ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
そして、街全体を巻き込む死闘が、幕を開こうとしていた……。
「アクセル、はどうだんだ!!」
燃える大地、クチバシティで、レイジ達は死闘を繰り広げていた。
「ヒカリ、自分にかみなり!!」
「ミロカロス、れいとうビームよ!!」
ミロカロスのれいとうビームがバンギラスの身体を凍らせていく。
だが、すぐさまその氷にヒビが入っていくが。
「ハク、ドラゴンダイブ!!」
その隙を逃さぬとばかりに、ハクの攻撃がバンギラスを吹き飛ばす。
「ベイリーフ、ハガネールにタネマシンガン!」
暴れまわるハガネールを止める為、攻撃を仕掛けるカグヤとベイリーフ。
さしたるダメージを与える事はできないものの、街を破壊しているハガネールがこちらへと向いてくれた。
「エネコ、ふぶき!!」
正面からエネコが放ったふぶきを受けるハガネールだが……。
その身が凍るどころか、まったくダメージを受けた様子もなくカグヤ達に向かってくる。
「なっ、嘘………!」
「ヒカリ、ハガネールにボルテッカー!!!」
だが、横からヒカリのボルテッカーがハガネールの身体に叩き込まれ、地面を削りながら吹き飛んでいった。
無論ダメージはないだろう、しかし攻撃を中断する事ができた。
「ありがとう、レイジ、ヒカリ!!」
「構わない。……けど、こいつは……」
「強すぎるよ……ベイリーフ達の攻撃が全然効いてない……」
(――違う、効いてないわけじゃないんだ)
しっかりとベイリーフ達の攻撃は届いている、多少パワー不足なのは否めないが、それでもダメージはきちんと与えているはずなのだ。
しかし、それでもバンギラス達は倒れてくれない。
いくらダメージを叩き込もうとも、まるで痛みという概念が存在しないかのように、立ち上がって向かってくるのだ。
――そろそろティナ達も限界が近い
ここまで長いバトルは初めてなのだ、おまけに先程から全力で攻撃を繰り出している事も拍車を掛けている。
シロナのポケモン達はまだ余裕があるものの、それでもそれがいつまで保つのか。
爆発音が響き、バンギラスの身体が倒れ込む。
「ラティアス………!」
背後からはかいこうせんを当てたのだろうか、彼女が参戦しているからこそ、レイジ達は互角に戦えている。
だが、ラティアスの方にも目に見えて疲れの色が顔に滲んでいた。
ヒメカはカイリを守る為に必要以上に攻撃を仕掛けられない、これではいつまで――
〈お父さん!!〉
「っ、ティナ、サイコキネ――」
慌てて命令を出すが、ハガネールのアイアンテールがレイジ達をまとめて吹き飛ばした。
「くっ……!」
吹き飛ばされながら、カグヤの腕を掴み抱き留める。
瞬間、背中に凄まじい衝撃を受け息が止まった。
「ぁ、が………!」
喉元までせり上がった血を吐き出し、地面を赤く染め上げる。
拙い、今のはまともに受けてしまった。
見ると、ティナ達もかなりのダメージを受けたのか、動きを見せるものの誰も立ち上がる事ができないでいる。
「……レイジ」
「だい、じょ、ぶ……」
「大丈夫じゃないよ! だってこんなに血が――」
ぬるりと、レイジの頬に触れた瞬間、生暖かい液体がカグヤの手に付着した。
「――――」
真っ赤に染まる自分の手。
それが、彼の血だと理解するのに数秒の時間を要した。
「……よかった、怪我……なくて」
「ぁ………」
そこで、ようやく気が付いた。
彼は、自分を守るために自らクッションの役割を果たしたのだと……。
「ぐっ…げ、ぅ……」
立ち上がり、血を吐き出しながらもレイジの戦意は衰えてはいなかった。
当たり前だ、ここで自分達があれを止めねば今よりも犠牲が増える事になる。
国際警察は人命救助や避難民の保護でこちらの助けに入れる者はいない。
この状況下では、自分達だけでなんとしてもあのポケモン達を正気に戻さなくてはならないのだ。
「くっ……リオン、みんな……まだ、戦える?」
〈当たり前だ、そう言いてえけど……〉
〈も、もうピカ限界だよ……〉
〈くっ、な、なんて未熟なんだ僕は……〉
〈お父さん……私達、まだ……〉
「はぁ…はぁ…はぁ…」
