ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
果たして、彼は勝つ事ができるのであろうか……。
「あなたで最後です……お行きなさい、ダーテング!!」
エリカ最後のポケモンはダーテング。
「ダーテング……あれもホウエン地方に生息するポケモンみたいだね」
「うわ……なんか凶悪な顔だな」
「あれも例に漏れず強そうだけど……」
果たして、レイジは何を出すのか。
レイジにはまだ二体ポケモンが残っているが、選択を誤れば負ける可能性も充分に考えられる。
そんな中、レイジが出したポケモンは。
「アクセル!!」
(……やっぱり)
カグヤの予想通り、かくとうタイプであるアクセルを出してきた。
エリカも予想していたのだろう、その顔には焦りなどの色は見えない。
「アクセル、きあいだまだ!!」
すぐさま指示を出し、ダーテングにきあいだまが向かっていく。
「ダーテング、ふきとばしなさい!」
それを軽々と、手に持つ葉で吹き飛ばし、きあいだまはフィールドの地面を破壊し消えた。
「間合いを詰めて!!」
地を蹴り、一息でダーテングとの間合いを詰めるアクセル。
「とびひざげり!!」
〈ハッ―――!〉
裂帛の気合いを込め、放たれるアクセルのとびひざげり。
それを、ダーテングは無造作な動きで回避する。
「きあいパンチ!!」
〈ハァァァァッ!!!〉
凄まじい速度で放たれるきあいパンチ。
それは間違いなくダーテングに命中――するはずだった。
〈なっ――〉
ひょいっと、本当に何気ない動きだけで、アクセルの攻撃が簡単に回避される。
力を込めていた為、完全に隙ができるアクセル。
それを――エリカが見逃すはずがなかった。
「ダーテング、メガトンキック」
「ダー、テンッ!!!」
〈がは――っ!?〉
メキッと嫌な音を響かせながら、ダーテングの足がアクセルの腹部に深々と突き刺さる。
たまらず、小柄な身体のアクセルが宙に浮き。
「つばめがえし」
風切り音を響かせ、アクセルの身体を横一文字に薙ぎ払った。
「アクセル!!」
うつ伏せで地面に倒れ、レイジの声にも反応しないアクセル。
弱点であるひこうタイプの技を受けたのだ、アクセルのダメージは甚大だろう。
戦闘不能か、誰もがそう思った瞬間。
〈ぐっ、ぁ……〉
よろよろとおぼつかないながらも、アクセルはどうにか立ち上がった。
「アクセル……」
〈ち、父上……僕は、まだ…た、戦えます〉
「…………」
どう見ても、戦えるようには見えない。
だがそれでも、レイジはアクセルの気持ちを汲み取り頷きを返す。
「はどうだんだ!!」
近距離ではこちらが不利だ、そう判断し遠距離戦に持ち込むレイジとアクセル。
はどうだんが放たれ、それは真っ直ぐダーテングへと向かっていくが。
「ふきとばしなさい」
エリカのその一言で、はどうだんの軌道は大きく逸れ地面を削り消え去った。
「くっ……」
「まだまだそのリオルは未熟です、確かにパワーだけならばわたくしのダーテングと同等かもしれませんが……それ以外の能力はまだまだ発展途上ですね」
容赦のないエリカの言葉に、レイジは反論を返す事ができない。
そう、アクセルはレイジの手持ちの中ではまだ未熟だ。
彼が努力家で毎日鍛錬を続けているといっても、それだけで本当に強くなれるわけではない。
戦いの駆け引き、間合いの詰め方、自身の戦況と相手の力量。
それらを全ては度重なる戦闘によって培われ成長していくものだ、しかしまだ彼の経験数は少ない。
だが対するダーテングの力量は、完全にアクセルを上回っている。
「ダーテング、勝負を決めなさい」
命を受け、はっぱカッターを繰り出すダーテング
「避けるんだ!!」
〈くっ………〉
足に力を込め、どうにか四方八方から襲いかかってくるはっぱカッターを回避するアクセル。
しかし、それも一体いつまで保つか……足は震え見るからに苦しそうだ。
「あなをほる」
フィールドに頭から突っ込み、地面に潜るダーテング。
「勝負を仕掛ける気だ………!」
〈ど、どこに……〉
「アクセル、全力のインファイトを地面に向かって放つんだ!!」
「なっ――」
〈えっ……!?〉
「僕を信じてくれ。アクセル!!」
〈は、はい!!〉
正直、レイジの意図がまったく理解できない。
だが彼が信じろと言ったのならば、あれこれ考えずに行動に移るのみ!!
