ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
そしてレイジは、己の仮説を確かめるために……シロナにある問いかけを投げ掛けた。
『……………え?』
「……えっ?」
何故か、ポカンとした表情を向けられてしまった。
……別に、今の自分の質問が変だったわけではないはず。
だというのに、シロナが浮かべている表情は、キョトンとしたものだった。
『……えっと、大事な話って……それ?』
「は、はい……そうですけど」
『…………』
(えええ〜、何故ショックを受けたみたいな顔になるの?
一体どんなリアクションをすればいいんだろうか……)
というか、何故今の会話でショックを受けているのかさっぱり理解できない。
「あ、あの……シロナさん?」
『…………』
「えっと……」
一体どうすればいいというのか、すっかり困っているとシロナはようやく口を開いた。
『……いいのよレイジくん、あなたは何も悪くないの。勝手に早とちりした私が馬鹿だったのよ』
「は、はあ……」
『とにかく気にしないで、というか今のやりとりは忘れてお願い』
「は、はい……わかりました」
なんだか有無を言わせない迫力なので、頷かざるおえない。
場を仕切り直す為に少し大袈裟にコホンと咳払いをして、シロナはいつも通りの表情をレイジに向けた。
『ディアルガとパルキアの事を知りたいのよね?
けどどうして? 考古学に興味を……持ったわけじゃなさそうね』
「はい、まあ……。けど確かめたいんです、ディアルガとパルキアがどういったポケモンなのかを」
『その理由は? 詳しくとなるとそれなりの理由がなければ教えられないわ』
「……実は僕達、今ジョウト地方のコガネシティに居るんですが、ここでカイリがあるトレーナーと戦ったんです」
『あるトレーナー? それにどうしてジョウト地方に居るの?』
「ウツギ博士に頼みたい事があるからって言われまして。
それでそのトレーナーというのが……普通じゃない力を持っていたんです」
『普通ではない力……それは、レイジくんやカイリのような?』
こくんと頷き、レイジは話を続ける。
「僕はポケモンと会話をする能力、カイリは未来を視る能力をそれぞれ持ってます。
そしてそのトレーナー、ケイジは……推測の域なんですが、空間を渡る能力があるみたいなんです」
『空間を、渡る?』
「テレポートという技がありますよね? 見た目はあれとまったく変わらないんですが……普通とは違う点は、ケッキングのようなテレポートが使えないポケモンが、瞬間移動したかのように一瞬で移動したんです」
普通では考えられない現象だ、ケッキングが一瞬で移動する事などありえない。
それに、カイリが視た未来を変えるなんてそれこそ同じかそれ以上の力がなければ不可能だ。
『……そう。そんな事があったのね。けど、それがどうしてディアルガと――』
そこまで言いかけ、シロナはハッとしたように表情を変える。
「もし、ケイジの能力が『空間を渡る能力』だとして考えると……あるポケモンに行き着くんです」
『――ディアルガと、パルキア』
シロナの呟きに、頷きを返すレイジ。
そう、カイリの『未来を視る能力』
そして、ケイジの『空間を渡る能力』
「—――時間を司るポケモン、ディアルガ。
空間を司るポケモン、パルキア。
その二体がそんな能力を持っているかはわかりませんが、どうしても頭から離れないんです」
だからこそ、ディアルガとパルキアの事をよく知る人物であるシロナに、話を聞いてもらおうと思ったのだ。
話を聞いたシロナは暫し思考に耽るが、少し待っててと言い残しどこかへと行ってしまった。
暫し待つと、シロナは何か書類のようなものを持って戻ってきた。
「それは?」
『私とナナカマド博士が学会に提出したディアルガとパルキアに対する論文よ。
――ああやっぱり、レイジくんの言っている事は正しかったわ』
「…………」
『古代遺跡に書かれていた文章によると、時間を司るディアルガには過去や未来を視たり渡れる力を持っているらしいの。
そしてパルキアも、様々な空間を渡り同時に空間そのものを作れる力を持っているの』
「……スケールが大きすぎですね」
さすが神と呼ばれるポケモンというべきか。
しかし、これで推測がただの推測ではなくなった。
だが――それと同時に、また新たな疑問も浮かび上がってくる。
たとえ2人の力がディアルガとパルキアの力と酷似しているとしても、それと同じという確固たる証拠がない。
結局、謎は謎のままで終わってしまったが、それでも収穫はあったと思う。
『でもこれは凄い共通点よ、ここまで揃っているとレイジくんの推測が正しい可能性が高い。
けど……そうなるとちょっと待って』
「………?」
『もしカイリがディアルガの、そのケイジという少年がパルキアの力を持っているとして……なら、レイジくんは?』
「…………」
シロナの言葉に、そういえば自分が抜けていたなと思い出す。
「けど、シンオウ神話にはディアルガとパルキアしか存在しないんでしょう?
