ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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遂に、レイジは出会ってしまう。
この世界における最大の悪であり……あってはならない存在に。

それと出会い、レイジは選択を迫られる。
そして彼は……自らの願いを口にした。


第39話 ロキとレイジ〜違わぬ道〜

「…………」

 

目が覚めた瞬間、レイジは己の状況を冷静に自覚した。

まず自分が居るのは牢屋の中、堅牢な扉によって閉じ込められた何の変哲もない小さな部屋の中に押し込まれている。

拘束はされていないが、ポケモン達は全員奪われていた。

さてどうするか、とりあえず暴れても仕方ないのでその場に寝転がる。

 

(……みんなは、無事だろうか)

自分もこうして拘束されているのだから、おそらく他の場所に居るのは間違いないだろう。

と、そんな事を考えていると、扉が開く音が響く。

「出ろ」

開かれた瞬間、短くそう告げられる。

 

(……まだ、逃げる時じゃないか)

目の前にはロケット団員が2人に、監視用のズバットやラッタなどがいる。

正直、なんとか逃げられるレベルだがまだ情報が少なすぎるので、レイジはおとなしくついていく事に。

「…………」

さて……上手く行ってくれればいいが。

 

………。

 

連れていかれた場所は、ホールのような広い部屋。

団員達はレイジを部屋に入れた後、すぐさま出て行ってしまった。

 

「――手荒な真似をしてしまって済まなかったな」

「…………」

奥から聞こえる、男の声。

レイジは顔を強ばらせながら、ゆっくりと歩いていく。

 

「気分はどうだ? レイジ」

「……可もなく不可もなく、と言った所かな」

感情を込めず、レイジは淡々と目の前の男――ロキに告げる。

 

「ふっ……そうか」

「……みんなは、無事なのか?」

「気になるか?」

「…………」

「そう睨むな。――今見せてやる」

目の前に現れるモニター。

 

「っ、みんな――!」

そこに映されたのは、電磁バリアが施された檻に閉じ込めたルギアとカグヤ達の姿が。

「お前のポケモン達は別の場所に拘束している。安心しろ、デッド化はしていない」

だが、お前の態度次第では状況は変わるぞ。

口には出さずとも、ロキがそう目で告げている事に気づき、ギリと歯を鳴らす。

 

「……あなたの目的は何だ?」

「目的、とは?」

「何故ルギアをはじめとする伝説と呼ばれるポケモンを捕らえようとする? 世界を征服しようとでもいうのか?」

「世界征服、か……結果的にはそうなるかもしれんな」

「えっ……?」

「だがあいにくとそんな事は考えていない、それよりも……もっとバカバカしい事だよ」

「っ、じゃあ何だっていうんだ!!」

 

おもわず叫び、射殺す勢いでロキを睨むレイジ。

それには意を介さず、ロキは変わらぬ口調でレイジの問いに答える。

だが、それは。

 

 

「“自分”が欲しいのだよ、私は」

レイジにとって、いやこの世に生きる者にとって理解できない内容だった。

 

 

「え………」

おもわず、呆けた表情を浮かべてしまう。

だってそうだろう、今の言葉の意味をどう理解しろというのか。

 

「私には自己というものがないのだ、生きる意味も生まれてきた意味も、明確な感情も夢も理想も決意も道徳も背徳も……何もない。

 だからこそ、私は確固たる自己が欲しい。

 そして見てみたいのだ、自己を得た自分がどういったものなのかを」

「何、を……」

「そのために私はこの組織を作り上げた、そしてこの世の全てを手に入れた時……私はどうなるのか、それを知りたい」

「――――」

 

まるで唄うように自身の目的を話すロキに、レイジは完全に凍りついた。

………異常、などという言葉では決して足りない。

この男は、人間ではないと確信めいた感情が頭を占めた。

本気なのだ、彼は。

本気で、そんな事の為に他者を……世界を犠牲にしようとしている。

自己が欲しい、曖昧で限りなく小さな願いのために……全てを壊そうと言っている事が、レイジにとってなによりも恐ろしい。

 

