ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
そんな束の間の一時を、お見せしよう……。
アサギシティを目指すレイジ達。
迫るポケモンリーグに向けて、今日もトレーニングに勤しんでいた。
「エネコ、スピードスター!!」
「トゲキッス、サイコカッター」
エネコのスピードスターと、トゲキッスのサイコカッターがぶつかり合う。
しかし、サイコカッターによってスピードスターが押し負けエネコに向かっていく。
「あなをほる!!」
すぐさま地面に穴を掘って難を逃れるエネコ。
「いい手よカグヤ、でもまだまだね」
「え?」
「トゲキッス、地面にはどうだん」
「っ、エネコ出てきて!」
すぐさまそう指示を出すカグヤだが、少しばかり遅かった。
地面へと向かって放たれるトゲキッスのはどうだん。
それは見事中にいるエネコを捉え、地面へと叩き出す。
「そのままエアカッター」
そして、追撃のエアカッターをまともに受け。
「そこまで!」
審判をしていたヒメカの声により、バトルの幕が降りた。
………。
「あーあ、また負けちゃった」
きずぐすりで治療した後、エネコをボールに戻しながらカグヤは愚痴を零す。
「仮にもチャンピオンだから、そう簡単に負けるわけにはいかないわ」
そんなカグヤをなだめるように、シロナは言った。
「よし、次は俺とお願いしますシロナさん!」
チャンピオンに特訓してもらうなど普通はありえないのだ、ここは是が非でも活用させてもらわねば。
そう思ったカイリだったが、背後から掛けられた声によって中断させられる事に。
「特訓するのは構わないけど、お昼ごはんができたから一旦終わりにしてくれないか?」
エプロンを身につけ、右手におたまを持ちながらそう言ったのは、本日も食事当番のレイジ。
「やった、私もうお腹ペコペコだよ」
「それなら手伝ってくれないか?」
「えー……」
「……じゃあ、今日はカグヤお昼ごはん無しだね」
「わーっ、それだけはご勘弁を!!」
なら早く手伝って、容赦のないレイジの言葉にカグヤも渋々従うしかなく。
「――では、いただきます」
『いただきまーす!』
すぐさま準備を終え、昼食となった。
「……それにしても、レイジくんって料理上手なのね」
玉子焼きを口にしつつ、シロナは感心したように言った。
「そうですか?」
レイジとしては、別にたいしたものを作っているとは思っていないので、首を傾げるしかない。
「ええ、この歳でこんなに美味しいごはんが作れる男の子なんてそうはいないわよ。
昔から料理をしてきたの?」
「はい。おじさんとおばさんがよく研究所に泊まりがけで仕事なんてよくありましたから、自然とできるようになったんです」
「レイジ、よくお母さんのお手伝いとかしてたもんね」
「……そういうあなたはしてなかったの?」
ジト目でそう告げるヒメカに、カグヤは「うっ」と声を漏らす。
やってなかったんだな、彼女のその態度で全員がそう思った。
「だ、だって……料理とか苦手なんだもん」
「そんなの単なる言い訳だよ、カグヤ」
「ううっ……!」
容赦なしのレイジのツッコミにより、カグヤ撃沈。
それを見て、全員苦笑混じりの笑みを浮かべるのだった。
「そういえば、シロナさんってたしか一人暮らしなんですよね?」
「ええ」
「なら、今度食事当番してくれませんか? いつも僕ばかりで大変なんで」
最後の方は皮肉たっぷりに言い放つレイジ。
それを聞いて、カイリ達3人が小さくなった。
「…………」
「……シロナさん?」
一体どうしたというのだろう、いきなりシロナの動きが止まった。
心なしか、顔が引きつっているようにも見える。
「あの……どうかしましたか?」
「……いえ、そうね……近い内にでも」
「はあ……」
何だろう、今あまり触れてはいけない話題に触れてしまったような気がする。
「ごちそうさまー、それじゃあみんな、早速特訓よ!」
早々に席を立ち、自分のポケモンを連れて走っていくカグヤ。
「ったく、後片付けくらいしてよ……」
しかし、いつもの事なので諦める事にする。
「手伝うわ。さすがにこれくらいはしないと」
「いいよ。それよりヒメカはカグヤが騒動を起こさないか見張っててくれないか?」
「……わたしはあの子のブレーキなの?」
「………宜しく」
答えをはぐらかし、ヒメカの肩に手を置く。
大袈裟にため息をつきつつも、ヒメカはカグヤの後を追ってくれた。
「カイリもトレーニングしてくれば?」
「えっ、いいのか?」
「そんなにソワソワした態度を見せられたらそう言わざるおえないよ」
またも皮肉めいた口調でそう告げると、カイリは居心地悪そうに小さくなった。
そんな彼に苦笑しつつ、レイジは汚れた食器や調理器具を持ってその場から少し離れる。
「アクセル」
ボールからアクセルを出す。
「いつもの、お願いできるかな?」
〈はい、わかりました〉
レイジにそう言われ、アクセルは地面に穴を掘り始めた。
