ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
目指すはジョウトのエンジュシティ、そこで彼等は……ある青年との出会いを果たす事になる。
――エンジュシティへと向けて、旅を続けるレイジ達
彼等は今、エンジュシティに程近い草原で休憩をとりながら、トレーニングに励んでいた。
「ヒノ、えんまく!」
ヒメカのヒノアラシ――ヒノがえんまくを張り、辺りの視界が塞がれる。
「エネコ、その場から動かないで!!」
しかしカグヤは慌てず、左右へ視線を忙しなく動かすエネコをその場で静止させ、相手の動きを待った。
瞬間――エネコの右横から飛び出してくるヒノ。
「ジャンプ!!」
「ミャッ!!」
尻尾を使い上へとジャンプするエネコ。
それと同時に、ヒノがエネコの下をくぐり抜けるように通っていった。
「エネコ、スピードスター!!」
「ニャー!!」
放たれるスピードスターは、攻撃を外し隙だらけになったヒノへと見事命中。
「くっ………!」
「そこまで!」
反撃を試みようとするヒメカとヒノだったが、ここで試合終了の声を掛けられた。
「今回はカグヤの勝ちだな」
「やったー!」
「……さすがね」
「うぅん。えんまくで視界を遮られた時はちょっと焦っちゃった」
笑みを浮かべ、エネコを抱き抱える。
「でもみんないい調子だよな、この調子でエンジュのバッジゲットだぜ!」
「意気込むのはいいけど、空回りしないでよ」
いつものように熱くなりがちなカイリに釘を刺すヒメカ。
「……あれ、レイジは?」
キョロキョロと視線を動かし……すぐに彼の姿が見つかった。
鍋の中をかき回してる、どうやら自分達がトレーニング中に昼食を作ってくれているようだ。
そして、そんな彼を手伝うようにティナと……何故かムウマも忙しなく動いてる。
確かにムウマを外に出していたのだが……何やら楽しそうだ。
「…………」
なんだか、レイジ達を見ていると……。
「レイジがお父さん、ティナがお母さん、ムウマが2人の子供みたいだね」
「……いきなり何?」
突拍子のないカグヤの言葉に、調理を続けながらもツッコミを入れた。
〈わ、わたくしとお父様が夫婦!?〉
「ティナ、ツッコむ所はソコじゃないだろ」
〈パパ?〉
「ムウマ、カグヤのボケに付き合わないでいいよ」
――今日も平和だ、呆れながらもそう思えた。
「レイジもトレーニングしようぜ」
「それどころじゃないよ、それより終わったなら手伝って」
「うへぇ……やぶ蛇」
そう言いながらも、きちんと手伝い始めるカイリ。
〈お父様と夫婦……お父様と夫婦……〉
「ティナ、トリップしてるとこ悪いけど、お皿を並べて」
〈け、結婚式は緑の丘の教会で……〉
「…………」
今の彼女に話しかけるのはやめよう、色々な意味で危ない。
仕方なくアクセル達をボールから出す。
「ごめんアクセル、リオン、ヒカリ。お皿を並べてくれないか?」
〈わかりました!〉
〈ティナの奴、また妄想してんのか?〉
(………また?)