「尤も、当然ながら部下達が私の真の目的を知るはずもなく好き勝手やってはいるが……私には関係のない事だ。

 私は私を変えてくれる者、私に何かを与えてくれる者さえ手に入れられればそうでいいのだからな」

「あなた、は……そんな事で、世界のバランスを崩そうと……」

「それこそ私にとってはどうでもいいのだ、己の願いを叶える為に他者を踏みにじり利用する。それが生きとし生ける者が拭えない業だ」

「違う、あなたはそうやって己の行いを正当化しているだけだ!!」

「それこそ間違いだぞレイジ、私は自分の行いを正しいと思った事など一度もない」

「えっ………」

「ただ罪悪感を抱かないだけだ、私達のやっている事は確かに悪だろう。

 だが……人の決めた善悪に従う理由などない以上、私は私の信じた道を歩むだけだ」

「…………」

 

悪魔だ、と。

レイジは、ロキを見てそう呟いた。

もはやあの男は人に在らず、この世界を堕落させる悪魔だ。

間違った道、それを間違いだと思わないこの男に、もはや救いの手など残されてはいない。

 

「さて……そろそろ本題に入るとするか。お前をここに連れてきたのは、このような問答をするためでないからな」

「っ」

身構える。

ポケモン達がいない今ではそんなものなど無意味かもしれないが、こんな所で倒れるわけにはいかない。

しかし、ロキが次に放った言葉は、レイジにとって意外すぎるものだった。

 

「――レイジよ。私の部下になれ」

「…………えっ?」

何を、言っているのだろうかこの男は。

聞き間違いと最初は思ったが、どうやらそうではないらしくロキは言葉を続けた。

 

「私はお前が欲しい、トレーナーとしての確かな実力、子供とは思えぬその考え方と行動力。

 そして――他の何者も真似できぬその力。

 お前が私の傍にいれば、必ず私に何かを与えてくれると思ったのだ」

「っ、ふざけるな。誰があなたのような人の部下になんか………!」

 

「――私は、お前を否定したりはしない」

 

「――――」

その、言葉、で。

レイジの思考が、再び凍りついた。

 

「私は周りの人間達とは違う、絶対にお前を否定したりはせん。

 それとも、お前はまた苦しみたいのか? 自分が持つ力によって、再び蔑まれる道を選びたいのか?」

「―――、ぁ」

ロキの声が、レイジの傷に突き刺さり切開していく。

 

やめろ――

やめろ―――

やめろ――――!

 

思い出したくもない、振り返りたくもない過去が浮かび上がっていく。

 

「部下にお前の事を調べさせたが……ずいぶんと辛い過去を過ごしていたそうだな。

 故郷では周りの子供や大人に蔑まれ、化け物扱いされてきたそうではないか。

 友人もおらず、心のより所は偽りの家族だけ……ひどいものだ」

「ぅ、あ――」

 

膝が折れ、地面に倒れ込みそうになるのをどうにか堪える。

……そう、ロキの言っている事はすべて事実だ。

ポケモンと話す能力、それを持っていた自分は、ずっと人間の友達など存在していない。

子供の話は大人にまで感染し、殆どの者がレイジを恐がり蔑んだ。

痛くて、辛くて、死んでしまいたいと思った事だってあった。

それでも彼が生きていたのは、自分を助けてくれたカグヤや彼女の両親に対する恩があったから。

そうじゃなければ、とうの昔に自分は自ら命を断っていただろう。

幼い頃から、自分の周りに人間はおらず、ポケモン達だけが傍にいてくれた。

 

――そんな傷など、思い出したくもないのに。

ロキの言葉は魔法のように、治せない内側の傷を突き外に出そうとする。

 

「もはや、治す事などできない傷だな。だというのに何故お前は自分を抑え込む? 何故他者の為に自己を殺す?

 ――願うのだ。自分は幸福で在りたいと、内なる自己を表にさらけ出してしまえ」

優しく、慈しむようなロキの言葉。

しかし、それは確かな毒を孕んだ偽りの優しさ。

それでも、あの痛みを思い出してしまったレイジには、抗えない。

 

「僕、は……」

「誰もお前を咎める資格などない、ならば自分の好きなように生きて何が悪いというのだ?

