ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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クチバシティを離れ、次のジムがあるタマムシシティへと旅を続けるレイジ達。
道中何事もなく、無事タマムシシティへと辿り着いたようだが……。


第16話 〜カグヤの女の子計画!〜

「ほぇー……」

「でけぇ……」

大きく口を開け、呆けた表情を見せるカグヤとカイリ。

後ろにいるレイジとヒメカは、そんな2人にため息をつく。

「ちょっと、田舎者丸出しだからやめてよ……」

「いいじゃねえか。実際田舎者だろ?」

「そういう問題じゃないの……」

 

「レイジ、やっぱりタマムシシティは大きいね。さすがカントー地方一番の都市だよ!」

「正確には一番じゃないよ、ヤマブキシティがあるじゃないか」

「そうなの? まあ細かい事は気にしない気にしない」

「よっしゃ、まずはデパートに行くぞー!!」

「おーっ!!」

言うやいなや、さっさと走っていってしまうカグヤとカイリ。

 

「……わたし、休みたいんだけど」

「僕もだよ。ったく……ここ数日疲れただの何だの言ってたくせに、街に着いたと思ったらこれだ」

クチバを出発して二週間、はじめは2人も持ち前の無駄な明るさで普通に進んでいたのだが……だんだんと飽きてきたのか、我が儘を言い出した時が一番堪えた。

まあカイリはヒメカにお仕置きされてどうにかなったし、カグヤの方も冷たい態度をとったら渋々ついてきたから、まだ良かった。

だが、それでもレイジ達にとって疲れた事には変わりない。

 

「仕方ない……ヒメカ、悪いけどセンターで部屋をとっておいてくれないか? 僕はその間にアレを連れ戻してくるから」

「わかったわ。……けど、本当にお互い苦労するわね」

「昔からこうだから、もう慣れたよ」

「……わたしも」

互いに笑みを浮かべ、レイジはカグヤ達を追いかけ、ヒメカはポケモンセンターへと足を運んだのだった。

 

「でけぇ……これがタマムシデパートか」

「私、デパートなんて初めてだよ!」

「俺もだ。よーし、じゃあさっそく」

「ヒカリ、10万……だと危ないから、100ボルトくらいで」

「ピカ……チュウウ」

「んにゃぁっ!?」

「うやわぁっ!?」

背後から容赦なく電撃を食らわせるヒカリ。

呻き声を上げながら、2人はその場で倒れてしまった。

 

「お、お前なぁ……いきなり電撃をかます奴があるかよ……」

「うぅ……し、痺れる」

「勝手な行動をする2人が悪い、自業自得だ。

 それとも……10万ボルトの方がよかったのかな?」

低く冷たい声でそう告げるレイジの表情は、はっきり言って恐ろしい。

笑顔なのだ、しかも目がまったく笑っていない。

ヒカリもいつでも電撃を放てるようにスタンバイしている辺り、余計な事を言ったら間違いなく10万ボルトどころかボルテッカーの刑になる。

 

「ご、ごめん……」

「わ、わりぃ……」

だから素直に謝った、さすがの2人もレイジの威圧感に反抗する力はない。

「ったく……こっちは疲れてるんだから、あまり苦労させないでよ」

「なんで疲れてるの?」

「ヒカリ、自覚できてないカグヤにかみなりを落としてあげなさい」

「嘘です嘘!! 私が旅の道中にあーだこーだ文句を言ったからです。 全部私が悪かったので許してくださいお願いします!!」

「わかればよろしい」

有無を言わせぬ笑みを見せられては、逆らうだけ寿命を減らすようなものだ。

 

(こういうヤツって、怒らせるとホントに恐いよな……)

「ほら、まずはポケモンセンターに行ってみんなの回復をしてあげなきゃダメじゃないか。

 デパートに行きたいのはわかったから、まずはそれをしなさい」

「はーい」

「うぃーす」

(やれやれ……)

本当にわかっているのだろうか、この二人は。

相変わらず忙しないカグヤ達に、最近多くなったと思いながら、レイジはため息をついたのだった。

 

………。

 

