ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
その事実に安堵し、疲れを癒そうと思ったレイジ達の前に。
伝説のポケモンである、ホウオウが姿を現した―――
虹色の羽根。
見る者を魅了し、同時に畏怖させるような顔立ち。
誰かが息を呑み、けれどそこから動く者は誰もいない。
「………ホウオウ」
ぽつりと、レイジはホウオウの名を口にする。
それと同時に、ホウオウは羽根を収めスズのとうに降り立った。
「――人間の力、見せてもらった」
「喋った!?」
低く重い声を放つホウオウに、カイリは驚く。
「人の言葉を使うのが、そんなに不思議か?」
「あっ、いや……すんません」
何故か謝ってしまった。
……後ろでヒメカがため息をついたような気がするが、無視する。
「ホウオウ、ずっと見てたの?」
「そうだ。お前達がこの醜い争いを止められるか見せてもらった。
尤も、我も多少の手助けをしてしまったがな」
「手助け……?」
「お前のリザードンが力を求めた、だから力を貸してやった。
我が助けを与えてやるのは多少の躊躇いがあったが……」
(……なんかいちいち偉そうだよな)
ついついそう思ってしまうカイリだが、口に出すと面倒な事になりそうなので黙っておく。
「しかし、それを抜きにしてもお前達はこの戦いを止め、奴らのくだらぬ企みを潰した。大義であったぞ」
「でもそれはポケモン達が力を貸してくれたからだよ。人間だけじゃ止められなかった」
「そうだ。……不思議なものよな、争いを始めたのが人間なら止めたのも人間。
――どちらが人間の本性なのか」
「そんなの、後者に決まってるだろ。そりゃあ人間にはこんな部分もあるけど……」
「そうかな?」
カイリの言葉を遮って、ホウオウが口を開く。
「人間は我等のような存在を道具のように扱い、自らの願いに叶わなければ容赦なく捨てる。
そんな事をしている人間が、果たして綺麗な存在だと言えるのか?」
「それは……」
「でも、それが人間の全てではないわ」
「それは表面上に出ていないだけではないのか?
では問うが、今まで生を謳歌してきて一度たりともそう思った事はなかったと言えるか?」
「…………」
その問いかけに、シロナも反論を返せない。
自分とて、過去にゲットしたポケモンが自分の望んだ強さではないからといって逃がしたり、悪態を吐いた時だってあった。
しかしそれは仕方ない、彼女は神様でも聖人君子でもない、人間なのだ。
トレーナーとしての強さを求めるが故に、そのような行動に走る者がいないわけではないのだから。
「じゃあホウオウは、人間が嫌いなの?」
「好きか嫌いか、そんな感情など一度たりとも抱いた事などない。
しかし……人間は醜い存在だという認識はある」
「…………」
はっきりと告げるホウオウに、全員が目を見開く。
醜い存在だと、ホウオウは言った。
その口調には、確かな怒りと侮蔑の感情が乗せられている。
「じゃあ、何でレイジに力を貸したんだよ?
人間が醜いと思ってるなら、力を貸す必要なんか……」
「勘違いするな。我が力を貸したのはあくまでお前達がポケモンと呼んでいる者達を助ける為だ。
それに……この子は、我等にとって特別な存在だからな」
「えっ……?」
特別な存在……?
