良くなりたいという想い、それはポケモンバトルの中で確実に芽生え成長していくものよ。

 ――私もね、初めは君と同じくポケモンが傷つくポケモンバトルが嫌いだった」

その言葉に、レイジはおもわず顔を上げた。

あのシロナが、チャンピオンとして相当の実力者である彼女が、ポケモンバトルが嫌いだったなど一体誰が信じようか。

 

「でもね。みんなが心の底から戦いたいっていう思いを感じ取ってから、私は少しずつバトルを繰り返していった。

 もちろん数え切れないほど負けたりしたし、ポケモン達が傷ついたのには心を痛めた事もあった。

 それでも、前に進んだ結果――チャンピオンになっちゃったの」

いたずらっぽく笑うシロナに、レイジは何も言えなくなった。

……自分は、ただ前を見ずに逃げていただけだったのだろうか。

ポケモンバトルを悪と決めつけ、目を背けていただけなのだろうか。

そう思っていると、突然腰のモンスターボールからティナ達が姿を現す。

 

〈パパ、ティナ達はバトルするの楽しいよ。

 それにバトルしてるパパ、すっごくかっこいいし、一緒に戦えるのも凄く嬉しい〉

「ティナ……」

自分達も同じ気持ちだと、リオンとヒカリも彼にそう伝える。

……傷つくのは嫌だ、でも傷つかなければ得られないものもある。

「……ありがとう、みんな」

〈うぅん。ティナ達の方こそありがとうだよ。優しいパパの傍に居させてくれて、ありがとう〉

ニッコリと笑顔になるティナの頭を優しく撫でる。

すると、自分達も撫でてくれとリオンとヒカリも彼に詰め寄ってきた。

 

「ふふっ、本当にポケモンに好かれているのね。

 それにそのラルトス……貴方の言った通り普通のラルトスよりずっと強いわ。将来、とても強くなれるわね」

〈むっ、ティナはもう強いもん!〉

「ふふっ、ごめんなさい」

怒るティナに、笑いながら謝りレイジと同じように頭を撫でるシロナ。

「ポケモンと会話する能力を持つ子供がいる。ナナカマド博士から聞いた時は半信半疑だったけど、まさかそれがレイジくんだったなんて……」

「…………」

「レイジくん、貴方のその力はとても尊いものよ。これからも大事にした方がいいわ」

「はい、わかってます」

その時、店員が2人のデザートを持ってきてくれた。

先程までの真剣な表情は消え、再び子供のように瞳を輝かせるシロナ。

 

(どれだけ甘いものが好きなんだろう……)

いやしかし、カグヤも今のシロナと同じような状態になった時もあった。

……女の人というのは総じてこうなのか。

「〜〜〜〜っ、美味しい!! ねぇ、レイジくんも食べてみる?」

チョコアイスを掬い、レイジの口元にまで運ぶシロナ。

しかし、これでは彼女との間接キスに……。

 

「どうしたの?」

「……いえ」

邪な事を考えた自分が恥ずかしくなった。

内心自己嫌悪に陥りつつも、おとなしく彼女から 差し出されたアイスを口に運ぶ。

「どう?」

「……甘いです」

「まあアイスだからね」

言いながら、次々とパフェを口に運んでいくシロナ。

 

(あぁ……口元にクリームが)

食べ方も子供っぽい彼女に呆れながらも、紙ナプキンを取り出し彼女の口へ。

「……レイジくん?」

「えっ、あ……」

そこでようやく、自分のしている事に気づき慌ててシロナから離れる。

(な、何をしてるんだ僕は……カグヤのが癖になって……)

「……こんな事されたのは、初めてね。――ちょっと、嬉しかったかも」

「えっ?」

「っ、い、いいえ……なんでもないから気にしないで」

「はあ……」

気にしないでと言われれば余計に気になるが、訊くのは野暮だろうと思いやめた。

 