〈オォォォォッ!!〉
雄叫びを上げ、地面に目にも止まらぬ速さの拳を叩き込んでいく。
それはフィールドを破壊し、まるで地震のように揺らす。
そして――アクセルの拳が地面とは違う何かを捉えた。
「ダーテング!!」
アクセルの目の前に現れるダーテング。
だが、なんだか様子がおかしい。
地面を潜っていただけだというのに、苦しそうな表情を浮かべていた。
「まさか………!」
様子のおかしいダーテングに、エリカはようやく理由を突き止める。
〈くっ………!!〉
苦しげに放たれたダーテングの一撃を、紙一重で回避する事に成功するアクセル。
――ダーテングの奇襲は上手くいくはずだった
あれだけのダメージを受けた相手ならば、まともに回避する隙も与えぬまま勝負を終わらせられるはずだったのだ。
しかし、先程アクセルが地面に放ったインファイト。
その凄まじい破壊力によってフィールドが揺れ、背後から奇襲を仕掛けようとしたダーテングの思惑は外れ、アクセルの正面に移動させられたのだ。
それだけではなく、彼のインファイトを地面の中で数発受けてしまった。
エリカの指示を聞き地面から出たものの……ダメージがあった為に紙一重で避けられた。
すぐさま体勢を立て直そうとするダーテングだが、既に眼前ではアクセルがはどうだんの構えをとっており。
〈はっ――!〉
迷う事なくアクセルのはどうだんがダーテングを捉え、地面を削りながら吹き飛ばしていった。
(今だ………!)
勝負をつけるにはこのタイミングでしかない。
これを逃せば最後、アクセルに勝ち目などないのだから。
「アクセル! 『テトラコンビネーション』だ!」
〈はい!!〉
片膝と両手を地面に置き、力を溜め始めるアクセル。
「テトラコンビネーション……?」
聞いた事などまったくない技だ、そんなものポケモンの技であったかとカイリは首を傾げる。
「……レイジ、あれを使うんだ」
しかし、3人の中でカグヤだけが彼の心中を理解していた。
「カグヤ、その技は一体……」
「見てればわかるよ。……あれがレイジとアクセルにしかできない必殺技」
〈っ、は――っ!!!〉
充分に力を込め、まるで推進剤を使ったかのような速さで、アクセルはダーテングとの間合いを一息で詰めた。
「ダーテング、タネマシンガン!!」
さすがというべきか、吹き飛ばされながらもダーテングはしっかりとアクセルに照準を合わせ、タネマシンガンを射出する。
真っ直ぐ向かっていったアクセルには、到底避けられる攻撃ではない。
〈ハァァァァァァ―――デヤァッ!!!〉
だが――アクセルはそのすべてを神速の速さで繰り出された拳で叩き落とす。
ただの拳ではない、それは……ポケモンのわざだ。
(バレットパンチ………!)
「まだだ!!」
今度こそダーテングを守るものはなく、アクセルは吹き飛んでいる彼の背中に蹴りを叩き込み宙へと飛ばす。
(とびひざげり……!?)