ホウオウはレイジを見ながら、確かにそんな事を口にした。
「特別な存在って……レイジが?」
「……ホウオウ、君は……僕の事を知ってるの?」
「…………」
「知っているなら教えてほしい、僕は……一体何者なの?」
溢れる感情を抑えつけながら、ゆっくりと問いかけるレイジ。
だが……ホウオウは首を横に振りながら口を開いた。
「その答えはお前自身が見つけなくてはならない、我が話すわけにはいかないのだ」
「……どうして?」
「それが世の理、そしてお前自身に課せられた使命だからだ」
「使命……」
自身を見つけるのが使命とは、一体どういう事なのだろうか。
「その答えはいずれわかる、その使命は運命でもあり……そして、決して避けられぬものだからな」
「…………」
「レイジといったな、お前に問いたい事がある。
お前は、人間に対して一体どんな感情を抱いている?」
静かに、けれど有無を言わせぬ迫力を込めて、ホウオウは問うた。
(人間……)
この世界に生き、ポケモン達と共に暮らす存在。
そんな人間に対して、自分は一体どんな感情を抱いているというのか。
「――憎いと、思った事はなかったのか?」
「っ」
ホウオウの言葉に、レイジはピクリと身体を震わせる。
「お前には人にはない不思議な力がある、だがその力のせいで同じ人間達に化け物扱いされ蔑まれた。
その時お前は思わなかったのか? 人間は醜いと」
「…………」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! レイジ、お前今の話……」
「…………」
レイジは答えない。
しかし、それが無言の肯定だと理解し、カイリは何も言えなくなった。
――予想は、薄々していたのだ。
周りにはない力、当たり前ではない存在に人は恐怖する。
ポケモントレーナーという存在が当たり前になっている今でさえ、ポケモンという存在に恐怖心を抱く人間がいる。
その理由は、人にはない力を持っているから。
故に、レイジの力を見て恐怖心を抱かない人間がいないかというと……答えはノーだ。
「人間を憎いと、くだらない存在だと思った事はなかったのか?」
「…………」
心の奥底にしまっていた感情が、少しずつ浮上していく。
子供の頃、この力が原因でカグヤ以外の子供に恐がられた。
その時に受けた仕打ちに対する怒り、憎しみ。
ずっと目を逸らし、蓋をしてきた感情が、ホウオウの言葉で……。
「――レイジの傷を、思い出させないで」
「――――」
ふわりと、誰かに優しく抱きしめられた。
それがカグヤだと理解するのに数瞬、そして彼女がホウオウに向けて放った言葉を理解するのに、更に数瞬かかった。
彼女に視線を向けると、カグヤはホウオウを睨みつけている。
珍しい、本気で怒った表情を浮かべながら。
「あなたは何がしたいの? レイジの傷を思い出させる為に来たの?
なら帰って、そして二度とレイジの傍に現れないで。
レイジを傷つける存在は、たとえ誰であろうとも許さない」
「……カグヤ」
「人間の娘。その子を守るのはお前の自己満足を満たす為か?」
「違う。私にとってレイジは一番大切な人だから守るの、ずっと助けてもらってきた……私は今までレイジに何も返せなかった。
だから守る、どんな存在だろうとも彼を傷つける全てから」
「…………」
僅かに、ホウオウの顔に驚愕の色が見えた。
カグヤの言葉が真実だと理解したからだ。
「確かに、あなたの言う通り人間は醜い存在よ。もちろん私だって同じ。
でも、それが人間の全てじゃないと胸を張って言えるわ。
だって、人間である私は彼が何者であっても構わないと思ってる。
たとえ彼がどんな存在でも、今まで抱いてきた信頼と愛情が変わるわけじゃない」
シロナもレイジを守るように立ち、真っ直ぐホウオウと対峙してはっきりと言い放つ。
「シロナさん……」
「お前達は、本気で言っているのか?」
「当たり前」
「当たり前よ」
間髪入れずにそう返す。
しかし、そう返したのは2人だけではない。
「俺達だって同じ気持ちだ、レイジが何者だろうと関係ねえ。
こいつは何があっても俺の……俺達の親友だ」
「そうね。わたしもはっきりとそう言えるわ」
「……お前がレイジに何を言いたいかは知らんし興味もない。
だが、こいつを傷つけるならば許さん」
カイリも、ヒメカも、ロストも、レイジを守るようにホウオウと対峙する。
「みんな………」
嬉しかった。
こんな自分を、本気でそう思ってくれる事が本当に嬉しかった。
「……なるほど、それもまた人間の本質か」
そう呟き、ホウオウは羽根を広げ空を飛ぶ。
「ホウオウ……?」
「レイジ、そして人間達よ。お前達の答えを確かに見せてもらった。
そこまで言い切ったのだ、選定の時までその答えを失うな」
「選定の時……?」
「おい、わけわかんない事言って勝手に消えようとすんな!