「そ、そうだレイジくん。戦う意志も芽生えたみたいだし、記念に私とバトルしてみない?」

「無理です」

0コンマ一秒による即答、おもわず見事と言ってしまいそうなほど早かった。

だがしかし、レイジの気持ちもわからないでもない。

何せ相手はシンオウ最強のトレーナーだ、最近ポケモントレーナーになった自分が戦ったところで、無意味に決まって……。

「…………」

そこまで考えて、シロナの言葉を思い出した。

 

――バトルを通じてでしか成長できない所がある。

 

そうだ、勝ち負けなど関係なしに、彼女とのバトルは必ず意味のあるものに変わるはず。

「……わかりました、お願いします」

「……そう。じゃあさっそく……と言いたい所だけど」

「………?」

「パフェ、食べてからでもいい?」

「………………どうぞ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

しっかりとパフェを食べ終え、外に出るレイジとシロナ。

「使用ポケモンは一体ずつ、それ以外は特に制限は無しよ」

「はい」

「私はこのポケモンを出すわ。――行きなさい、ガブリアス!!」

「――ガブァァァァッ!!!」

高らかと投げられたボールから飛び出したのは、マッハポケモンであるガブリアス。

 

「っ」

対峙するだけでもわかる、凄まじいまでの力とプレッシャー。

「……これが、シロナさんの切り札ですか?」

「ええ。貴方相手に手に抜きたくないから」

(もしかして、シロナさんっていじめっ子?)

初心者トレーナーである自分に対して切り札を出すなど、鬼畜にもほどがある。

まあ、今更あーだこーだ言っても仕方がないのだが。

 

「ティナ」

(うん)

名を呼んだだけでレイジの意志を理解したのか、ティナが地面に降りガブリアスと対峙する。

勝負は戦う前から着いている、ティナではたとえ何が起ころうともガブリアスには勝てない。

だが、このバトルは勝つのが目的ではなく、いわばバトルに対して間違った解釈をしていた自分と決別するため。

そして、彼女との戦いで何かを得るために戦うのだ。

「……いい目ね。貴方とのバトル、早く始めたくてウズウズしてきたわ」

〈……勝てないまでも、ダメージは与えてみせる!!〉

そう宣言し、ティナは懐から何か石のようなものを取り出し投げ捨てる。

その石を見て、レイジは驚愕の声を上げた。

 

「それは――“かわらずのいし”!?」

ポケモンの進化を止める不思議な石である『かわらずのいし』。

〈ごめんねパパ、実はずっと前から持ってたの。

 パパは戦いを望まなかったから、この姿のままでいいと思ってた、けど……このままじゃ何もできずに負けちゃうから〉

ティナの身体が白い光に包まれていく。

 

――それは、“進化”が始まった兆候である。

 

やがて光が収まり、ティナはラルトスからキルリアへと進化を遂げていた。

「ティナ……」

〈お父さん、これならいい勝負ができるはずだよ。新しい私で、精一杯頑張ろう!!〉

「うん、行くよティナ!!」

〈はい!!〉

「いいわ……おもいっきりぶつかってきなさい!!」

「グルルル………グオォォォォッ!!!」

シロナの声に応えるかのように、ガブリアスもけたたましい雄叫びを上げレイジ達を迎え入れた。

 

「ティナ、シャドーボールだ!!」

両手を合わせ、漆黒の光弾をガブリアスに向けて撃ち放つ。

しかしガブリアスはその場から一歩も動かず、シャドーボールは迷う事なく命中した。

〈避けない……?〉

「――いや、避ける必要がないだけだ」

レイジの呟くような言葉は、すぐさま現実のものとなる。

 

〈そんな……!?〉

ティナのシャドーボールは確かに命中した。

だが――その攻撃はガブリアスにダメージを与える事ができなかったのだ。

(強い、なんてものじゃない……!)

ケタが違う、まさしくその言葉が一番合っているだろう。

それほどまでに、実力差は明白だった。

「ガブリアス、かえんほうしゃ」

「グルアァァァッ!!!」

雄叫びを上げ、ガブリアスはその逞しい脚を地面に叩きつける。

 

「っ、上に跳んで!!」

レイジの命に応え上に跳んでかえんほうしゃを回避するティナ。

だが、これで完全にガブリアスに対して無防備になる―――!

