ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
そしてレイジとリオンもヒードランにリベンジを果たし勝利を収める。
だが………。
「――――」
目の前の現実に、ロキは驚愕の表情を浮かべていた。
まさか、としか言いようのない勝敗。
ヒードランは、圧倒的な実力差があったはずのリオンに敗れ。
エルレイドもまた、ティナの力の前に敗れ去った。
「はぁ…はぁ…はぁ……あなたの、負けだ」
息も絶え絶え、リオンに支えられていなければ満足に立つ事もできないというのに。
いまだ力強い光を瞳に宿しながら、レイジはロキにそう告げた。
〈お父様……〉
「大丈夫。それより警戒は怠らないで」
心配そうなティナにそう告げ、再び視線をロキへと向ける。
「――ここまでね」
横から聞こえた声に、全員が視線を向けた。
そこに立っていたのは、シロナと……疲れたようにうなだれているカグヤだった。
「も、もぅ暫くバトルはしたくない……」
「カグヤ、よく頑張ったわね」
労いの言葉を掛けるシロナの後ろには、気絶している団員達の姿が。
……どうやら、向こうの戦いも終わってくれたようだ。
「部下も倒れあなたのポケモンも戦えない、これまでよロキ」
「…………」
「みんなー!!!」
今度は空から、聞き慣れた声が響く。
声の主はすぐさま地面に降り立ち、ロキを睨む。
「カイリ……」
「よっ、どうやらそっちも終わったみたいだな」
「……小僧、ラティオスとゾロアークを」
「ああ。しっかりゲットさせてもらったぜこの外道が」
言いながら、2つのボールを見せびらかすように掲げるカイリ。
「カグヤ、本当に助かったわ。ありがとう」
「お礼なら私よりカメックスに言ってあげて」
「さーて、どうすんだよ親玉さん?」
全員でロキを囲む。
もはや、勝敗は決した。
ロキには戦えるポケモンはいない、捨て駒になる部下も全員倒れている。
ここまで追い詰められては、誰もが己の敗北を認めるだろう。
そう、認める“はず”だというのに……。
「――たいしたものだ、よもやこのような事態になるとは思わなかったぞ」
ロキは、その不敵な笑みと余裕の態度を崩そうとはしなかった。
「…………」
おかしい。
ロキという人間の全てを知っているわけではないが、惨めに敗北を認めないような男ではないはずだ。
それなのに、ロキが告げたのは賞賛の言葉のみ。
(何を考えている……?)
「一人一人が力を合わせれば、このような結末を引き寄せる事ができるのか……。
なるほど、なかなかに興味深いものだった」
「わけのわからねえ事をベラベラとうるせえよ、いいからさっさとおとなしくしてやがれ!」
「しかし、お前達だけではこの結果を引き寄せる事はできなかった。
――全てはレイジ、お前が中心となって皆を導いたからこその結果だ」
「…………」
「……まさか、本当にお前のような存在がいるとは思わなかったぞ」
「えっ……?」
その言葉に、違和感を覚えた。
「―――“選定者”か」
「選定、者……?」
「やはり知らないようだな、だが……それも当然か」
「……あなたは、僕の何を知っているというんですか?」
「知っているとも。お前の事も……そしてそこにいるサーナイトのこともな」
〈は………?〉
突然矛先を向けられ、ティナも困惑の表情を浮かべてしまう。
〈わたくしの事を、知っている……?〉
「よく知っているぞサーナイト、しかし……レイジと共に居ると気づいた時は、さすがに驚いたものだ」
〈何を……わたくしはあなたなんか〉
「お前が知らなくとも、私は知っている。
――知りたいとは思わんか? 自分がどういった存在なのかを」
〈…………〉
ロキの言葉は、何の信憑性もないものだ。
一蹴して皮肉を返せばいい、そう思っているのに……。
ティナは、その言葉に揺さぶられていた。
ずっとわからなかった自分の事、それをこの男は知っていると――
「ティナを惑わすな」
〈――――〉
我に返る。
