ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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戦いは終わり、レイジ達は傷を癒していく。
物語は一度立ち止まり、少年達は束の間の休息を満喫する……。


第15話 〜束の間の休息〜

「…………」

 

パイプ椅子に座りながら、少女——カグヤはじっと静かに眠る幼なじみを見つめていた。

傷は深く、巻かれた包帯はただ痛々しい。

しかし呼吸は静かで穏やかなので、いずれ目を覚ましてくれるだろう。

だが――そう思って既に4日という時間が流れた。

だというのに、レイジは目を覚まさず死んだように眠っている。

もしやこのまま目を覚まさないのではないか、ありえない不安ばかりが日に日に大きくなっていく。

 

「っ」

気づけば、強く手の平を握りしめていた。

不安になる心に活を入れながら、彼がいつでも目を覚ましてもいいようにここで……。

「カグヤ、少し休んだらどう?」

背後から聞こえる声に、ゆっくりと振り返る。

そこには優しい笑みを浮かべた女性、シロナが立っていた。

 

「シロナさん……」

「もうずっとまともに寝てないんでしょ?

 気持ちはわかるけど、あなたがちゃんと休まないと元も子もないわ」

「………はい」

わかってる、そんな事は言われなくてもわかっているのだ。

だが、レイジがこのような状態なのに、自分だけが悠長に休んでいるわけにはいかない。

そんなカグヤの心中を感じ取ったのか、シロナはそっとため息をつきつつ彼女を無理矢理立たせた。

 

「シロナさん?」

「いいから休みなさい、あなたがそんなんじゃレイジくんが目を覚ました時、きっと自分を責めるわよ?」

「…………」

確かに彼の性格を考えるとそれも否定できない。

……仕方ない、眠る事はできなそうだけど、ちょっと外の空気を吸ってくる事にしよう。

 

「それじゃあ……レイジの事、お願いします」

「ええ、任せて」

ぺこりと一礼し、カグヤは病室を後にする。

そして彼女がいなくなってから、シロナはそっとため息をついた。

(もぅ……レイジくんの事になると、自分の身体なんて二の次なのね。あの子は)

普通ならば睡眠不足などで倒れていてもおかしくはない。

けれど彼女は、レイジの身を案じる事により気力だけで自分を支えているのだ。

 

――彼女もまた、危うい面を持ち合わしている。

無理矢理にも休ませなければ、今度は彼女が倒れてしまうだろう。

……それにしても、と。シロナは静かに眠るレイジへと視線を向ける。

 

(今、2人っきりなのよね……)

不謹慎とは思いつつ、ついつい口元が緩んでしまうのは仕方ないと自分に言い訳。

先程までカグヤが座っていたパイプ椅子に座り込み、そっと彼の頬に手を添えて撫でる。

顔色は良いし、とりあえずは安心だ。

(……起きていたら、いい雰囲気になったりする可能性もあるけど、それは贅沢ね)

今ここで、ちゃんと彼の体温を感じる事ができる。

彼が生きていると、実感できるだけで充分だ。

頬に添えていた手を移動させ、動かない彼の手を握りしめた。

 

「――早く起きてレイジくん、私も……みんなだって待ってるから」

この言葉が、彼に届きますようにと。

静かな願いを込めて、シロナはレイジの手を握り続けていた。

 

………。

 

ポケモンセンターのソファーに座りながら、カグヤはボーっと景色を眺める。

何も予定はないし、何かをする気も起きない。

「……フニャー」

そんな主人を心配するように、エネコは彼女の足に擦り寄った。

「ありがとうエネコ、でも大丈夫だから」

抱きかかえ、エネコにそう告げる。

何を言っているのかはわからないが、きっと「ならいいけど……」と言っているのだろう。

 

(こんな時、レイジならわかるのにな……)