 

「はかいこうせん」

「グオォォォォォンッ!!!」

ガブリアスの口から放たれるはかいこうせん。

協力無比なこの攻撃を、ティナは避ける事ができずに……。

「サイコキネシスではかいこうせんを曲げて!!」

〈くっ………!!〉

ガブリアスのはかいこうせんをあらぬ方向に無理矢理ねじ曲げる事で回避した。

(……素晴らしい!!)

 

トレーナーの命令もだが、なによりあのキルリアの力が凄い。

まさかガブリアスのはかいこうせんを曲げるほどのサイコパワーを持ち合わせているなど、楽しくて楽しくて仕方がない。

凄まじい強さ故に、今まで彼女に対して多くの挑戦者がやってきたが、心踊るような戦いはできなかった。

しかし、目の前の少年は違う。自分が心から楽しめる戦いを繰り広げてくれる。

そしてなにより嬉しかったのは――自分をチャンピオンシロナとしてではなく、ただのポケモントレーナーシロナとして戦ってくれている事がなによりも……。

 

「ティナ、れいとうパンチだ!!」

真っ正面からティナが向かってくる。

「――ガブリアス、“後ろに”ドラゴンクロー」

「なっ………!!?」

真っ正面から相手が向かってくるというのに、シロナは後ろに技を仕掛けろと命じた。

一見すると理解不能な行為だが――シロナにはわかっていたのだ。

 

「ティナ!!」

前から来るティナはかげぶんしんの一つで、後ろから奇襲を仕掛けてきたのが本物だという事に。

〈きゃあぁぁぁぁっ!!?〉

まともにドラゴンクローを受け、地面に転がり続けるティナ。

「ティナ、もう―――――っ」

もういい、そんな言葉が喉元までせり上がり……すぐに飲み込んだ。

違う、こんな言葉など彼女は望まない、彼女が望む言葉はこうだ。

 

「――頑張れティナ、まだやれるはずだ!!」

〈……う、う、ん……〉

たったの一撃でティナの身体には大きなダメージが負わされている。

次に攻撃を受ければ、間違いなくそこで終わりだ。

しかし、まだ立ち上がれる以上は諦めない。

 

「ガブリアス、トドメのドラゴンクローよ」

「グオォォォォオ!!!」

決着をつけようと、ガブリアスがこちらへと向かってくる。

(足止めをしないと、懐には入れない……でも、どうやって……?)

考えがまとまらない中、ガブリアスは容赦なくレイジ達に向かってくる。

おもわずティナをボールに戻そうとした瞬間、レイジは無我夢中で叫んだ。

 

「ティナ、“地面に”れいとうパンチだ!!」

「え?」

地面に叩きつけられるティナのれいとうパンチ。

それは瞬く間に彼女の周りの地面を凍らせ、それに飽きたらずまるで氷の蔦のようにガブリアスに向かっていく。

「ガブリアス、かえんほうしゃ」

再び先程のように炎を吐き出し、迫りくる氷の蔦を溶かす。

「シャドーボール!!」

その隙を突き、ガブリアスの右脚にシャドーボールが命中。

しかし意味はなく、ガブリアスにダメージを与える所か傷一つ――

 

「消えた!!?」

シャドーボールを放ったはずのティナの姿が見えない。

「ティナ――」

「甘いわね。ガブリアス、後ろにりゅうのいぶき」

しかし、そんな奇襲などシロナには通じない。

すぐさまティナの居場所を見つけ出し、今度こそ終わりにしようと。

 

「フルパワーでふぶきだぁっ!!!」

「なっ―――」

避けなさい、その命中がガブリアスに届くよりティナの攻撃の方が速い!!

〈いっけえぇぇぇっ!!!!〉

凄まじい氷の礫がガブリアスを襲いかかる―――!