「レイジ。ほら見て、すごい商品の数だね!」

「そうだね」

「見てみろよヒメカ、トレーナー専用の商品コーナーがあるぜ。

 さすがデパートだよな、フレンドリィショップとは規模が違うよ」

「わかったから大声出さないで、恥ずかしい」

 

結局、ポケモン達の回復が終わった後、レイジ達は揃ってデパートへと赴いていた。

というのも、カグヤとカイリが無理矢理2人を連れ出したのだ。

もちろん抵抗した2人だったが、長年の経験から抵抗しても無駄だと悟りもはや諦めモード。

しかし、2人なりに息抜きをしようとしているのがわかっているので、そこまで嫌というわけではない。

 

「…………」

無邪気にはしゃぐカグヤ達から離れ、ヒメカはとある売り場へと足を運ぶ。

そこには口紅やマスカラなどが並べられている、所謂化粧品コーナーだ。

ヒメカとて年頃の少女、旅をしているとはいえ人並みにお洒落を楽しみたいと思っている。

このタマムシデパートには、沢山の商品が売られており……ヒメカにとっても退屈する事はなさそうだ。

 

「へぇー、化粧品にも色々あるんだね」

「……カグヤ。カイリとレイジは?」

「わかんない。でもきっとトレーナー専用売り場に居るんじゃない? それより、これって何?」

商品の一つに手を取り、ヒメカに見せるカグヤ。

「それはマスカラよ」

「マスカラって、振るとシャカシャカって音がするアレ?」

「それはマラカス。……わざと言ってるの?」

だとしたら笑えない、これっぽっちも。

 

「そういうわけじゃないよ、でもこれって何に使うの?」

「えっ……知らないの?」

「知らないよー。そもそも化粧なんかした事ないもん」

そういえば、カグヤの顔は化粧っ気がない。

だが、これくらいの年頃なら自然と化粧に興味を持つと思うのだが……。

 

「で、マラカス……じゃなかった、マスカラって何?」

「まつげを濃くしたり長く見せたりする化粧品よ」

「なんでまつげを濃くしたり長く見せたりするの?」

「それもお洒落なの。目をパッチリ見せたりする為に使うのよ」

「ふーん……変なの」

「カグヤ、それ男が言うならわかるけど……女の子にしては珍しいわね」

15歳と言っていたが、精神年齢はもっと幼いのかもしれない。

そんな事を考えていると、また違う商品を手に取り見せてきた。

 

「これは?」

「それはマニキュア……って、マニキュアも知らないの?」

「うん。あ……でもお母さんがよく爪に落書きしてる時に同じようなもの使ってたかな」

(落書き……)

どうやらマジのマジで化粧品の知識は皆無のようだ、今の暴言ともとれる言葉でよくわかった。

しかし、そう思うとなんだか勿体ないと思ってしまう。

カグヤの顔立ちはかなり整っているし、ナチュラルメイクを施せばかなり綺麗になるだろう。

 

「ねえカグヤ、興味あるなら化粧してみない?」

「いいよー、私そんなの必要ないし」

「……カグヤは自分を可愛く見せたいとか思った事は無いの?」

「ないよ。だって必要あるとは思えないし」

(……この子、本当に女の子なのかしら)

かなり失礼な物言いだが、ついそう思ってしまうのも仕方ないかもしれない。

しかし、そんな事を言われると俄然化粧に興味を持ってもらいたいと思ってしまう。

今まで男のカイリと旅をしてきたのだ、女の子特有の話題を共感できる仲間を増やしておくのも悪くない。

 

「……なんか、良い匂いするね」

「香水の匂いね。……行ってみる?」

「うん。良い匂いは大好きだから」

(よし……)

ここで香水に興味を持たせ、いずれ化粧にも興味を持たせよう。

内なる野望を抱きつつ、ヒメカはカグヤを連れて香水コーナーへ。

 

「香水っていっぱい種類があるんだね」

「カグヤはどんなのが好み?」

「うーん……どんなのって言われても、よくわかんないよ」

「じゃあこれは? メガニウムの花びらから採取した成分を使った香水ですって」

「へぇ……ベイリーフの匂いとは違うね」

「ベイリーフは元気が出る匂いを発するけど、メガニウムのは気持ちを穏やかにする匂いを発するみたいよ」

「良い匂い……」

どうやら気に入ったようだ、計画は順調に進行している。

 

