ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
彼と彼のポケモンの圧倒的なまでの強さに完敗し、けれどレイジはある目的のために再び彼にバトルを挑んだ………。
「でんこうせっか!」
先手をとり、ライコウに向かっていくヒカリ。
〈なかなかのスピードじゃが……〉
「じんつうりき」
〈まだまだ甘い!!〉
「ピカッ!?」
ライコウの瞳が光った瞬間、ヒカリの身体が宙に浮く。
そして、まるでボールのように何度も地面に叩きつけられた。
「す、すげぇ……まるでティナのサイコキネシスだぜ」
「けど、このままじゃ一方的にやられちゃうよ!」
「ヒカリ、10万ボルトだ!!」
地面に叩きつけられながらも、10万ボルトをライコウに撃ち込むヒカリ。
だが――まるで何事もなかったかのようにライコウの攻撃は止まらない。
「無駄だレイジ、ライコウに電気技は通じない」
「かみなりだ!!」
「無駄だというのが――」
しかし、ロストの言葉は最後まで続かなかった。
ライコウの周りにヒカリのかみなりが走り、地面を削っていく。
するとライコウの重みに耐えきれなくなったのか、フィールドの一部にライコウの脚がめり込んでしまった。
バランスを崩し、ライコウのじんつうりきが解かれる。
「ヒカリ、10万ボルト!!」
「何………?」
攻撃のチャンスだというのに、レイジが命じたのは先程と同じく10万ボルト。
当然ライコウには効かず、めり込んだ脚もすぐに元に戻した。
「おいおい、何やってんだよレイジは!」
「ライコウ相手に電気技を連発……確かにおかしいわね」
ヒカリはでんきタイプ以外の技とてちゃんと使える、だというのにレイジは効果が薄いどころか効いていない電気技を使用している。
これでは勝機もへったくれもない、無意味な事を続けているだけだ。
「――ライコウ、でんじほうだ」
凄まじいエネルギーを這わした球状の電気がライコウから放たれ、ヒカリに命中する。
「ピ…カッ!!」
如何に効果が薄いとて威力そのものが違う、でんじほうの直撃を受け苦しそうな声を出すヒカリ。
「ヒカリ頑張れ、耐えてくれ!!」
(耐える……?)
「ヒカリ、アイアンテールだ!!」
「ピカ………!」
でんじほうに耐えながら飛び上がり、強化した尻尾でライコウへと攻撃を仕掛ける。
「かみなりのキバ」
しかし、ライコウは慌てる事なく身構え……ヒカリのアイアンテールをかみなりのキバで文字通り受け止めた。
瞬間、かみなりのキバから発せられる電気エネルギーがヒカリを襲う。
「投げ飛ばせ、そのままかみなり」
軽々とヒカリを上空へ投げ飛ばし――身体に凄まじいまでの電気エネルギーを這わせるライコウ。
そして、眩いばかりのかみなりがヒカリへと襲い掛かる―――!
「ピカ、チュ……」
先程よりも苦しげな声を漏らすヒカリ。
「だーっ、レイジは何やってんだよ!! 一方的にやられちまってるじゃねえか!!」
「…………」
「……おかしいわね、いつものレイジらしくないわ。これは……もしかしてヒカリにわざと電気技を受けさせている…?」
だとしたらつじつまが合う、しかし……その理由は?
わざとヒカリにダメージを負わせて、一体何をしようというのか。
「ヒカリ、まだだ……まだ耐えてくれ!!」
自らの意志でヒカリに過酷な選択を選ばせた故に胸が痛むが、それでも今更やめるわけにはいかない。
それにヒカリもそれに応えようとしているのだ、ならば自分からやめるなどどうしてできようか。
「アイアンテール!!」
再びアイアンテールを仕掛けるレイジとヒカリ。
「かみなりのキバでもう一度投げ飛ばせ」
再びライコウのかみなりのキバがヒカリのアイアンテールを防ぎ、もう一度宙に投げ飛ばし――かみなりを落とす。
「チュゥゥゥ………!」
苦悶の声を上げながら、ヒカリが電撃を耐えている姿を見て、ロストは眉を潜めた。
(妙だな……レイジ、何を考えている……?)