血が足りず、意識が上手く保っていられない。
シロナはバンギラスの足止めで精一杯、ラティアスもハガネールと戦っているが……このままでは。
(なにかないのか……打開策が、何か……)
震える足を気力だけで支えながら、血で視界が赤く染まる事も構わず、レイジはひたすらに勝機を掴むための策を考える。
だが、こんな状況では打開策など見つかるわけがなく。
「ミロカロス!!」
「ぁ、―――」
シロナのミロカロスが、バンギラスに倒された……。
チャンピオンであり、シンオウ地方最強のトレーナーであるシロナのポケモン、が……。
(……なんで、こんな)
正常な思考など、もはや彼の中には存在していなかった。
傷つき倒れていくポケモン達。
そして、悲鳴を上げながら逃げ惑う人達の光景が、彼に絶望と痛みを与えていくばかり。
「――もう、やめろ」
呟く声は、誰も聞き取れないほどに小さい。
―――みんな、傷ついていく。
―――みんなが、悲しんでいる。
―――みんな、が……苦しんでいる。
「やめてくれ……もう、これ以上は……」
もうこれ以上、誰も傷ついてほしくない。
ティナもリオンも、ヒカリもアクセルも。
ベイリーフもエネコも、ラティアスもジャノビーもモウカザルも。
ロールもハクも、ミロカロスもガブリアスもシロナもヒメカもカイリも。
敵であるバンギラスもハガネールも。
そして――カグヤも。
誰一人として、傷ついてほしくないのに……。
「こんなの、違う……こんなの、人とポケモンの姿じゃない……」
認めたくない現実、見たくもない光景。
どうしたらいい? 何をすればいい?
どうしてみんなで、互いを傷つけ合うの?
どうして――戦いを止められないの?
(――力が)
力があれば、この悲しい戦いを止める事ができるのに。
(力が、ほしい……)
傷つける力でも、悲しませる力でもない。
守る力、味方も敵もそんなもの関係なく、守れる力があれば……。
「誰か……誰でもいい、誰でもいいから僕に―――――僕に、力を貸してくれぇぇぇぇっ!!!」
悲痛な叫びが、戦場に木霊する。
この魂からの願いは。
―――よく言った。ならお前が皆に力を与えろ。
どこか、懐かしい響きのする声によって、聞き入れられる事になる。
「―――――」
身体が、熱い。
全身の血液が熱を持ったかのようで、右腕に至ってはまるで紅蓮だ。
その右腕から、凄まじいという表現すら霞むほどのエネルギーが溢れている。
―――恐れるな。それを受け入れろ。
「くっ――!」
恐怖も湧き上がる疑問も、今はどうだってよかった。
これが何なのかは知らない、けれどこのエネルギーをみんなに与えればきっと。
自分でも理解できない状況の中、レイジは右腕を天高く突き出して。
「お願いだ……今一度、みんなに戦える力を与えてくれ!!!」
自らの願いを込め、その力を解放した。
刹那、右腕が光り輝き枝分かれをしながらレイジの腕から離れ――ティナ達へと向かっていく。
光が、それぞれの中へと入っていき……。
「こ、これは……!?」
その現象に、シロナは戦いの最中だという事も忘れ、目を見開き驚きの表情を浮かべる。
――溢れていく、活力も気力も。
まるで生まれ変わったかのように、身体に残っていた疲労感が消えた。
それだけではない、もはや戦う事すらできなかったはずのミロカロスが、何事もなかったかのように起き上がったのだ。
その身に受けたダメージも、完全に回復して。
「ハク、ロール!!」
「……なんだこれ、なんか痛みが無くなった」
「カイリ!! よかった……目が醒めたのね!?」
「あ、ああ……けどなんだってんだ? この光で、痛みも疲れも全部吹き飛んじまった」
「……レイジが、あの光を」
見ると、自分達だけでなくティナ達ポケモン組やカグヤの傷も完全に回復していた。
それにこの光、なんだか内側から力が湧き上がっていくような……。
「えっ!!?」
「うぉっ、マ、マジかよ!?」
驚きの声を上げ、2人は目の前の光景にただポカンと口を開く事しかできなかった。
何故なら、ヒメカのポケモン達であるロールとハクの身体が光に包まれていったからだ。
(進化、するの……? こんな状況下で?)