お前にはまだまだ訊きたい事があるんだよ!」
「我からはこれ以上の事は言えん、我の役目はあくまでも監視と問いかけだけだ」
「監視……?」
「問いかけ……?」
「答えはいずれわかる、それがこの世界の理だ」
「待てコラ! 言い逃げすんじゃねえ!!」
「レイジ、自分自身の事がわからず不安になっているようだが、その答えも選定の時になれば自ずとわかる。
だからそれまでに世界を知れ、そして人間という存在がこの世界に必要かどうかもな」
「えっ……?」
「もう二度と会う事もあるまい。だが……我の言葉を忘れるな」
そう一方的に言い残し、空へと消えていくホウオウ。
虹色の光も消え、辺りに静寂が訪れた。
「〜〜〜〜っ、何なんだよあれは!!!」
かなりご立腹なカイリだが、まああれだけ一方的に言われれば怒りも抱いても仕方ないかもしれない。
他のメンバーも、カイリと同じように不満げな表情を浮かべている。
……しかし、レイジだけは違った。
ホウオウの言葉が、何度も頭の中に繰り返し再生されていく。
世界を知れ、と。
人間という存在を知れ、と。
それがお前の使命だと言わんばかりに、ホウオウはそう告げてきた。
忘れてはならない、この旅でそれを見つけねばならないと、レイジはそう感じていた。
「ったく、わけわかんない事言いやがって……同じ伝説のポケモンでもカノンとは大違いだぜ!」
「でも、ホウオウは結局何が言いたかったのかな?」
「さてな。それよかさっさと帰ろうぜ。
街の様子も気になるし、マツバさんの所に戻らねえと」
「そうね。それじゃあ帰りましょう」
「…………」
ホウオウが消えていった空を見上げる。
「レイジー?」
「……今行くよ」
カグヤに呼ばれ、レイジも屋上を後にする。
頭の中で、何度もホウオウの言葉を思い出しながら……。
………。
「――ええっ、ジム戦できないの!?」
エンジュシティで、カイリの大声が木霊する。
「当たり前じゃない、こっちの都合を押し付けたりしないの」
そんなカイリをたしなめるヒメカ。
――エンジュシティでの死闘の際、ジムが壊れてしまいジム戦ができないとマツバに告げられたのだ。
それだけではなく、街の復興を優先しなくとはならず、少なくとも数日間は不可能とのこと。
「仕方ない。ジム戦は諦めてアサギシティに行こう」
「ええっ、マジかよ……」
ぼやくカイリだが、無理なものは無理なのだ。
なにせ色々ゴタゴタしていたせいで、カントーに帰らないとポケモンリーグに間に合わなくなる。
バッジを集めても間に合わなければ、それこそ笑い話にもならない。
「レイジくん、皆さん、ありがとう。君達のおかげでこの街も救われた」
「いいえ。気にしないでください」
「それにスイクンにホウオウに出会えるなんて……ようやく夢が叶ったよ」
「あはは……」
ホウオウとの会話を聞かれなくてよかったと思う。
なにせ人間をボロクソ言っていたのだ、トラウマになってしまうかもしれない。
「それじゃあ、また機会があれば会いましょう」
「ああ、またね」
マツバに一礼をして、アサギシティ方面の道へと歩を進める。
そして、出口へと向かうと……。
「あ」
そこには、何故かシロナとスイクンの姿が。
「……スイクン」
「…………」
ジッとレイジを見つめるスイクン。
口には出さないものの、その瞳の奥には感謝の意が感じ取れる。
「またね」
掛ける言葉は、ただそれだけ。
本当は、スイクンにも来てもらえたら嬉しいとは思う。
けれど、他ならぬスイクンがそれを望まない以上は仕方がない。
スイクンは顔をレイジに擦り寄せた後、あっという間に森の中へと消えてしまった。
また会いたいとは思うが、それは難しいかもしれないと思うと残念だ。
「スイクン、綺麗だったなぁ……」
「そう思うと、なんか少し勿体ないな」
「スイクンが望まないなら仕方ないさ。それよりも……シロナさんはどうしてここに?」
