ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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アーリアに辿り着いたレイジ達は、思い思いに祭りを楽しむ事にした。
そんな中――レイジ達の前に、ある存在が現れる。

それは、伝説のポケモンと呼ばれるルギアであった……。


第36話 ルギアとの出会い〜嵐の前の静けさ〜

目の前の光景が、信じられない。

何故、とか。

どうして、とか。

疑問ばかりが頭を占め、レイジは胸に痛みを伴う。

 

「ひどい怪我……」

「これは、急いで治療をしないと……!」

「…………」

後ろから聞こえているはずのカグヤとシロナの声が、よく聞こえない。

 

「ま、守り神様!?」

「ほ、本物だ……本物の海の守り神様だ」

水柱で気づいたのか、町の住人達や祭りに参加していたトレーナー達も集まってくる。

「お願い、誰かきずぐすりを!! このままじゃルギアが………!」

「シロナさん、大丈夫ですよ」

「えっ……?」

 

呟き、傷だらけになったルギアへと近づくレイジ。

かろうじて息はしている、しかし……それはいつまで保つのか。

そっと身体に触れると、ぬちゃりという音と共に手が真っ赤に染まった。

 

「……可哀想に」

一体何があったのかは知らない。

しかし、これ以上ルギアを苦しめるわけにはいかない。

 

――意識を、自身の奥底へと沈ませる。

 

音が消え、感じるのは自身の鼓動と手から伝わるルギアの温もりだけ。そして―――

 

「――あるべき姿に還るんだ、ルギア」

力ある言葉を放ち、レイジは『力』を解放させた。

 

瞬間、エメラルドグリーンの光がルギアの身体を包み込むように現れ——ゆっくりと、死に体であるその身体を治療していく。

否、既にこれは『治療』ではなく『復元』に近いレベルだ。

(この光は……!?)

見覚えがある、クチバで彼が見せた不可思議な力の源。

(自由に使えるようになったというの……?)

だとするならば、先程の彼の言葉にも頷ける。

 

しかし――驚くと同時に、彼の行動は軽率だとシロナは思った。

周りには彼の力を知っている自分達だけではなく、町の住人やトレーナーがいるのだ。

このような状況でこの力を使えば、色々と問題が発生するかもしれない。

事実、先程から一部のギャラリーがレイジを奇異の目で見ている姿が確認できる。

当然といえば当然かもしれないが、それを見てシロナの表情に怒りの色が浮かぶ。

 

――やがて、光が収まる。

死に体であったルギアの身体からは傷が消え……ゆっくりと瞳が開かれた。

 

「…………」

助かった、その事実が確認でき安堵のため息を漏らすレイジ。

「………お前は」

美しく、まるで女性のような透き通った声がルギアの口から放たれる。

 

「僕はレイジ、ポケモントレーナーだよ」

「レイジ………」

「痛い所とかはない? もしあるなら言って、治してあげるから」

その言葉で、ルギアはようやく自分の傷が完治している事に気が付く。

「これは……まさか、お前が……?」

「うん」

「……お前は、一体」

「その質問には答えられない、自分でもどうしてこんな力があるのかわからないから」

「…………」

「けど、君が無事で本当によかった……」

(この子は……)

 

何故だろうか、この少年を見ているとどこか懐かしいと思ってしまう。

会った事などもちろんない、だというのに……ルギアは目の前の少年を知っているように思えたのだ。

 

「ねえルギア、どうしてあんな大怪我を負っていたの?」

「…………」

瞬間、ルギアはまるで手のような大きな翼を羽ばたかせ飛翔する。

「ルギア……?」

「傷を癒やしてくれた事は感謝する。だが……これ以上私と関わってはいけない。

 それが君の……君達のためになる」

「……どうして?」

「レイジ、できる事なら今日の事は忘れてほしい。私のような存在は……覚えている意味などないのだ」

「待っ―――」

 

引き止めようとするレイジだったが、ルギアは一方的にそう言い放つと再び海へと飛び込んでいってしまった。

水しぶきがレイジの身体を濡らすが、今の彼にはそんな事どうでもいい。

 