なら、僕の事は2人以上にわからないってことじゃ……」
『確かに、シンオウ神話にはディアルガとパルキアしか知られていないわ。でもそれが神話の全てじゃない、まだ私達だって完全に理解したわけではないから』
「えっ?」
『シンオウ神話は一般的に伝わっているけど、それが全てではないの。
ディアルガとパルキアだけでは矛盾する所もあるし、それに……ギラティナの事もある』
「ギラティナ?」
聞いた事のない名前だ、それもポケモンなのだろうか……。
『ギラティナは私達が住んでいる世界とは違う世界――反転世界に居ると伝われている伝説のポケモンよ』
「反転世界……?」
『私達の世界とは真逆の世界であり、その反転世界と私達の世界が互いに互いを支え合って存在しているの。
ギラティナはその反転世界を守っている守護者らしいわ』
「ギラティナ……反転世界……ディアルガ、パルキア……」
『……レイジくん?』
「…………」
何故だろう。
その言葉が、妙に頭の隅で引っかかる。
自分は、どこかでその言葉を知っているような……。
いや、知っているのではなく、それは“私”が。
『レイジくん?』
「っ、ぁ………」
『どうしたの? 急に黙ったりして……』
「ぁ、いえ……」
今、自分は何を見ていたんだ?
欠けた光景、かみ合わないパズルのピースのように歪でグチャグチャな思考。
――忘れろ。
そんなもの自分は知らない、ならば考える理由など……覚えている理由などない。
そう自分に言い聞かせ、無理矢理自分の見たものを忘れた。
『レイジくん、あなた達はこれからどこに行くの?』
「エンジュシティに向かおうと思ってます、そのままアサギシティまで行って……そこからカントーに戻るつもりです」
『そう……わかったわ』
「シロナさん、忙しいのにありがとうございました」
『気にしないで、私でよかったらいつでも相談に乗るから』
ありがとうございます、もう一度お礼を言ってレイジは電話を切る。
「…………」
一方、電話を切ったシロナはどこか胸騒ぎを感じ電話から離れた。
(ディアルガ、パルキア、ギラティナ……まさかレイジくん達に関係してるの?
それに、もし推測が当たっているとしたら、レイジくんのあの力は一体何?)
今でも鮮明に思い出せる、レイジの奇跡のような力。
カイリの力も普通ではないが、レイジのあの力はそれすら上回るほどの規格外なものだ。
そんな力を持つポケモンなど、シロナもナナカマドも知らない。
「…………」
部屋に戻り、旅行に使うようなバッグを取り出し洋服を中に詰めていく。
ダメだ、こんな所であれこれ考えても埒があかない。
確かめなくては、そして彼の傍に居てやらねばと思ってしまった。
ただ会いたい……そうではないと言えば嘘になるが、それ以前に彼の傍に居てやらねばならないという思いに駆られてしまったのだ。
そう思い、シロナはすぐさま旅の準備を始めたのだった。
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「……ごちそうさま」
「あれ、レイジもう食べないの?」
まだ大分残っている、半分も食べていない。
「ちょっと食欲がなくて……でも具合が悪いとかそういうわけじゃないよ」
そう言い残し、席を立つレイジ。
「いらないなら私にちょうだい?」
「………どうぞ」
「意地汚いわよ、女の子なんだからそういうのはやめなさい」
「だって勿体ないし……」
「そういう問題じゃ……って、言ったそばから食べないの!!」
「あたっ!」
頭を叩かれるカグヤに、レイジは僅かに苦笑しながら食堂を後にする。
「……なんか、帰ってきてから様子おかしいよな、レイジの奴何かあったのか?」
「っんぐ……別に何もなかったと思うけど?」
「そうね。……だから、勿体ないからってそういう事はしない!」
「いたっ!」
またも頭を叩かれるカグヤに、ヒメカは呆れたようにため息をつく。
「レイジの様子がおかしいのに、心配じゃないの?」
「いてて……心配だよ?」
「心配ならどうして追いかけないんだ?」
「だって今追いかけても意味ないもん、今のレイジは誰とも話したくないオーラが身体から滲み出てるし」
「ふぅん……」
カグヤはカグヤなりにきちんと考えていたようだ。