 さあ、自分を解き放つのだレイジ。お前の望むままに世界に侵食しろ」

「…………」

ロキの言葉が、蜜のように甘く甘美なものとなって、正常な思考を溶かしていく。

……あの時抱いた、憎しみや怒りが。

自分を化け物扱いした人間達に対する、どうしようもない悲しみが、レイジの身体を支配していく。

 

(……もう一押しか)

 

その様子を見ながら、ロキは込み上げてくる笑みを抑えるのに必死だ。

ここで彼という存在が自分のものとなれば、必ず自分は変われる。

彼は自分を変えてくれる存在だと信じているからこそ、喜びの笑みを抑えきれない。

しかし、それを邪魔するかのように部下から通信が入る。

 

「………何だ」

少し苛立ちを含んだ声で部下からの報告を聞く。

 

『た、大変です! ポ、ポケモン達が急に暴れ始めて……脱走してしまいました!!』

「………サーナイトだな」

『えっ?』

「レイジが持っているサーナイトが、ポケモン達を逃がす手引きをしたのだな、と訊いているのだよ」

『は、はい……その通りです』

「……お前達はすぐにポケモン達を捕らえろ、それと……そのサーナイトには気をつけろ」

そう言い放ち、一方的に通信を切るロキ。

 

(やはりあのサーナイトは……因果なものだ。よもや再び我等の元に戻るとはな……)

しかし、こうなってしまった以上は、一刻も早くレイジを己のものにしなくては。

「うぁ………!」

髪を掴み、無理矢理レイジを立たせる。

 

「レイジよ、私と共に来い!! そしてお前の望むままに生きるのだ!」

「…………」

抗えない。

この男の言葉には、抵抗できない。

一種の諦めに似た考えが、ロキの言葉に肯定しようと口を開かせ――

 

〈お父様!!〉

背後から聞き慣れた声が響き、レイジの言葉を遮った。

 

「…………」

「ほぅ……思っていた以上に早かったな」

言いながら、ロキは素早くレイジの首筋に大振りのナイフを這わせた。

 

〈貴様――!〉

「動くなよリオル、そして他の者達もだ。

 言っておくが、お前達が動く前にお前達の主人の息の根を止める事など造作もない」

〈――やってみなさい、その瞬間に……あなたを肉片に変えます〉

赤い瞳が光り、凄まじい殺気がティナから放たれる。

おもわず、ロキの右足が一歩退がった。

 

(恐ろしいものだ……レイジと共に生きていたからこそ成功するとは……やはりこいつには他にも力が眠っているのかもしれん……)

しかし目の前に対峙しているのが、レイジのポケモン達だけだというのには違和感を覚えた。

この潜水艇には数多くのポケモン達を捕らえているというのに……。

〈捕らわれたポケモン達は外に逃がしました、そして……残りの皆さんはカグヤ達の救出に向かったのですよ〉

「なるほど、説明感謝する」

〈それはどうも。……それより、早くお父様を放してください。

 もはやあなたに逃げ場はありませんよ、もうすぐ国際警察がここに来ますから〉

 

「何………?」

〈……お父様が何の抵抗もなしにおとなしく捕まったと思っているのですか?

 わたくしとお父様はどんなに離れていてもテレパシーで会話する事ができるんです〉

おそらく、ティナが生まれた頃から共に居るので彼女限定ではあるがレイジにもテレパシー能力が身についたのだろう。

〈それを使い、お父様はわたくしに外と連絡するように指示を出しました。幸いにも牢に入れられていただけで能力を封じられたわけではありませんでしたから。

 そしてわたくしはトキヤに連絡をして……後は説明するまでもないでしょう?〉

「………なる程、本当にたいしたものだ」

とても15の子供とは思えぬ機転の良さ。

……ますます、この男が欲しくなった。

 

「――レイジ、邪魔が入ったがもう一度訊こう。

 自身を解き放つのだ、そして私の部下となり己が願いを果たせ!!」

「――――」

「苦しいのだろう? 辛いのだろう? ならばこれ以上苦しまなければいい、お前の心のままに……お前の望むままに、全てを手に入れろ!!」

そう叫ぶロキに、レイジは頷こうとする気持ちが強まる。

(そうだ………僕はこれ以上苦しみたくない……)

いつだって強がっていたけど、そうする度に傷ついていたのを覚えている。

自分をわかってくれる者など、誰もいないとさえ思った事があった。

その傷は、ロキの言う通り一生消える事のない傷になった。

 

――なら、いいじゃないか。

 

こんなに苦しんだのならば、こんなに悲しんだのなら何を望んでもいいじゃないか。

ずっと背けてきた、負の感情を受け入れたって、誰も自分を責める者などどこにも……。

 

