ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
早速ジム戦……ではなく、クチバビーチにて英気を養う事にした。
何故かシンオウチャンピオンであるシロナも合流し、クチバビーチで開催されているポケモンバトル大会に出場する事になったレイジなのであった。
クチバシティに存在するクチバビーチでは、現在熱気に包まれていた。
暑いから、などというありきたりな理由ではない。
海だというのに、人々はその海には入らずある一点に集まっていた。
『さあ、クチバビーチ名物のポケモンバトル大会がいよいよ幕を開くぞ。みんな、燃えているか!?』
進行役の声が場に響き渡り、観客からの喝采も大きくなっていく。
その中で1人だけ、その空気とは真逆の冷めた空気を纏っていた。
彼の名はレイジ、マサラタウン出身のポケモントレーナーであり、この大会に参加している少年である。
何故彼はこのような空気を纏っているのか、答えは至極簡単、半ば強引に参加させられたからだ。
ポケモンバトル自体に否定的な考えは今は持たない、しかし目立つ事が嫌いなレイジにとってこういう場は正直苦手である。
『じゃあさっそく始めようか! 第1試合はレイジ選手対ソウスケ選手だ!!』
(さっそく僕からか……)
げんなりしながらフィールドに向かう。
周りからの拍手や視線が余計に精神的によろしくない。
相手は年上の男性、特にこれといって言うべき特徴もないので割愛する事にする。
『ルールは3対3のシングルバトル、交代は三回までOKだ。
それじゃあ両選手、準備は良いかい!?』
無駄に騒がしい司会兼審判の言葉には応えず、両者共にモンスターボールを取り出す。
と。
「レイジ、ファイト〜」
「レイジくん、頑張ってね〜!!」
観客席の一角からそんな声が聞こえた。
確認しなくてもわかる、カグヤとシロナだ。
はっきり言って恥ずかしい事この上ない、ヒメカに至っては完全に他人のフリをしている。
ちなみにカイリはいまだ気絶中、哀れである。
まあ応援してくれるのは嬉しい、頑張ろうという気持ちになるのは感謝している。
しかし、しかしである……何故2人は。
「……なんでチアガールのコスプレしてるの?」
もはやツッコミを入れる精神的余裕もなくなったレイジに代わり、ヒメカがツッコミを入れている声が聞こえた。
そう、2人は所謂チアガール姿になってレイジの事を応援しているのだ。
2人共長い髪はツインテールにし、へそ出しの露出の高い服装。
完全にコスプレですね、本当にありがとうございました。
浜辺でこんな格好をしている辺り、ふざけているのかそれともギャグでやっているのかわからない。
否、2人は本気なのだ、ただレイジを応援するが為にこんな格好をしているだけで、大マジなのだ。
……断言できる辺り、それはそれで凄まじいと思ってしまうのだが。
もしシロナがシンオウ地方最強のトレーナーだと気づいた人がいたら、おそらくある意味でトラウマものの光景かもしれない。
――周りの視線がレイジに突き刺さる
まいった、バトルをする前から疲れるとは思わなかった。
とは思いつつ、とりあえずバトルに集中することに。
『それでは第1試合……バトル、ゴー!!!』
「アクセル、お願い!」
「いけ、ピジョン!!」
レイジはアクセルを、ソウスケはピジョンをフィールドに出す。
(ピジョン、か……)
かくとうタイプであるアクセルには不利な相手。
だが、初陣としてはあえて不利な相手の方が勉強になる。
「アクセル、はじめての実戦だけど落ち着いて」
〈はい、父上!〉
拳を構え、身構えるアクセル。
「ピジョン、かぜおこしだ!!」
翼を羽ばたかせ、突風を生み出すピジョン。
しかしその中でもアクセルは動じずに、不動のまま大地に脚を降ろしていた。
「つばさでうつ!!」
無駄だと悟ったのか、すぐさまこちらに向かってくるピジョン。
「――見切って」
短くそう一言指示を告げる。
だがアクセルは動かず、黙ってピジョンが向かってくるのを見つめるのみ。
そして、ピジョンの翼がアクセルに命中する瞬間。
ふわりと、そんな軽い音が聞こえそうなほどの小さな動きだけで、アクセルはピジョンの攻撃を完全に回避していた。
「なっ!?」
驚きは、対戦相手であるソウスケの口から放たれる。
すぐさま方向転換し、再び攻撃を仕掛けるピジョンだが……何度やってもアクセルには当たるどころか掠りもしない。
『な、なんと! ソウスケ選手のピジョンの攻撃がまるでヒットしていません!!