 

「ガブリアス!!」

「っ、このまま押し切れ!!」

〈くぅぅぅぅ………!〉

これを逃せばもう終わりだ、ティナに力など残されていない。

だが、このまま行けばきっと――

 

「――げきりん」

 

「え――」

勝てる、そんな思考など瞬時に消え去った。

……何が起きたのか、わからない。

だが、ふぶきをまともに受けているはずのガブリアスの身体が光ったと思った瞬間、ティナの身体は吹き飛ばされ……。

この勝負に、幕が降ろされたという事を理解させられた。

 

………。

 

「ティナ……」

〈……負けちゃった〉

本当に悔しそうに、ティナは唇を尖らせる。

(……悔しい)

生まれて初めてだ、こんなに悔しいと思ったのは。

勝てるわけがないとは思っていた、それは今だって変わらない。

だがそれでも、この勝負に負けて本当に悔しい。

 

「――驚いたわ。まさかふぶきを使えるなんて……。

 それに、シャドーボールにれいとうパンチ……本当にキルリアと戦っていたのかと思ってしまったわ」

少し傷ついたガブリアスの身体を優しく撫でながら、シロナはレイジの元へ。

「楽しい勝負をありがとう、こんなにワクワクしたバトルは本当に久しぶりだった」

「シロナさん……」

「やっぱり貴方は素晴らしいトレーナーよ、きっといつか……そう遠くない未来、チャンピオンにだってなれるくらい」

「……チャンピオン」

そんな目標など、必要ないと思っていた。

 

――でも、今は。

もう一度、シロナと戦いたいと思っている。

そして勝ちたいと、心が叫んでいる。

 

「――シロナさん」

「何かしら?」

「今度は、必ず勝ちます。もっともっと強くなって……必ず貴方に、勝ってみせます!!」

それは、初めて彼が感情を爆発させた瞬間だった。

必ず勝つと、次は絶対に負けないという意志を持って、シロナに告げた。

 

「……ええ。私は待ってるわ、貴方が今よりももっと強くなって、私の所にまで辿り着く時を」

それを、優しい笑みで受け入れて、シロナはレイジを優しく抱きしめた。

「シロナさん……?」

「ふふっ……本当にカントーへ来て良かった。貴方のような素晴らしいトレーナーに出会えたから……」

やがて身体を離し、ガブリアスの身体に乗るシロナ。

 

「それじゃあまたどこかで会いましょう、レイジくん」

「はい」

「……次にまたどこかであったら、またアイスを食べに行きましょうね?」

「はい、約束です」

約束よ、そう言い残しシロナはガブリアスと共に飛び立ち……やがて姿が見えなくなった。

 

〈……凄かったね〉

「うん。やっぱりチャンピオンは伊達じゃないよ。それはそうとティナ……君が進化しなかったのはかわらずのいしを持っていたからだったんだね」

〈ごめんなさい、隠すつもりはなかったんだけど……〉

「別に怒ってるわけじゃないよ、ちょっと驚いただけだから。それじゃあ、センターに戻ろうか?」

〈うん!!〉

一度、シロナの飛び立っていった場所を見上げる。

(……次は、負けません)

自分でも随分と恐れ多い事を考えているな、そう思いつつ。

傷ついたティナを抱きかかえ、レイジはポケモンセンターへと向かったのだった。

 

 

 

その後、カグヤに今日は何をしていたのか訊かれ、正直に話すと大層驚かれたり、2人で食事をした事を話して彼女が不機嫌になったりしたのは、また別の話……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




本来覚えない筈の「ふぶき」をキルリアになったティナは使っていますが、これは当時ふぶきを覚えない事を忘れていた為に起きたミスです。
しかも当時の私はそれに気づくのに遅れてしまいかなり話を進めた後に知ったので、このままにしてしまったためこの作品のキルリア(ティナのみ)はふぶきが使えます、ご了承ください。

それとガブリアスの攻撃を受けても立ち上がってますが、私が書くポケモン作品に出てくるポケモン達の耐久度は異常なので、これがデフォルトです。
こちらもご了承ください、あんまりにも呆気なくバタバタ倒れてしまうのは味気ないと思った故の措置なので……。

※キャラクター2【レイジ】の項目を更新しました。
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