隣には、変わらずロキを睨むレイジの姿が。
「あなたが僕とティナの何を知っているのかはしらない。
でも、たとえティナが何であろうと僕にとって大切な仲間に変わりはないんだ。
だから、そんな戯れ言で彼女を惑わす事は許さない」
〈………お父様〉
「……お前は、自分の事を知りたいとは思わんのか?」
「知りたいさ。それが僕の旅の目的の一つなんだから。
でもそれはあなたみたいな存在に教わるわけにはいかない、人を惑わすあなたの言葉を真に受けるわけにはいかない」
だから、あなたの話に聞く価値はない。
そう告げて、ティナを守るように彼女の一歩前へ進むレイジ。
(………お父様)
そうだ、そんな事当たり前ではないか。
確かに自分の事を知りたい、その気持ちに偽りなどはなかった。
しかし、この男の話を真に受けてしまう事態は避けなくては。
「………そうか。いや、だがいずれは気づく。自分達がどういった存在なのかをな」
「たとえどんな真実があったとしても、僕達は負けない!!」
「…………」
ロキの口元の笑みが深まる。
純粋に見えて、その実なによりも恐ろしい歪んだ笑み。
「やはり、お前は私の手元に置いておくべきだな」
「っ」
全身が総毛立つ。
ロキの瞳が、レイジだけを映しているからだ。
他の何者をも映さず、ただレイジだけを……獲物を刈り取ろうとするハンターのように。
「レイジ、次にあった時こそお前を手に入れる。たとえお前が拒絶しようとも、必ずだ!!」
「まるでここから逃げられるような言い方をするのね?」
「逃げれるとも。たとえ貴様達が束になって来ようとも私は逃げられる」
「少しでも動いてみなさい。怪我だけでは済まないわよ」
静かに、けれど凄みのある殺気を放つシロナ。
それは味方であるカグヤ達ですら息苦しくなる程のものだが、それでもロキの態度は崩れない。
「目的は果たした。欲を言えばレイジとルギアを手元に置いておきたかったが……もはやアレも用済みだ」
(用済み……?)
アレとは、おそらくルギアの事だろう。
しかし、自らが出向いてまで捕らえようとしたルギアを「用済み」とはどういう……。
「――――」
全身が、脈打つ。
異質な感覚が、レイジの身体へと襲いかかり。
(これ、は………!)
その感覚に、彼は覚えがあった。
空間が捻れるような不可思議な力のうねり。
それが、ロキの周りから発せられている―――!
「ティナ、でんじほうだ!!」
〈っ〉
僅かに反応が遅れたものの、ロキへと攻撃を仕掛けるティナ。――だが。
『なっ!?』
「くっ……」
レイジ以外の全員が、今起こった光景が信じられず驚愕の声を上げた。
――消えたのだ。
ロキと、ロキのポケモン達が影も形もなく。
まるで初めから存在しなかったかのように、消えてしまった。
「テレポート……?」
「違うよ」
カグヤの呟きに短くそう返し、レイジはふらつく足取りながらも歩き始める。
……今は、ロキの事よりルギアの方が気になる。
奪われずに済んだ、それは間違いないだろう。
しかし……あの時ロキが放ったあの言葉。
「用済み」という言葉の意味が、レイジに焦りを与える。
急がなくては、間に合わないかもしれない。
そう思い、レイジはルギアを捕らえている檻へと向かった。
………。
「――ルギア!!」
見つけた。
まだ潜水艦に入れられてはいなかったらしく、ルギアの姿はすぐに見つける事ができた。
「………?」
しかし、どこか様子がおかしい。
檻の中で、ルギアは苦しそうに呼吸を繰り返し、ひどく衰弱して……。
「ティナ、リオン、すぐに檻を壊して!!」
〈はい!!〉
〈おう!!〉
頷き、すぐさまルギアを拘束している檻を破壊するティナとリオン。
「ルギア、大丈夫!?」
中に入り、ルギアへと声を掛けるレイジだが。
……返事が、返ってこない。
「ルギア……?」
恐る恐る、身体に触れる。
だが、その身体はひどく冷たくて……暖かみを感じられない。
「ルギア!!」
「い、一体どうなってんだ……?」