いつも彼が隣に居てくれたから、ポケモン達の言葉を訳してもらっていた。

けれど、彼がいない今ではエネコの気持ちすらわからない。

「ニャ……ミィ」

チロチロと顔を舐められる。

「あはは、くすぐったいよエネコ」

……また、心配させてしまったのだろうか。

主人の自分がこんな事ではいけない、そう思いカグヤは気持ちを切り替える。

こうしてモヤモヤした感情を抱えたままでは何も変わらない、レイジならばいずれ目を覚まして自分を見てくれる。

ならば、不安に思う事など無意味でしかない。

 

「――よーし。エネコ、今からジムに行くよ!」

「ニャー……?」

どうして? そう言わんばかりに首を傾げるエネコ。

「レイジが目を覚ます前にバッジを手に入れて、驚かせるため!!」

そう答え、いざ出発と立ち上がった瞬間。

「んぶっ」

何かが顔に引っ付き、おもわず変な声を出してしまった。

確認しなくてもわかる、こんな事をするのは……。

 

「――ムウマ。また私の所に来たの?」

引っ付いてきた物体を掴み、引き離すと。

そこにいたのは、予想通り無邪気な笑顔を浮かべたムウマだった。

 

――先の戦いで保護したポケモンの一匹であるこのムウマ

 

正気に戻った他のポケモンと同じく、野生へと帰したのだが……カグヤの何が気に入ったのか、少なくとも1日に一回は彼女の元へやってくるようになったのだ。

カグヤとしても別に嫌というわけではない、しかし……いずれクチバから旅立ってしまうのに、彼女と仲良くなり過ぎるというのは……。

〈一緒に連れてけって言ってるよ、そのムウマ〉

突然頭の中に響いた少女の声。

視線を下に向けると、そこには4日ぶりの再会となるティナが自分達を見上げていた。

 

「ティナ、外に出てきてもいいの?」

レイジのポケモン達は今まで主人を守るためか、モンスターボールから出てこようとはしてこなかった。

〈大丈夫。リオン達もいるしシロナもいる。それに、お父さんもうすぐ起きるから〉

「それ、ホント!?」

〈うん。間違いない、アクセルもそう言ってるから〉

「そ、そっか……よかったぁ〜」

おもわずまた座り込んでしまい、ムウマはそんな彼女の反応に首を傾げている。

とりあえずこれで一安心だ、しかし……。

 

「ねえティナ、今の話ってホント?

 ムウマが一緒に連れて行ってくれって言ったの」

〈本当だよ。ムウマに直接訊いてみれば?〉

「私はレイジと違ってポケモンの言葉はわからないんだけど……ムウマ、私達と一緒に居たいの?」

訪ねると、ムウマはコクコクと何度も頷きを返す。

どうやら本当のようだ、さすがに今の態度なら言葉を理解できなくてもわかる。

それならば、別にこちらが断る理由はない、それに仲間が増えるのはカグヤとしても大歓迎なのだから。

 

「それじゃあよろしくね、ムウマ」

空のモンスターボールを取り出し、ムウマを中に入れた。

〈カグヤ、よかったね〉

「うん! ムウマっていう新しい仲間もできたしレイジも目を覚ますって聞いたし、いいことって続くんだね!」

ピョンピョンと飛び跳ねはしゃぐカグヤ、エネコも彼女の真似をして飛び跳ねている。

どうやら、ようやくいつもの彼女に戻ってくれたようだ。ティナは心の中で安堵する。

やっぱり彼女はこんな風に能天気な彼女で居てほしいものだ。

 

「おーい、カグヤー!」

「あ、カイリ、ヒメカ……と、誰?」

こちらにやってきたカイリとヒメカの後ろに立っている1人の男性。

はて、どこかで見た事があるような気が……。

「OH、忘れられてるとは悲しいデース」

「あ……マチスさん」

思い出した、大会の際にレイジを挑発した片言外国人。

そして、これは後からわかったのだがクチバジムのジムリーダーであるマチスだ。

 

「ごめんなさいマチスさん」

「イエ、謝らなくてもいいデース。それよりお礼をするのが遅れてしまってこっちこそごめんなさいネ」

「お礼……?」

「ハイ。このクチバの街を救ってくださった英雄であるボーイ&ガール達にささやかながらもお礼がしたかったのデスが、復興作業などに追われて今まで顔を出せなかったんですヨ」