「…………」

ティナの泣く一歩手前のような辛そうな顔が、視界に広がる。

……関係ない。

そんなもの、自分には関係ないのだ。

自分を蔑んだ者達、そんな存在を許すこの世界がどうなろうとも、それこそレイジにとって知った事ではない。

その気持ちは本物だ。

そう、本物だ。

本物、なのに……。

 

 

「――僕は、あなたの部下にはならない。

 そして、この世界をあなたから守る事が……今の僕が叶えたい願いだ」

気がついたら――レイジはロキにはっきりとそう告げていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

――僕は、あなたの部下にはならない。

  そして、この世界をあなたから守る事が……今の僕が叶えたい願いだ。

 

〈…………〉

それが、ティナのマスターが出した、心からの答えだった。

 

〈――――〉

くらりと、身体が崩れそうになるのを必死で抑える。

息をするのも苦しくなり、ゴチャゴチャする頭によってどうにかなってしまいそうだ。

 

――ティナは、レイジの過去を知っている。

 

当然だ、彼女が生まれてから片時も離れた事がない彼女は、カグヤですら知らないレイジの過去すら所有している。

だから頷くと思った、それだけの痛みと苦しみを彼は味わってきたのだ。

だというのに、彼はそれを否定した。

自分の事だけを考える生き方はできない、と。

守りたいと、はっきりと告げたのだ。

 

それが、ティナにとって信じられなかった。

あんな男の戯れ言に惑わされてほしいわけではない、だが……もし彼が望むのならば、どんな道を歩んでも許されると思った。

たとえ、人にとって悪と断罪されるような道だとしても……沢山苦しんできたのだから、それでも構わないと思えたのだ。

しかし――彼の答えは違った。

あの苦しい過去も、胸を穿つ激しい痛みも、すべて受け入れながら。

それでも……今まで歩んできた道を、進もうと決意した。

 

〈どう、して……〉

 

気がつくと、そんな言葉を口にしていた。

何故、あなたは尚も誰かの為にあろうとするのですか?

何故、楽になろうとしないのですか?

言えるものなら、大きな声で問いかけたかった。

今だって、彼の心を占めるのは、直視できない程の悲しみと苦しみが溢れている。

それなのに、どうして彼は……。

 

「……自己の救いを、求めないというのか?」

静かに、若干の驚愕を含みながら、ロキが問いかける。

「……僕は、自分だけの救いなら……いらない」

「何故だ? お前はあれだけの過去をその身に宿しておきながら……まだ他者の為に自己を押し殺すのか……?」

「……だって、仕方ないじゃないか」

 

―――そう願ったのが、他ならぬ自分自身なんだから。

 

(お父様……)

小さな声で、レイジは言った。

自分で選んだ道だと、その道から逃げるわけにはいかないと、そう言ったのだ。

 

「僕は、誰かの為に生きているだなんて思った事はない……。

 確かに、あなたの言う通り僕は自分でも辛いと思える過去を生きてきた事がある……。

 だけど、それを理由に全部自分の為だけに生きてしまったら……今までの自分も、嘘になってしまうから……」

 

今までの自分を、全て切り捨てる事など許されない。

そして――そうしてしまえば嘘になる。

助けたいと思ったこの気持ちも。

守りたいと思ったこの願いも。

心からの叫びが、ティナの頭に響き渡る。

 

〈…………〉

ティナの頬に、涙が伝う。

悲しいまでの決意。

苦しみも、胸を穿つその痛みすら彼は受け入れて前へ進もうとしている。

(どうして……お父様ばかり、こんな……)

15年、たった15年しか生きていない少年が背負うには、あまりにも大きすぎる道だ。

 

「――僕は、自分を曲げる事はできない。だから……僕は、あなたを認めない」

 

完全なる決別。

たとえ何があっても、あなたの考えは認めない。

涙を孕んだ瞳で、レイジはロキにはっきりと告げた。

 

〈――ああ〉

そうなのだ、彼はこういう人だった。

〈お父様、それがあなたの信じた道なのですね〉

いつだって、自分の事より他人ばかり考える優しすぎる人。

それが、ティナの愛したレイジという男性なのだ。

 

〈なら、わたくしは――〉

 

そんなあなたに、最後までついていきます。

たとえこの先に、何が待っていようても。

どんなに絶望的なものだったとしても、その全てから彼を守ろう。

それが自分の使命、成すべき事。

 

「………そうか」

失望と、何故か羨望を含んだ声を発しながら、殺気立っていくロキ。

「よもや、お前のような存在が私を否定するとは思わなかった」

「…………」

「できる事ならば、お前を私の手元に置いておきたかったが……お前が私を否定するならば、生かしておくわけにはいかんな」

ナイフを持つ手に力を込めるロキ。

 

〈お父様!!〉

間に合わない!!