〈この間もレイジの顔を見ながらブツブツ呟いてたよね〉
「………そう」
一体何を考えていたのか気になるが、訊くのが恐いのでやめておく。
「あー、お腹すいた」
「悪いわねレイジ、全部任せちゃって」
「気にしないで、それより調子良さそうだね?」
「ええ。ヒノもフィーも精一杯頑張ってくれてるから」
そう言いながら、ポケモンフーズをちまちまと食べているヒノ達に視線を向けるヒメカ。
「ところでよ、エンジュまであとどれくらいだ?」
「もうすぐだよ。あと一時間くらいかな」
この食事を終えてすぐに出発すれば、昼間にはエンジュシティへ到着するだろう。
そんな他愛のない話をしながら食事を続けるレイジ達。
「ところでさ、エンジュシティってどんな街なの?」
「昔建てられた建造物や古い歴史が今も根強く残ってる街だよ。たぶん見たことない建物や家屋を目にすると思う」
「へぇ……って、詳しいな」
「まあね。あの街には色々な伝説があった面白いから、前に色々調べた事があるんだ」
「伝説?」
「……ライコウ、エンテイ、スイクン。そしてホウオウ……エンジュシティには様々な伝説のポケモンが存在すると言われてる。
しかもホウオウ以外は実際にエンジュで見たって人が沢山居るらしいんだ」
「そりゃ凄いな……俺達もそのポケモンの事くらいは知ってるぜ」
「伝説のポケモンって、ずいぶん沢山居るんだね……」
「色々な地域や色々な場所があるように、色々な伝説のポケモンがいたっておかしくないさ。
カントー地方だって伝説と呼ばれるポケモンがいるでしょ?」
「……そうだっけ?」
「……カグヤに訊いた僕がバカだった」
何よー、なんて反論が返ってきたが無視する。
(……ホウオウ、か)
前はホウオウに是非会ってみたいと思った時期があったけど……今は。
今は、1人のトレーナーとして会ってみたいと思う、会うだけでいい。ゲットする気など微塵もない。
そんな事を考えながら、レイジは食事を進めるのだった。
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「うっぷ……食い過ぎた……」
「く、苦しい〜……」
「当たり前よ。いい加減その食べ過ぎる傾向をやめなさい」
うーうーと唸りながら歩を進めるカイリとカグヤに、ヒメカは呆れるようにそう口にした。
苦しいと感じるのは当然だ、なにせこいつら四人前分はあろう量の食事を摂取したのだ。
「だ、だって〜……レイジのごはん美味しいんだもん」
「そういう問題じゃないでしょうが……」
「さて、先を急ぐか」
わざと早足で歩き出す。
「う〜、待って〜……」
「く、苦しい……」
そんな声が聞こえたが、もちろん無視。
……エンジュシティまでもう少し。
このまま後ろで聞こえる呻き声を耳に入れながら、レイジは目的地へと目指そうとして――
「――――」
ふと、突然足を止めてしまった。
「うー……って、レイジ?」
「…………」
何だ。
何だ、この感覚は。
凄まじいオーラ、チャンピオンであるシロナにも劣らない。
否、もしかしたらシロナですら上回る程の力強きオーラ。
けれど不快感はない、でも……。
「……真っ白?」
白、何もない色。
力強いのに、他には何も感じられない。
汚れなき色、代わりに何も“無い”
この力は、一体……。
「っ」
瞬間、その正体を知る為に走り出す。
「ちょ、レイジ!?」
後ろから聞こえるカグヤの声にも反応せず、レイジは地を蹴った。
「は――あ、は、ぁ」
息をするのも苦しくなるほど、レイジは走り続け。
――気が付いたら、エンジュシティの街の中に立っていた。
呆れたものだ、自分は何十分もの間走り続けたというのか。
それを自覚したせいか、一気に疲れと足の痛みに襲われおもわずその場で座り込んでしまった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息を整えながら、自分の行動に疑問を覚える。
一体自分は何をやっているのだろう、カグヤ達を置き去りにしてまでどうしてこんなにも気になる?
理解不能、だが内なる自分が訴え続けるのだ。
――捜せ、と。
この力の持ち主は、必ずお前の助けになると、自分自身が訴えている。
何故?
どうして?