まるで羽根のように軽やかな動きで、レイジ選手のリオルは攻撃をかわしております!』
「……へぇ」
おもわず応援用のポンポンを持ったまま、シロナは感嘆の声を漏らす。
(なるほど、アクセルの運動能力を重点に育てているみたいね……)
どうやら短所を補うより長所を伸ばす事に専念したようだ。
それは、自分のルカリオと同じ育て方。
無意識だというのはわかっているが、それでも嬉しいと感じてしまうシロナだった。
「くっ、ならこうそくいどうからのつばさでうつだ!!」
先程とは比べものにならない動きで、ピジョンはアクセルへと攻撃を仕掛ける。
だが、それでもレイジ達は慌てない。
「――脚を掴んでたたきつける」
こうそくいどうでスピードを上げたピジョンの攻撃を避け——瞬間、アクセルの右手がピジョンの脚を掴む。
突然身体を引っ張られたピジョンは驚くが、既にアクセルは勝負を決めていた。
〈は―――っ!!〉
裂帛の気合いを込め、砂地へとピジョンを叩き付ける―――!
爆撃めいた音と共に、砂が空へと舞い上がった。
目を回しながら、気絶しているピジョン。
『ピジョン、戦闘不能だぁっ!!』
実況の声で、観客席からは拍手が巻き起こる。
(まだ一匹目なんだけどね……)
〈父上、どうでしたでしょうか……?〉
レイジの元へ近づき、少し不安げにそう問うアクセル。
自分の戦い方に不備があったと思っているのか、そう思うとつい苦笑を浮かべてしまう。
「大丈夫だよ。よく頑張ったね」
だから、安心させるようにアクセルの頭を撫でながらそう口にするレイジ。
すると先程までの不安げな表情は消え、アクセルは嬉しそうに頬を綻ばせた。
「まだやれる?」
〈もちろんです、是非やらせてください!!〉
気合い充分のアクセルに頷きを返し、交換はせず再びフィールドへと向かわせる。
「いけ、ユンゲラー!!」
『おぉっと、ソウスケ選手はユンゲラーをフィールドに出しました!
またまたリオルにとって不利な相手となりましたが、レイジ選手はどう対処するのか!!』
エスパータイプのユンゲラー、かくとうタイプのアクセルには不利だ。
しかしそれでも、レイジはアクセルで戦わせるつもりだ。
「アクセル、はどうだん」
「ユンゲラー、サイケこうせん!!」
はどうだんとサイケこうせんがぶつかり合い、互いに相殺される。
「踏み込んで」
「ユンゲラー、テレポート!!」
距離を縮めようとユンゲラーに踏み込むアクセルだが、テレポートによりその場から消え去ってしまう。
「後ろにまわしげり」
〈っ、は―――!〉
右足を軸に、左足を使って後ろへと風切り音を響かせながら蹴りを放つアクセル。
しかし紙一重で回避され、再び両者の間合いが遠のいた。
(……おかしいな)
相手の動きに、レイジは違和感を覚える。
確かにユンゲラーは接近戦などできない、だからこそ距離をとって戦うそのやり方に間違いはないだろう。
しかし攻撃が単調すぎるのだ、これならば簡単に回避できる。
これではまるで、時間を稼いでいるような………。
(時間稼ぎ……?)
瞬間、敵の意図を理解したレイジはすぐさまアクセルに告げる。
「アクセル、みらいよちが来る!!」
〈え―――ぐっ!!?〉
声はしっかりと届いたのだが、時既に遅くユンゲラーのみらいよちが命中し地面へと倒れ込むアクセル。
〈ぐ……っ!!〉
迂闊だった。
相手の単調な攻撃に対して疑問を抱くべきだったのだ。
アクセルは己の未熟さに情けなさを覚える、こんな事では父上の役になど立てやしない。
「ユンゲラー、とどめのサイコカッターだ!!」
敵の攻撃が迫る、だがまだ立ち上がれ……。
「みがわりだ!!」
「っ――!」
レイジの声に反応し、すぐさま技を展開した。
それと同時にみがわりが代わりに攻撃を受け消えてしまうが、ユンゲラーに隙が生まれる。
〈うぉぉぉーっ!!!〉
「まわしげり」
アクセルのまわしげりがユンゲラーの顔に突き刺さる。
だが、まだ攻撃は終わらない―――!