それを追い、続いて繰り出された攻撃は。
「スカイアッパー!?」
凄まじい重みを誇るスカイアッパーをまともに受けたダーテングは、抵抗する事もできずに地面へと落下しフィールドを削りながらも尚止まらない。
そして――空中でアクセルは最後の一手の構えを見せていた。
「いっけぇぇぇっ!!」
〈ダァァァァッ!!!〉
放たれたのは、特大のはどうだん。
おそらくこれが全力の一撃だろう、それは吸い込まれるようにダーテングへと向かっていき。
爆音と共に煙が舞い上がり、ダーテングを包み込んだ――
………。
「――僕達の勝ちだ」
「ダーテング、戦闘不能。リオルの勝ち!! よってこの勝負、レイジ選手の勝利!!」
瞬間、周りからは拍手喝采の嵐が。
「アクセル、お疲れ様」
アクセルの元に向かい、労いながら頭を優しく撫でる。
〈父上、僕……強くなりましたか?〉
「もちろんだよ。ありがとうアクセル」
〈は、はい!!〉
嬉しそうに笑うアクセルに笑みを返す。
「……レイジさん」
「エリカさん……」
「完敗ですわ。本当に全力で戦ったのですが……負けました」
「いえ、初めから全力で来られたらわかりませんでしたし……」
「それでも、レイジさんは今のわたくしよりも強いという何よりの証明にです。
――これを、わたくしに勝った証であるレインボーバッジですわ」
「………はい」
エリカの手からレインボーバッジを受け取り、強く握りしめる。
相変わらず、このバッジは重い。
現実の重量ではなく、このバッジに込められた想いがだ。
「ですが、次に戦う時は負けませんわ」
「僕だって、負けません」
笑みを浮かべ合い、固く握手を交わす2人。
こうして、レイジも無事レインボーバッジを手に入れる事ができた。
これで3つ、後一つでポケモンリーグへの挑戦権を得る事ができる。
果たして、次の冒険は彼等に何をもたらすのか。
更なる出会いを求め、彼等の旅は終わらない。
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――翌日。
タマムシシティのポケモンセンター。
その一角にあるソファーで、レイジは読書にいそしんでいた。
そんな彼を見守るように隣で座っているのは、カグヤ……ではなく、彼の最大のパートナーであるサーナイトのティナ。
「レイジ、ティナ」
そんな彼に声を掛ける一人の少女カノン。
いや、正確には人ではなくポケモンなのだがそれはともかく、人間形態の彼女がこちらに近づいてきた。
「カノン、どうしたの?」
「別に特に用があったわけじゃありませんが、暇でしたので」
「カイリは?」
「部屋で眠ってます、マスターも暇なので」
「なるほど……」
だが仕方ない、今日1日は自由行動にしようと決めたのだ。
しかしカイリはカグヤ達のように買い物に行く理由もなく、レイジのように読書をするタイプでもない。
彼のポケモン達も今日は外で遊びたいと言っていたから、彼としてはもう寝る以外の選択肢はないのだろう。
「なら、僕が持ってる本でも貸そうか?」
「いえ、せっかくですが遠慮しておきます」
〈しかし困りましたね、カノンはどうやって暇を潰すおつもりですか?〉
「うーん……」
そう言われても、それについて悩んでいるので答えられない。
……それはそれとして、だが。
〈? わたくしの顔に何か付いていますか?〉
「そういうわけじゃないんですけど……ティナ、なんだか変わったなと思って」
〈進化しましたからね、外見が変わってしまうのは仕方ありませんよ。
でも、もうお父様の頭の上に乗れないと思うと……少し寂しいですね〉
本当に残念そうに愚痴を零すティナ。
勘弁してくれ、レイジは本に目を通しながらそう思った。
ただでさえキルリアの時でも割とキツい時があったのだ、自分と同じくらいの背丈になった彼女に乗られたら首の骨が折れる。
「それはそうなんだけど……それだけじゃなくて、なんだか随分人間に近くなったというか……」
〈そうですか? ですがサーナイトというポケモンは皆外見が人間に近いですし、当たり前ではありませんか?〉
「うぅん。なんかティナは……普通のサーナイトよりも人間に近い気がして……」
「…………」
カノンの言葉を聞き、レイジはポケモン図鑑を取り出す。
そしてサーナイトの項目を選び、ティナと見比べてみると……。
「……本当に、どこか違うね」
〈えっ、本当ですかお父様?〉
見てみなよ、そう言いながらティナ達にポケモン図鑑を渡す。
(やっぱり……ティナはどこか違う)