対応が遅れ、最悪の未来が脳裏によぎった瞬間。

 

――天井から爆発音が響き、海の水と共に飛び込んできた一つの影。

 

「何……!?」

「っ、は―――!!」

突然の事態に一瞬隙ができたロキから、レイジはすぐさま抜け出す。

 

「――汚え手で、俺の親友に触れてんじゃねえよ変態野郎が」

「お前は……」

「――カイリ、ミカンさん」

「よかった……ご無事だったんですね、レイジさん」

安堵のため息を漏らすミカンと、レイジ達を守るようにロキと対峙するカイリとカノン。

 

「生きていたか……」

「俺の悪運と、ミカンの日頃の行いの良さでな」

「兄を……返してもらいます!!」

「…………」

カイリ達が侵入した際に開けた穴によって、どんどん海水が侵入してくる。

 

(長くは――)

(――保たない!!)

同時に状況を理解したレイジとロキは、同時に動く。

 

「ティナ、サイコキネシス!!」

「ふん……」

レイジはロキを拘束しようとティナに指示を出し――瞬間、ロキの姿が霞のように消えてしまった。

 

「なにっ!?」

そんな馬鹿な、おもわずそう呟いてしまう。

ロキはポケモンを出していない、だというのにどうやってこの場から姿を消したのか……。

「レイジ!!」

「っ、く……」

用意周到と言うべきか、いつの間にか目の前にはラティオスとゾロアークが身構えていた。

(ラティオス達を犠牲にしてまで、僕達をこのまま始末するつもりなのか………!)

あの男は悪魔だ、ならばこのような事を平然とやってのけてもおかしくはない。

 

「レイジ、ここは俺達に任せろ。お前はヒメカ達を助けてロキを追ってくれ!!」

「カイリ……!? だけどこのままじゃ艦が沈むよ!!」

少なくとも、あと10分以内に潜水艦は海底の奥底に沈むだろう、ならばこんな所でラティオス達とバトルをしている場合では……。

「わりぃな、こいつだけは……ラティオスだけは、カノンがどうしても止めたいみたいなんだ。

 俺はこいつのマスターだから、最後まで付き合わねえと」

「けど………」

「大丈夫だ。俺達を信じてお前はお前のするべき事をしろ!!

 ルギアを救えるのは、お前しかいないんだ!!」

「カイリ……」

 

「レイジさん、私もカイリさんについていますから、お願いします!」

「…………」

2人の瞳は、もはや説得できないほどの力強さが宿っている。

「……信じてる」

ならば、レイジにはそれしか言えない。

 

「ありがとな。――俺もお前を信じてる。お前なら、きっとルギアを助け出せるさ」

「……ありがとうカイリ、ミカンさん。後はお願い!!」

出口に向かって走るレイジ。

それを止めようと、ラティオス達が攻撃を仕掛けようとして。

「ドラゴンダイブ!!」

「ハガネール、アイアンテール!!!」

カノンがラティオスを、ハガネールがゾロアークをそれぞれ止めた。

 

「お前等の相手は俺達だ、かかってきやがれ!!」

「……兄さん。必ず元に戻してあげるから!!」

(カイリ、ミカンさん……無理はしないで!!)