「レイジくん、何してるの?」
何をするのかわからないのか、シロナがレイジの元へとやってくる。
ちょうどアクセルの作業も終わったようだ、レイジはシロナへと視線を向けた。
「シロナさん、ミロカロスを出してくれませんか?」
「それはいいけど……この穴は?」
アクセルの開けた穴は、それなりに大きな穴で直径40センチはあるだろうか、しかし何をするのかさっぱりわからない。
「洗い場です。近くに川はないしあったとしても川に油を流すわけにはいきませんから」
「なるほど……」
そういう事なら、とシロナはミロカロスをボールから出す。
「ミロカロス、みずの……みずでっぽう」
(今みずのはどうって言おうとしたな……)
それは勘弁してもらいたい、ミロカロスのパワーでそんな事をされたら洗い場ができるどころかクレーターができてしまう。
かなり威力を弱めたみずでっぽうにより、穴に水が溜まり洗い場ができた。
「ミロカロス、ありがとう」
優しく頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細めすり寄ってきた。
「あはは、くすぐったいよミロカロス」
(……ミロカロス、羨ましい)
じゃれ合っているレイジとミロカロスを見ながら、羨ましそうな視線を送るシロナ。
しかし自分にはあんな事をする度胸はない、というかミロカロスだから違和感がないだけで、シロナがやると色々と問題があるだろう。
こういう時、ポケモンになれたらと思ってしまうのは致し方ない……と思う。
「それじゃあ、さっさと終わらせましょう」
尚もじゃれてくるミロカロスを優しく引き離し、汚れた食器達を洗っていくレイジ。
それを見て、シロナも慌てて手伝い始める。
〈父上、母上、僕も手伝いましょうか?〉
「大丈夫だよアクセル、ありがとう」
手際よく食器を洗い終え、次々タオルで拭いていく。
しかし慣れていないのか、シロナはまだ終わっていない。
「シロナさん、慌てなくてもいいですから」
「え、ええ……」
自分よりかなり年下の男の子にフォローされるというのは、なかなかに堪える。
――やがて、シロナも食器を洗い終えた
「アクセル、ご苦労様。リオン、出てきて」
アクセルをボールに戻し、すぐさまリオンを出す。
「いつもの、お願い」
〈任せろ〉
そう返すと、リオンは即席の洗い場に溜まった水に炎を吐き出す。
(ああ、なるほど……)
汚れた水をそのままにするわけにはいかないので、リオンの炎で蒸発させているのだろう。
そして、すっかり乾いた穴を塞いで……これで完了だ。
「シロナさん、手伝ってくれてありがとうございました」
「気にしないで。それに私だって一緒に旅をしているのだから、手伝うのは当然でしょ?」
「……カイリとカグヤにシロナさんの爪の垢を飲ましてやりたい」
「あはは……」
本気の声色でそう呟くレイジに、シロナは苦笑を浮かべる。
と、シロナはレイジに頼んでみたい事を思い出した。
「ねえレイジくん、前からお願いしたい事があったんだけど……」
「なんですか?」
「私のポケモン達が私の事をどう思ってるのか通訳してほしいの」
簡単な意志疎通ならばできるが、深い所まではシロナでもわからない。
だからこそ、ポケモンと会話できるレイジに聞いてもらいたいのだ。
「いいですよ」
大好きな自分のポケモン達の事をもっとよく知りたい、そんなシロナの心中がよくわかるから快く承諾した。
「ありがとう。それじゃあ早速お願いね?」
言うやいなや、一気に自分の手持ち全てをボールから出すシロナ。
(これは……壮観だな)
ミカルゲにロズレイド、トゲキッスにルカリオにミロカロス、そして切り札であるガブリアス。
どのポケモンも凄まじいまでの強さを秘めており、立っているだけでその凄みというのが感じ取れる。
「それじゃあまずは……みんなが私の事どう思ってるか訊いてみて。
あっ、私に気を使わなくていいから、はっきり言ってね?」
「――だそうですが、みんなはシロナさんをどう思ってるの?」
〈シロナはとても優秀なトレーナーよ〉
初めに答えを返したのはミロカロス。
〈うん。ボク達の事大切にしてくれるし、ボク達全員大好きだよ〉
続けて答えたのはトゲキッス。
彼の言葉に他のポケモン達がうんうんと頷きを見せた。
(……やっぱりね)
訊かなくてもわかっていた、ガブリアス達がシロナの事をどう思っているかなど。
だってこんなにも素晴らしいトレーナーなのだ、彼女が自分のポケモン達に嫌われているなどあり得ない。
………しかし。
〈あっ、でも待って〉
「………?」
その旨を伝えようとしたレイジだったが、突然ミカルゲが口を開いた。
〈トレーナーとしては文句なしなんだけど、女性としては……ね〉
「………は?」
〈あっ、確かに〉
〈女性としてはちょっと……って思っちゃうよね〉
口々にそう言い出すシロナのポケモン達。
(女性としてはちょっとって……何?)
