ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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ハナダシティで出会ったトレーナー、カイリとヒメカ。
この2人と共に旅を続ける事に決めたレイジとカグヤは、ジムバッジを手に入れるためにハナダジムへと向かったのだった。


第8話 〜バッジ争奪、水面下のダブルバトル!〜

『たのもー!』

ハナダシティのジム内で、元気な男女の声が響き渡る。

「……これは恒例なんだね」

「そうみたいね……」

そんな声に律儀にツッコミを入れるレイジとヒメカ。

 

「あら、挑戦者みたいだけど……今日はずいぶんと多いわね」

声を聞き、奥から1人の少女が現れた。

オレンジの髪に、何故か水着姿の少女に面食らってしまった。

「あのー、どうして水着姿なんですか? ファンサービス?」

(ファンサービスって……)

(相変わらず、何を考えてるのかよくわからないわね……カグヤって)

 

「あのねぇ……そんなわけないでしょうが。

 このジムにはプールがあるの、それに私は水ポケモンといつでも一緒に居られるようにこの姿なのよ」

「えっ……外出する時も?」

またもピントのずれたカグヤの言葉に、少女は今度こそその場でコケた。

ダメだ、このままこの娘御を放っておいたら話が進まない。

 

「すみません。この子の言っている事は気にしないでください」

「えー、どうしてそんな事言うのよー」

「いいから、カグヤはちょっと下がってなさい」

力ずくでカグヤを後ろに追いやるヒメカ。

「僕達全員挑戦したいんですけど、もし無理なら日を改めますが……」

「大丈夫よ。たった4人なら相手できるわ。

 もちろん二回に分けてもらわないとさすがに無理だけどね」

「二回って……もしかして、ダブルバトル?」

「そうよ。私は1人で二体のポケモンを使ってあなた達は一体ずつ使ってのダブルバトル。

 もちろんあなた達のどちらか1人が勝てば両者にバッジを渡すわ」

「……そんなルールがあるなんて」

「どのジムでもその方法で挑戦する事はできるみたいだよ。

 年々ポケモンリーグを目指すトレーナーが増えているから、連盟の方で新しくそう決めたらしい」

「お前物知りだな」

「……まあ、これでもポケモンリーグを目指してるトレーナーだからね」

むしろ、それを知らないのにポケモンリーグを目指しているという方がおかしい。

尤も、レイジも内心ではそんなルールが本当にあるのか半信半疑だったので、あまり強くは言えないのだが。

 

「よっしゃ、じゃあさっそくバトルだ!!」

「元気のいい挑戦者ね、いいわ……ついてきなさい」

言われた通り、少女についていくレイジ達。

「あっ、そういえば自己紹介もしてなかったわね。私はカスミ、このハナダジムのジムリーダーよ」

「へぇ、俺達より年下なのにジムリーダーなんて凄いんだな」

「歳は関係ないわ。私より年下でも凄いトレーナーはいるもの」

少女――カスミの言う通り、トレーナーに年齢は関係ない。

事実、この少女からもシロナほどではないものの強いオーラを感じる。

たとえ自信があり相性の上でも有利だとしても、こちらが勝つ事ができるかどうかはわからないだろう。

 

………。

 

「すっげぇ……」

「これが、ハナダジムのバトルフィールド……」

ぽつりと呟くヒメカの声にも、確かな驚きの色が混じっている。

ハナダジムのバトルフィールド、それは水が張られたプールだった。

水面の上にはいくつもの足場が浮かんでおり、どうやら水ポケモン以外はあそこで戦うしかないようだ。

 

「使用ポケモンは一体、私は1人だから二体使うわ。 それで、誰から来るの?」

「もちろん私とレイジのコンビから!!」

「何言ってんだ。俺とヒメカが先に決まってるだろ!!」

(どっちからでもいいじゃないか……)

別に相手は逃げないし時間はあるのだ、ちゃんと挑戦を受けてくれるのだからそんなにがっつかなくてもいいと思うのだが……。

しかし、この2人に正論など通じない。

 

「じゃあ、ジャンケンで決めればいいじゃない」

そんな中、ヒメカが助け舟を出す。

 

「よーし……」

「負けないんだから……」

まるで負けられない戦いだとでも言うように、闘志を燃やす2人。

そんな彼女達にため息をつきつつ、レイジとヒメカは事の成り行きを見つめる。

そして……。

 

「――よっしゃぁぁっ!!!」

「ガーン……ま、負けた」

カイリは飛び跳ねるくらい喜び、カグヤはこの世の終わりのような表情を浮かべ膝をつく。

(そんなに?)