理由はわからず、ただその訴えだけが頭に入ってくる。
ただ感情の、本能の赴くままに。
やがて疲れもなくなり、再び立ち上がる。
カグヤ達の事も気になるが、今はこの感情に従う事が優先だ。
そう思い、レイジは再び歩を進める。
(………こっちだ)
まるで初めから知っているかのように、街の中を歩くレイジ。
そして――暫く歩き続けた結果。
レイジは、とある建物で足を止めた。
「…………」
そこは、焼けただれ原形がわからない程に焦げた塔だった。
人の住みかではない、むしろ生き物が暮らせる場所ではない。
けれど確かに、ここからあの力の源を感じる。
おもいきって扉を開き、中に入る。
「――――」
瞬間、その場から動けなくなった。
「…………」
目の前には1人の男。
自分より年上だろうか、背も高く青年と呼べる歳かもしれない。
金糸の髪はただ美しく、ルビー色の瞳はただ恐ろしい。
けれどその瞳には、何も映っていない無機質なものに見える。
「…………」
「…………」
見つめ合う両者。
口を開きかけるも、恐怖からか緊張からか何も喋れない。
「――お前は、誰だ?」
静かで、感情が乗っていない声。
「……僕はレイジ、ポケモントレーナーです」
後ろに一歩下がり、早鐘のように動く鼓動を抑えながら問いに答える。
「レイジ……か」
「………?」
敵意は感じない、それに無機質ながら目の前の彼からはどこか暖かさを感じる。
相変わらず強いオーラを発しているので、レイジとしては息苦しい事この上ない。
「……強いトレーナーだな、少なくともこの街にいるジムリーダーよりは上だ。
それに、その瞳に映る光はとても綺麗で強い」
「は、はあ……」
褒めているのだろう、後半はいまいち理解できないが。
「――お前なら、おれに何かを与えてくれるかもしれない」
「えっ……?」
今のはどういう意味か、その理由を訊く前に……目の前の男はモンスターボールを投げる。
中から出てきたのは……バクフーン。
「な、何を……!?」
状況が理解できない中、男はゆっくりと口を開いた。
「……おれと、バトルをしてくれ。一体だけでいい」
「バトル……?」
「そうだ。お前が最強だと思う手持ちでおもいっかりぶつかってきてほしい。
それによって、おれは得られるかもしれない」
「い、いきなりそんな事を言われても……」
「頼む」
短く告げ、男は頭を下げる。
「…………」
わけがわからない。
目の前の男性の意図も、そして彼から感じる凄まじい力の正体も。
「……頼む」
もう一度告げられ、もはやレイジに拒否権というものは得られそうもない。
「…………」
何故かはわからない、けれど男の願いはただ真摯だった。
「……わかりました」
だから、レイジも男性の願いを聞き入れる。
「すまない……」
「いえ。ですが1つだけ教えてください。あなたの名前はなんていうんですか?」
名も知らぬ者とバトルする気にはならない。
すると男は、ほんの一瞬だけ眉を潜めてから。
「――ロスト、だ」
ぽつりと、先程よりも無機質な声で名を名乗った。
「ロスト……」
名乗られた名を呟いてから、レイジはモンスターボールを手に取る。
そして彼は自身にとって最強の手持ちを、繰り出した。
「ティナ、お願い!!」
まだ完全に状況を受け入れたわけではないが、バトルをすると決めた以上はそれだけを考える。
そう思い、レイジはしっかりと床に足をつけボールを投げる。
「サーナイト……」
〈ただのサーナイトだと思っていると、痛い目を見ますよ〉
「っ、この声……直接頭に話しかけているのか」
〈その通り。それでは……参ります〉
ゆらりと、不規則な動きで相手を誘うティナ。
それを見て、青年――ロストは面白そうに笑みを浮かべる。
「楽しみだ……あのライコウとて、おれのレジェンドには届かなかった」
「ライコウ……!?」
伝説のポケモンの名だ、火事によって死んだ名も無きポケモンがホウオウによって蘇らせたといわれるあのライコウの事だろう。
だが、それ以前にロストの言葉には確かな違和感が。
「届かなかったって……」
「……この焼けた塔で、おれはライコウと出会い戦った。そして勝ち、今ではおれの手持ちだ」
「なっ!?」
言いながら、別のモンスターボールをレイジに見せるロスト。
「見せてくれレイジ、お前とサーナイトの力がどれほどなのかを!」
「…………」
ハッタリ、ではない。
おそらくロストは本当にライコウと戦いゲットしたのだろう、あのモンスターボールから発せられる力は普通のポケモンなど超えている。
そして、このバクフーンからも……シロナの切り札であるガブリアスと同じ力を感じた。
ティナも同じなのか、表情は変えないが冷や汗が頬を伝って落ちている。
(それでも………!)
それでも、負けない。
バトルをする以上最後まで諦めない、負けるなどという気持ちなど抱かない。
「ティナ、サイコキネシスだ!!」
指示を受けた瞬間、ティナのサイコキネシスがバクフーン――レジェンドを捕らえ身体を宙に浮かせる。
(速いな……)
「そのまま地面に――」
「レジェンド、サイコキネシスを破れ」
「え―――」
ティナがレジェンドの身体を地面に叩きつける前に。
ガラスの割れた音が聞こえ、レジェンドの身体は自由を取り戻した。
「サイコキネシスを自力で……!?」
悪い夢だ、本気でそう思えた。
今までこんな型破りな方法で、サイコキネシスを破ったポケモンなど見たことがない。
「レジェンド、かえんほうしゃ」
「っ、ティナ、ふぶきだ!!」
呆けている場合ではない、すぐさま迫り来るかえんほうしゃを迎え撃つ。
ぶつかり合うかえんほうしゃとふぶき。
(互角………!)