「え、英雄って……私達はそんな凄いものじゃないですよ」

そもそもあの戦いだってレイジがいなければ負けていたのだ。

しかし、そんなカグヤの言葉にもマチスは首を振り否定する。

 

「そんな事ありまセン、実際にクチバの街を救ってくれたのは事実。

 だから、こんなお礼しかできませんが許してくだサーイ」

そう言いながら、マチスはカグヤにあるものを手渡す。

すると、カグヤの表情が驚きのものに変わった。

「こ、これ……バッジじゃないですか!!」

そう、マチスが渡してきたものは、ジムリーダーに勝利した者の証であるジムバッジだった。

 

「戦わなくてもわかります、キミ達はバッジを受け取るに相応しい子ども達だと。

 ですからどうか、これを受け取ってくだサイ」

「カグヤ、くれるって言うんだから貰っておこうぜ?」

「…………」

まあ、確かにバッジを貰えるというのは素直に嬉しいが……まさかこんなゲットになるとは。

少し複雑な気分になりつつも、カグヤは素直に受け取りバッジフォルダにオレンジバッジを入れた。

 

「そしてまだ眠っているボーイにも渡しておいてくだサイ。

 ミーが直接渡したいのですが、これでも忙しい身の上ですのデ」

「わかりました。レイジにはちゃんと渡しておきます」

そう言うと、ではマタと言いながらマチスはポケモンセンターを出て行った。

……これでバッジは3つになり、あと1つでポケモンリーグへの出場権を得る事ができる。

大会まであと7ヶ月近くもある、これならばきっと楽勝だろう。

 

「へへ……これであと2つになったな」

「この調子なら、きっと余裕を持ってリーグ戦に望めそうね」

「うん………」

不思議なもので、ついこの間死にそうな目に遭ったというのに、今でもその危険性はあるのに、胸を占めるのは早くポケモンリーグに出場して楽しいバトルがしたいという気持ちだけ。

(……そっか)

きっと、信じているから安心できるのだ。

みんなを信じ、そして他ならぬ自分自身を信じているからこそ、不安など抱かない。

(……来るなら来てみなさい、次は絶対に返り討ちにしてやるんだから)

内側で闘志を燃やしながら、カグヤは決意する。

次は絶対に負けない、と。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

――沈んでいく。

視界に広がるのは、蒼穹の空。

 

ぶくぶく、ぶくぶく。

 

空がだんだん遠ざかっていき、自分の身体が沈んでいくのが、わかる。

感覚は、ない。

生きている実感も、死んでいる実感も存在せず、ただ黙ってこの海に身を任せていた。

 

ここは何処だろう、僕は誰だろう。

何一つわからない真っ白な心は、この世界にとってどういった意味を持っているのか。

時も空間も、そして世界そのものも今この瞬間を生きている。

滅びの道、様々な未来を抱えながらも、危ういバランスの上に成り立ったこの世界は。

 

何故――こんなにも儚くも美しいのか。

 

生物が生まれ、育ち、そして死ぬ。

気が遠くなるほどの長い年月の中、そのサイクルだけはずっと守られてきた。

生きとし生ける者達の定め、それを――ひたすらに尊いを感じた。

だが、それでもあの世界は不完全だ。

人という生き物と、人にポケモンと呼ばれる生き物。

互いに共存し合い、助け合っていく未来は……まだ遠い。

いつの世、いつの時代も人は過ちに気づかぬまま罪を犯す。

何千、何万という悲しみと未来が塗り潰され、その罪の積み重ねの上に今が在る。

 

――果たして、その今に価値があるのだろうか。

 

果たして、“私”が生み出したこの世界に、価値があるのだろうか。

その答えは、まだ出せない。

答えを出すには、人間はまだ………。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「…………」

長い、夢を見ていたような気がする。

内容は思い出せず、そもそも本当に夢を見ていたのかすら疑わしい。

ここはどこだろう、そう思いレイジは上半身だけ起こすと。

「……………」

自分から見て左側にはシロナ、そして右側にはカグヤが、それぞれ自分の手を握りしめて眠っていた。

ちなみにこれでもかと力を入れられており、少し痛い。

外を見るとまだぼんやりと暗く、おそらく早朝といった時間帯だろう。

 