(まったく、見てて恥ずかしくなるわね……)

「決まったの?」

「ああ。俺とヒメカのコンビからいかせてもらう!!」

立ち位置に移動し、モンスターボールを構えるカイリとヒメカ。

ウズウズした様子のカイリとは違い、ヒメカは冷静な表情を浮かべている。

対照的な2人だが、何故かそれが自然なように見えた。

……自分とカグヤも第三者から見たらそんな風に見えるのだろうか。

 

「じゃあ……そろそろ始めましょうか」

「…………」

場の空気が変わる。

ジムリーダーとしての顔に変わったカスミに、カイリの表情も引き締まった。

「……レイジ、カイリ達勝てるかな?」

「さて、ね……」

「あれー、冷めた反応だね」

「どうなるかわからないからね、どっちが勝ってもおかしくない。けど――きっと勝てるさ」

根拠はない、けれど勝ってほしいという願いがそんな言葉を放ってしまう。

だが、その願いは本物だ。

 

「……そだね」

そんなレイジに、カグヤも笑みを浮かべる。

「ツタージャ!!」

「ハク、お願い!!」

カイリは草タイプのツタージャを、そしてヒメカは……。

「あれ、ハクリュー?」

ドラゴンタイプのハクリューを、フィールドに出すヒメカ。

(……強いな。あのハクリュー)

あれがヒメカの切り札だろうか。

 

〈――お父さん〉

「っ、ティナ?」

突然勝手にモンスターボールから飛び出すティナ。

〈お父さん、昨日感じた力を……また感じるよ〉

「……昨日の力?」

〈お父さんも感じたあの力だよ。昨日よりはっきり感じられる、でも……〉

「…………」

そこでようやく、レイジも昨日感じた違和感が再び表に出ている事に気が付いた。

それだけではない、何故かその違和感を――カイリから感じ取れた。

 

(カイリ……?)

〈――お父さんと似てる力をカイリから感じられる〉

「…………」

「……レイジ、どうしたの?」

様子のおかしいレイジに、心配そうな表情を浮かべるカグヤ。

だがレイジはすぐさまなんでもない、と返事を返し、カイリへと視線を向けた。

(なんだ、この感覚……カイリ、君は――)

 

「ツタージャ、スターミーにつるのムチ!!」

「スターミー、水中に潜って避けなさい。

 マリルリ、ハクリューにバブルこうせん!!」

ツタージャの攻撃をスターミーは水中に潜る事によって回避し、同時にカスミはマリルリに攻撃を命じる。

「ハク、アクアテール!」

しかしそんな程度ではやられない、ハクのアクアテールが迫るバブルこうせんをすべて叩き落とした。

 

「凄い……一度に二体のポケモンの戦況を把握して命令が出せるなんて」

だが、ジムリーダーならばそれくらいの芸当は充分に可能だ。

しかし――戦況はカスミが有利だ。

なんといっても水ポケモンに対して有利な水中のフィールドで戦っているのだ、ハクはともかくツタージャでは水中に攻撃を仕掛ける事など――

「ハク、水中にかみなりよ!!」

「っ、スターミー、出てきなさい!!」

水中に落ちるハクのかみなり。

しかし間一髪、スターミーは水中から飛び出し難を逃れるが……。

 

「グラスミキサー!!」

既に攻撃を仕掛けていたツタージャによって、カスミのすぐ傍にまで吹き飛ばされた。

「ハク、はかいこうせんよ!!」

「マリルリ、まもる!」

トドメとばかりに発射されたハクのはかいこうせんは、まっすぐスターミーへと向かっていくが、それをマリルリがまもるによって防御する。

「もらったぜ。ツタージャ、マリルリにつるのムチだ!!」

マリルリはまもるの動作が終わって隙だらけになっている。

狙うなら今だとカイリとツタージャは攻撃を仕掛けた。

 

「スターミー、こうそくスピン!!」

「え―――」

いつの間にマリルリの傍に居たのか、スターミーのこうそくスピンによってつるのムチが弾かれる。

「バカ、逃げなさいカイリ!!」

ハクは反動で動けず、そしてツタージャはつるのムチが弾かれた事によって隙が生まれ――

「スターミー、マリルリ、ツタージャにれいとうビームよ!!」

絶好の好機を逃すことなく、スターミーとマリルリのれいとうビームがツタージャに迫る―――!