もちろんティナの外見が、図鑑に書かれたサーナイトとは似ても似つかないというわけではない。
しかし、よく見ると細部が色々と違う。
手と足の指は人間と同じく五本になっているし、胸部にはまるで人間の女性のような膨らみがある。
これはサーナイトにはない特徴だ。
サーナイト最大の特徴ともいえる胸元にある三角の赤い突起物がなければ、人間の女性と言っても通用するかもしれない。
〈……わたくし、なんだか本当に人間みたいですね……〉
図鑑に書かれたサーナイトの外見を見ながら、ティナはおもわずそう口に出す。
「別に関係ないよ。ティナはサーナイトだし、このポケモン図鑑の写真が100%サーナイト全ての外見ってわけじゃないんだ。
だから、別にそんなこと気にしない方がいいよ」
〈お父様……〉
「ティナはティナだ。それで充分だよ」
だから、そんな不安そうな顔になるのはやめてくれ。
口には出さず、視線でそう告げるレイジ。
〈――嬉しいですお父様、ありがとうございます!!〉
「わっ!!」
たまらず嬉しくなり、レイジに抱きつくティナ。
「ちょ、ちょっとティナ……く、苦し……」
今まで小柄だったのだが、サーナイトになった事で包み込まれるように抱きつかれ息苦しい。
しかしティナはそれに気づかず、ニコニコと笑みを浮かべながらラルトスやキルリア時代と同じような感覚で抱きついている。
「…………」
そんな2人の光景を見つつ、カノンは暫し思考に耽っていた。
………。
〈――お父様、なんだか様子がおかしかったですが……どうかしたんでしょうか……〉
(……ティナのせいなんだけどね)
しかしそんな事は口にしない、言った所でティナには通じないからだ。
口調や雰囲気、そして外見も成長したのだが、レイジに甘えたりする所は変わっていないらしい。
ただでさえレイジは年頃の少年だというのに、人間の女性に限りなく近いティナに抱擁されれば、そりゃあ顔も赤くなったり様子がおかしくなったりもする。
おまけに彼女はそれがわかっていないのだから、タチが悪い。
まあそれはともかく、彼女達は現在タマムシシティの近くにある森の中を歩いていた。
レイジが「せっかくだから散歩でもしてきたらどう?」と提案してくれたからだ。
もちろん彼も誘ったのだが、読書をしたいので断られた。
というわけで、現在カノンとティナ、そして彼女達についてきたジャノビーとヒカリの四匹で仲良く歩いている。
〈いい天気だね〉
〈光合成するにはちょうどいいわね〉
ヒカリもジャノビーも木漏れ日を浴びながら、機嫌が良さそうにニコニコと笑っている。
それを優しく見守るティナの表情は、サーナイトになったからか大人びていた。
「……ねえ、ティナ」
〈はい?〉
「ティナって、タマゴの中に居た頃からレイジと一緒にいたんですよね?」
〈そうですよ。お父様はわたくしをいつも大事に育ててくださいました……なんだか懐かしいですね〉
「……でも、どうしてレイジはタマゴのティナと出会ったの?」
〈それが、お父様とわたくしが昔暮らしていた自然の庭園で、お父様がわたくしが入ったタマゴを見つけたのがきっかけだったらしいんです。
ですから、わたくしはおろかお父様もどうしてわたくしがあそこに居たのかわからなくて……〉
「ふーん……」
つまり、ティナもレイジと同じく自分の出生がわからないという事か。
まあカノンとてわからないし、なにより殆どのポケモンは自分の出生がわからないし興味もないので、特別おかしいとは思っていない。
しかし――ティナの外見はあきらかに普通のサーナイトではない。
それに、通常の個体より遥かにサイコパワーも強大であり、その戦闘力も普通ではない。
彼女にもレイジや自分のマスターであるカイリと同じく、何か秘密があるのかもしれない。
それがなんなのかはわからないが、これ以上余計な詮索は彼女を傷つけるだけだと思考を中断させる。
先程レイジが言ったように彼女は彼女だ、それ以外の何者でもない、それでいいではないか。
そう自己完結させ、カノンは素直に散歩を楽しもうとしたのだが。
〈やめなよ! この子ケガしてるんだよ!?〉
〈低俗な事をしないで、同じポケモンとして情けないわ!!〉
少し離れた場所から聞こえてきたヒカリとジャノビーの声に、カノン達は揃ってそちらに向かう。
するとそこには、数匹のラッタやオニスズメを睨んでいるヒカリとジャノビーの姿が。
彼女達の傍には、意外なポケモンが怪我をしているのか倒れている。
〈イーブイ……珍しいですわね。このポケモンがこんな所にいるなんて……〉