――ではない!!
〈きゃぁぁぁっ!!?〉
「ティナ!??」
かえんほうしゃがふぶきを押し返し、そのままティナへとダメージを与える。
致命傷ではないものの、ふぶきを破られたという精神的ダメージは大きい。
(ティナのふぶきが……)
確かに氷タイプの技は炎タイプの技には弱い。
だがそれを差し引いてもティナの技が敗れるなど、信じられなかった。
「どうしたレイジ、お前とお前のサーナイトの実力はこんなものなのか? 違うはずだ。お前達の力はもっと強いはずだぞ」
「くっ……でんげきは!」
地面を這い進みながら、レジェンドを囲むように放たれるでんげきは。
「――まもる」
しかしそれは全て防がれてしまい、レイジは次の手を打つ。
「かげぶんしん!」
ティナの分身が次々に増えていき、しかしロスト達には通じない。
「レジェンド、右にほのおのパンチ」
右横に向き、炎を込めた拳を突き出すレジェンド。
それは真っ直ぐティナの身体を捉え――そのまま突き抜けた。
「何……?」
「デュアルパンチ!!」
〈やああああああああっ!!!〉
「レジェンド!!」
主人の声に反応し、後ろを向きながら再び炎の拳を突き出すレジェンド。
そして、ティナのデュアルパンチとぶつかり合う。
激しい熱を発しながら、両者共に弾かれ。
――ロストは、最後の一手を繰り出す。
「レジェンド、かえんぐるま」
「なっ――」
そこからの動きは、レイジの思考を凍らせた。
デュアルパンチとのぶつかり合いで、レジェンドはティナと同じく大きく吹き飛ばされた。
だが――レジェンドはその腕と足を使い、焼けて半分ほどになった古い柱を掴み、それを軸にティナへと迎撃したのだ。
普通の動きではない、身軽なアクセルならばできるかもしれないが、それでも可能性は低い。
それを、アクセルより鈍重で巨体であるバクフーンがやってのけた、そんなものこの目で見ても信じられない。
しかし現実はこの目で見た通り、レジェンドが最後の一撃を与えようとティナに向かっている。
「ティナ!!」
〈くっ………!?〉
彼女はいまだ倒れており、どうにか起き上がってもその瞬間にレジェンドの技を受ける。
避けられない敗北、それはティナとて向かってくるレジェンドを視界に捉え、認めざるおえない。
しかし、それでもティナは諦めたくなかった。
レイジが自分を最強だと信じてバトルに出してくれた、その期待を裏切るわけにはいかない。
(お願い……! 一撃、一撃だけでいいから届いて………!!)
サイコキネシスやふぶきでは届かない、だからもっと強い攻撃を。
アレを妥当できる程の、強い一撃が欲しい。
しかし、レジェンドはもう眼前にまで迫ってきている。
止まる思考、けれどその中で。
無我夢中だったのか、ティナは最後の足掻きとばかりに右腕を前に突き出した―――!