レイジの後ろにいたカイリ達も、事の事態を理解できない。
〈――ルギアの波導が、殆ど感じられない〉
震える声でそう告げたのは、シロナのルカリオ。
「えっ……?」
「ルカリオ、それは一体どういう……」
〈波導というのもその者の強さ、生命力の表れだと思ってくれてもいい。
しかし……今のルギアからはそれを感じる事ができないんだ……〉
「それっ、て……」
その意味が、どういうものか理解できない程、彼等は愚かではない。
つまり、今のルギアは……命の灯火が尽きようとしているということ。
「ど、どうして……?」
「っ」
そこでようやく、シロナは先程ロキの言っていた言葉の意味を理解できた。
「用済み」と言っていたのは、すなわちルギアの命がもうすぐ――
「カイリ、『時戻りの力』だ!!」
「っ、わかった!!」
慌ててルギアに駆け寄るカイリ。
冷たくなった身体に手を添え、力ある言葉を放った。
「時よ、我が命に――――っ!!!?」
「カイリ!?」
力を解放しようとした瞬間、カイリの身体が崩れ落ちる。
「あ、あれ……?」
身体が動かない。
全身に凄まじい倦怠感が押し寄せ、指一本動かせなくなっていた。
「マ、マジかよ……」
先程の戦いによる消耗が激しすぎた。
今の自分では――時戻りの力は使えない。
「くっ、なら僕が!!」
力を発動させようとするレイジだったが……。
「っ、ぐぁ!?」
その瞬間、凄まじい痛みが全身に走った。
まるで、自分自身がその力を使わせないようにしているかのように……。
「レイジ!!」
「レイジくん、これ以上その力を使えば君の身体が……」
「くっ、そ……」
カグヤとシロナに支えられながら、レイジは痛む身体を呪った。
こんな時に、使わなければいけない時に使えなければ……。
「…………レイジ、か?」
「っ、ルギア!!」
うっすらと瞳を開いたルギアに駆け寄る。
「……無事だったか、よかった……」
「ルギア……」
「……見ての通りだ。私はもう……」
「嫌だ、そんなの絶対に認めない!!」
だって、こんな結末など誰が望むというのか。
何の罪もなく、ただ欲望のままに巻き込まれたルギアが、どうしてこのような終わり方を迎えなければいけないのか。
そんな事実など、絶対に認めるわけにはいかない。
「待ってて、今すぐに治してあげるから……」
「よせ……何をするかは知らんが、私のためにお前が苦しむ事はない……。私を助けてくれた、それだけで充分だ……」
「助けてない。僕は君を助けられなかった!!」
「いや……助けたとも、私をあの男から救ってくれた……。
それだけで……私は、嬉しい……」
ルギアの呼吸が小さくなっていく。
「嫌だ……嫌だよ、こんなの……」
「…………」
大粒の涙を流すレイジに、ルギアは微笑みながらその翼で彼を優しく抱きしめる。
「レイジ……お前のような子に会えてよかった、今まで私は長い間誰とも干渉せずに生きてきたが……最後に、お前のような優しい子に会えたのは幸せだったのかもしれないな……」
「違う……違うよルギア、まだ死んじゃダメだ……まだ、生きてなきゃダメだ!!」
「――ありがとう、レイジ。できる事なら……お前の行く末を見てみたかったが……どうやら、ここまでのようだ……」
「嫌だ!!」
「……レイジ、私から最後の願いだ。聞いてくれないか?」
「最後じゃない、最後なんかじゃない!!!」
「レイジ――人間を、憎まないでほしい」
「えっ………」
「確かに人間は愚かな行為に走る者もいる、だが……お前とお前の仲間達のように、無関係な私を命懸けで助けようとしてくれる者もいるのだ。
だから……どうか、人間を憎まないでくれ。
私は人間達を愛している、この世界に生きる者達を愛している。
でも、お前が人間を憎んでしまったら、私は悲しい……」
「…………」
「よいな? 頼むぞ、レイ………ジ……」
――閉じられる瞳。
――止まる呼吸。
「――――」
それが、何を意味するかなど説明するまでもなかった。
〈――ルギアの波導が、消えた〉