避けきれないわけでも防げない攻撃でもないはずだ、彼とあのピカチュウならばいくらでも対処できるはずである。
だというのに、単調な攻撃を仕掛けるばかりか避けようともせずにライコウの攻撃を受け続けているなど、理解できない。
如何に同じでんきタイプだろうと、ライコウの電撃を受けていつまで保つか……。
(もう少し……もう少しなんだ!)
(……これ以上細かい攻撃で痛めつけるのは酷だな)
このまま終わらせる、そう思いロストは勝負に出た。
「ライコウ、アイアンヘッド」
「ヒカリ、アイアンテール!!」
ライコウのアイアンヘッドと、ヒカリのアイアンテールが激しくぶつかり合う。
しかし、パワーでは遥かにライコウが勝っており、すぐさまヒカリはフィールドの端まで吹き飛ばされた。
空中でバランスをとり、着地するヒカリ。
「レイジ、お前の意図はわからんがこれ以上やっても無駄だ。次で終わりにしてやる」
「…………」
何も応えず、ただじっと何かを待っているかのような様子のレイジ。
(何だ? 一体何を待っていると……)
「――よし、これなら!!」
「………?」
「ヒカリ、どうかな?」
〈うん。凄い電気だけどなんとかピカのにしたよ!!〉
「なら反撃だ!!」
「反撃って……あいつ、何をする気だ?」
「わからない、だけど……今までの一見無駄とも思える行動には何か理由があったみたいね」
「…………」
カイリとヒメカが話す中、カグヤはジッとレイジとヒカリの様子を眺めていた。
(あれ……?)
そこで、いつもとは違う点を見つける。
(……ヒカリのパワーが、上がっている?)
元々高い電気エネルギーを身体に宿していたが、今は前よりも強いエネルギーを感じる。
否、感じるというより……肉眼ではっきりと見えるくらいだ。
この短時間で、一体ヒカリは何をしたのか。
「ヒカリ、ボルテッカーだ!!」
「ピッカァッ!!!」
ライコウに向かって駆けながら、自身の周りに黄金色に輝く電撃を這わせるヒカリ。
「ボルテッカー!?」
別に驚く事ではない、今まで何度もヒカリが使用してきた所を見てきたのだから。
しかし、カイリはその点に驚いたわけではなく。
「ヒカリの奴、チャージせずにボルテッカーを使えるようになったのか!?」
そう、今までは自分自身に電気技を使用する事によって初めてボルテッカーが使用可能となっていた。
しかし今、ヒカリはそのチャージの工程を飛ばしてボルテッカーを発動させたのだ。
だが、今までヒカリはそこまでの力はなかったはず。
この短時間で、どうしてここまで電気エネルギーを強化させる事ができたのか。
「ライコウ、迎え撃て」
今までの攻撃とは違う、受け流す事はできない威力だと瞬時に判断したロストは、ライコウに指示を出す。
「かみなりだ」
雄叫びを上げ、先程よりも更に強化されたかみなりがヒカリを襲う。
しかし――ボルテッカー状態のヒカリは、ライコウのかみなりの中を失速する事なく走っていく。
「何………!?」
このバトルが始まってはじめて見せる、ロストの驚愕の声。
「ヒカリ、頑張れ!!」
「ピカピカピカピカピカピカピカ………!!」
遂にライコウのかみなりの中から抜け出し——隙を見せたライコウにボルテッカーを叩き込む!!
さすがに効いたのか、僅かに呻き声を上げるライコウ。
――チャンスは今しかない。
今のヒカリならば、アレができるはずだ!!