(………生きてる)

何故自分は病院服で眠っているのかをすぐに理解し、あの戦いに勝ち残れた事も自覚する。

それにみんなも無事でいいことずくめ、文句の付けようのない結果になってくれたようだ。

2人を起こさないように手を離し、ベッドから降りる。

(身体、軽い……)

まだ思考はボンヤリしているものの、身体の調子はすこぶる良いようだ。

 

「……まったく」

ため息をつきながら、ベッドに身体を預けて眠っている2人にショールを掛けてあげた。

「ありがとう」

一言お礼を告げて、レイジは散歩でもしようと思い静かに病室を後にしたのだった。

 

………。

 

「――なるほどね。僕が寝てる間に色々あったんだ」

 

数時間後。

目が覚めた事に喜ぶ4人を尻目に、自分が寝てる間に何があったのか説明を求めたレイジ。

ちなみに現在は病院を出て、ポケモンセンターの談話室に移動している。

「ラティアス……カノンがカイリの、そしてあの時のムウマがカグヤの手持ちになって、おまけに街を救ったお礼としてジムバッジを貰って……」

「ちなみにジムバッジは返品不可だって」

「あ、そう……」

なかなかに濃いイベントを終えたようだ。

 

「さて……そういう事ならそろそろ行くとしようか」

気力体力共に万全、おまけに旅の準備も終わってるのならば、これ以上ここに留まっている理由などない。

それに、カグヤ達から聞いたのだが街の人達は自分達の事を英雄扱いしているという話だ。

目立ちたくないレイジにとって、そんな事実は苦痛でしかない。

 

「そうだな。そんじゃまあ……行くとしますか」

「レイジくん、次はどこに行くつもりなの?」

「そうですね……タマムシ辺りにでも」

タマムシシティはデパートがある大きな街だ、それに何よりジムがある。

 

「なるほど……タマムシね」

「言っておきますけどシロナさん、いい加減帰らないとチャンピオンなんですから怒られますよ?」

「わ、わかってる。ちゃんと帰るから……」

露骨に残念そうな表情を浮かべるシロナに、全員苦笑。

外に出て、ボールからガブリアスを出すシロナ。

 

「それじゃあレイジくん、カグヤ、カイリ、ヒメカ、道中気をつけてね? それとジム戦、頑張って」

「わかりました」

「うーっす」

「ありがとうございます」

「はーい!」

「あ、そうだカグヤ」

「なんですか?」

 

「……レイジくんの事、お願いね? それと、抜け駆けするのはナシだからね」

「???」

彼女の言っている意味がわからず、頭の上に何個も?マークを浮かべるカグヤ。

しかし、カイリとヒメカはその言葉の意味を理解し、同情するようにレイジの肩を叩いた。

「お前も大変だよな」

「苦労するわね……」

「は?」

当のレイジは、2人の言っている事がわからず混乱するばかり。

 

「じゃあね!」

ガブリアスの背中に乗り、あっという間に空へと消えていくシロナ。

「よくわかんないけど任されちゃった」

「どちらかと言えば僕に言うべき台詞だと思うけどね」

「むっ、それって私の方がレイジより頼りないってこと?」

「さあ……どうだろうね?」

皮肉めいた口調に、頬を膨らませながらポカポカとレイジを攻撃するカグヤ。

それを軽くいなしながら、前と同じような笑顔を浮かべるレイジ。

 

「やれやれ……あいつも鈍いよな」

「……あなたもね」

「何か言ったか?」

「べ、別に!!」

 

 

――こうして、再びカントー地方の旅を進めるレイジ達。

 

だが、今回の事件で多くの謎が生まれてしまった。

 

――行方をくらませているラティオス。

 

――ロケット団という組織。

 

――そして、レイジが見せたあの力。

 

物語は少しずつ、けれど確実に動きを見せていた。

彼等の知らぬ所で、ひっそりと……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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