ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
そんな中、カイリはセキエイリーグに向けてある決意を抱く……。
「――では、またいつでも遊びに来なさい」
カントー地方行きの定期船に乗ったレイジ達に、トキヤは優しげな笑みを浮かべ見送る。
「はい。トキヤさん、色々とありがとうございました」
「よいよい。それよりレイジ、シロナの事を頼んだぞ?」
「あー……えっと、はい」
「レイジくん、どうしてすぐに頷かなかったのかしら?」
「いえ、特に深い意味はないです……」
詰め寄られ、視線を泳がせるレイジに、周りの者は苦笑を浮かべた。
「……でもさ、ミカンは本当にいいのか?」
ふとそう呟きながら、カイリは自分達と同じ船に乗っているミカンへと視線を向ける。
ミカンも、カイリ達についていくと言った時は、驚きが走った。
彼女が言うには、ジムリーダーとして色々な場所に赴きもっと強くならなければいけないらしい。
もちろん彼女は嘘を言っているわけではない、それも理由の一つだ。
理由の一つだが……それだけではないのも確かなわけで。
なんて事はない、ミカンは淡い恋慕の感情を抱いたカイリの傍に居たいだけなのだ。
ジムリーダーという立場なのにいいのか、という話ではあるが、ジムの運営は他の者にも任せられるし、何より強くなるという理由が嘘ではない以上問題は……ないはず。
ただ問題があるとするなら……それは、ヒメカだろうか。
(……なんか、めっちゃ睨まれてる……)
自分は何も悪い事などしていないはずだ、それなのに何故ヒメカは睨んでくるのか。
こちらもなんて事はない、ミカンの気持ちを理解しているヒメカが彼女の真意に気づき、半ば八つ当たり気味にカイリを睨んでいるだけだ。
――船が出航する汽笛が鳴る
「トキヤさん、さようなら!」
「またいつでも来るとよい、じゃが……次はシロナとの子供を見せてくれると助かるぞ」
「ぶっ……」
「……あのばあさん、よくもまあ臆面もなく言えるよな」
「確かに……」
手を振りながら、とんでもない事を口にするトキヤを見ながら、カイリとヒメカは呆れたような口調でそう呟いた。
………。
「――レイジ、口開けて」
「レイジくん、はい、あーん」
「……あの、1人で食べれますけど……」
時刻は昼時となり、船内の食堂で昼食を採っているレイジ達。
しかし、彼等の……正確には、レイジとカグヤとシロナの周りには甘ったるいオーラが漂っていた。
「…………」
カイリは食事の手を止めげんなりし。
ヒメカはなるべく気にしないようにしながら半ば機械的に食事を進める。
そしてミカンは、そんな3人を見ながら頬を赤く染めながらもじっと見つめていた。
……何なんだ、この空気は。
カグヤとシロナがレイジに対し、想いを伝えたという話は聞いていた。
彼が2人の気持ちをとりあえず「保留」にした事も知っているし、きっと互いに牽制し合いながらレイジにアピールしているのだろう。
それはわかる、よくわかるが……。
(もしかして……これからずっと、こんなピンクオーラの隣で旅を続けないといけないのか?)