あの光を浴びたがらだろうか、しかしロール達以外のポケモンに進化の兆候は見られない。
状況についていけないまま、ロールはミミロップに、ハクはカイリューへと進化を遂げていた。
「い、一体何が起こってんだ……お、俺は夢でも見てんのか?」
「……わたしも、同じ夢を見てるのかしらね」
もはやこれは奇跡としかいえないような光景だ。
「レイジ……」
目の前の幼なじみの身に起こった現象に、カグヤは彼の名前を呼ぶ事しかできない。
「みんな、反撃だ!!」
レイジの声により、全員我に帰る。
そうだ、まだ戦いが終わったわけではない。
「ジャノビー、リーフブレード、モウカザル、フルパワーでだいもんじだ!!」
ジャノビーとモウカザルの必殺の一撃が、動きを止めたハガネールの身体を吹き飛ばす。
「ベイリーフ、エナジーボール。エネコ、ふぶきよ!!」
更にベイリーフとエネコの攻撃が倒れたハガネールに追い討ちを掛け。
「リオン、フルパワーでかえんほうしゃ!!!」
リオンの炎が、今度こそハガネールを戦闘不能に追いやった。
ようやく自分の状況を理解したのか、はかいこうせんを放とうと構えるバンギラスだが。
「させない!!」
ラティアスのはがねのつばさが、バンギラスの身体を地面に叩きつけた。
「ガブリアス!!」
「ハク!!」
絶好のチャンス、シロナとヒメカはそれぞれのドラゴンに声を掛け。
『フルパワーでげきりんよ!!!』
まったくの同時に、最後の勝負を仕掛ける為に指示を下した。
裂帛の雄叫びを上げながら、ハクとガブリアスはその巨体をバンギラスへと叩きつける。
「くっ……!」
「そんな……!」
だが、それでもなおバンギラスは倒れない。
唇を噛み締める2人だが。
「ヒカリ、自分にかみなり!! ティナ、ヒカリにでんげきはだ!!」
まだ、彼の攻撃が終わっていない。
特大のかみなりと、ティナのでんげきはがヒカリを包み込み……いまだかつてない程の電気エネルギーを身に纏う。
「これで最後だ。――ヒカリ、デュアルボルテッカーだぁぁぁっ!!!」
「ピカピカピカピカピカピカピカ………チュウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
通常のボルテッカーよりも更に巨大なエネルギーの塊と化したヒカリが、バンギラスへと神速の速さで走っていく。
そして――両者がぶつかり合い。
視界と耳を潰すかのような爆音を響かせ、ヒカリのボルテッカーがバンギラスの身体をまるで矢のように吹き飛ばした。
(立つな……もう、これ以上戦うな………!)
肉の焦げる嫌な音と匂いを充満させた空間の中、ただひたすら相手の戦闘不能を願うレイジ。
そして……不屈の生命力を誇っていたバンギラスも、ようやく動きを止めてくれた。
「…………」
誰もが、戦いが終わったのだと理解するのに数秒の時間を要し。
「やったぁぁぁっ!!」
ピョンピョンと飛び跳ねるカグヤの声で、場は歓喜の表情に包まれた。
「勝った、の……?」
いまだ自分達の勝利が信じられず、譫言のように口にするシロナ。
だが勝ったのだ、それは紛れもない事実。
ミロカロスもガブリアスも、笑顔でシロナを見つめている。
(……そう、勝てたのね私達……)
ガブリアス達を優しく撫でながら、ようやく勝利を噛み締める事ができた。
「は、はは……すげえ、ホントにあんなポケモン達に勝っちまった……」
「そうね……正直、私も信じられないわ」
勝利の事実だけでなく、目の前で自分達に起こった奇跡も。
夢を見ていたんだ、そう言われても納得してしまうほどの事があった。
けれど、この感覚は確かに現実のものだ。
それに――自分達の元に擦り寄ってくるロール達の進化した姿も、また現実なのだから。
「―――――」
手を空に突き上げたまま、レイジはそっと息を吐く。
もう、先程の声は聞こえなくなった。
もっと色々訊きたい事があったというのに、存外にせっかちな存在なのかもしれない。
そう思うと、自然と笑みを浮かべてしまい――そのまま地面に倒れ込んだ。
(あ、れ……?)