「………ルギア」

忘れろ、と彼は言った。

それは、人間達に自分の存在を知られたくない……というわけではなさそうだ。

何か、もっと違う理由があってあのような事を言ったのだろうが……どういう意味だったのだろうか。

「レイジ!」

「レイジくん」

「……カグヤ、シロナさん」

「髪とか濡れちゃってるよ、大丈夫?」

言いながら、ハンカチを取り出しレイジの髪を拭くカグヤ。

 

「……ごめん」

「気にしないでいいよ」

「それよりレイジくん、貴方……あの力を自由に使えるの?」

「えっ、あ、はい……今までは使う機会なんてなかったから言ってませんでしたけど……」

「そう…………っ」

 

感じる、先程よりも多い奇異の視線を。

おもわず振り向きキッと睨みつけると、何人かの人間の視線が明後日の方向に逸れた。

 

「……いいんですシロナさん、気にしないでください」

「レイジくん……」

気づいていたのだ、彼は自分に向けられている視線に。

それをわかった上で、自分に迷惑を掛けないようにそう口にする彼の優しさに、シロナに唇を噛みしめた。

「レイジ!!」

人込みの中からカイリ達が現れ、レイジ達に近づいてくる。

 

「カイリ……」

「レイジ、今のは……」

「……ルギアだよ。伝説のポケモン……海の神様と呼ばれる、ね」

「マジかよ……初めて見た」

 

「――当たり前じゃ。守り神様と呼ばれる存在がそう簡単に俗世に現れるわけがなかろうて」

 

「へ……?」

全員の視線が、声が聞こえた方向へと向けられる。

そこにいたのは、1人の老婆。

嗄れた顔は年相応に感じられるが、瞳からはそれとは逆に力強さを感じる。

「トキヤ様……」

野次馬の1人が、ぽつりと呟く。

 

「お主等、なんちゅう目であの少年を見ておるのじゃ。

 あの子は守り神様を助けた恩人じゃ、それを奇異の目で見よって……少しは恥を知れ」

有無を言わさぬ迫力が込められた声で、何人かは気まずそうな表情を浮かべる。

「………誰だ?」

「あの人はこの町の町長であり、代々海の守り神であるルギアを祀っている家系のトキヤおばあちゃんよ。

 そして、私の親戚でもあるの」

「ほっほっほ、久しぶりじゃのうシロナ。相変わらず男に縁がない面構えをしておるな」

「どんな顔よそれ……相変わらず人の顔を見る度に失礼な事を言うのね、トキ婆は」

 

ジト目で睨むシロナだが、トキヤは気にした様子もなくカラカラと笑う。

 

「すまんすまん。……じゃが、そう言えるのも今回で終わりのようじゃな。年下好きとは意外であったが……」

「えっ?」

何故か、視線を向けられるレイジ。

「なかなか将来有望ではないか? 儂は良いと思うがのう」

「???」

一体何が言いたいのだろうか、さっぱり意味がわからない。

 

「まだレイジくんとはそういう関係になってないわ、残念だけど」

「なんじゃ意気地がないのう、お主の方が大分年上なのじゃから押し倒すくらいせんか」

「……大声でそんな事言わないで」

額に手を当て、呆れたようなため息を漏らすシロナだが、当のレイジはさっきから何を言っているのかさっぱり理解できないでいた。

「それよりトキ婆、ここじゃゆっくり話せないから……」

「そうじゃな。少年、名はなんという?」

「えっ……レイジですけど……」

「ではレイジ、今から儂の家に行くぞ。他の者達もついてこい」

一方的にそう告げると、さっさと歩き出してしまうトキヤ。

 

「……何なんだ、あのばあさん」

「ごめんなさい、トキ婆は少し強引な所があるのよ……」

「いえ、別にそれは構いませんけど……シロナさん、さっきの会話って……どういう意味だったんですか?」

「えっ、あー……それはその……」

若干顔を赤くしながらしどろもどろになるシロナに、レイジは首を傾げる。

「な、なんでもないから……気にしないで」

「はあ……」

そう言われてしまえば、レイジとしてはこれ以上何も言えない。

 

(むー……)