「他にはどんな香水があるのかな?」

「えっと――あっ」

「キャッ」

同じ話題を共有できた嬉しさからか、前を見ておらず人とぶつかってしまった。

「ごめんなさい。余所見をしていたから……」

「いえ。こちらこそ申し訳ありません、お怪我はありませんでしたでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

そう答えると、よかったとぶつかってしまった相手は安心したような表情を向ける。

自分達よりも少し年上くらいか、短く切りそろえた髪にカチューシャをして、花柄の着物がよく似合う美少女。

 

「はじめまして、わたくしはエリカと申します」

「わたしはヒメカ、そしてこちらは――」

「カグヤです、はじめまして」

「……見た所、香水に興味がお有りのようですね」

「うーん、良い匂いは好きですけど……香水自体には特に興味ないです」

「まぁ……ですが自分を美しく見せたり殿方に好感を抱いてもらう為にも必要な事ですよ?

 カグヤさんにはそのような御方はいらっしゃらないのですか?」

「えっ、そんなの――」

 

言いかけて、何故かレイジの顔が思い浮かんだ。

 

(あれ……?)

どうして彼の顔が頭の中に浮かんだのだろう、それに……なんだか変だ。

自分が化粧をしたり香水を付けたりして、レイジが褒めてくれたら嬉しいとか、考えてしまった。

「……カグヤさん?」

「あ、いえ……そういう人はいないです」

「そうですか。ですが自分を美しく見せる事は大事だと思いますよ。

 ですから、ものは試しと経験してみてはいかがですか?」

「えっ、でも……無駄遣いするわけにはいかないし……」

「心配には及びません、わたくしのジムでは無料体験をやっておりますので。 

 それにカグヤさんのようなお綺麗な方がお洒落をしないのは勿体ないですわ」

「えっ……ジム?」

「はい。実はわたくしタマムシシティのジムリーダーなんですよ」

 

………。

 

タマムシジムの内部は、草ポケモンを主体とするだけあって、緑に溢れた美しい所だった。

ジムリーダーに連れられてきたものの、なんだか目的が違うような気がしなくもない。

 

「そうでしたか。お二人はポケモントレーナーで、わたくしに挑戦したいと?」

「はい、そうです」

「もちろん挑戦は受けさせていただきます。ですが……その前にお洒落をしましょう」

楽しそうに笑みを浮かべるエリカに、カグヤの顔が少し引きつる。

別に自分はお洒落に興味はない、それよりもジムリーダーと戦ってバッジをゲットしたいのだが……。

ニコニコと笑顔を浮かべているエリカを見ると、何故か拒否できない。

チラリとヒメカへ視線を送るが、彼女は何も言わずに。

 

―――何事も経験よ。

そう言わんばかりの視線を送っていた。

 

(はぁ……化粧なんて別にいいのに……)

そう思いながらも、せっかくの厚意を無碍にするわけにはいかないので、とりあえずおとなしくする事に。

「カグヤさん、きっと今よりお綺麗になりますわ。あらゆる殿方を魅了するくらいに」

「はあ……」

別に必要ない、そんな言葉が喉元まで出掛かって慌てて口を塞ぐ。

………でも。

 

(あらゆる殿方……)

その中には、レイジも入っているのだろうか。

つまり……自分が化粧やお洒落をすれば、レイジは自分を褒めてくれるというのか……。

……そう思うと、不思議と嫌だという気持ちが薄れていった。

「……ふふっ」

「?」

「カグヤさん、気になる殿方がいらっしゃるようですわね」

「えっ……」

どうして、そんな疑問を視線に乗せてエリカに向けると。

 

「だって、急に抵抗しなくなりましたから。

 好きな殿方に褒められる所でも想像しましたか?」

ニコニコ笑いながら、とんでもない事を口走ってくるエリカ。

しかも当たってる辺り、なんだか凄いを通り越して恐い。

「違いました?」

「別にレイジはそういう人じゃ……」

「レイジさんというのですね」

「いや、だからレイジはただの幼なじみですよ。もちろん大好きな人ですけど……」

「大好きですのに、異性としてではないんですの?」

「えっと……」

どうしてガールズトークをしなければならないのか。

それに……カグヤ自身レイジの事をどう思っているのかわからないのだ。

大好きなのは間違いない、それは絶対に確信を持った気持ちだ。

しかし、ずっと家族として一緒に居た相手だから、それが異性として想いなのかどうか……。

 