………。
煙がレイジ達を包み、視界を塞ぐ。
けれど、レイジは自分達の敗北を悟る。
あの攻撃は避ける事も防ぐ事もできない、否が応でも理解できた。
そして煙が晴れていき……見えたのは火傷を負いながら倒れているティナの姿。
「………?」
しかし、レジェンドの姿を見てレイジは首を傾げた。
――ダメージを負っている。
それも小さなものではなく、致命傷には遠いもののそれなりのダメージだ。
何故? あの時ティナは身構える事もできずに攻撃を受けたはずだ。
「――レイジ、お前最後にあのサーナイトに何を指示した?」
「え……?」
意味が分からず聞き返すと、ロストは少し驚いたように口を開いた。
「ではあのサーナイトが勝手にやったのか……」
「……どういう、ことですか?」
「……レジェンドのかえんぐるまが命中する瞬間、お前のサーナイトが右手を突き出した。
その瞬間、何かがかえんぐるまとぶつかりレジェンドはダメージを受けたんだ」
「…………」
では、ティナが何か技を出したというのか。
しかしそんな暇などなかったし、第一どんな技を出したと……。
〈ん、く……〉
「ティナ!」
起き上がるティナに駆け寄り、身体を支えてやる。
「よく頑張ったね、ありがとう」
〈いえ……申し訳ございませんお父様、負けてしまいました〉
「気にしなくていい、精一杯頑張ったならそれでいいんだから」
〈………はい〉
レイジの声に頷きを返し、ティナはしっかりと立ち上がった。
〈……完敗です。あなたのバクフーン、とてもお強いですね〉
「いや、お前も強かったよ。最後はレジェンドの“もうか”を使ったくらいだからな。
しかし、ポケモンと会話するというのも不思議なものだ」
〈そうかもしれませんね、わたくしはこれが当たり前ですから不思議に思いませんが〉
〈まあまあだったぜサーナイト、けどそんなもんじゃオレ様には勝てねえけどな〉
ニカッと笑いながら結構尊大な物言いのレジェンドに、レイジは苦笑しながらも言葉を返す。
「オレ様って……自分をそんな風に言うポケモンを見るのは初めてだ」
〈……は?〉
「? レイジ、誰に話しかけているんだ?」
「あっ……」
しまった、つい普通に会話してしまった。
口を塞ぐが、今更である。
〈お父様、この方なら話しても大丈夫だと思いますよ〉
「むぅ……」
ティナに言われ、それもそうかと自分を納得させる。
「レイジ……?」
「……僕は、ポケモンの言葉を理解し会話する能力があるんです」
「何………?」
「信じなくてもいいです、到底信じられる話じゃないですから。
ちなみに、今レジェンドに話しかけたんですよ。まあまあだったぜサーナイト、けどそんなもんじゃオレ様には勝てねえけどな。
レジェンドがこう言ったものですから」
〈……お前、マジでオレ様の言葉がわかるのか?〉
「うん。少なくとも自分は嘘をついてないって自信を持って言える」
「………そうか」
それだけ呟き、ロストはレジェンドに視線を向ける。
「レジェンド、お前は自分を「オレ様」などと言っている尊大な奴だったのか……驚きだな」
「……信じるんですか?」
「お前は嘘を言っていないと言っただろう? ならばおれも信じる、それだけだ」
「…………」
簡単に言ってのけるロストに、少し驚いた。
こうも簡単に信じてくれるとは……ある意味器が大きい人間なのかもしれない。
「ではそろそろここから出るか。お前のサーナイトとおれのレジェンド、そしてライコウをポケモンセンターで回復させてやらないとな」
「そうです……ね」
「レイジ、どうした?」
「………いえ」
しまった……カイリ達の事を完全に忘れていた。
何も言わずに飛び出した挙げ句、呑気にバトルをしていたなどと知ったら怒られる。
(とりあえず……みんなが来たら謝ろう)
勝手な事をした自分が悪いのだ、謝るくらいで許してくれればいいが……。
そんな事を考えつつ、ロストと共にやけたとうを後にすると。
「あーっ、レイジ!!」
「うっ……」
早速見つかった、もちろん非常にご立腹である。
それに見慣れない男性まで一緒だ。
「お前なぁ、いきなり走り出したと思ったら何してたんだよ! 心配したじゃねえか」
「ごめん……」
「ごめんじゃないよ! レイジのバカ!!」
珍しく不機嫌全開のカグヤに、レイジは謝る事しかできない。
「2人とも、レイジも反省してるし今回だけは許してあげましょう」
「そうだよ。こうして無事だったんだからいいじゃないか」
見かねたヒメカと青年が2人を宥めると、まだ納得していない様子だが静かになった。
「本当にごめん。もう勝手な行動はとらないから」
「だといいけどね」
「だといいけどな」
「2人は普段レイジに迷惑を掛けているんだからあまり強くは言えないわよ」
「うっ……」
「そ、それを言われるとな……」
どうやら自覚はしているらしい、ヒメカの言葉で小さくなってしまったカグヤとカイリ。
「……ところで、アナタは?」
ふと、レイジの隣に佇む青年に全員の視線が集まった。
「……とりあえず先にポケモンセンターに行ってもいいかな? ティナを回復してやりたいから」
「回復って……本当に何してたんだ?」