〈ティナ、カノン。こいつらこのイーブイをいじめてたんだ!!〉
「何ですって!? こらあなた達、この子が何したっていうのよ!!」
イーブイの前に立ちふさがり、オニスズメ達を睨むカノン。
当のオニスズメ達はカノンを人間だと思っているからか、自分達の言葉を話すカノンに驚愕の表情を浮かべていた。
「今すぐにここからいなくなりなさい!! さもないとヒカリがボルテッカーでお仕置きするわよ!!」
〈ピカがやるの!?〉
〈人任せ……いえ、肝心な所をポケモン任せにしないの〉
後ろで騒いでいるヒカリ達はとりあえず無視。
本気で睨むと、オニスズメ達は気迫に圧されたのかすごすごと森の中に消えていってしまった。
「……ふぅ、疲れた」
〈疲れたって、何もしてないじゃん〉
〈ヒカリ、そういう余計なツッコミは可哀想だからやめておきなさい〉
後ろで好き勝手喚いているヒカリ達をまたも無視し、怪我をしているイーブイの元に。
「大丈夫?」
身体を見るが、浅い傷ばかりなので命に別状はないようだ。
しかしかなり衰弱しているので、とりあえずポケモンセンターに連れて行く事にしよう。
こういう時、トレーナーであるカイリ達ならば上手く立ち回れるのだろうが、あいにくと自分にそんなスキルはない。
すると、突然イーブイの身体が宙に浮き始めた。
〈わたくしがサイコキネシスでセンターまで運びます〉
「あ、ありがとうティナ」
そうだった、そういえば最初からサイコキネシスで運んであげればよかったのだ。
忘れていた自分が、なんだか恥ずかしく思えた。
〈……ボクを、どこに連れていくの?〉
気が付いたのか、弱々しい声でそう訪ねてきた。
自分の事は「ボク」と呼んでいるようだが……どうやら♀のようだ。
「ポケモンセンターよ、あなた随分怪我をしてるから……」
〈ポケモンセンターって、人間の居る所?〉
一気にイーブイの表情が曇る。
それを見て、ティナ達は瞬時に悟った。
このイーブイ、人間が苦手なポケモンだ、と。
〈大丈夫です。危険な人間には近づかせませんし、それにお父様達がいらっしゃいますから〉
〈お父様?〉
〈はい。と言っても人間なのですが……わたくし達の言葉を理解する能力を持ち、そしてとてもお優しい方ですよ〉
〈でも、きっとボクの事を見たら捕まえようとするよ〉
〈そんな事はありません、万が一……いえ、億が一でもありえませんが、もしそんな事態になればわたくし達が守ってあげますから〉
話をしながら、ティナは内心でイーブイが人間を苦手な理由がわかった。
イーブイは現在七種類もの進化の選択肢がある貴重なポケモンだ。
故に、姿を見たら問答無用でゲットしようとするトレーナーがいてもおかしくはないだろう。
可哀想に、ティナ達の表情が曇る。
この子がどんな目に遭ってきたのかは、想像に難くない。
しかしそれだけではなく、人間を信じられないというのがなにより可哀想に見える。
トレーナーが居るからというからではなく、ティナ達は全員人とポケモンは共存し合っている生き物だと思っているから、この子のように人間を信じられないポケモンが居るという事実は胸が痛む。
〈大丈夫だよ。レイジは凄く優しいから〉
〈それは、君達のトレーナーの名前?〉
〈そうだよ。ピカも最初は人間なんて大嫌いだった……それは今でも正直そう思っちゃう時もある。
でもね、悪い人間もいれば良い人間も必ずいるんだ。
だってレイジは、ピカのこと一生懸命看病してくれた。ピカがどんなに暴れても傷つけても構わず、しかも治してくれただけじゃなくてゲットしようともしなかったんだ〉
ヒカリの言葉に、イーブイは驚く。
だってそうだろう、ゲットする目的がないのに無償で野生のポケモンを治すトレーナーがどこにいるというのか。
もちろん頭の隅ではそんな酔狂なトレーナーもいるとは思っていたが……実際に聞くと驚きを隠す事ができない。
〈だからさ。たとえ人間が嫌いでも……全ての人間が悪いと思ってほしくない。
それだけは、わかってほしいよ〉
〈………うん〉
ヒカリの言葉の真剣さを感じ取ったのか、小さく頷きを返すイーブイ。
これで完全に納得できたわけではない、それはティナ達とてわかっている。
だがそれでも、少しでもこの子が人間に対する苦手意識を無くしてくれればいい……ティナ達はそう思った。
………。
ポケモンセンターに戻ると、レイジ達4人がちょうど集まっていたので、ティナ達は早速事情を説明しイーブイを治療してもらう事に。
「――なる程ね。事情はわかったよ」
〈申し訳ありませんお父様、勝手な事をしてしまって……〉