「そん、な……」
「嘘、だろ……?」
カイリ達も、その事実に打ちのめされその場に崩れ落ちた。
〈………お父様〉
躊躇いがちに声を掛け、動かないレイジを後ろから抱きしめるティナ。
〈お父様の責任でも、皆さんの責任でもありません。ですから……どうかご自分を責めないで〉
言いながら、ティナの瞳にも涙が溢れる。
……レイジの悲しみが、伝わってくるのだ。
まるで剣のように鋭く痛々しい悲しみ。
彼が泣き叫ばないのが不思議なくらいの、苦しみだった。
〈っ〉
抱きしめる力を強くする。
そんな事をしても、レイジの悲しみが癒されないとわかっていた。
だがそれでも――そうしなければならないと思ったのだ。
………。
人を憎むなと、ルギアは言った。
では、この悲しみと怒りは、一体どこに行けばいいのだろうか。
「ルギア、僕は……あなたにどう償えばいいのですか?」
人間の勝手な業で死んだあなたに、どう報いればいいのですか?
眠るルギアに、静かに語りかける。
〈えっ………?〉
おもわず、ティナはレイジから離れた。
――心が視えない。
サーナイトである自分は、他人の心を視る事ができる。
だというのに、先程まで視えていたはずのレイジの心が……。
〈お父、様……?〉
違う。
今の彼は“レイジではない”
自分の知っている、彼ではなかった。
「あなたは世界に必要だ、いずれ来るべき時の為に……ここで死すべき命ではない」
まるで唄のように、レイジは告げる。
その違和感に、ティナだけでなくカイリ達も気がついた。
「レイジ……?」
「…………」
彼は答えず、けれどゆっくりとカイリ達に身体を向ける。
「――まだ、終わるべき時ではない」
「は………?」
「来たるべき選定の日まで、どうかこの子を守ってやってくれ。
お前達がレイジと呼ぶ、この少年を」
レイジの声で、彼とは違う誰かの言葉が紡がれる。
「……あなたは、誰?」
「…………」
カグヤの問いに、優しい笑みを返すだけで、再びルギアへと向き直る誰か。
そして、そっとルギアの身体に手を添えた。
「ルギア、私の力を以て再びお前を現世に戻す。
しかし私はまだ眠りに就く身、不完全な救済となるが……お前も、この子を守る剣となってほしい。来たるべき日のためにも」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!! お前は一体何なんだ!!」
「いずれ判る。私の分身の力を秘めた子よ」
「えっ………」
その言葉を理解しようとした瞬間。
辺りが、凄まじい光によって包まれていく。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
「こ、これは……!?」
「よいな。選定の日までこの子を頼むぞ!」
「待って、あなたは――」
光が、全てを奪っていく。
視界も音も、なにもかも……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……うっ……」
少しだけ気だるさを感じながら、レイジは目を醒ました。
「…………」
視界に広がるのは、森の木々と太陽。
そして―――何故か自分に対して変な顔を浮かべている仲間達。
「……みんな、どうかしたの?」
というか、何となく向けられている表情にムカッとする。
しかし、そのような感情などすぐさま消え去ってしまった。
「お、お前……何をしたんだ?」
「は?」
何をってなにさ、そう疑問を返すと、全員がレイジの後ろを指差す。
一体何なんだ、そう思いながらレイジは後ろに振り向いて―――固まった。
「…………………………………………は?」
口から出た言葉は、あまりに間の抜けたもの。
しかし、それも無理からぬ事だった。
何故なら、レイジの視界の先には………。
――先程より半分程度にまで縮んでしまった幻のポケモン。
――ルギアが、呑気に眠っていたからだ。
「………何、これ?」
To.Be.Continued...