「とびひざげり!!」
〈セイ―――!〉
顎を打ち上げ、着地する前に次の構えを。
「はっけい!」
〈はっ―――!〉
アクセルのはっけいをまともに受け、ユンゲラーが地面を転がっていく。
――これで、詰めだ。
「アクセル、はどうだんだ!!!」
〈ハァァァ………セヤァァァァァッ!!!〉
特大のはどうだんを作り出し、それをユンゲラーに向けて撃ち込む。
連続攻撃を受け、吹き飛ばされているユンゲラーに防ぐ手立てはなく。
はどうだんをまともに受け――戦闘不能に陥った。
『決まったー!! なんと、ピンチになりながらも見事な連携でレイジ選手が2連勝を勝ち取りましたー!!』
場も盛り上がり、観客達の声援も先程より大きくなる。
「ハァ…ハァ…ハァ」
「アクセル、お疲れ様。ゆっくり休んで」
〈い、いえ……父上、僕はまだ〉
「ダメだよ、無理をしても僕は喜ばない。
それに、君はよく戦ってくれた。最後の連携は特に良かったよ」
〈父上………〉
労いの言葉に、アクセルは口元に浮かぶ笑みを隠す事ができなかった。
大好きな父上に誉めてもらえた、その事実はアクセルにとってなによりの喜びに変わる。
「ありがとうアクセル、よく頑張ったね」
言いながら、アクセルをボールの中に戻す。
『さあ、ソウスケ選手はこれで追い込まれた。
次のポケモンで起死回生を狙えるのでしょうか!?』
「くそっ――いけ、ケンタロス!!」
ケンタロスが雄叫びを上げ、砂地のフィールドに現れる。
「………ケンタロスか、レイジは何を出すと思います?」
ポンポンを振り上げながら、カグヤは隣にいるシロナへと問う。
「そうね……タイプだけで考えるとレイジくんの手持ちで不利になるポケモンはいない。
でもケンタロスはパワーがあるから、おもわぬ攻撃に遭ったらどうなるかわからないわね」
「だとすると、自分の手持ちで一番強いティナを出すんじゃねえか?」
腹をさすりながら、いきなりカイリが会話へと入ってきた。
「あら、目が醒めたの?」
「……お前さ、まず一言言う事があるんじゃねえの?」
「あんたが余計な事を言おうとするからよ、自業自得だと思って諦めなさい」
「ひでえ……」
身も蓋もない言葉に、カイリはこれ以上何も言えずにうなだれる。
哀れカイリ、しかし半分は自分のせいなので諦めてくれ。
「でもカイリの言う通り、タイプの面で特にこだわる必要がないなら、ティナを出すのがセオリーかもしれないわね」
(もう俺の事はスルーかよ……)
そんな事を話している間に、レイジは次に出すパートナーを決めたようだ。
そして、レイジが二体目に決めたポケモンは。
「リオン、お願い!!」
炎タイプのヒトカゲ――リオンだった。
「あら意外。リオンを出してくるなんて」
「そういえばさ。リオンってレイジのポケモン達の中じゃどれくらい強いんだ?」
「どうだろ。レイジ自身あまり強さとかにはこだわらないから。
でも……間違いなく強いと思うよ、リオンは」
「へぇ……」
迷いのないカグヤの声に、カイリはおもわず声を漏らす。
(なら、その実力を見せてもらおうかね)
前に戦った時と比べてどれくらい強くなっているのかを
「ケンタロス、とっしん!!」
「リオン、かえんほうしゃ」
まっすぐ向かってくるケンタロスに、リオンのかえんほうしゃが命中するが……。
炎をまともに受けているというのに、ケンタロスは止まらずにリオンへと辿り着きその身体を叩き付けた。
吹き飛ばされ、地面に倒れながらも立ち上がるリオン。
(……やっぱり、パワーでも向こうが上か)
リオンの技は確かにパワーが高い。