そんな彼等を見て、カグヤは不機嫌そうに頬を膨らませていたのはまた別の話……。

 

………。

 

「わぁ……広ーい」

トキヤの家へと案内されたレイジ達。

さすが町長というべきか、中はかなり広くこれだけの人数でも余裕でくつろげる程だ。

「ほっほっほ、老いぼれ1人住むには広すぎるくらいじゃよ。

 今お茶を出そう、シロナ、手伝わんか」

「私もお客様なのに?」

「何がお客様じゃ、それくらいできんと嫁の貰い手もないぞ」

「むっ……」

そこまで言われては、シロナとしても無視できない。

「……なんか、すげえパワフルなばあさんだな」

あのシロナに対してあそこまで言える者などそうはいまい、さすが身内というべきか。

 

――数分後、人数分のお茶がテーブルに並べられた。

 

「さて、改めて自己紹介をしよう。儂はこの町の町長であるトキヤじゃ。

 そしてそこにいる婚期を逃したシロナの親戚じゃよ」

「……トキ婆、一度きちんと話し合った方がよさそうね」

笑みを浮かべているが、目がちっとも笑っていないシロナに、全員が震え上がる。

しかし、当のトキヤは平然としている、慣れているのだろうか……?

 

「え、えっと……僕はレイジです」

「私はカグヤでーす」

「俺はカイリだ」

「ヒメカです」

「私はミカンと申します」

「うむ。全員ポケモントレーナーのようじゃな。それになかなかよい目をしておる」

「はあ……」

「レイジ、守り神様を救ってくれて感謝しているぞ。

 しかし……何故守り神様はあのような怪我を負っていたのか……」

「…………」

 

確かに、それは疑問に思ってしまう。

それに……ルギアは何故一方的に自分達から離れようとしたのか。

人間に捕らわれると思ったのか、それとも単に人間が嫌いだからか。

しかし、ルギアの瞳には人間に対する嫌悪感や警戒心は見受けられなかった。

すなわち、何かしらの理由が……?

 

「とにかく、儂としても何かお礼がしたい。

 そこでじゃ、お主達はカントー地方を目指しておるようじゃから、次の定期船が来るまで儂の家に止まると良い」

「いいんですか?」

レイジ達としても、その申し出はありがたい。

「無論じゃ。それに賑やかになるのは悪くないからのう」

「ラッキー」

「ありがとうございます、トキヤさん」

「よいよい。……ところで、お主はどうするんじゃ?」

そう言いながら、トキヤは視線をミカンに向けながら問いかける。

 

「私は……」

「いいじゃねえか、ミカンも休暇貰ってるなら暫くここに居ろよ。

 祭りが終わるまで一緒に楽しもうぜ」

「カイリさん……」

「えっ!?」

「なんだよヒメカ、急に大声出したりして?」

「あっ、い、いえ……なんでもないわ」

 

慌てて取り繕うヒメカだが、心中は穏やかではない。

明日こそは2人で行動しようと思っていたのに、このままでは今日と同じような事態になりかねない。

 

「ばあさん、別に1人くらい増えても構わねえだろ?」

「もちろん構わん。じゃが……もう少し年上を敬わんか!」

ポカリと杖で叩かれてしまうカイリ、自業自得である。

「……カイリさん、ありがとうございます」

嬉しそうに、穏やかな笑みを浮かべるミカン。

 

「お、おぅ……」

それを見て、カイリは顔を赤らめてしまう。

「…………」

「いてっ!!?」

「ふん……」

そんなだらしない彼の足を、おもいっきり踏みつけるヒメカ。

 

「おやおや……そちらも痴話喧嘩かね」

「そ、そんなんじゃありません!!」

「どうかのぅ、儂にはそう見えるが?」

「〜〜〜〜っ」

ダメだ、このばあさんは。

顔が熱くなっているのを感じながら、それを誤魔化すようにお茶を口にするヒメカ。

「若いのぅ……」と呟くトキヤの言葉は完全に無視した。

 