「――御自分の気持ちがわからなければ、今はそのままでいいと思います」

「……エリカさん」

「カグヤさんは、わたくしと似ている所がありますから、なんとなくわかってしまうんです。

 ですから、今はただその「好き」という気持ちだけを大切にしていればいいと思いますよ」

ふわりと、柔らかい微笑みを見せてくれるエリカ。

……少しだけ、自分の中にある不思議な感情の正体が、わかったような気がした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――おっせえなぁ、あいつらいつまで買い物してんだよ」

ポケモンセンターの宿泊施設にあるベッドに座りながら、愚痴を零すカイリ。

「仕方ないよ。女の子って買い物が長いものなんでしょ?」

あいにくとカグヤはそのタイプには当てはまらないが、女性というのはそういうものだという認識がある。

そう思いカイリを宥めるレイジだが、それでも文句を呟くカイリ。

 

(やれやれ……)

しかし、たしかに遅い。

女の子同士色々あるのだろうか、どちらにしろ男にはわからない事もあると自分を納得させる。

と。ノックする音が扉から聞こえた。

「? どうぞ?」

承諾すると、部屋に入ってきたのは……。

 

「ヒメカ?」

「やっぱりセンターに戻ってたのね」

「どうしたの? それとカグヤは?」

訊くと、何故かヒメカはイタズラっぽい笑みを見せてきた。

「ちょっと来てくれないかしら? レイジに見せたいものがあるの」

「……僕に?」

首を傾げると、ヒメカはいいから来なさいと言いながら半強制的にレイジを部屋から連れ出した。

その迫力に圧され、レイジは困惑しながらも黙ってヒメカの後についていく。

そして案内された所は、タマムシシティのジム。

 

「なんだよヒメカ、お前等俺達に黙ってジムに挑戦してたのか?」

「違うわよ。……せいぜい驚かないように気をつけなさい、レイジ」

「えっ……?」

その言葉の意味を訊く前に、さっさと扉を開き中に入っていくヒメカ。

「……何なんだ?」

「……とりあえず、入ってみよう」

訝しげな表情のまま、カイリと共にジムへと入るレイジ。

入った瞬間、花の香りが鼻孔を刺激した。

 

「緑と花に溢れた綺麗な場所だな」

「ありがとうございます、レイジさん、カイリさん」

「へ……?」

真正面からこちらに歩いてくる1人の女性。

(―――強い)

一見すると儚げな印象が強い女性だが、その内側から感じる力は並の者ではない。

この人がジムリーダーだ、レイジはすぐさま理解し身構える。

 

「えっと……どちらがレイジさんでしょうか?」

「……僕ですけど」

「貴方が……なるほど、カグヤさんが仰った通り優しい印象の方ですわね」

「はあ……どうも」

おもわず返事を返すが、こちらとしてはどういう事なのか説明してほしかった。

 

「あの……カグヤは?」

「あらあら、わたくしってば一方的にお話をしてしまって……。

 実はカグヤさんとヒメカさんとはデパートでお会いしまして、とある理由でわたくしのジムに招いたのです」

「とある理由……?」

「はい。実はカグヤさんはお洒落に興味がないという事でしたので、わたくし達がカグヤさんをコーディネート致しまして」

「はあ……」

「先程遂にそれが完了しまして、今回はそんなカグヤさんを是非レイジさんにお見せしたいと思ったんです」

「…………」

とりあえず、ここに連れてこられた理由はわかった。

しかし……カグヤがお洒落とは、なんだか想像つかない。

 

「それでは……カグヤさん、レイジさんがいらっしゃいましたよ?」

「ほ、本当に連れてきたんですか!?」

奥から聞こえる悲鳴じみたカグヤの声。

どうやら、自分をここに連れてくるという考えはヒメカとエリカの独断らしい。

「そんなに恥ずかしがらなくても……とっても綺麗なんだから」

「うぅ〜……でも、何かレイジに見せるのはちょっと……」

「はいはい。いいから出てきなさい」

問答無用とばかりに奥からカグヤを引っ張ってくるヒメカ。

 