口には出さず、そう願いながら、レイジは部屋を出る。

潜水艦の内部には人はおろかポケモンすら存在せず、既に脱出している事がわかった。

 

「ティナ、みんなが捕らえられている場所は?」

〈こちらです!!〉

ティナを先頭に、カグヤ達の元へと急ぐレイジ。

〈父上、これを〉

アクセルから渡されたのは、レイジのモンスターボール。

「みんな、一旦戻っててくれ」

受け取り、すぐさまティナ以外のポケモン達をボールに戻す。

と。

 

「レイジ!!」

「っ、カグヤ。みんな!!」

既に脱出を済ましていたカグヤ達が、こちらへと走って……。

「レイジ!!」

「おわっ!!」

走ってきたと思っていたら、いきなりカグヤがレイジの胸に飛び込んできた。

どうにか反応し、カグヤを受け止める。

 

「よかった……無事でよかったよぉ」

「カグヤ……」

すすり泣く声が聞こえ、レイジは優しく彼女の頭を撫でてあげた。

 

(……カグヤ、なかなかやるわね)

その光景を見て、僅かにシロナの表情に影が落ちるが。

「みんな、ルギアは?」

すぐさま状況を思い出し、カグヤを引き離す。

 

「わからないわ。ルギアとわたし達は別の部屋に隔離されていたから……」

「というか、なんで床が水浸しなの?」

「……もうすぐこの艦は沈む、だからすぐに外に行くんだ」

「わかったわ。……ところで、カイリとミカンは?」

「あの2人は無事だよ、でも……今はラティオス達と戦ってる」

「えっ!!? でもこの艦はもうすぐ……」

「カノンがどうしてもラティオスを元に戻したいから……カイリ達はそれに付き合ってる」

「そんな……! じゃあすぐに助けに――」

 

「僕達はルギアを救わないと、カイリ達なら絶対に大丈夫だよ」

あの瞳、そして「信じてほしい」と言ったカイリの言葉を無碍にするわけにはいかない。

「――レイジ、カイリ達はどこで戦ってるの?」

「ヒメカ……」

「わたしだってカイリが心配なの、それに……あの人の傍にいたい。

 支えたいのよ、カイリを……」

「……………」

一瞬迷い、しかしすぐさまレイジは自分が走ってきた方向を指さす。

 

「道なりに行けば辿り着くよ、でもどんどん水が入ってきてるから、気をつけて」

「……ごめんなさい、我が儘言って」

「気にしないで。それとラティオスはカノンが止めたいみたいだから、手は出さないで」

こんな時に、そんな事を言っている場合ではない事はわかっている。

しかし、カイリとカノンの決意を見てしまった以上、レイジとしてはそれしか言えない。

 

「わかったわ」

「ヒメカ、水かさが増してるならカメックスを持っていって。

 泳ぎながら指示を出すのは辛いだろうから」

「ありがとう、カグヤ」

「うぅん。――気をつけてね?」

「ええ!!」

力強く頷き、カイリ達の元へと走るヒメカ。

 

「僕達も急ごう!!」

「でも、ルギアはどこに行ったのかな?」

「この潜水艦の中にいないとなると……おそらく脱出用の乗り物で連れて行ったのでしょうね」

(脱出用……だとすると小型の潜水艇)

だが、それだけでルギアを遠くまで運ぶ事は難しいだろう。

 

(……なら、脱出してから別の乗り物に)

その可能性は高い。

「ティナ、ここから近くの島か何かにテレポートできる?」

〈………はい。ですがこの人数ですとわたくしでは一回が限度です〉

「それで構わない、どこでもいいからとにかく外に行こう」

〈わかりました。それではわたくしに掴まっていてください〉

言われた通り、ティナの手や肩に掴まるレイジ達。

 

〈――行きます!!〉

 

その声と共に、身体が浮き上がるような感覚に襲われ。

一瞬で、木々に囲まれた森の中に立っていた。

 

「ありがとうティナ、少し休んでてくれ」

〈い、いえ……わたくしは外に出しておいてくださいお父様。万が一の為にも、お願いします〉

「わかった。――リオン出てきてくれ!!」

上空にボールを投げ、リオンを外に出す。

すぐさま脚に掴まり、上空へ飛ぶように指示を出す。

(見つかるはずだ……必ずどこかで………!)

ルギアほどの巨大な生物を運ぶには、脱出用の乗り物では到底不可能だ。

ならば、脱出した後あらかじめ新たな乗り物に乗り換えれば……。

ロキほどの男だ、万が一に備えてそのような準備をしていても不思議ではない。

 

――そして、レイジの予想は見事的中する。

 

現在彼等がいる島からさほど離れていない無人島。

そこに、あの潜水艦と同タイプの艦が海辺に浮かんでいた。

 

「シロナさん、カグヤ、お願い!!」

「ガブリアス!!」

「クチート!!」

ほぼ同時にポケモン達を出す2人。

ガブリアスの背中に乗ったクチートは、リオンと同じく上空へ。そして――

 