「そんな事ないよ、むしろイーブイを助けてくれてありがとう」
「レイジの言う通りだよティナ、すっごく良いことしたんだから謝る必要なんかないよ!」
〈……ありがとうございますお父様、カグヤ〉
「しかしイーブイか……なんでそんな所に居たんだろうな?」
少なくとも、おいそれと姿を現すようなポケモンではない。
「さてね……とりあえず治療が終わったら、野生に帰してあげよう」
「えっ、いいのか?」
「人間が苦手なら仕方ないさ、みんながみんなヒカリのようになれるわけじゃないんだから」
〈でも、あのイーブイだってレイジ達と一緒に居たらピカみたいに人間嫌いを克服できると思うよ?〉
「そうかもしれない。でも無理強いはよくないからね」
言いながら、ヒカリの頭を優しく撫でる。
すると、イーブイの治療が終わったアナウンスが流れた。
「終わったみたいだな」
「それじゃあ引き取りに行こうか」
………。
「………可愛い」
「えっ?」
治療を終えたイーブイを見ながら、ヒメカが何か呟いたのでカグヤは視線を向ける。
「な、なんでもない」
慌てて誤魔化すヒメカだが、余計怪しく見えてしまうだけだと気づいていないのか。
首を傾げていると、カイリは様子のおかしいヒメカの理由を口にした。
「こいつ、イーブイが好きなんだよ。イーブイというか、イーブイ系全部が」
「へぇ、そうなんだ」
確かにイーブイ系統のポケモンは、全て可愛らしい容姿をしているからトレーナーの中では人気が高い。
しかしそれが恥ずかしいと思っているのか、ヒメカは顔を赤くしながら抗議の声を口にする。
「べ、別にいいじゃない! 悪いの?」
「別に悪いなんて言ってないだろ……」
「そうだよヒメカ、それに私もイーブイ好きだよ」
「…………」
ぷいっと顔を逸らされてしまった。
一体何がそんなに恥ずかしいのかわからず、カグヤは再び首を傾げるのだった。
「――ねぇ。僕達は君にとって恐い存在に見える?」
しゃがみ、イーブイと目線を合わせながらそう問い掛ける。
〈……わからない〉
「でも、特に恐いとは思わないでしょ?」
そう問い掛けると、少しの間を開けながらもイーブイはこくりと頷いてくれた。
今は、たったそれだけでも充分だ。
イーブイが少しは人間という存在に対する恐怖心が取り除かれたのなら、嬉しい。
「――さてと。そろそろ行こうか?」
「だな。女性陣の長い買い物も終わった事だし」
「長くて悪かったわね」
「まあまあ、買い物が長かったねのは事実なんだからしょうがないよ」
「……長かった理由はカグヤがいつまでも香水選びに夢中になっていたからだと記憶してるんだけど?」
「あははー……そ、そうだったかな?」
ジト目で睨まれ、明後日の方向に視線を逸らすカグヤ。
そういうのに興味を持ってくれたのは嬉しいが、まさかあそこまで熱中するとは……。
(やれやれ……)
〈あ、あの……〉
「? どうしたの?」
〈えっと、ボクを捕まえないの?〉
「どうして? 別に僕達は君をゲットしたいから助けたわけじゃない。まあ助けたのはティナ達だけどね」
〈…………〉
レイジの言葉に、イーブイはポカンとしてしまった。
〈だから言ったではありませんか。お父様達があなたをゲットするなんて億が一にもありえないと〉
「ティナ、何の話?」
〈こちらの話ですよ、お父様〉
悪戯っぽく笑うティナに、レイジは首を傾げる事しかできない。
「じゃあね。縁があったらまた会おう?」
イーブイの頭を優しく撫で、カグヤ達と共にタマムシシティを後にしようとしたレイジであったが。
〈ま、待って!!〉
「ぐはっ!?」
突然背後からたいあたりをぶちかまされて、地面に倒れ込んでしまった。
「レイジ!?」
〈ご、ごめんなさい……〉
「いてて……い、いきなりどうしたのさ?」
腰にかなりの衝撃が走り、おもわず涙目になりながら視線をイーブイへと向けると。
〈ボ、ボクを……仲間にしてくれませんか?〉
レイジにとって、あまりにも意外すぎるお願いが聞こえてきた。
「えっ!?」
「どうしたの?」
「いや……その、イーブイが僕達の仲間になりたいって言ってきて……」
「マジかよ!? ならゲットすればいいじゃん」
「でも…………いや、そうだね」
否定しかけて、すぐさま首を振る。
ヒカリの時も否定したけど、相手の気持ちを尊重したいなら断るのは逆に失礼だ。
「いいよイーブイ、けどトレーナーは僕じゃなくてヒメカでもいい?」
〈えっ?〉
「ちょ、レイジ何で」
「だって君はイーブイが好きなんでしょ?