もう、痛みなど消え去っている。
傷が治ったわけではないし、今だって視界が真っ赤だが、それでも痛みを感じなくなったのに、どうして……。
(ね、む、い……)
必死に自分へと声を掛けているティナとカグヤの姿も、もうほとんど見えなくなっている。
(みんな、ありがとう……)
意識は混濁し、既に抗う気力をもなくなったレイジは、そっと瞳を閉じた。
眠りはすぐに訪れ、どこか心地よさすら感じながら。
この戦いに勝利をもたらした英雄の少年は、静かに意識を闇の底へと落としていった……。
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「――というわけで、私は暫くシンオウには帰れそうにないわ。悪いけど、暫くお願いね?」
テレビ電話越しに、そう口にするシロナ。
画面の先には、シンオウリーグの四天王であるリョウ、キクノ、オーバ、ゴヨウの姿が。
『事情はわかったけどよ……別にシロナがそこに居る必要なんかあるのか?』
そう呆れながら口にしたのは、アフロ男ことオーバ。
この間、シロナに余計な事を言って殴られた所謂「口で身を滅ぼす」タイプである。
「何言ってるの、国際警察の事情聴取を受けなきゃいけないのに、それがどれだけ掛かるかわかってるの?」
あの事件は、まさしく大事件と呼べるほどのものだった。
しかも伝説のポケモンであるラティアスが関わっている事を隠して説明しなくてはならないのだ、納得してくれるまで少なくとも数日は掛かる。
『けどよぉ……つまり、お前の仕事はオレ達がやらなきゃいけないわけ?』
「そっ、悪いけどお願いね?」
『仕方ありませんね』
『はぁ……まあ、しょうがねえか』
『わかったよシロナ、僕達に任せてくれ』
『こちらの事は心配しなくていいから』
「ありがとう」
『にしても……なんか信じらんねえな。
伝説のポケモンラティアスに、シロナが体験した奇跡……。そのレイジってヤツ、何者なんだ?』
「……わからないわ。彼自身も自分の出生がわからないようだし……それに、今は眠っているから……」
あの戦いからもう丸一日が過ぎたが、レイジはまだ目を覚まさない。
それにおそらく、目覚めたとしてもあの力を彼自身も説明する事ができないと思う。
それほどまでに人間にとって理解できない力だったからだ。
(レイジくんがいなかったら、私も……)
手持ちにミロカロスとガブリアスしかいなかったとはいえ、彼がいなければ自分も敗北していただろう。
(また、彼に借りができちゃったな……)
『――それにしてもよ』
「………?」
『シロナ、お前……マジであのレイジってガキに惚れてんのか?』
「…………」
オーバの言葉に、シロナは暫しキョトンとした表情を浮かべるが。
「そうね……確かにレイジくんは魅力的な男の子よ。
惚れてるといえば惚れてるわね、チャンピオンという立場じゃなきゃ彼と一緒に旅がしたいくらいだし」
あっけらかんと、恥ずかしげもなく自分の想いを口にした。
『あらあら』
『おやおや……言ってくれますね』
『……そのレイジってやつ、14だよな?』
「ええ。今年で15歳になるって言ってたわね」
『……お前、何歳だっけ?』
「女性に歳を訊くのは感心しないわね。24になるけど?」
『……10も歳が離れてんのかよ』
「何よ、ショタコンとでも言いたいの?
いいじゃない、年下を好きになったらいけないなんて決まりはないし、犯罪を犯すつもりもないんだから」
『…………』
確かにシロナの言う通り、年下を好きになろうがその人の自由だ。
稀に危ない性癖の人間のように犯罪に走る輩もいるが、彼女ならばそのような心配はない。
そう、心配はないのだが……立場的にかなり不利だと言ってやりたい。
しかも彼の近くには同じ歳の幼なじみがいるというのだから、ますます不利だと言わざるおえない。
(せっかく遺跡漬けで男っ気がないシロナに春が来たと思ったんだけどな……)
「大丈夫よ。いざとなったら大人の魅力で迫ればいいし」
『…………』
ろくに男と交際した事ないのに?