「ヒカリ、ここで決着をつけるよ!! ――ライトニングだ!」
「ピカァッ!!」
大きく後ろに跳び、自らライコウとの距離を開けるヒカリ。
「ライトニング……?」
聞いた事がない技だ、一体どういったものなのだろうか。
しかし、ロストは臆する事なくライコウに指示を告げた。
「チャージビーム」
ライコウの口から放たれるチャージビームが、真っ直ぐヒカリへと向かっていく。
そして、ライコウの攻撃がヒカリに命中する瞬間。
「なっ―――」
ロストは見た。
命中する瞬間、ヒカリの姿が一瞬にして消えた光景を。
チャージビームは地面を砕き、爆発を引き起こす。
その音を聞いた瞬間――ロストはライコウの苦しそうな声をその耳で捉えていた。
「何だと……!?」
〈な、何じゃ。今の攻撃は!?〉
攻撃を受けたライコウですら、今の一撃が何だったのか理解できない。
〈ぐぅっ!!?〉
今度は反対の右側から衝撃が走る。
すぐさまそちらに視線を向けるライコウだが、そこには誰もいるはずもなく。
「ライコウ、前だ!!」
ロストの声と、顔面に一撃目と二撃目に受けたのと同じ衝撃が走った。
「これは………!」
間違いない、これはヒカリによる攻撃だ。
ボルテッカーを連続で受けたのだろう、それだけは理解できた。
しかし、問題のヒカリの姿が捉えられないという事実は理解できなかった。
「――これが、僕とヒカリの新技“ライトニング”です」
「ライトニング……」
「ボルテッカーのパワーと、でんこうせっかのスピードを合わせた新しい技です。
ボルテッカー単体より威力は下がってしまいますけど、連続で受ければいくらライコウとて……」
「…………」
確かに、威力が下がったとはいえこのパワーはかなりのものだ。
いかにライコウといえども、このまま攻撃を受け続ければ……結果は見えている。
事実、既に二十手近い攻撃を受けても尚、ライコウはヒカリの姿を捉えられないでいた。
瞳には明らかな困惑と、疲れの色が見える。
ヒカリは今、フィールド全体を縦横無尽に走りながら、ライコウの死角だけを狙って攻撃を仕掛けている。
その姿はまさしく閃光、何者にも止められない神速の領域だ。
しかし、ここで疑問点も浮かび上がる。
ヒカリの攻撃の原理はわかった、しかしそれだけのパワーは先程のヒカリにはなかったはず。
(………いや、今はそんな事を考えている場合ではなかったな)
今はヒカリを止め、このバトルを終わらせる。
(仕方ない……止められないのならば、無理矢理止めるか)
尤も、そんな事をしなくてもヒカリはもうすぐ自分から止まってしまうだろうが。
「――ライコウ、跳べ」
脚に力を込め、その場から真上に大きく跳躍するライコウ。
「そのまま地面にギガインパクトだ」
〈ぬぅぅぅんっ!!〉
裂帛の気合いを込め、ギガインパクトのパワーでフィールドに突撃するライコウ。
「ピカ!?」
その衝撃はフィールド全体はおろか、周囲の空気すら揺らすほどの凄まじいものであり。
神速の速さを誇っていたヒカリも、おもわずその動きを止めてしまい――そのまま糸の切れた人形のように地面に倒れてしまった。
「ピ、カ……?」
自分でも何が起こったのかもわからず、すぐに起き上がろうと力を込めるヒカリだが……。
まるで金縛りに遭ったかのように、ピクリとも反応してはくれなかった。
「ヒカリ………!」
「ここまでだレイジ、もうピカチュウは動けない。この勝負は……お前の負けだ」
「…………」
はっきりと告げられ、唇を噛み締めながらもヒカリの元に向かうレイジ。
――自分の敗北だというのは、わかっている。
「……ヒカリ、よく頑張ったね」
〈ごめんねレイジ、ピカ負けちゃった〉
「そんな事ない、僕の方こそ無茶な指示を出して本当にごめん……」
〈そんな事ないよ、レイジはピカの事信じてくれたからあんな指示を出したんでしょ?