「向こうで話すよ、それじゃあ行こう」
………。
「へぇ、レイジが全然相手にならないくらい強いんだ……」
「過大評価しているだけだ、レジェンドを本気にさせたのはレイジが初めてだよ」
「そっちもまさかエンジュのジムリーダーと知り合いになってたなんてね……」
ポケモンセンターに向かい、ティナ達を回復させている間に情報交換をするレイジ達。
先程カグヤ達側にいた青年――マツバがジムリーダーだと知ってレイジは驚き。
逆にカグヤ達は、ロストがレイジを負かせた事に驚いていた。
「強いんですね。もしかしてジムリーダーとかですか?」
「ただのトレーナーだ。いや……おれの場合はそれも的確ではないか」
「………?」
含みのあるロストの言葉に、全員が首を傾げる。
「ああ、別にたいした事じゃない。ただ……おれには自分の記憶というものが存在しない、だから的確じゃないと言ったんだ」
瞬間、周りの空気が少し変わった。
「えっ……?」
「自分の記憶が……ない?」
「つまり、記憶喪失?」
「そうだ。自分の名すら思い出せない、ロストというのも自分で付けた名だ。
気が付いた時、おれにはレジェンド以外何もなかった、だから自分を知る為に今まで色々な所を旅してきたが……まだ、自分の名前すら思い出せない」
「…………」
「そんな顔をするな。記憶喪失といっても悲観になる必要はないし、見るもの全てが新鮮に映るのも悪くない。
旅も楽しいしポケモン達もいる、だから今まで自分の境遇を悲しいと思った事はない」
だから気にするな、ロストはそう言って口を閉ざす。
確かに、今の彼の言葉は本当に心からそう思っている事だろう。
だが、近い境遇であるせいか……レイジには彼の心中はそれだけではないような気がしてならない。
……回復が終わったアナウンスが耳に入る。
「レイジ、終わったようだぞ?」
「……そうですね」
席を立ち、ロストと共にボールを取りに行く。
「――そんな顔をされても困る、おれはお前の優しさに応える事ができんからな」
「…………」
顔に出てしまっていたのか、ぽつりとロストにそう言われてしまった。
「……僕も、同じなんです」
「何?」
「僕も、自分の事が何一つわかりません。
育ての親はいるけど、僕も……自分自身がわからない」
「…………そうか」
それだけ呟き、ロストはこれ以上何も言ってはこなかった。
けれど、レイジには確かに感じられたのだ。
彼の瞳の奥底に、寂しさと悲しみの色が渦巻いている事に……。
――ロストと共に回復が済んだティナを引き取り皆の元に。
「よしレイジ、早速マツバさんとジム戦やろうぜ!!」
「いきなり過ぎるからちゃんと説明して」
戻ってきて早々にそんな事を言われても困る。
まあ大体の状況は理解したが、説明してくれてもいいではないか。
「いや回復も済んだし、やっぱりジムがある以上ジム戦をしてバッジをゲットしないとさ。
もちろんマツバさんも許可してくれたぜ!」
「挑戦者の挑戦はできる限り受けるのがジムリーダーの役目だからね、君達がよければいつでも大丈夫だよ」
「そうですね……それじゃあお願いします」
それに自分はまだバッジを3つしかない。
後1つ集めなくては、ポケモンリーグに出場する事ができないのだから、ここは是が非でもバトルしてもらわなくては。
――だが、その前に
「ロストさん」
「何だ?」
「マツバさんとバトルをする前に、もう一度あなたにバトルしてほしいんです」
「何……?」
「えっ、何でだよ?」
負けたのが悔しいから……というわけではないだろう、レイジはそういうタイプではない。
だからこそ、カイリ達はレイジの言葉に疑問を抱いた。
「それは構わんが……」
「ありがとうございます、それじゃあ早速お願いします」
言うやいなや、さっさとセンターから出ていくレイジ。
ロストも静かに後を追った。
「……レイジ、どうしたのかな?」
「さあな。けど……レイジを負かせたロストさんの実力、俺も見てみたいからちょうどいいかも。
マツバさん、すみませんけどジム戦はもう少し待っててもらってもいいですか?」
「もちろんだよ。それにぼくも2人の勝負を見たいと思っているしね」
………。
センターの裏にあるバトルフィールドに移動したレイジ達、既に両者共にスタンバイを終えている。
「どうしようヒメカ、急なバトルだからポンポンも無いしチアガールに着替えてないよ!」
「……着替える必要はないから安心しなさい」
「……彼女は彼がバトルをする際、いつもそんな格好をしてるのかい?」
「ええ、まあ……だいたいは」
「…………」
外野がうるさい。
やれやれとため息をつきながら、ロストへと声を掛ける。
「使用ポケモンは一体のみ、それと……勝手なお願いですけど、僕の指定したポケモンで戦ってくれませんか?」
「構わない。だがお前はおれの手持ちを知らないだろう?」
すぐに教えようとレイジへ告げようとするが、彼にはそんなもの必要なかった。
何故なら、彼がバトルをしたいポケモンは……。
「――ライコウと、戦ってみたいんです」
「…………」
『…………………は?』
外野にいるカグヤ達全員の声が、見事に重なる。
今、レイジは何と言った?