だと言うのなら、マジで勘弁してもらいたい。
今だって色々ヤバいというのに、これがずっと続くとなると間違いなく糖死する。
「……ごちそうさま」
呟くようにそう告げ、さっさと席を立ちその場から離れていくヒメカ。
(あいつ、耐えきれないからさっさと逃げたな……)
しかし、カイリも同じ気持ちなので一気に残りの食事を終わらせ、席を立つ。
すると、ミカンも同時に席を立ったので、2人してそそくさとその場から逃げた。
その途中、レイジの視線が。
「助けて……」
そう告げていたが、2人は無視した。
薄情と言うなかれ、あれを邪魔したらどうなるのかわからない以上、自ら進んで危ない道を歩む必要はない。
すまんレイジ、心の中で謝罪の言葉を述べつつ、カイリはミカンと共に外へと出た。
「……やっぱり、カイリ達も耐えきれなかったのね」
先に来ていたヒメカにそう問われ、カイリは力なく頷きを返す。
「何なんだよあいつら……急にあんな空気を作りやがって……。近くにいる俺達の身にもなってほしいもんだぜ」
まだ胃が甘ったるいような気がする。
……夕食は、激辛料理でも食べようか。
「………でも、カグヤさんもシロナさんも幸せそうでしたね」
羨ましそうな口調で、ミカンは口を開く。
「それは否定しねえけど……間に挟まれたレイジは少し可哀想だな」
男としてはこの上なく幸せな状況かもしれないが、彼の場合はそれに当てはまらない為苦痛でしかないかもしれない。
恋は人を変えると誰かが言っていたような気がしたが、カグヤ達を見ていると否が応でもそれが正しいと思えてしまう。
「……カイリさんは、ああいうのはお嫌いですか?」
「嫌いというか……同じ状況になったらなったでまた大変そうだからな……俺は正直御免だ」
「ということは、カイリさんは控えめな女の子が好みという事ですか?」
「そうだな……控えめ過ぎるのもあれだけど、どちらかといえばそうかもしんない」
「控えめ過ぎるのもダメ……なる程」
「……ところで、何メモしてんだ?」
「えっ!? あ、いえこれは……気にしないでください、ただの……勉強みたいなものです」
「勉強……?」
「はい。というか気にされたら私、死んじゃいます(恥ずかしくて)」
「死ぬの!?」
「…………」
頬をほのかに赤く染めながらカイリを誤魔化しているミカンを見て、ヒメカは彼女が少し羨ましいと思った。
彼女は素直で一途だ、おまけに清楚で甲斐甲斐しく同じ女としても魅力的に思える。
彼女は彼女なりに、恋慕の感情を抱くカイリに対しアプローチを試みているのだ。
けれど自分は……素直ではなく恥ずかしさを隠すようにすぐ手を出したりして、全然女の子らしくない。
(私も、ミカンやカグヤみたいに素直に……)
「ヒメカ、どうした?」
「…………」
心配そうな表情で自分に声を掛けるカイリ。
「……ごめんなさい、なんでもないの」
「なら、いいけどよ……なんか悩みがあるなら言ってくれよ? 俺はレイジみたいに頼りにならねえかもしんないけど……話せば楽になる事だってあるんだからな?」
「………うん」
ぶっきらぼうな言い方だけど、その口調には確かな優しさがある。
……こういう所が、カイリの魅力だと思う。
(――とられたくない)
たとえ彼に自分の想いを伝えられなくても、好きである以上誰にも奪われたくなかった。
その感情は――ヒメカを少しだけ素直にさせる。
「カイリ」
「ん?」
「ありがとう、あなたが心配してくれて凄く嬉しい」
微笑みながらの、感謝の言葉。
いつもの素直じゃない言い方とは違う、心からの優しい言葉。
そしてその笑みは、とても魅力的で可愛らしい微笑みだった。
「…………」
その破壊力は凄まじく、カイリの方が気恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。
「カイリ、せっかくだから船内を歩いて見てみましょうよ?」
言いながら、カイリの手を優しく握るヒメカ。
「お、おいヒメカ……」
恥ずかしいと、ついつい思ってしまう。
なんというか、胸にドキドキしてきた……。
「むぅ……ズルいですよヒメカさん!」
「おわっ!!」
反対側からミカンに引っ張られ、つんのめってしまう。
「いいじゃないミカン、2人だけで行っても」
「ダメですよ、そんなの私が許しません」
「…………」
わーわーきゃーきゃーと自分を挟んで言い合うヒメカとミカン。