なら、謝る必要なんかないよ〉
無理して笑みを浮かべるヒカリに、レイジは優しく頭を撫でてあげた。
「はい、きずぐすり」
「ありがとう」
カグヤが予め用意してきれたきずぐすりを手に取り、ヒカリに振りかける。
向こうではロストが自分と同じようにライコウにきずぐすりを振りかけている。
「凄い勝負だったよ、あのライコウを手持ちに加えていたのも驚きだったけど、そのライコウとあそこまで戦えるとはね」
やや興奮した面もちのマツバに苦笑を返しつつ、ロストがこちらに来るのを待つ。
「――まさかピカチュウがここまでライコウと戦えるとはな、驚いた」
その声には、本気の賞賛の色が見え隠れしている。
「ところでよレイジ、お前のヒカリ……いつの間にあんなにパワーアップしたんだ?」
「………ああ」
確かに、カイリ達から見ればヒカリがいつの間にかパワーアップしているように感じるだろう。
ああ、いや……事実カイリの言っている事は間違いではない。
何故なら……。
「いつの間にかというより、ライコウの電気をヒカリのものにしたから、ボルテッカーを自由に使えるようになったんだ」
「…………は?」
「ライコウの電気を……?」
「バトルの最中に、ヒカリの電気を強化しようと思って、わざとライコウの電撃を受けてヒカリの電撃のパワーを上げたんだ。
ライコウ程の電気エネルギーを自分のものにできれば、パワーアップするんじゃないかって……ヒカリが」
今回のバトルの目的はそれだったのだ。
そして、レイジ……というよりヒカリの目論見は見事当たり……大幅なパワーアップを果たせた。
「うへぇ……そんな無茶苦茶な事考えてたのかよ」
「まあね。僕も初めはあまり賛成したくなかったんだけど……ヒカリが、ね」
しかしうまくいってよかったと安堵する。
きずぐすりによって完全に元気になったヒカリを撫でながら、レイジは言葉を続けた。
「でもヒカリ、今回は許したけど次はこんな無茶な事はしないでね?」
〈はーい〉
軽い返事のヒカリに、やれやれとため息を漏らす。
「――マツバさん、お待たせしました。ジム戦の方をお願いできますか?」
「ああ、もちろんだとも。他のみんなも準備はいいかい?」
「うーっす」
「はい!」
「大丈夫です」
「……ロストさんはどうしますか?」
「せっかくだ。お前達のバトルを見させてもらいたい」
「わかりました。それじゃあ……」
行きましょう、そう口にしようとして。
「………?」
ふと、林の先にそびえ立つ1つの建造物が目に入った。
「レイジ?」
「……あれ、は」
構造はやけたとうに似ている、けれどあちらと違って古いもののちゃんとした塔だ。
それに、どこか不思議な力を感じる。
小さな、それこそ意識を集中させねばわからない程の僅かなもの。
だが――この力、は。
「あれはスズのとうだ」
「スズの、とう……」
「伝説では選ばれしトレーナーがあの塔に赴けば、ホウオウに会う事ができると言われているんだ」
「ホウオウ……」
「へぇ、なんかちょっと行ってみたいな」
「残念だけど、観光目的ではあの塔には入らせられないんだ。
あれは神聖なもの、できる限り人の手に届かない存在でないと」
「…………」
あの塔に、ホウオウが降り立つという伝説が残されているなら、先程から感じるこの力は……。
「っ、ライコウ!?」
「え―――」
驚いたような声を上げるロストの方へ振り向いた瞬間。
凄まじい速さで、ライコウがレイジの横を通り過ぎていった。
「一体どうしたんだ?」
「……なんだろう、あのライコウ……何か焦りというか……怒りみたいなものを感じた」
「…………」
カグヤの言葉に、思考を巡らす。
(焦り、怒り……?)
ライコウがそんな感情を抱く程の事が起こったというのか……?
だとするなら、それは普通では絶対に―――
「―――っ」
ぞくりと、全身が総毛立ちレイジもライコウと同じ方向に走り出す。
「おい、レイジ!!」
「ライコウを追わないと!! 何か……嫌な予感がする!!
それに、この街を覆うようなとんでもない力も感じた! 多分ライコウはそれを追ったんだと思う!!」
「マジかよ……もしかしてデッドポケモンか!?」
「わからない、けれどそれに近い力だ」
「なーるほど、ならこんな所でグダグダ言ってる場合じゃねえな!!」
カイリの言葉に頷きを返し、再び走り始めるレイジ。
「カグヤ、ハクに乗って。わたし達は空から行くわよ!!」
「うん!!」
ボールからハクを出し、その背中に飛び乗るカグヤとヒメカ。
「い、一体どうしたっていうんだい?」
「行けばわかる、追うぞ」
困惑するマツバを尻目に、ロストはレイジ達の後を追う。
「ちょっと待ってくれ、ちゃんと説明をしてくれないとわからない!!」
死闘の幕開けは近い。
レイジ達は急ぎ元凶の元へと向かっている中。
エンジュシティからさほど離れていない上空で、ガブリアスに乗って移動している1人の女性がいた。
「っ、ガブリアス急いで!!」
一声鳴き、飛ぶスピードを速めるガブリアス。
女性――シロナは表情を強ばらせながら、嫌な予感を胸に抱かせていた。
(この感じ……胸騒ぎがする。レイジくん、みんな、無事でいて!!)