しかしそれを操るリオンがケンタロスよりパワー不足なのは否めなかった。
「リオン、かげぶんしんだ」
命を聞き、すぐさま己の分身を作り上げていくリオン。
ケンタロスを囲むように展開し、惑わせる。だが―――
「ケンタロス、ふぶきだ!!」
ケンタロスの放った広範囲のふぶきが分身ごとリオンを捉え、容赦なくダメージを与えていく。
「っ」
先程の二体とはまた強さが違う、どうやら切り札は最後までとっておくタイプだったようだ。
「みずのはどう!!」
「避けて!!」
間一髪、ケンタロスから放たれたみずのはどうを回避するリオンだが、その後もみずのはどうを連発されて防戦一方。
(パワーもスピードも、今のリオンは完全に負けてる……)
「ギャウッ!!?」
くぐもった悲鳴を上げ、遂にリオンがみずのはどうを受けてしまった。
「リオン!!」
まともに受け、どうにか立ち上がるがかなり辛そうだ。
「――リオン、よく頑張ったね」
だから、レイジはリオンを戻そうとボールを構えようとするが。
〈ご主人、俺はまだ戦えるよ!!〉
他ならぬリオンによって、その動きを止められてしまう。
「リオン……」
〈みんな強くなってるんだ、俺だって強くならなきゃご主人の力になれない!!〉
瞳に宿すのは、確かな闘志の炎。
傷つきながらも、自分が不利だとわかりながらも、リオンは勝負を諦めていなかった。
「……わかったよ。リオン」
それを見せられて、一体どうして彼を戻せるというのか。
ボールを戻し、再び瞳を戦いの場に向ける。
〈ご主人を勝利に導くのは俺だ、お前なんかには負けない!!〉
「その意気だよリオン、かえんほうしゃだ!!」
リオンのかえんほうしゃがケンタロスに直撃する。
効いていないわけではない、だがそれでもケンタロスの強靭な耐久力には届かなかった。
〈こんな炎じゃダメだ! こんなんじゃ……ご主人を勝たせられない!!〉
もっと強い力を、リオンは心の中で何度もその言葉を繰り返す。
強き炎を、相手に負けないくらいの強い炎を。
――瞬間、リオンの身体に異変が
『こ、これは……!?』
身体が光に包まれる現象。
これは、トレーナーであるならば誰でも体験した事があるもの。
そう――“進化”の兆候である。
「う、嘘……バトル中に進化する事があるの!?」
「たしかに珍しいケースね、でも……ないわけじゃないわよ。
ポケモンが進化する理由は、大抵がよく育てられたり特定の石を使って進化するとかだけど、ポケモンの強き願いと想いがこんな進化をもたらす事もあるの」
ポケモンにはまだまだ謎が多い。
人と同じ心を持ち、その想いは時に人と同じく奇跡を起こす事だってあるのだ。
今回はきっと、リオンのレイジに対する信頼と愛情が彼を進化へと導いたのかもしれない。
またそれも、ポケモントレーナーとして強き力を持っているからこそでもある。
(レイジくん、やっぱりあなたは凄い人よ)
やがて光が収まり、リオンはヒトカゲからリザードへの進化を終えた。
「リオン……」
〈レイジ、さっさと終わらせるぜ!!〉
進化して口調が荒っぽくなってしまったようだが、根本が変わっていないようで安心した。
『なんとなんと、レイジ選手のヒトカゲがリザードに進化したというハプニングがありましたが、これでますます試合が楽しくなってきたぞ!!』
「ケンタロス、みずのはどう!!」
再び弱点であるみずのはどうで攻撃を仕掛けてくるケンタロス。
だが、今のリオンは先程までの彼ではない。
「リオン、かえんほうしゃだ!!」
みずのはどうに向かってかえんほうしゃを放つリオン。
両者の技が同時にぶつかり合い――みずのはどうが押し戻される!!