「それに、まだレイジのごはんが残ってるし」
「……お前、もしかしてそれが本音か?」
それには答えず、カグヤはレイジが残した食事を口に運んでいく。
それを見て、カイリとヒメカはレイジへと同情を送ったのだった。
………。
「――さすが都会。夜なのにこんなに明るいよ」
〈わたくしはあまり好きではありませんね、自然の美しさには到底及びません〉
街の外に向かいながら歩を進めるレイジとティナ。
〈お父様、わたくし達周りからはどんな風に見られていると思います?〉
「どうって……トレーナーとポケモンじゃないの?」
〈むぅ……〉
睨まれた。
首を傾げながらも、そのまま気にせず街の外へ。
さすがに外は人工の明かりは少なく、前を向くと闇が広がっている。
レイジはコガネシティからそう遠くない芝生の上に寝転がり、空を見上げた。
隣にはティナが腰を下ろし、そんな彼を優しく見守っている。
「……綺麗な満月だ」
ぽつりと呟きながら、空に広がる満月と星達を見上げる。
せっかくこんなに綺麗な星空が見えるのだから、みんなも出してあげよう。
そう思い、レイジはモンスターボールを投げ自分のポケモン達を外に出してあげた。
〈父上、本日はどういったご用件ですか?〉
相も変わらず忠義の騎士のような立ち振る舞いのアクセルに苦笑しつつ、再び寝転がった。
〈あ、あの……〉
「別に用があったからじゃないよ、けど今日は綺麗な夜空だから、みんなで見ようと思ったんだ」
〈レイジ、綺麗な満月だね〉
そう言いながら、ヒカリはレイジのお腹に座り込む。
〈ああ、ヒカリってば何て羨ましい……〉
「ティナ、言っておくけど今の君にやられたら大変だからやらないでね?」
〈…………もちろん、です〉
「今の間は何?」
〈い、いえ……なんでもありません〉
誤魔化そうとするティナだが、バレバレだと気づいていないのだろうか。
いやよそう、余計なツッコミをしてややこしい事態にするのは得策ではない。
「ニャー!」
「ピカ!?」
「わっ!!」
突然レイジの視界に現れるピンク色の物体が、ヒカリにたいあたりを仕掛ける。
身構えていなかったヒカリは、それにより芝生の上をピンク色の物体と一緒に転がっていく。
しかし、その物体には見覚えがあった。
「……何してるのさ、エネコ」
〈カグヤちゃんと遊びに来たニャー〉
そう言いながら笑顔……かどうかはわからない、何せ細目なので。
とにかくエネコはそう言いながら、レイジにじゃれついてきた。
〈こらーエネコ、ぶつかっておいて謝らない挙げ句にレイジにじゃれるなー!!!〉
ご立腹のヒカリがエネコに襲いかかるが……軽い身のこなしで避けられてしまった。
「エネコー、おイタしちゃダメだよ」
「………カグヤ」
ニコニコと微笑みながらレイジの隣に座り込むカグヤ。
「お隣いいですか?」
「もう座ってるのに?」
「あはは、それもそうだね」
「ったく……」
相も変わらず、彼女は底抜けに元気だ。
だが、今はその元気には少しだけ救われる。
「――それで、シロナさんと何話してたの?」
「っ、見てたの?」
「うん、サングラスとマスクを付けて物陰から眺めてた」
「……それはボケ?」
「当たり前でしょ。本当にやったら犯罪者の仲間入りだよ」
「わからないよ、本気なのかボケなのか……」
そうかなぁ、と本気で呟いている辺り、やはり彼女の思考回路は理解できないと思った。
「それで、何を話してたの? もしかしてレイジの様子がおかしいのはシロナさんのせい?」
「違うよ。シロナさんのせいじゃない、ただ……ちょっとね」
「ちょっと、じゃわからないよ。レイジにはちゃんと説明する義務があります」
「…………」
拒否権は、ないようだ。
それに後ろにいるティナ達も「話せ」と目で訴えてきているので、レイジは観念してシロナとの会話の内容をカグヤへと話す。
「へぇ、よくそんな仮説が浮かぶね。レイジ、将来博士になれば?」
「ならないよ。それでちょっと……自分自身が恐くなっただけ」
「恐い?」
「……自分の力が、恐くなったんだ。
もし僕の仮説が正しいとしたら……じゃあ、僕の力は一体何なんだと思って……」
「あ……」
そうだった、彼の言葉でようやく気づく。
カイリの能力はディアルガ、ケイジの能力はパルキアだとして……ならばレイジは?