様々な思想を持つ者達が、エンジュシティへと集まっていく。
それを見て、今まで傍観者に徹していた存在も動き出す。
だがそれは――レイジ達にとって、一体何をもたらすのか……。
未来の結末は、まだ誰にもわからない。
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「――あら、坊や達また会ったわね」
「―――っ」
ライコウを追うレイジ達。
ようやく追いついたと思った時——会いたくもない存在に出会ってしまった。
「お前等………!」
「……マーダ、フレア……!!」
「……知り合いか?」
「知り合いなんざ御免だけどな……ロスト、ロケット団って知ってるか?」
「ロケット団……確か国際警察とやりあっている組織だったな」
「そう、それだけじゃないですけどね……。こんな所で、何をしている?」
身構え、いつでもティナ達を出せるようにする。
「……坊や、まだ生きてたのね」
「………?」
どこかホッとしているフレアの言葉に、違和感を覚えた。
「ここに来た理由はね、ホウオウを手に入れる為よ」
「ホウオウ……!」
やはり、心の中で悪態をつくレイジ。
「ホウオウを手に入れるだって!? そんな事できるわけないじゃないか!!」
「それができるのよジムリーダーさん」
言いながら、フレアは懐から何かを取り出す。
それは――羽根だった。
虹色に輝く、美しい羽根。
「――――」
感じる。
あの時、スズのとうを見た時に感じた力を。
「これはにじいろのはね、ホウオウの羽根の一部よ。これがあればホウオウを呼び出せるの」
「なっ――!?」
「ホウオウの羽根……」
やはり、スズのとうで感じた力は……。
「それに……ライコウだけでなく、ワタシ達には“コレ”がいるの」
再び懐から何かを取り出すフレア。
それは、忌まわしいデッドボール………!
「まだそんなものを作っているのか………!」
「当たり前でしょ、それに前に言ったはずよ坊や。ワタシ達にとってポケモンは道具でしかないの、たとえそれが……」
投げられるデッドボール。
黒い光を放ち、中から出てきたのは……。
「――伝説と謳われる、ポケモンだとしてもね」
ボールから飛び出したポケモンを見て、レイジ達は息を飲んだ。
「な、んだと……!?」
「う、嘘……」
水色の美しい身体、まるで澄んだ水のようだ。
しかし、その瞳は漆黒に包まれた禍々しいもの。
「――スイクン」
そう――デッドボールから出てきたポケモンは、伝説と呼ばれるポケモンである、スイクンだった。
「じ、冗談だろ……」
「冗談ならそう思ってくれても構わないわよ、けど……」
右手を突き出すフレア。
すると、スイクンがぐらりと動いた瞬間。
「あ」
高圧縮された水の槍が、カイリを貫こうと放たれ。
「っ、ぐ……っ!!」
それを守るように、1人の少年が前に出て右腕を貫かれた。
「っ、レイジ!?」
「づ……ぁ」
「あら、よく反応できたわね」
「くっ、この………!」
立ち上がろうとするが、激痛が走り膝をつく。
「どうして……どうしてこんな事を平然とやってのけるんだ!!
ポケモンは道具じゃない、人間と共に生きていかなければならない存在なんだ!!
それを……それをこんな風に、誰かが操っていいものじゃない!!」
痛みに耐えながら、精一杯の声を張り上げて叫ぶレイジ。
「ガキの戯れ言だな、この世は強者と弱者の二つしかない。
そしてオレ達は強者であり、このスイクンもお前達も弱者なんだ。
弱者は弱者らしく……強者によって蹂躙されてればいいんだよ」
「この野郎………!」
「お喋りはここまでにしましょうマーダ、早くあの塔に登ってホウオウを手に入れなくては」
「そうだな」
「そんな事させない」
「無駄だよ!!」
マーダは一つ、フレアは二つデッドボールを取り出し投げる。
中から出てきたのは―――ハッサムとカメックス、そしてドサイドンの三体。
全員デッドボールの呪縛に捕らわれ、感じるのは敵意だけ。
「それじゃあね、坊や」
勝ち誇った笑みを浮かべ、マーダとフレアの姿が消えた。
おそらくテレポートでスズのとうへ向かったのだろう。
「っ、この野郎……人をコケにすんのもいい加減にしやがれーっ!!」
叫び、ボールからカノンを出し背に乗るカイリ。
「カノン、あいつら絶対に許せねえ。追ってくれ!!」
「わかりましたマスター、しっかり掴まっててください!!」
逃がすまいとばかりにデッドポケモン達がカノンに攻撃を仕掛けるが、その全てを回避しフレア達の後を追った。
「カイリ!!」
「くっ…ヒメカ、ここは僕達に任せてカイリを追ってくれ!!」
「でもあなたは怪我を」
「僕の事よりカイリを心配するんだ! このポケモン達は僕達がなんとかするから!」
「……わかったわ」
再びハクに乗り、カイリの後を追うヒメカ。
「は、あ――く、っ」
「レイジ……」
「大丈夫。それより今はあれを止めないと」
右腕は動かせず、失血と激痛により意識が朦朧とするが、今はそれどころではない。
だが、突然デッドポケモン達が鳴き叫び始めた。
(何だ……?)