「――――」

そして、出てきた彼女を見て、レイジは言葉を失ってしまった。

「うぅ……」

恥ずかしそうにしきりにこちらをちらちらと盗み見てくるカグヤ。

しかし彼女の服装は、いつもと違い――着物姿だった。

黄色の生地に、エリカと同じく花柄が彩られた美しい着物。

長い栗色の髪は結われ、翡翠色のかんざしが際立っている。

薄く化粧でもしたのか、とにかくいつもの彼女とはあきらかに違っていた。

普段の彼女とは違い、もう女の子としか見られない。

 

「――――」

息が、できない。

心臓の音が響き、全身に熱を帯びていく。

「っ、も、もうこれ以上は見ないで!!

 似合ってないってわかってるし……で、でも私が着たいって言ったわけじゃないよ?

 ヒメカとエリカさんが「何事も経験」だなんて言ったから……」

「あ、いや、ちが――」

「ど、どうもお見苦しいものをお、お見せしました!!」

自分でも何を言っているのかわからず、カグヤはレイジから全速力で逃げようとし。

「待って!!」

とっさに彼はカグヤの手を掴み、自分の所へと引き寄せた。

 

「――――」

「――――」

両者の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。

けれど、どちらも互いから離れず、端から見ると抱き合っているようにしか見えない。

恥ずかしくて、死んでしまいそうだ。

心臓だって破裂しそうだと本気で思いながら、レイジは伝えたいと思った言葉を口にする。

 

「――似合ってる。綺麗だよ」

「えっ………」

おもわず、レイジの顔を見つめるカグヤ。

顔を真っ赤に染めながらも、彼は真剣な表情でそう口にする。

「びっくりして何も言えなかっただけで、本当に似合ってると思ってるから……」

「…………」

予想できなかった言葉、けれどカグヤが一番ほしかった言葉。

それを聞いて、彼女の中に嬉しいという気持ちが溢れる。

 

「――ありがとう、レイジ」

あなたに言われた言葉が、一番嬉しい。

声には出さず、そっと彼の背中に手を回す。

こんな事、慣れているはずなのに……なんだかいつもより嬉しかった。

 

「……うへぇ、マジで驚いたなアレ。完全に別人みてえだ」

「化粧をすれば女はあそこまで変わるのよ。

 まあ、カグヤは今まで化粧なんかした事なかったから、余計にそう感じるんでしょうけど」

「……お前は着物着なかったのか?」

「わたしが着てもしょうがないじゃない」

「そうかなぁ……俺はよく似合うと思うけどな」

「―――っ」

 

それは、カイリにとって何気ない一言だったのかもしれない。

だが、そんな彼に淡い想いを抱いているヒメカにとって、爆弾にも等しい衝撃だ。

一瞬で顔を真っ赤にし、直立不動になってしまう。

 

「う、ぁ、えっと……あ、あんた、それは」

つまり、自分の着物姿を見てみたいという事だろうか……?

もしそうなら――見てほしい。

そして、少しでも自分を女の子としてもらいたい。

……のだが。

 

「あ、でもお前胸がデカいから着物を綺麗に着る事はできないか」

と、凄まじい暴言のせいですべて台無しになってしまった。

 

「…………」

ああ……千年の恋も冷めていくような。

だが仕方ない、このセクハラもカイリという少年の持ち味……みたいなものだ。

しかし敢えて言いたい、というか言わせろ。

「この………バカイリィィィィィッ!!!」

「んぎゃぁぁぁぁすっ!!!!」

酷い悲鳴がジム内に響き渡り、自業自得の男は地面に頭から埋まってしまった。

 

「あらあらまあまあ」

そんな2人を見つめながら、楽しそうに笑うエリカ。

……彼女もなかなかに食えない人物である。

ジム内に漂う和やかな雰囲気により、周りにいる人達も笑顔を浮かべていた。

 

 

――突然、ジム全体に響き渡る程の大きな音が聞こえるまでは。

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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