ライコウ……と、確かに言ったような……。
「って、はぁぁっ!?」
一番初めに新しい反応を見せたのはカイリ。
しかし、カグヤに至ってはいまだにポカンとしているし。
ヒメカも我に帰ったものの、自分の耳が信じられず言葉が出ないでいた。
「ちょ、ちょっと待ってくれレイジくん!! い、今君はライコウと言ったのか!?」
「はい。……ロストさんはやけたとうでライコウをゲットしたそうなので、是非バトルしてみたいと思ったんです」
「や、やけたとうでライコウをゲットしたぁっ!?」
そんな話、信じられるわけがない。
確かにライコウはエンテイとスイクンと共にあのやけたとうに居た時期があった、自分も目撃した事がある。
だがある日突然三体共にどこかへ消えてしまい、その後の消息はわからずじまいになっていたというのに……。
そのやけたとうでライコウをゲットしたなどと、マツバには信じられるはずもなかった。
「じょ、冗談だろ? ライコウは伝説のポケモンなのに……」
「冗談かどうかは今にわかるよ。ロストさん、お願いできますか?」
「ああ。――来い、ライコウ。これがお前の初陣だ」
モンスターボールを上に投げるロスト。
ボールが開き、中から出てきたのは……。
「うそっ!?」
「なぁっ!?」
「えっ!?」
「そんな……!?」
カグヤ達全員が驚きの声を上げる中。
伝説のポケモン――ライコウは凄まじい電気エネルギーを発しながら、レイジ達の前に姿を表した。
「―――っ」
威圧感、そして普通ではないプレッシャーに、おもわず後退る。
これが伝説と謳われるポケモンのオーラ、カノンとは違い荒々しいものだ。
「マ、マジかよ……本物の、ライコウ……?」
「ど、どうして君がライコウを……?」
「やけたとうに赴いた際に出会った、だからバトルをしてゲットしたんだ」
あっけらかんと、感情が乗せられていない声で質問に答えるロスト。
それを聞いて、マツバは言葉を失った。
ライコウをゲットするなど、それこそ並大抵のトレーナーでは夢物語のようなものだ。
そんな事ができるなど、チャンピオンクラスの超一流でなければ不可能だろう。
計り知れない実力を秘めたロストに、マツバは恐怖すら覚えた。
「――ヒカリ、お願い!!」
対するレイジがフィールドに出したポケモンは、ヒカリだった。
「ピカチュウか……悪いが、それでは勝負にならないと思うぞ?」
「いえ、できる限り頑張ってみせます。ヒカリ、相手が何だろうと気持ちで負けたりしないで」
〈当たり前だよレイジ、ピカは絶対に負けたりしない!!〉
〈――威勢のよいピカチュウじゃ、ならばその言葉を偽りにせぬよう頑張るがよい〉
「っ」
少ししわがれたような老人の声。
なるほど、今のはライコウの声か。
(意外と年寄りくさいんだな……)
そんな事を考えつつ、バトルに意識を集中させるレイジ。
………。
だが、まだ彼は気づかない。
一体のポケモンが、遥か上空から見つめている事を。
そして――少しずつ近づいてくる闇の事も。
彼は……彼等はまだ、気づいていなかった。
To.Be.Continued...