すると、いきなり暴れ始め四方八方へと散り散りになっていく。
「拙い、このままじゃ街が滅茶苦茶になる!!」
ここで全てのデッドポケモンを止めようと思っていたが、このままではそれも叶わない。少々危険だが、ここは戦力を分散しなくては。
「カグヤ、君はカメックスを追ってくれ。僕はハッサムとドサイドンを追う!!
マツバさんはエンジュの住民の皆さんを避難させてください!!」
「しかし君達だけに任せるわけには……」
「エンジュの地理に詳しいマツバさんじゃないと住民は避難させられないんです!!
できる限り被害は食い止めたいけど、このままじゃ無理だ……だからお願いします!!」
「わ、わかった……だが気をつけてくれ!!」
「レイジ、悪いがスイクンの相手はおれとライコウでさせてもらうぞ。
どうやらライコウはスイクンを自分の手で止めたいようだからな」
「わかってます。ライコウもそう言っていますから」
「……無茶はするな。お前が傷つけば悲しむ者がいるのだからな」
「…………はい」
無機質の中にも感じる、確かな暖かさを込めた声に頷きを返す。
そして、レイジ達は各々の役割を果たす為にその場から駆け出した―――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「――待ちなさい、カメックス!!」
背中のキャノン砲で辺りを破壊するカメックスに立ちふさがるように、カグヤは身構えた。
邪魔だと思ったのか、それとも別の理由か、カメックスは動きを止めカグヤへと視線を向ける。
「っ」
恐い。
あの時と同じく、ポケモンを見て恐いと思ってしまった。
しかし仕方ない、あのカメックスからは濃厚な殺気と敵意しか感じないのだ、どんなに鈍い者とて感じてしまう程のものが。
むしろそれを前にして腰を抜かさないだけ、カグヤは強い心を持っているといえよう。
「ベイリーフ、エネコ、出てきて!!」
これはポケモンバトルではない、だから出し惜しみはなしだ。
しかし………。
(………ムウマ)
カグヤの手持ちであるこの子だけは、出すことができなかった。
――ムウマは戦いを恐がっている。
前の主人であるマーダに散々バトルを強要されてきたのだ、故に今までだってバトルには出してこなかった。
もちろんそんな事を言っている場合ではないとわかっている、だが……ムウマの事を考えると出すわけにはいかないと思ってしまうのだ。
「ベイリーフ、エネコ、ごめん……あなた達だけで頑張って!!」
結局、ムウマを出す気にはなれずベイリーフ達にそう告げるカグヤ。
「ベイベイ!!」
「ニャー!!」
そんなカグヤとムウマの心中を理解しているのか、ベイリーフとエネコは一声鳴きカメックスの前に立ちふさがった。
(早く終わらせて、レイジの所に行かないと……!)