それをどこか他人事のように眺めながら……。
(レイジ……今ならお前の気持ちがわかるぜ)
そう思いながら、静かにため息をついたのだった。
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『はぁ……』
夜。
客室で、レイジとカイリは同時にため息をついた。
「……何かあったの?」
「まあな……」
疲れたように返事を返すカイリに、レイジは察してこれ以上は何も訊かない事にした。
「――なあ、レイジ」
「何?」
「お前、答えはもう出たのか?」
「答えって、何の?」
「……カグヤとシロナさん、どっちが好きかって答えだよ」
「…………」
カイリの問いに、レイジは表情を僅かに変える。
そして暫し経ってから、口を開いた。
「……答えは、まだ出てないよ」
「そっかぁ……やっぱり難しいか?」
「そうだね……そう簡単には出せないよ、こればかりは」
レイジにとって、2人の告白はまさしく青天の霹靂だった。
故に、簡単に導き出せる問題でもない。
「でも、2人は待つと言ってくれた。だから僕は僕なりにちゃんと考えているよ。
後悔しないように、2人の想いを無駄にしないように」
「………そっか、そうだよな」
「けどどうしたの? いきなりそんな事訊いてきて……」
「んっ……ああ、ちょっとな。なんていうか……やっぱり参考が欲しいんじゃねえかな、うん」
「………?」
参考、とはどういう事なのだろうか。
煮え切らないカイリの物言いに、レイジは首を傾げていると。
「――俺、ヒメカかミカン、どっちかが好きなのかもしんねえ」
少しだけ躊躇いがちに、カイリは己の中に芽生えた感情をレイジへと告げた。
「………カイリ」
「まだ断言はできねえんだけどな……だから、その……レイジの気持ちを訊いて何か参考になればと思って……」
「……成る程ね」
多少驚きはしたが、すぐに納得できた。
男と女というのは互いに惹かれ合う存在だと、前に聞いた事がある。
カグヤとシロナが自分を好きになってくれたように。
自分が、2人を意識するようになったように。
カイリもまた、必然のようにヒメカとミカンに惹かれているのかもしれない。
それは悪い事ではない、むしろ人として素晴らしい感情だと思う。
誰かを好きになる、その感情は人として必ず必要になるものなのだから。
「カイリ、その気持ちは大事にした方がいい。
まだ答えがわからなくても、ヒメカ達と一緒に居ればきっと見えてくるから。
人として、誰かを好きになるのは素晴らしい事だよ」
「……ああ、サンキュー」
笑みを浮かべるカイリに、レイジも笑みを返す。
「さて、寝るか」
「そうだね、明日の朝にはカントーに到着するから、早く寝た方がいい」
言いながら、布団に入る2人。
「……あっ、レイジ」
「ん?」
「あのよ……ちょっと勝手な頼みがあるんだが、いいか?」
「何?」
聞き返すと、カイリは少し驚くような事を言ってきた。
「――カントーに着いたら、別行動にしねえか?」
「えっ……?」
「セキエイリーグまであとだいたい三週間くらいだ。
俺はもちろん優勝してチャンピオンになりたいと思ってる、そして……お前を最大のライバルだとも思ってる」
「…………」
「だからセキエイリーグまで、お前達とは別れて特訓したい。
お前と一緒に特訓するのも悪くないが、それじゃあ決意が鈍っちまうかもしれないしな……」
「……ヒメカとミカンさんは」
「承諾してくれたよ。今頃カグヤとシロナさんに言ってると思う」
「そう………」
彼と出会い、共に旅をするようになってそれなりの月日が流れた。
だからいつしか、彼が隣にいるのが当たり前のように思えていたから、少しだけ……寂しく思えた。
けれど、彼は自分をライバルと言ってくれた。
なら――彼の気持ちを汲み取る事が、大事だと思う。
自分をライバルだと認めてくれた、彼の為にも。
「――わかった。それじゃあ港に着いたら一時お別れだ」
「わりぃな、勝手に決めちまって……」
「何言ってるのさ、むしろ僕は嬉しいよ。ライバルだと言ってくれて、嬉しかった」
「……おう」
互いに笑い合い、ベッドに潜り込む。
「………ありがとな」
「………うん」
掛け合うべき言葉はただそれだけ。
その後は何も語らず、そっと瞳を閉じた。
そして……どこか心地よい感覚に包まれながら。
レイジとカイリは、夢の中へと旅立っていった。
To.Be.Continued...