「ところでレイジ、お主のあの力は……」

「それは自分でもわからないんです、僕は自分の出生がわからなくて……だから、どうして自分にあんな力が備わっているのかは……」

「そうか……それは軽率な事を訊いたな」

「いえ、お気になさらないでください。別に気にしてませんから」

「それはよかった。……シロナ、なかなか好青年ではないか?」

「トキ婆、少し黙ってて」

「そうはいかん、ようやく一生に一度あるかないかのチャンスじゃ、ここぞとばかりに攻め立てんと面白く……いや、心配じゃろう?」

「今あきらかに面白いって言おうとしたでしょ?」

 

わざとらしく誤魔化すトキヤに、シロナは軽く殺意が湧いた。

 

「レイジ、お主は今特定の誰かと交際はしておるか?」

「えっ、いえ……別に」

「では、恋愛感情を抱いておる者はおるか?」

「そういうのも、別にいませんけど……」

「ほぅほぅ……」

「トキ婆、いい加減にしないと私も怒るわよ?」

「かっかっか、その慌て振り……どうやら本気のようじゃな」

「……あの、さっきから何の話を」

 

おおすまん、などと言いながら、トキヤは改めてレイジへと向き直り。

 

「どうじゃレイジ、シロナを貰ってくれんか?」

と、よく意味のわからない事を言ってきた。

 

『――――』

空気が凍る。

レイジだけでなく、周りの者もトキヤの言葉に固まってしまった。

『―――はぁぁぁっ!?』

たっぷり数十秒後、全員の叫び声が屋敷内に響き渡る。

 

「な、なななななな……何を……!?」

頭がパンクしながらも、どうにか言葉を紡ぐレイジ。

「言葉通りの意味じゃ、シロナを貰ってくれんかのう?」

「な、ちょ、ばっ――何わけわかんない事言ってるんですか!?」

「シロナは身内贔屓抜きにしても、容姿や性格面では良い部類なんじゃが……いかんせん遺跡探索ばかりやっておるから男との接点がない。

 しかし、お主のようなしっかりした男ならシロナを任せられる。まあ年下なのは些かアレかと思うが――」

 

「――――トキ婆」

ブチッ、と。

シロナの中で、切れてはいけないものが切れた音が聞こえた。

ゆらりと立ち上がり、両手には6つのモンスターボールが握られている。

 

(やばい―――!?)

瞬時に危険を察知したレイジは、立ち上がり全員を呼びかけながらその場から逃げる。

「みんな、早くここから離れるんだ!!」

「お、おぅ!!」

「ひゃーっ!!」

他の者も事態を理解したのか、我先にと屋敷の外へと逃げ出した瞬間。

 

「――冥土に送ってあげるわ、トキ婆!!!」

凄まじく物騒な単語を放つシロナの声が聞こえたと思った時には。

爆音と共に、屋敷が崩壊した……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「―――はぁ」

夜になり、1人砂浜へとやってきたレイジは、座り込むと同時に大きくため息をついた。

「トキヤさん、なんであんな事言ったんだ……」

 

屋敷崩壊事件後。

何故かあれだけの被害に遭ったというのに無事だったトキヤによって、別の屋敷に泊まる事になったレイジ達。

1人1人立派な個室を貸してもらい、夕食も豪華なものになった。

しかし――多分あの場にいた者は微妙な空気のせいでろくに味なんか覚えていないだろう、もちろんレイジとて例外ではない。

それはそうだ、トキヤの「シロナを貰ってくれんか」宣言のせいで、全員がパニックに陥ったのだから。

 

『言っておくが、儂は本気で言ったぞ』

そう告げたトキヤの言葉が頭の中で再生され、レイジは再び大きなため息をついた。

そんな事言われても困る、シロナや自分の都合など完全に無視されてまともに考える事などできるわけがないではないか。

(………でも)

あんな事を言われると、否が応でもシロナの事を考えてしまう。

 

――初めて出会ったのはニビシティでだった。

 

最初はチャンピオンとしての凄まじいオーラに警戒したが、蓋を開ければまったくもって普通の女性であった。

デザートを頼むのに一時間近く掛かったし、なんだか動作や行動がどこか子供っぽい。

けれど、それがシロナの魅力なのだろう。

 

(僕は……シロナさんの事を、どう思っているんだろうか……)

尊敬できる先輩トレーナー、姉のような存在、いつか全力で戦って勝ちたい目標。

どれも間違いではない、間違いではないのだが……。

「っ」

右腕に痛みが走る。

思考を中断し、痛む右腕を左手で優しくさすった。

 

(まただ……どうしたんだろう)

先程から、右腕に痛みが走る。

初めは気のせいと思えるような小さなものだったが、徐々に大きくなっていき……カグヤ達にバレないようにするには苦労する程の痛みを伴った瞬間もあった。

(……あの力を、使った時から?)