「フルパワーのりゅうせいぐんよ!!」

「ラスターカノン!!」

「リオン、ブラストバーンだ!!」

全パワーの込めた三体の攻撃が、潜水艦へと向かっていき――見事命中し、爆音が鳴り響いた。

 

「ガブリアス、戻ってきなさい」

地上に降りるガブリアス、すぐさまその背中に乗るシロナとカグヤ。

「クチート、ありがとう」

労いの言葉を掛けながら、クチートの頭を撫でるカグヤ。

すると、クチートは嬉しそうに鳴きながら――頭を撫でてくれているカグヤの手に噛みついた。

 

「いたたたたっ!!!」

「……カグヤ、クチートに懐かれてるのね」

(変わった懐かれ方だよな……)

「うぅ……クチート、私の事好きでいてくれるのは嬉しいけど……その噛みつき癖は直してよ」

「クゥ!!」

「嫌、だってさ」

「うぅ……」

そうこうしている内に、潜水艦が止めてあった島へと辿り着き、リオン達から降りる3人。

 

「――もう逃げられないわよ、覚悟しなさい」

ロキと十数人の団員達の後ろで燃え上がる潜水艦を見つつ、シロナは告げる。

先程の攻撃により、もはやあの潜水艦は航行不能に陥っただろう。

それに国際警察もいずれやってくる、もはやロキ達に逃げ場などは存在しない。

 

「――レイジ、お前がこの潜水艦を破壊する指示を出したのか?」

「そうだ。それが一体どうしたというんですか?」

レイジの答えを聞くと、何故かロキは口元に笑みを浮かべる。

「……やはり惜しいな、お前程の逸材はそうはいまい。

 やはり――私の手元に置いておくか」

ぞくりと、全身が総毛立つ。

このような状況だというのに、まだロキからは余裕が消えない。

 

(まだ、何か企んでいるのか……?)

だとするなら、用心するに越した事はない。

しかし……どうもそうには見えなかった。

「お前達は後ろの小娘共の相手をしていろ。

 ――この少年は、私が直々に相手をする」

部下にそう言いながら、デッドボールを2つ場に投げるロキ。

出てきたのは、あの時リオンを完膚なきまでに倒したヒードランと。

 

「――エルレイド」

やいばポケモンと呼ばれる、エルレイドだった。

 

〈お父様、エルレイドの相手はわたくしが〉

「でも……」

ティナは拘束されていたポケモン達を逃がす手引きや、先程のテレポートによって力を消耗してしまっている。

そんな状態では、満足に戦えるとは……。

〈大丈夫です。わたくしを信じてください。

 ――お父様が自らの道を違えなかったように、わたくしも自らが信じた道を歩みたいのです〉

 

「ティナ……」

……こうまで言われては、ティナに任せる以外他はない。

(………ヒードラン)

あの炎は強大だ、おそらくラティオス達と同程度の実力はある。

だが――レイジは初めからヒードランと再び戦う時は、このポケモンで共に戦うと決めていた。

 

「――リオン、お願い!」

 

(何………?)

僅かに眉を潜めるロキ。

前回、リザードンの炎はヒードランには通用しなかった事を忘れたわけではないはずだ。

だというのに、何故リザードンを出したのか……。

 

「リオン、リベンジしたいよね?」

〈ああ。だが……俺じゃあいつには〉

「僕は信じてるよ。君がヒードランに勝つ事を」

〈……レイジ〉

「自分を信じて、君なら絶対に勝てる。だって、君は僕の大切な仲間なんだから」

 

伝えるべき言葉はそれだけ。

しかし、リオンにとってはそれで充分だった。

 

〈――ああ、任せろ!!〉

力強く頷き、ヒードランと対峙するリオン。

……完膚なきまでに敗北した記憶が蘇り、少しだけ戦意を喪失する。

しかし、ここで退くわけにはいかない。

自分を信じてくれたレイジの為にも、そして彼の望みを叶える為にも。

そして……。

 

「ヒードラン、かえんほうしゃ。エルレイド、リーフブレードだ」

「リオン、かえんほうしゃ!!ティナ、れいとうパンチだ!!」

 

ヒードランとリオンが、そしてエルレイドとティナの技が激しくぶつかり合い。

ルギアを賭けた死闘が、幕を開いた。

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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