なら少なくとも僕よりこの子を大事に育ててくれると思ったから」
「そ、それは……でも、いいの?」
「僕はもちろん。でもイーブイはどうかな?」
〈うん。ボクも構わない〉
「……構わないってさ、どうする?」
「…………」
どうしよう、凄く嬉しい。
ずっと手持ちになったらいいなぁと思っていたイーブイが、自分から手持ちになっていいと言ってきたのだ。
嬉しさのあまり、頬が緩んでしまいそうになってしまう。
「ヒメカ、ニヤついてんぞ……」
「べ、別にニヤついてなんかいないわよ!!」
とは言いつつ、口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。
なんだかそれが可愛らしくて、レイジ達は揃って苦笑した。
「な、何笑ってるの。ま、まったくもぅ」
「はいはい。それでどうするのさ?」
「…………」
しゃがみ込み、イーブイを見つめるヒメカ。
「イーブイ、わたしなんか本当にいいの?」
〈うん。とても優しそうだから、きっと大丈夫〉
「……なんて言ってるの?」
「優しそうだから、きっと大丈夫だってさ」
「………そう」
ありがとう、そう口にしながらイーブイの頭を撫でながら、ヒメカは空のモンスターボールを手に持ちイーブイを中に入れた。
「よかったな。ヒメカ」
「ええ」
「それで何に進化させるんだ? シャワーズかブースターかサンダースか……まてよ、エーフィやブラッキー。
はたまたリーフィアかグレイシアか……迷っちまうな」
「別にあなたが進化させるわけじゃないでしょ。――フィーの好きにさせるわ」
「フィー?」
「この子の名前よ。女の子だしね」
「なるほどなるほど」
「よし、それじゃあそろそろ――」
行くとしよう、改めてそう口にしようとしたレイジだったが。
「レイジさん!!」
「?」
慌てた様子でポケモンセンターからジョーイが飛び出してきて、声を掛けられ立ち止まってしまった。
「ジョーイさん、どうかしましたか?」
「す、すみません……実はレイジさん宛てに電話が来たものですから……間に合ってよかった」
「電話、ですか?」
一体誰誰だろう。
そう思いながらセンターへと戻り、電話を取ってみると……。
『――久しぶりじゃのうレイジ君』
そこに映ったのは、マサラタウンのオーキド博士だった。
「オーキド博士、どうしたんですか?」
『うむ。一つは君達が今タマムシに居るという話をシロナ君に聞いてな、調子はどうかと思い連絡したのだ』
(シロナさんから……)
はて、それはおかしな話だ。あれ以来自分達はシロナに会っていないというのに。
「こっちは全員元気ですよ。でも博士、一つはって今言いましたけど、もう一つの用事は何ですか?」
『うむ。今ジムバッジを集めている君達にこんな事を頼むのは申し訳ないと思うのじゃが……」
歯切れの悪いオーキドに、気にしないでくださいと告げ先を促す。
すると、オーキドは……。
『実はな……ちょっとジョウト地方に行ってほしいんじゃ』
申し訳なさそうに、レイジ達に向けそんな言葉を投げかけてきた。
To.Be.Continued...
キャラクター【レイジ】の項目を更新しました。