 

「―――――」

やられた、それはこの場にいる誰もが考えた未来だった。

避ける事はできず、あのままツタージャはれいとうビームを受けて戦闘不能に………。

 

『っ』

瞬間、レイジとティナは同時に息を呑んだ。

 

(これ、は……!?)

ぐにゃりと、空間そのもの。

否、時そのものがねじ曲がったかのような不快感。

それが、この場を支配していた。

 

「――ツタージャ、そのまま水の中に入れ。

 3秒後に右斜めにつるのムチを使ってれいとうビームに作られた氷の塊を使って足場に戻って、マリルリにグラスミキサー。

 スターミーがこうそくスピンを使ったら踏み込んでリーフブレードを叩き込め」

無機質な声が、カイリの口から放たれる。

瞬間、時が戻ったかのように不思議な感覚が消え去る。

「嘘っ!!?」

隣から響くカグヤの驚愕に満ちた声。

それを聞き慌てて視線をフィールドに向けると。

ツタージャが、自分から水中に落ち間一髪でれいとうビームを回避した光景が。

 

「―――――」

思考が、凍りついた。

空振りしたれいとうビームは水中に当たり、水を凍らせあっという間に氷の塊を作っていく。

続いて上がる水しぶき、ツタージャが水中から飛び出したのだ。

 

――つるのムチで氷の塊を壁蹴りの要領で足場にしながら

 

着地し、放つ技はグラスミキサー。

それをスターミーはこうそくスピンで弾き飛ばす。

 

「――踏み込む」

その呟きと、ツタージャがスターミー達に向けて走り出したのはほぼ同時だった。

「っ、マリルリ――」

慌ててマリルリに命令しようとしたカスミだが、時既に遅く。

ツタージャのリーフブレードが、マリルリに見事命中しそして……。

「ハク、まとめてかみなりよ!!!」

反動が消えたハクのかみなりが、スターミーとマリルリに叩き込まれた。

 

………。

 

「…………」

終わった。

ハクのかみなり、そしてツタージャのリーフブレードによってマリルリは戦闘不能。

スターミーはまだ動けるようだが、これ以上戦う事はできないだろう。

「…………」

しかし、喜び飛び跳ねるとばかり思っていたのに、カイリは息を吐きながらその場に座り込んだ。

 

「あれ? なんだか様子がおかしいね……」

すぐさま立ち上がり、急いでカイリの元へ急ぐレイジ。

着いた頃には、既にヒメカがカイリの身体を支えてくれていた。

「ちょっと、大丈夫?」

「あはは……ちょっと疲れただけだよ」

曖昧な笑みを浮かべるカイリ。

違う、疲れている事は間違いないが、その理由は……。

 

「ならいいけど……そうだ、私に勝利したんだからこれを渡さないとね」

そう言いながら、カスミはカイリとヒメカにブルーバッジを手渡す。

「ありがとう」

「……サンキュー」

「しかしまさかあんな戦法を使ってくるなんてね……見かけによらず凄いじゃない」

「はは、まあね……」

「……ちょっと、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。それよか次はお前達の番だぜ……レイジ、カグヤ」

「…………」

「俺達が勝ったんだから、引き分けたお前達が負けんじゃねーぞ?」

「……うん」

頷きを返し、ティナをボールに戻しながら視線をカグヤへと向ける。

すると彼女もレイジの心中を察したのか、すぐさまこちらへと来てくれた。

 

「そんじゃ、俺達は応援席で見させてもらうぜ」

「しっかり休んだ方がいいと思うけど……」

見た目からして、相当疲れているようだ。

……それが何を意味するのか、正直わからないが。

「大丈夫だって。これでも結構鍛えてんだ。それより、今は自分達の事を考えろよ」

「………わかった」

正直、今すぐにでも問いただしてやりたい事はある。

だがこの問い掛けはあまり他人に聞かれるわけにはいかないと無意識のうちに思ったし、今はカイリの言う通りジム戦に集中しなければ。

そう思い、レイジは彼から背を向け立ち位置へと移動する。

 