そんなツッコミが喉元まで上がってきたが、どうにか我慢する。
そんな事を言ったら後が恐い、きっとガブリアスのげきりんとりゅうせいぐんのコンボを放ってくるだろう。
「それじゃあ、そろそろ切るわね。オーバ、サボらないように」
何でオレだけ名指しで言うんだー、というオーバの文句は無視し、電話を切るシロナ。
(大人の魅力、ね……)
自分で言った言葉だが、笑いたくなった。
どうやってその大人の魅力とやらを出せばいいのかわからないくせに、よく言う。
……女性向けの雑誌でも読んでみようか。
そこまで考え、そういえばカグヤ達を待たせている事に気が付く。
いけないいけない、自身に苦笑を送りながら、シロナはカグヤ達の元へと戻ったのだった。
………。
先の戦いで損傷した公園には誰もおらず、ここならばゆっくりと話ができるとカグヤ達はラティアスを連れてきた。
「さて……話して貰いましょうか、どうして伝説と謳われるあなたがこのカントーに居て、更に追われていたのかを」
無駄話など絶対にしないと言わんばかりの口調で、さっそく本題に入るヒメカ。
口調だけでなく、その表情にも有無を言わせない迫力が込められていた。
それに、どうしてなのかはわからないが彼女は今かなり機嫌が悪い。
幼なじみであるカイリにはすぐにわかり、けれど理由がわからず困惑した。
一方、ラティアスはカノンと名乗った少女の姿でヒメカの言葉にゆっくりと頷きを返す。
ポケモンの姿のままでは周りに見られてまた騒動の原因になるからだ。
そして、ラティアスはすぐさま口を開く。
「私がカントーに居たのは……行方不明になった兄を捜す為です」
「兄……?」
「もしかして、ラティオスの事かしら?」
シロナの問いに、ラティアスは頷く。
「ラティオスって……ラティアスと同じく伝説のポケモンの」
「ラティオス、ラティアスと同じむげんポケモンと呼ばれる伝説のポケモン。
兄妹である可能性がある説があるけど、まさか本当に兄妹とはね……」
ラティアスとラティオスは今まで何度も目撃されているものの、その生態系に詳しい人物は存在しない。
しかし、他ならぬラティアス本人からそんな話が聞けるとは……ナナカマド博士に伝えたら喜ばれるかもしれない。
「でも、行方不明ってどういうこと?」
「――元々私達は、ホウエン地方の人里離れた森の中で平和に暮らしていました。
でも、ある日兄が突然姿を消し……私はすぐさまホウエン地方中を探し回ったのですが見つからず……そこで、カントー地方へと赴いたのです」
そして、あの二人組に襲われた……彼女の事情はよくわかった。
しかし、何故ラティオスはいきなり行方を眩ませたのだろうか?
「それは私にもわかりません、いなくなる前日も特に変わった様子もありませんでしたし……」
「なるほどなぁ……」
「――そう。あなたの事情はわかったわ。
なら次の質問よ、あなたはどうしてカイリを巻き込んだりしたの?」
「え―――」
「ちょ、ちょっと待てよヒメカ。別にカノンは俺を巻き込んだわけじゃなくて、俺が勝手に」
「それは訊いた。でもじゃあなんですぐにカイリの元から離れなかったの?
そうしていれば、カイリが危険な目に遭うこともなかった」
「そ、それは……」
「おいヒメカ、今のは言い過ぎだぞ!!」
さすがのカイリも、今の言葉は無視できなかった。
しかし、何故彼女はラティアスに対してそんな言い方をしたのだろうか。
確かに彼女の言い分もわかるし、正論な部分も存在する。
だが、事情を聞いた今でもいつもの彼女ならそんな風に思ったりもしないはずだ。
「あんたは黙ってなさいよ、わたしはラティアスと話してるんだから」
「っ、お前なぁ……カノンだって被害者なのにそんな――」
「――カイリを苦しめる原因になったじゃない、ラティアスは!!!」
「え………?」
ヒメカの悲痛な叫びが、カイリから怒りを消し去った。
「わたしだってわかってるわよ、でも……ラティアスと関わったせいで、カイリが苦しんだのは事実じゃない!!」
「…………」
普段の彼女からは想像もできないくらい、激情に満ちた声色。
そして――頬を伝う涙に言葉を失った。
「ラティアスを助けるために、自分の身がどうなるかわからないのに力を使って……死にそうなくらい顔を歪ませたあなたを見た時のわたしの気持ちがわかるの?