「なっ!?」
先程とはまるで違うパワーに、ソウスケの口からは驚愕の声が。
「かえんだん!!」
大人の握り拳大ほどの大きさの火球がいくつも生み出され、その全てがケンタロスに向かっていく。
「くっ、ケンタロス、はかいこうせんで薙ぎ払うんだ!!」
さすがに全てを回避する事は不可能だと悟ったのか、ケンタロスにはかいこうせんを命じるソウスケ。
それにより、かえんだんの全てが撃ち落とされ爆音が響く。
――だが遅い、既に彼等は次の行動に移っている。
「ほのおのパンチ!!」
煙に紛れて間合いを詰めていたリオンの右腕に炎が宿り、それをケンタロスに叩きつける。
「トドメだ、フルパワーでかえんほうしゃ!!」
大きく息を吸い、特大のかえんほうしゃを放出するリオン。
それを防ぐ術をケンタロスが持ち合わせているはずもなく、炎に包まれていき――収まった時には、目を回し戦闘不能に陥っていた。
『決まったー!! 第1試合の勝者は、レイジ選手に決定だーーー!!』
ハイテンションでそう叫ぶ司会者に続き、周りからは割れんばかりの拍手が巻き起こった。
それを煩いと思いつつ、レイジは対戦相手の元へ。
「とても楽しいバトルでした、ありがとうございます」
ポケモンバトルは、礼に始まり礼に終わる。
それを忘れないように、レイジはソウスケに向かって手を差し出す。
「……こっちこそ、楽しかったよ」
ソウスケも笑顔を浮かべ、レイジの握手に応じてくれた。
(男と男の友情って、いいわね……)
(あっ、レイジってばちゃんと握手してる)
(なる程……レイジが強いのは、バトルの後でもトレーナーとして振る舞っているのも、一つの要因なのね)
(なんか腹減ったな……)
上からシロナ、カグヤ、ヒメカ、カイリとなっているが……若干一名、全然違う事を考えていた。
………。
「レイジ、おめでとう!」
「まだ一回勝っただけだよ」
「それでもよ。また強くなったようね」
「ありがとうございます、でも……その格好は勘弁してください」
「えー……メイド服バージョンの方がよかった?」
「そういう問題じゃない……というか、何その変なバージョンは」
「他にもあるよ。ドレスとか巫女とかマニアックな所では体操着とか」
「…………」
もはやどこからツッコミを入れていいのかわからない。
……カグヤは昔からコスプレをするのが趣味だというのはわかっていたが、まさか旅先でも衣装を持ち歩いているとは。
そしてよくあったな、シロナのサイズが。
「結構楽しいわね、こういう服を着るのも」
まさかの発言に、カグヤを抜かしたレイジ達はおもわず顔を見合ってしまった。
もはやヒメカとカイリの2人も、既にシロナをチャンピオンとして見る事ができない。
「じゃあシロナさん、次は巫女服バージョンで応援しましょう!」
「いいわねそれ、でもどうやって着るのかわからないから教えてくれる?」
「もちろんです!」
(……どっちから説教してやろうか)
「…………」
「? カイリ、どうしたの?」
「あー、いや……俺も服を着てきたいと思ってさ……」
既に服を着ているヒメカ達とは違い、自分は気絶していたのでいまだ水着姿なのである。
別におかしいわけではないのだが、なんとなく仲間外れにされた気がするのでこのままではいただけない。
「なら着てくればいいじゃない、次の試合までまだ時間があるんだから」
「お、おう……サンキューな」
そそくさとその場から離れるカイリ。
その後ろ姿を見ながら、ヒメカは口元に笑みを浮かべた。
「次普通の服にしてくれなかったら本気で怒るからね?」
「えっ、レイジ巫女服は嫌いなの?」
「……君の耳は一体どういう構造になっているのかなぁ?」
さて、早くあのコスプレ娘を止めてあげねばレイジが可哀想だ。
ため息をつきつつ、ぷるぷると震え怒りを我慢しているレイジと、まるでわかっていないカグヤの元へと駆け寄るヒメカなのであった。
………。
「ふぅ……すっきりした」
いつもの服に着替え、ついでにトイレも済ませたカイリは、言葉通りすっきりした表情を浮かべながら、大会会場へと急ぐ。
「ったく、なんで会場はあんな端の方にあるんだよ……」
往復するのも面倒だなと思いつつ、少し歩くスピードを速める。
「………?」
ふと、なにか違和感を感じその場で立ち止まった。
……気のせいか、そう思い再び足を動かそうとした瞬間。
「っ、ぐ―――!!?」
突然、感じた事のある痛みと共に“能力が勝手に解放された”
(な、に…………!!?)
少し先の未来を視る事ができるカイリの能力。
しかし、このように突然勝手に発動する事などなかったというのに、一体どうして――
「―――――」
頭の中で、映像が再生されていく。
視えるのは、砂浜と海。
このクチバビーチだろう、周りが岩に囲まれているので、おそらくビーチの中でも端に位置する場所のはずだ。
そこに、1人の少女が二人組の男女に追いかけられている光景が広がっていた。
(こいつ、は……!?)
映像はそこで途切れ、続きを視ようにもそれは叶わない。
だが、あの映像が近い未来に起きる出来事だと理解した瞬間——カイリは会場とは真逆の方向へと走り出した。
レイジに説明すればわかってくれる、だがあの映像を視た限りではそんな悠長な事をしていられる余裕などはなかった。
だから危険だと頭では理解していても、カイリは誰にも自分が視た事は告げずに走り出した。
――運命の歯車が少しだけ動き出すまで、あと少し。
To.Be.Continued...
※キャラクター【レイジ】の項目を更新しました。