「次はえっと……レイジにカグヤだっけ?」

「そうだよー」

「ジムリーダーとして二連敗っていうのは屈辱だからね。絶対に負けないんだから!!」

「…………」

先程の違和感は既に存在しない。

だが、この胸を占める不快感と懐かしさを混ぜたような不思議な感覚が消えてくれない。

 

「レイジ?」

「……大丈夫」

心配そうなカグヤに一言返し、ボールを構える。

……ちゃんと集中するんだ。

無理矢理思考を切り替えて、レイジはカスミに対峙するのだった。

 

「チコリータ、レディーゴー!!!」

「ヒカリ、お願い!!」

「ギャラドス、ミロカロス、出てきなさい!!」

「ええっ!?」

カスミが出したポケモンに、カグヤだけでなく観客席に居るカイリも大声を張り上げた。

 

「うそ……さっきの二体とはえらい違いじゃない!」

「私のとっておきよ、特にこのミロカロスはね」

「…………」

なるほど、すなわち彼女は本当の意味で本気を出すらしい。

こんな事なら先に戦えばよかった、そんな考えが頭によぎったが、今更だ。

 

「カグヤ、協力して戦えばきっと勝てる」

「う、うん……でも、私がレイジの足を引っ張るかも……」

「何言ってるのさ。いつものカグヤらしくないよ。

 突撃思考でなんとかなる、それが君の戦い方じゃなかった?」

信じている、言葉には出さずそんな視線を送るレイジ。

「――うん!!」

それだけで、カグヤの中から不安が全て消え去ってくれた。

 

「チコリータ、ミロカロスにはっぱカッター!」

「10万ボルトだ!!」

「ギャラドス、ハイドロポンプ!! ミロカロス、たつまき!!」

「チーーーッコ!!!」

「ピーカチュウゥゥゥゥッ!!!」

「グオォォォォォォォッ!!!」

「ミロオオォォォォッ!!!」

チコリータのはっぱカッターはギャラドスのハイドロポンプに。

ヒカリの10万ボルトはミロカロスのたつまきによって相殺される。

 

「なら……マジカルリーフ!!」

「ヒカリ、でんげきはだ!!」

絶対命中技のでんげきはとマジカルリーフがギャラドス達に襲いかかる。

避けられない、しかし。

「はかいこうせんよ!!」

「っ、水の中に逃げろ!」

無我夢中で叫び、いち早く反応したヒカリがチコリータごと水中へと潜る。

瞬間――ギャラドスとミロカロスのはかいこうせんが足場を焼き尽くした。

 

「ミロカロス、水の中に逃げたピカチュウ達を追って」

「くっ……」

水中の中では完全に不利だ、このまま中に居続けるのは拙い。

だが、この状況では逃げる事すら……。

「っ、カグヤ、チコリータ、ごめん!!」

「えっ……?」

突然の謝罪の言葉に、カグヤは面食らうが……すぐに彼の心中を理解し、水中から顔を出したチコリータに命令を告げた。

 

「ひかりのかべ!!」

「は―――?」

「レイジ、お願い!!」

「カグヤ……ありがとう! ヒカリ、“その場”でかみなりだ!!」

「なっ、ヤバ―――!?」

カスミもレイジの意図に気づいたようだが、もう遅い。

「ピカ……チャァァァァァッ!!!!」

叫び声に近い声を上げ、フルパワーでフィールド全体に走るヒカリのかみなり。

それは四体全てにダメージを与えるが――ヒカリとチコリータはいち早く離脱し再び足場へと飛び乗った。

対するギャラドスとミロカロスは苦しそうな声を上げている。

 

「ひぇー……むちゃくちゃすんなレイジの奴。

 まさか自分達ごとかみなりでギャラドス達に攻撃するなんて」

試合を観戦しているカイリがげんなりした表情でそう呟くが、ヒメカは興味深そうに試合を見つめていた。

「でもあのまま水中にいたらミロカロスによって全滅させられてたわ。

 それに、チコリータのひかりのかべがヒカリ達のダメージを最小限にしたようだし、おそらく向こうと違ってダメージはほとんどないでしょうね」

しかし、真に驚いたのはカグヤの機転の早さだ。

おそらくレイジもあの命令は、一か八かの賭けだったのだろう。

しかしカグヤが彼の心中を察したからこそ、一か八かの賭けは成功したばかりかチャンスへと繋げられた。

 