ポケモン達が何を言っているのかわからず、首を傾げていると……。
〈シロナってば、家事が何もできないのよ〉
まさかのカミングアウトに、レイジの思考が凍り付いた。
「え……?」
〈家事ができないどころじゃないよな〉
〈そうそう、料理はできないわ洗濯もできないわ、おまけに一番酷いのは片づけよね〉
〈シロナって、部屋の片づけが全然できないのよ。この間なんか積み重なった本が雪崩になって落ちてくるし。
更に遺跡の資料を纏めたレポートを部屋の中で無くすし〉
〈あの時は探すのに1日掛かったよな?〉
「…………」
まるで井戸端会議のような事を始めるポケモン達。
そこから告げられる話は、レイジのキャパシティーを完全に超えてしまった。
確かに、シロナは完璧な女性に見えてお茶目な所があったり子供っぽい所もある。
初めに抱いていたチャンピオンとしてのイメージなど、遥か宇宙の彼方にまで消し去ってしまうほどに。
しかし、しかしだ……その話は正直信じられるものではなかった。
というか信じたくない、シロナがそこまでだらしない人だとは。
信じたくないが……紛れもない事実のようだ。
……また、レイジの中でシロナのイメージが崩れていく。
〈それとね……〉
「まだあるの!?」
〈もちろん。今日はとことん付き合ってもらうからね。
こうやって誰かに愚痴を話せる機会なんてめったにないんだから〉
などとぬかしやがるミカルゲに、レイジは拳を握りしめた。
「レイジくん、みんなは何て言ってるの?」
「えっ!?」
「……どうしたの?」
「あ、いえ……」
「それで、みんなは私の事をどう思ってるって?」
「えっと……自分達を大切にしてくれる優秀なトレーナーだと……」
嘘は言っていない、少なくとも自分は嘘をついているわけではないのだ。
「……本当に?」
「本当ですよ。ねえ、みんな?」
お願い、本当だと言ってくれ。
凄まじい気迫を乗せ、睨むようにシロナのポケモン達を見る。
それが通じたのか、それともそんなレイジが不憫に思ったのか、全員が息を揃えて首を縦に振った。
「ほら、だから本当なんですって」
だからお願い、これ以上詮索するのはやめてくれ。心の中でそう叫ぶレイジ。
「……よかった。みんなに嫌われてたらどうしようかと思ってたの。
けど、みんな私の事をそんな風に思ってくれていたなんて……すごく嬉しい」
「そ、そうですか……」
よかった、とりあえず納得してくれたようだ。
〈ほら、まだ私達の愚痴タイムは続くんだからちゃんと聞きなさい〉
「…………」
尚も迫り来るシロナのポケモン達。
一体どれだけの不満が溜まっていたのだろうか、なんだかちょっと不憫に思えてしまった。
だがこれ以上向こうの愚痴を聞く義理はない、というかシロナの為にも聞くわけにはいかない。
「それじゃあシロナさん、みんなをボールに戻してください」
「そうね」
頷き、全員をボールに戻していくシロナ。
なんだか「おいコラ」とか「まだ話は終わってないのに」とか聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「レイジくん、どうもありがとう。貴方のおかげでまた自分のポケモン達と信頼関係が築けたと思うわ」
「そ、そうですか……それはよかったです」
言えない、あなたのポケモン達が衝撃カミングアウトをしていましたなどと口が裂けても言えるわけがない。
(……便利すぎるのも、考えものだな)
今まで生きてきて初めて、自分の能力がちょっとやだなー、と思ってしまったレイジなのであった。
――アサギシティへの旅は、まだまだ続く。
To.Be.Continued...