否、焦るな。
トレーナーは常に冷静であれと、必死に自分へ言い聞かせた。
「ベイリーフ、はっぱカッター!! エネコ、スピードスターよ!!」
そして――カグヤ達の戦いは幕を開いた。
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「――スイクン」
睨み合うライコウとスイクンを見ながら、ロストは静かにスイクンの名を口にした。
明確な殺気をこちらに向けてくるスイクンに、ロストは唇を噛んだ。
「ライコウ、早くスイクンを楽にさせてやるんだ」
殺しはしない、そんな事は許されない。
しかし――本気で戦わなければこちらが殺される。
(いざとなれば……アレを使う)
レイジ達の事が心配だが、今は他人の心配をしていられる余裕などはない。
相手は伝説のポケモンであるスイクンだ。
如何にタイプで優勢なライコウとはいえ、スイクンから感じる力は凄まじいものだ。
これでは、どちらが勝てるかわからない。
「――ライコウ!」
雄叫びを上げ、スイクンに向かっていくライコウ。
スイクンもそんなライコウを迎え撃つかのように地を蹴り、激しくぶつかり合った――
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「――は、ぐ……」
痛い。
激痛はやがて熱となり、レイジの思考を確実に蝕んでいた。
しかし、目の前にはハッサムとドサイドンがレイジへと絶対的な殺意を抱き睨んでいる。
「くっ……リオン、お願い!!」
右腕は使えないので、左手でリオンをボールから出す。
だがリオンだけでは足りない、ティナ達も出さなくては……。
そう思った矢先、ハッサム達がリオンとレイジに襲いかかる―――!
「くっ………!」
まだ自分はティナ達を場に出していない。
しかも、リオンだけではあのハッサム達を止める事などできない。
しまった、心の中でそう叫びつつ迫り来るハッサム達を見据えながら。
「――ガブリアス、りゅうせいぐん!!」
上空から聞こえた澄んだ女性の声と。
ハッサム達に襲いかかった隕石のような攻撃を、視界に捉えていた。
「――間に合ってよかったわ、レイジくん」
自分の横に降り立つのは、ガブリアス。
そして、その上に乗っていた女性は。
「シ、シロナさん……」
金糸の髪の美女、シロナだった。
「っ、レイジくん、その怪我は……!」
衣服と腕を真っ赤に染めたレイジの右腕を見て、シロナはすかさずレイジに近寄る。
既に下には小さな水溜まりができており、レイジの顔色も酷く悪い。
「レイジくん、こんな状態でバトルを……」
「シロナさん、どうしてここに……」
「今は説明してる時間はないわ、それよりレイジくんは下がってて」
こんな怪我を負っている彼に、バトルをさせるわけにはいかない。
そう思い、シロナはレイジを後ろに下げさせようとしたのだが……他ならぬレイジがそれを止めてしまった。
「レイジくん、そんな怪我じゃ……」
「今は、そんな事を考えてる場合じゃ…ないんです」
――ハッサムがレイジ達に迫る。
「ガブリアス、ドラゴンクロー!!」
しかし、シロナが素早く指示を出しガブリアスがハッサムをドサイドンに向けて吹き飛ばした。
「りゅうのはどう!!」
続いてドサイドンにりゅうのはどうを放つが、さしたるダメージを与えられないのか腕を交差させてガードしながら、ドサイドンが少しずつこちらに近づいてくる。
(やっぱりデッドポケモンなのね……!)
「リオン、かえんほうしゃだ!!」
リオンの口から放たれたかえんほうしゃがハッサムを包むが、こちらも足止め程度にしかならない。
「……シロナさん、今は怪我の事を考えてる場合じゃないんだ。
止めないと……街のみんなだけじゃない、あのハッサム達だって…もっと苦しむ事になる……」
「……レイジくん」
「足手まといにはなりません、だから……2人で止めるんです、あれを」
「…………」
ずるい、とシロナは思う。
そんな真剣な瞳を向けられて、どうしてやめろなどと言えるというのか。
「――なら、最後までその意志、貫きなさい」
ため息をつきつつも、わざと突き放したような口調でそう告げるシロナ。
彼は守られるべき子供ではない、自分と同じ立派なポケモントレーナーなのだ。
「……ありがとうございます、シロナさん」
――大丈夫、痛みはあるが我慢できないものではない。
「ふふっ……貴方とタッグバトルができるなんて、普通ならとても嬉しい事なんだけど」
だから惜しいと、こんな状況でもそう思ってしまう。
「……そうですね」
レイジも笑みを返し、再びしっかりと立ち上がった。
そして―――
「リオン!!」
「ガブリアス!!」
「だいもんじだ!!」
「はかいこうせん!!」
最強のタッグが、激闘を繰り広げ始めた……。
To.Be.Continued...
キャラクター【レイジ】の項目を更新しました。