――あの2人のコンビネーションは素晴らしいの一言では表現できない。

 

カグヤはレイジに対して揺るぎない信頼を寄せ、またレイジも同様にカグヤを信頼しているからこそ、あんな事が可能なのだ。

ふと、彼女が昨日言っていた事を思い出した。

 

『私っていつもレイジに迷惑掛けてるから、せめて役に立てる時は自分の全てを懸けてレイジを助けたいって思ってる』

 

(……なんだか、少しだけ羨ましいわね)

彼女のように素直になれる人というのは、素晴らしい事だと思う。

(私も、今より少しだけ素直になれたら……)

チラリと、子供みたいな無邪気な瞳で試合を観戦し応援しているカイリに視線を送る。

いつもの彼に、ヒメカは自分でも気づかない内に口元に笑みを浮かばせていたのだった。

 

「っ、まだよ!! ギャラドス、かみつく攻撃!!」

かみつくどころか丸呑みしてしまいそうな勢いで、ヒカリ達に向かっていくギャラドス。

しかし身構えるヒカリとは違い、チコリータはギャラドスを見据えるだけで一歩も動こうとしない。

「ヒカリ、でんこうせっかでギャラドスに飛び乗って!!」

ギャラドスが足場に到達しようとした瞬間、凄まじいスピードでヒカリはギャラドスの頭の上に移動した。

しかし、まだ下にはチコリータが残って――

 

「ソーラービーム!!」

光を撒き散らしながら、チコリータから発射されるソーラービーム。

それはギャラドスの顔に命中し、顔をしかめながらおもわずのた打ち回る。

「ミロカロス、りゅうのはどうでチコリータを攻撃して!!」

「くっ……!!」

フォローに回りたいが、まだギャラドスへの攻撃が終わっていない。

しかし、ソーラービームを放った事で限界を迎えたのか、チコリータはその場から動けなくなっていた。

 

「ヒカリ、すぐにチコリータを――」

「待って、レイジ」

「っ、カグヤ!?」

助けようと命令しようとするが、他ならぬカグヤによって止められてしまった。

「チコリータはまだ戦ってる、勝つために諦めようとしてないの。

 だからレイジとヒカリは自分達のやるべき事を集中して!!」

「……………」

力強い眼差しに、何も言えなくなった。

……自分を信じてくれているのだ、彼女もチコリータも。

なら、ここで助けるなどという選択肢などそもそも選択の中に入るわけがない―――!

 

「ヒカリ、10万ボルトだ!!」

「チコリータ、最後まで諦めないで!! フルパワーでエナジーボール!」

ヒカリの10万ボルトはギャラドスの全身に行き渡り――戦闘不能へと追いやった。

だが、次の瞬間――エナジーボールを破られたチコリータが……。

「チコリータ!!」

全身を傷だらけにしながら、フィールドの水中へと落ちていった。

「戻って!!」

すぐさまモンスターボールでチコリータを戻すカグヤ。

慈しむようにボールを撫で、よく頑張ったねと労いの言葉を贈った。

 

――これで、残るはヒカリとミロカロスのみ。

 

だが、ヒカリは既に限界に近い。

既にフルパワーのかみなりと10万ボルトを数発放ったのだ、良くて大技が一回程度。

しかし、相手のミロカロスとてそれは同じ、後は気力の勝負だ。

「…………」

だが、そんな事レイジにとってどうでもよかった。

そしてヒカリにとっても、自分がボロボロであろうが相手がボロボロであろうがどうだってよかった。

ただ勝利する、その一心だけで戦いに望む。

自分達に道を作ってくれた、カグヤ達の為にも。

 

「この勝負は――負けられない!!!」

「――ピッカァッ!!!」

(っ、まだ戦えるの?)