クチバ、タマムシ、コガネ、エンジュ、そしてここアーリアで。

力を使う度に、それと比例して痛みが大きくなっていっている。

人には……否、この世界で生きる者にとって過ぎたる力だからか。

まだ無視できるが、もしこれ以上あの力を使えばどうなるか……想像すると、寒気がする。

 

「――レイジくん」

「っ、シロナさん……」

先程まで考えていたせいか、シロナの声に身体が過剰に反応してしまった。

「隣、いい?」

「あ、はい……どうぞ」

ありがとう、そう言ってレイジの隣に座るシロナ。

 

「…………」

「…………」

気まずい。

完全にトキヤのせいなのだが、両者共に互いの顔が見れず何も話す事ができない。

先に口を開いたのは――シロナだった。

 

「……トキ婆の言った事は、気にしないで。

 あの人いつも私を見ると一言目には「男はできたか?」って言ってくるの。

 今回だって、たまたまレイジくんと一緒にいて勘違いしただけだから」

「あ、は、はい……」

「ごめんなさい、不快な思いをさせて」

「べ、別にそんな事ないですから。ちょっとびっくりしただけで……だから、シロナさんが謝る必要なんてないです」

「……ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ」

「は、はい……」

 

………ダメだ。

シロナは「気にするな」と言ったが、どうしてもシロナの顔を見る事ができない。

 

「……ねえ、レイジくん」

「何ですか……?」

「…………」

「? シロナさん?」

「レイジくん、は……カグヤの事、どう思ってるの?」

「え―――」

一瞬、質問の意味がわからず呆けてしまうが……。

 

「カグヤの事は、家族だと思ってます」

やや遅れて、そう返事を返した。

 

「……本当に?」

「本当ですよ。というより嘘を付く必要なんてありませんし」

カグヤは家族だ、自分にとって一番大切な存在でもある。

異性としては……傍に居るのが当たり前過ぎて、ドキッとする事はあるが見てはいない。

「………そう」

「あの……それがどうかしましたか?」

「い、いいえ……なんでもないの。気にしなくて大丈夫だから」

慌てて立ち上がり、何かを誤魔化すように手をパタパタと振るシロナ。

様子のおかしい彼女にレイジは首を傾げるが、それ以上は何も言わないでおいた。

 

「そ、それじゃあ……私は先に眠るわね、おやすみなさい」

「あ、はい。おやすみなさい」

逃げるようにその場を立ち去るシロナ。

それにはあまり気にした様子は見せず、レイジは再び海を眺める。

一方――そのやり取りを見ていたティナ達は、主人に聞こえないように会話を交わす。

 

〈お父様、どうするのでしょうか……?〉

〈どうするって?〉

〈もちろん、わたくしかカグヤかシロナ、誰を選ぶのかです〉

〈……さりげなく自分を選択肢の中に入れるなよな〉

〈何を言っているのですかリオン、わたくしにもチャンスがあります。

 過去に人とポケモンが結婚した事例もありますし、可能性がないわけではないでしょう?〉

〈……僕は、父上と母上が幸せになってくれればそれで……〉

〈誰か1人なんて、レイジが選べるとは思えねえけどな。

 大体、あいつ絶対気づいてねえし〉

〈レイジ、鈍感さんだもんね〉

〈まあ……わたくし達はお父様を守る事だけを考えましょう。

 酷な言い方ではありますが、これはお父様自身が悩んだ末に見つけださねばならない問題ですから〉

 

だから、たとえどんな結末になろうとも口出ししてはならない。

ティナは自分に言い聞かせるようにそう告げ、レイジと同じく穏やかな海へと視線を向けた――

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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