ポケモンと会話をし、その言葉を理解する能力。
そして――時折見せる理解不能な能力。
それがわからなくて、レイジは自身に恐怖を抱いている。
「でも、レイジの力は凄く素晴らしいと思える能力だよ?
なら、そんな風に気にしなくても……」
「わかってる。僕だってこの能力は素晴らしいと思ってるよ。
だけど、どんどん僕の意志には関係なしに力を得ていく……。
このままじゃ、いずれ誰かを傷つけるような力を得てしまうかもしれない……そうなったら、僕は一体どうなるのか……それが、恐い」
「……レイジ」
彼はどこか心の片隅で自分を知りたいと思っていた。
だが今では、自分を知る事が恐くなっている。
自分が何者なのか、それがわからなくて……ただ恐い。
――長い沈黙。
だがそれを破ったカグヤの言葉は、レイジにとって意外なものだった。
「うーん……レイジが自分自身の力に恐いと思ったのはわかったよ。
けど、別に気にしなくてもいいんじゃない?」
なんとも軽い口調で、軽く返された。
「だって力を手に入れたってレイジはレイジだし、もしかしたら……なんて考えてもこの先どうなるかなんてわからないんだから」
「それはそうかもしれない、でも……もし本当に誰かを傷つけるような力が芽生えて、しかも僕が制御できずに暴走したらどうするの?」
「そんなの決まってるじゃない、暴走してるレイジを元の優しいレイジに戻す。
たとえ何度暴走したとしても、私が何度だって止めてあげる」
変わらない軽めの口調。
しかしその瞳に宿す光は強く、彼女が本気で言っているのが理解できた。
「私にとってレイジはレイジだよ、どんな力を得ようとも自分の正体がわかってもそれは絶対に変わらない。
だから、そんな風に1人で悩むのはやめてほしい。もっと私やみんなにその弱音や悩みを言ってほしい。
だってみんなレイジが大好きだから、助けになりたいって思ってるから」
「カグヤ……」
「約束する。たとえこの先何が起こったとしても……私だけは最後までレイジの傍にいる。
レイジがどこにいても必ず見つけ出して、1人になんかさせない」
真っ直ぐに彼を見て、誓いを立てる。
この誓いは未来永劫破らない、たとえ何が待ち受けているとしても必ず果たす。
「……ありがとう」
彼女の暖かな心が、レイジの全身に広がっていく。
感謝の言葉を聞き、カグヤも笑顔を浮かべ彼の手を握った。
「――レイジ」
「何?」
「大好き」
「…………」
「あれ? リアクションは無しなの?」
「……相変わらず、よくそんな言葉を臆面もなく言えるね」
「だって大好きなものは大好きなんだもん。嘘を付くのはよくないと思うよ?」
「はいはい、わかったよ」
そういう問題ではないのだが、カグヤに言っても無駄なので黙っておく。
「……ねえ」
「なに?」
「くっつきすぎ」
「だって寒いんだもん」
「ならセンターに戻ればいいじゃないか」
「やだ。だってレイジの傍に居たいもん」
「っ、……はぁ」
顔が少し熱い。
彼女の何気ない発言で、すっかりペースを乱されてしまっている。
そしてそれは、レイジだけでなくポケモン達も同じだった。
〈ピカ達、完全に空気だね〉
〈ったく、いちゃつくなら誰もいない所でやれよな〉
〈仲良しなのはいい事ニャー〉
〈むぅ……カグヤ、ずるい……〉
〈ぼ、僕も父上と……って何を考えているんだ! そ、そんな破廉恥な事を考えるなんて……ま、まだまだ修練が足りない!!〉
若干名おかしな事を考えている輩が居るが、カグヤは気にせずレイジの肩に自分の頭を乗せすり寄る。
――満月が空に浮かぶ夜空の下
1人の少女は、嬉しそうに1人の少年の温もりを感じ続けていた………。
To.Be.Continued...