もうミロカロスは限界だというのに、ヒカリには体力や気力以外の何かが助けになっている。

「ミロカロス、れいとうビーム!!」

「右の足場に避けろ!!」

言われた通り、れいとうビームを右の足場にジャンプして回避するヒカリ。

そして――レイジは誰もが驚く命令をヒカリに告げた。

 

「ヒカリ、“自分に”かみなりだ!!!」

『なっ!!?』

その場にいる全員が、レイジの言葉に目を見開いて驚く。

しかしヒカリはその命令に少しの疑念も抱かず、自分に対して特大のかみなりを落とした。

眩い光に包まれるヒカリ、だがこれは最大のチャンスだ。

レイジの意図は不明だが、ここでこちらも最大の技でヒカリを倒す。

 

「ミロカロス、トドメのはかいこうせん!!」

最後の力を振り絞り、先程よりも更に巨大なはかいこうせんを発射するミロカロス。

 

――瞬間、レイジとヒカリは己の勝利を確信しそして…ヒカリへ最後の技を繰り出すよう命令を告げた。

 

 

「ヒカリ――――ボルテッカーだぁぁぁっ!!!」

「―――――」

息を呑む音が、すぐ隣から聞こえた。

「ピカーーーーッ!!」

かみなりのエネルギーを吸収したことによって、全身が黄金色に輝くヒカリ。

そのまま、疾風のごとし勢いで“水面”を走っていく。

そして……ミロカロスのはかいこうせんから真っ向からぶつかり合う!!

 

「なっ!!?」

驚きは、カスミの口から放たれる。

ミロカロスのはかいこうせんがヒカリに命中した瞬間――ボルテッカー状態のヒカリがはかいこうせんを文字通り弾いていくのだ。

いくら弱って威力が低くなったとはいえ、はかいこうせんを弾くなど自分は夢を見ているのではないかと錯覚させられた。

「ピカ……チュウゥゥゥゥゥゥッ!!!」

裂帛の気合いを込めた叫び声。

瞬間、ボルテッカーがはかいこうせんを完全に弾き飛ばした。

そのままヒカリは勢いを止める事なくミロカロスへと向かい。

凄まじい電気エネルギーの塊を、ミロカロスへと叩きつけ……この勝負の幕を降ろした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『……………』

誰もが、暫く何も口にする事も動く事もできなかった。

ただわかる事は、この勝負――レイジ達が勝利したということ。

「っ、ヒカリ!!!」

突然上着を脱ぎ、水の中へと飛び込んでいくレイジ。

「っ、ちょ、レイジ!?」

 

それにいち早く気づいたカグヤが反応するが、レイジは凄まじいスピードでヒカリの元へと向かっていく。

ヒカリの状態を見て、ようやくレイジの行動の意味を理解した。

全ての力を出し切った挙げ句、ボルテッカーという強力すぎる大技を繰り出したのだ。

その結果、ヒカリはその場で倒れピクリとも反応していない。

 

「っは、ヒカリ!!」

足場に乗り、ヒカリを抱き起こす。

「………ごめん。ごめんねヒカリ」

ボロボロのヒカリを目の辺りにして、レイジは悲痛な表情を浮かべる。

やはりボルテッカーを使うには早すぎた、自分の力だけでは展開できないので、かみなりを自分に当てる事で不足分を補ったが……今のヒカリにはあまりにも無茶な大技だったのだ。

「っ、くっ……!!」

ヒカリをボールに戻し、急いで陸地へと着地するレイジ。

そして、そのままジムの外へと一直線に走っていってしまった。

 

「えっ、おい!! バッジはいいのかよ!?」

「そんな事言ってる場合じゃないよ!! 私達もレイジを追わないと!!」

そうカイリに告げ、カグヤもジムから出ていく。

何だってんだ、そう叫びながらもカイリも彼女達の後を追う。

「……あいつ、一体どうしたの?」

完全に面食らった表情を浮かべるカスミに、ヒメカも説明する事ができない。

けれど、あの時の彼の表情。

鬼気迫る、なんて生易しいものではなかった。

まるで家族や恋人が危篤状態になってしまったかのように……。

 

「とりあえず、私達もいきましょ。ちゃんとジムバッジを渡してあげないとね」

(……一体どうしたっていうの?)