――苦しかった、辛かった。冷静な考えなんてできなくて、カイリが死んだらどうしようって……そんな事ばかり考えた。
その時のわたしの気持ちが、カイリにわかるの?」
ポロポロと涙を流しながら、心中を告白するヒメカを見て、胸が痛んだ。
そして、ここまで自分の事を心配してくれている彼女に対し、軽率な考えを持った自分を殴りたくなった。
「それだけじゃない、カイリは……ずっとわたしに隠し事をしてきた。
どうして、自分の力の事をわたしに話してくれなかったの?」
「そ、それは……」
「そんなにわたしが信用できない? カイリにとって、わたしの存在はその程度なの?」
「違う、そんな事――」
「ならどうしてよ! どうして今までずっと黙ってきたのよ!?
わたしの事が信用できないからでしょ? カイリにとってわたしなんて、自分の秘密を話すに値しない存在だからなんでしょ!?」
「違う!!」
「違わない!!」
「違うって!!」
「違わないよ!!」
「ヒメカ、俺は……」
「――いいよ、別に。わたしが……勝手にわたしがあれこれ考えてバカを見ただけ。
結局、わたしがバカだっただけなのよ……」
「ヒメカ……」
「嫌い。カイリなんて大嫌い、あなたなんて……もう」
「ヒメカ、カイリはヒメカを一番に信頼してるから、一番大切だと思っているから、何も言えなかったんだよ」
涙を流すヒメカに、カグヤはゆっくりとそう口にした。
「一番大切に? ならどうして言ってくれなかったの……?」
「……一番大切だからこそ、言えない事が一杯あるんだと思う。
離れるのが恐いから、自分の事を話して拒絶されるのが嫌だから」
かつて、レイジもカグヤに対してそんな感情を抱いていたと告白された事があった。
自分の能力——人にはない普通ではない能力が持つが故に、正直に話して嫌われたくなかったと。
身近に居る存在だったからこそ、話すのに相当苦労したと話してくれた。
「カイリも、ヒメカに話したいってずっと苦しんできたんだと思う。
身近に居る存在だから話したい、けれど拒絶されたくないから話せない。そんな葛藤の中で、カイリはずっと苦しんできたんだと思う。
だから、ヒメカもそんな事言わないでちゃんとカイリの言葉を聞いてあげて? そうしなきゃ、人の本当の感情なんて誰にもわかんないよ」
自分の頭だけで考えずに、相手の立場になったつもりで歩み寄っていかなければ、絆は生まれない。
かつて父に言われた言葉を、そっくりそのままヒメカへと告げた。
その言葉に効果があったのかは知らない、けれど頑なだったヒメカの心が、ほんの少しだけほぐれてくれたようだ。
「……カイリ。わたしに拒絶されたくなかったから……ずっと話せなかったの?」
「――ああ。情けないけどよ……お前には、本当の意味で嫌われたり拒絶されたくないんだ。
でも、そのせいで苦しめちゃって……ごめん」
深々と頭を下げるカイリ。
「……バカ。カイリの……バカ。わたしが、わたしがそんな事くらいであなたを拒絶すると思ってるの?