シロナへと視線を向けながら問いかけると、シロナは驚きの言葉を口にした。
「レイジくんについていこうと思って」
「は……?」
「ついてくって……旅にですか!?」
ええ、なんて即答をするシロナに、全員顔を引きつらせる。
「シロナさん、チャンピオンの仕事は……?」
「ああ……その点なら心配無用よ。実を言うと四天王やチャンピオンってポケモンリーグが終わると仕事ないの」
「仕事ないんですか?」
「ええ。だからみんな他にちゃんとした仕事を持っているのよ。私は考古学者といった風にね」
なるほど、それならば納得はできる。
別に断る理由がないレイジとしたら、その言葉だけで充分賛成する事ができる。
できる、が……。
「…………」
何故か、さっきからカグヤの機嫌があまりよくない。
「カグヤ、反対なの?」
「……うぅん」
首を振るカグヤだが、その顔はあきらかに納得していないものだった。
しかし、一体どうしたというのだろうか、カグヤは他人を嫌うような子でないし、それ以前にシロナとは仲がいいはずだ。
「カグヤ、宜しくね?」
「あ、は、はい……よろしくお願いします」
握手を求められたので、慌てて手を出す。
(……変なの。どうして胸がモヤモヤするんだろう)
自分の感情がわからない、今までも何度もあったがこれは一体何だというのだろうか。
「――ではレイジ、おれはそろそろ行かせてもらうぞ」
「えっ……」
「悪いがおれはおれの目的を果たしたい、だからお前達とは一緒に行けないんだ」
「……そうですか」
残念だが、ロストにも事情があるのでこれ以上は何も言わなかった。
「それじゃあ行きましょう、目指すはアサギシティよ!」
言いながら、さっさと走っていってしまうシロナ。
「おっ、負けるか!!」
「ま、待ってよー!!」
別に勝負をしているわけでもないのに、慌ててシロナの後を追うカイリとカグヤ。
「まったく、子供なんだから……」
「仕方ないよ。それじゃあロストさん、またいつか……」
「ああ。またどこかで会おう」
そう言葉を交わし、ロストはチョウジタウンヘ、そしてレイジはアサギシティへの道を歩み始めた。
「レイジー、ヒメカー、はやくはやくー!!」
「はいはい……」
すっかりいつもの彼女に戻ってくれた事に安堵しつつ、レイジは再び旅路を進んでいく。
――ホウオウに告げられた言葉を、頭の隅に思い浮かべながら。
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「――失敗したか」
「申し訳ありません、この失態は必ず……」
「そう気負いする必要などはない、しかし……デッドボールにそのような弱点があるとは意外だった」
まさか、モンスターボールで捕まえる事ができるとは……まだまだ改良の余地があるようだな。
それに、ラティアスの事といい今回のホウオウの事といい……。
「レイジ、と言ったな?お前が執着しているトレーナーは」
「執着というわけでは……ただ、彼の力は我々にとって有効かと思ったのです」
それを執着というのだがな……そう言ってやろうかと思ったがやめておこう。
「フレア、マーダ、お前達は暫しホウエンに行け」
「ホウエンに、ですか?」
「そうだ。ホウエンにもホウオウやスイクンと同じく伝説と呼ばれるポケモンが存在する。それを調べてくるのだ」
「――畏まりました」
では行け、そう命じると2人はすぐさま姿を消した。
「さて………」
人間にはない不思議な力を持つ少年、レイジにカイリか……。
なる程、確かに興味が湧いてしまうのも仕方ないかもしれん。
ちょうどいい、今度は私自らがどれほどのものか見極めてみるか。
それに、あのポケモンを捕らえねばならんしな。
ホウオウと対をなすポケモン、海の守り神である。
――ルギアをな。
To.Be.Continued...