彼の表情に疑問を抱きながらも、ヒメカはカスミと共にジムを後にした。

 

………。

 

「―――レイジ」

ポケモンセンターのすぐ外。

ようやく追いついたカグヤは、そこでレイジを見つけ声を掛けるが……。

「…………」

 

静かに涙を流すレイジを見て、おもわずその場で立ち止まった。

他ならぬ自分自身を、ヒカリに無理をさせた自分を責めているのだ。他ならぬ自分自身を、ヒカリに無理をさせた自分を責めているのだ。

ポケモンの傷ついた姿をなによりも嫌う彼が、自分で自分のポケモンを傷つけさせるような事をしてしまった。

もちろんあれはポケモンバトル、その結果怪我をしても仕方ない。

レイジとてそれは充分にわかってる、だがそれでも……彼は自分を責め立てなければ気が済まないのだ。

優しく脆いからこそ、怒りと後悔の捌け口を周りに向けないようにする為に必要以上に自分を責め立てる。

 

――そんな事、絶対に許さない。

 

だってそんなのは間違ってる、レイジが自分を責める結果など自分を含め誰も望んでいないのだから。

「……ヒカリは、もうジョーイさんに預けたの?」

「…………」

口は開かず、力なく頷くレイジ。

「ポケモンバトルなんだから、怪我をするのはしょうがないよ。

 それにヒカリだってこうなるのを承知でレイジの言葉に頷いたんだよ? ならレイジが気にしたらヒカリの気持ちが意味のないものになっちゃうじゃない」

「わかってる。わかってるけど……それでも、僕が途中で諦めたらヒカリはあそこまで傷つく事はなかった……」

〈お父さん、それは違うよ〉

ボールが開き、ティナとリオンがレイジの前に現れた。

 

〈もしお父さんがあそこでヒカリの身体を気遣って諦めてたら、ヒカリはきっと怒ってた。

 だってチコリータが必死に繋いでくれた道なのに、そこで自分達が諦めたら、チコリータの気持ちはどうなるの?〉

「…………」

唇を噛み締めるレイジに、リオンが優しく裾を引っ張った。

《ご主人は間違ってなんかない、俺もそう思ってる。

 だからこれ以上自分を責めないで、ご主人がそんなんじゃヒカリも悲しむ》

「……リオン」

そう告げるリオンに、冷めた心が暖かくなっていく。

 

「――ごめん。心配かけて」

〈そんな事ないよ。私達はいつもお父さんに助けてもらってるから〉

「カグヤもごめん、また心配掛けて……」

「別にいいよ。私もティナ達と同じでいつもレイジに助けてもらってばかりで……。

 だから、レイジの助けになれて凄く嬉しい!」

屈託のない笑みを見せるカグヤに、レイジもようやく笑みを見せた。

 

「……イチャイチャするのは構わないけど、私達にも迷惑掛けたって事、忘れないでよね」

視線を横に向けると、そこにはジト目でレイジとカグヤを睨むヒメカとカスミの姿が。

ちなみにカイリもその場にいるが、よくわかっていないのかポカンとした表情を浮かべている。

「……ごめん」

「まあいいけどね。それよりほら、ブルーバッジ忘れてるわよ」

ほら、とブルーバッジを2人に渡すカスミ。

「よーし、これで私は後2つでレイジはあと3つね」

「うん……」

「やったな。レイジ、カグヤ」

「ありがとう、カイリ」

「俺達はあと3つ……まだまだ先はなげぇなぁ」

「ぼやかないの。それよりみんなをポケモンセンターに連れていかないと」

「そうね。……ミロカロスをセンターに連れてきたのも久しぶりね」

ぞろぞろとセンターに入っていく3人、カグヤも後に続こうとしたが。

 

「カグヤ」

後ろから声を掛けてきたレイジによって、その場で立ち止まり彼の方へ振り向いた。

「どうしたの?」

「……ありがとう。カグヤが心配してくれて……嬉しかった」

「そんな事気にしなくてもいいのに」

「それでも、ちゃんと御礼がしたかったから。本当にありがとうカグヤ」

「っ」

真剣な表情を向けられ、カグヤは自分の顔が熱くなるのを感じていた。

 

(あれー? なんで顔が熱くなってるんだろ……それに、なんだかレイジの顔が見れない……)

「どうしたの?」

「うぁ、な、なんでもない……そ、それより早くチコリータ達を休ませてあげないと!」

頭をぶんぶんと振り必死に誤魔化しながら、カグヤは逃げるようにセンターへと足を運んだ。

(顔、熱い……それに、胸がドキドキ……なんでかな?)

考えてみるが、さしたる原因が思いつかない。

結局、自分でも原因がわからないまま、カグヤは暫く熱くなった頬を押さえ続けるのだった。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




※キャラクター【レイジ】【カグヤ】の項目を更新しました。
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