たとえあなたが何者だろうとわたしには関係ない、ガサツでデリカシーに欠けてて、セクハラばっかりするけど……わたしは、そんなあなたが……」
「えっ……?」
「な、なんでもないわよ! このバカイリ!!」
赤い顔でそっぽを向くヒメカに、カイリは意味がわからず首を傾げるばかり。
「でも、今回心配を掛けた事と黙っていた事に関しては、ちゃんとした罰を与えなきゃ気が済まないわ!!」
「えー……」
「当たり前でしょ。ほら、さっさと目を閉じて歯を食い縛りなさい」
「ちょっと待て。お前俺に何をする気だ!?」
「いいから、それともこのままでやられたいの?」
「わ、わかったよ……」
納得はできないものの、確かに今回は自分に非がある。
そう思い、カイリは目を閉じ歯を食い縛った。
瞬間――甲高い音がカイリの頬から響き渡った。
ヒメカがカイリの頬を叩いたのだ、それもおもいっきり。
「〜〜〜〜〜っ、お前なぁ……もうちょっと手加減しろよ……」
「ふん、これくらいで許してあげるんだから、感謝してほしいくらいよ」
「ひでぇ……」
抗議の声にもどこ吹く風。
だが、ようやくヒメカの顔に笑顔が戻ったので、カイリもあまり深く考える事はやめにした。
「さてと……2人が仲直りしてひと段落といきたい所だけど……ラティアス、あなたこれからどうするの?」
「……この後も、カントー地方で兄を捜そうと思ってます」
元々その為に来たのだ、どうするもこうするもない。
すると、カイリはあっけらかんとある提案を口にした。
「ならさ、俺達と一緒に来ないか?」
「えっ!?」
「ちょっとカイリ、何言ってるの?」
「えっ、だって俺達色々な所を旅する予定だから、ラティオスの情報も入るかもしれないし。
なにより、またあいつらが現れた時に困るだろ?」
「まあ、それはそうだけど……」
「で、でも……私と一緒にいる事でカイリ達の迷惑に……」
「気にすんな。乗りかかった舟というか、このままじゃ目覚め悪いし」
「……はぁ。別に反対はしないけど、レイジに黙って勝手に決めていいの?」
「大丈夫だって。レイジだってすぐにわかってくれるさ。
――カノン。お前が良ければ俺達はもちろん大歓迎だ、どうする?」
「……本当に、一緒にいていいんですか?」
「そうだよ。言ったろ?大歓迎だって」
ニカッと好感の持てる笑みを浮かべるカイリに、ラティアスは瞳を輝かせ満面の笑みを浮かべた。
「とっても嬉しいです、ありがとうございますマスター!!」
「マ、マスター?」
「はい。私のご主人様ですからマスターです!
さあマスター、私をモンスターボールの中に入れてください」
「お、おぅ……」
面食らいながらも、ラティアスを空のモンスターボールの中に入れるカイリ。
「……俺の手持ちにしてよかったのかな?」
「いいんじゃない。別にわたし達にはこだわりなんてないんだし」
(……伝説のポケモンかぁ、レイジが知ったら驚くだろうなぁ……)
そんな事を考えていると、いきなりラティアスがボールから飛び出してきた。
「ど、どうした?」
「はい、マスターにお礼をするのを忘れていました!」
受け取ってください、そう言いながらラティアスは人間の姿となり。
「え――むぅ!!?」
瞳を閉じ、そのままカイリの唇に自分の唇を重ねてきた。
ほっぺにではない、唇にだ。
カイリは固まり、周りのギャラリーは空気と化す。
「……それではマスター、また後で」
楽しそうに笑い、再びモンスターボールの中へと入っていくラティアス改めカノン。
「…………」
突然の口づけに、カイリは何の反応も返せない。
だが、唇の暖かな感触だけは残っていた。
「わぁ……」
カグヤは少し顔を赤くしながらキスシーンを思い出し。
「なるほど……」
シロナは大胆なカノンの行動に感心している。
だが――ヒメカだけは。
「―――カイリ」
低く冷たい声で、彼の前に立つ。
「ヒ、ヒメカ……な、なんでそんなに怒ってるんだ?」
「べ・つ・に、怒ってなんかないから」
嘘だ、絶対に怒っている。というか完全にキレてる。
そして……。
「カイリの……バカァァァァァッ!!!」
「ギャァァァァッ!!」
カイリの悲鳴が、クチバの街に響き渡る。
今日も世界は平和だったとさ。
「お、俺は……全然平和じゃ……ねえ」
To.Be.Continued...
キャラクター【レイジ】【カグヤ】【カイリ】【ヒメカ】の項目を更新しました。