ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
……そこでレイジは、再び己の傷と向かい合う。
「――着いたー!!」
レイジ達の傍で、カグヤの嬉しそうな声が木霊する。
いつもなら「うるさい」と注意するレイジだが、今回だけはやめておいた。
なにせ約一年振りに故郷のマサラタウンに戻ってきたのだ、嬉しいのは彼も同じ。
「ここがマサラタウン……レイジくんとカグヤの故郷なのね……」
「そうですよ。ほら2人とも、早く行こうよ!」
嬉しさが隠しきれず、駆け足で街の中へと入っていくカグヤ。
と。
「カグヤ、おかえり!!」
数人の男女が、カグヤに笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。
おそらくマサラの住民でカグヤの友人なのだろう、彼女も嬉しそうに声を掛けている。
「…………」
レイジの顔が強張る。
「………?」
それを、シロナは怪訝そうな表情を浮かべていると。
「――シロナさん、カグヤに先に行ってると言っておいてください」
一気にそうまくし立て、駆け足でその場から走り去ってしまった。
「えっ、ちょ、ちょっとレイジくん!?」
「あっ!!」
「も、もしかして……シンオウチャンピオンのシロナさん!?」
慌てて追いかけようとしたシロナだったが、カグヤと同じくマサラの住民達によって囲まれてしまう。
「あ、えっと……」
「お会いできて光栄です!!」
「あ、あの……握手してくれませんか?」
「ポケモンを見せてください!!」
「…………」
すぐさま掻き分けて彼を追いたい。
けれど、せっかく自分にそう言ってくれる人達を邪険にする事などシロナにできるわけもなく。
(レイジくん、一体どうしたの……?)
彼の様子を気掛かりながらも、一人一人相手をする事にした。
………。
早足で歩き、ようやく周りに人がいなくなった事を確認してから、レイジは少しだけ歩くスピードを緩めた。
「――マスター、何故いきなり逃げたのだ?」
そんな彼が心配になったのか、彼のポケモン達が一斉にボールから飛び出す。
ルギアは不満げに唇を尖らせ、ティナは沈痛な表情を浮かべ、他の者は怪訝そうに首を傾げている。
「……逃げたわけじゃないよ、ただ先に行くって言っただけで」
「そんな苦しい言い訳が余に通用するとでも思っているのか?
どう見てもマスターがあの者達から逃げたようにしか見えないが?」
「…………」
レイジは答えない。
けれど、ルギアを始めとした皆も大体の察しはついていた。
しかし、それがわかっているからこそ、ルギアは気に入らない。
「マスターはあの者達を恐れているのか?
それに……そんな辛そうな顔をするのはやめてほしい。マスターが辛いと……余も辛い」
「ルギア……」
〈ねえレイジ、どうして逃げたの?〉
〈あの人達と、何かあったのですか?〉
「まあ、ね……」
〈まさか、あいつらがお前を……〉
「いいんだリオン、別にいいから」
〈よくない。もしあいつらが昔レイジをいじめてたなら……ピカは絶対に許さないよ〉
「ヒカリ、気持ちは嬉しいけど僕は大丈夫だよ」
安心させるようにヒカリを抱きかかえ、レイジは頭を撫でてやる。
「ほぅ……なる程、余のマスターにそのような仕打ちをしたのか……」
邪悪な笑みを浮かべ、殺気立っていくルギア。
それを、他ならぬレイジが静止の言葉を掛ける。
「ルギア、ダメだよ」
「っ、マスター……そなたは悔しくないのか?
虐げられ、仕打ちを受けたというのに何もやり返さないとは……」
「やり返せばいいって問題じゃないよ、それに……仕方ないんだ」
人は、自分にないもの、自分には理解できないもの、自分の常識外のものには恐怖するものだ。
小さい頃はどうしてと疑問ばかりが浮かんだが、少しは大人になった今なら耐えられる。
……辛くない、そう言えば嘘になるが。
〈ルギア、お父様のいうことをきいてください〉
「ティナ、お前までそんな事を言うのか?
余にとってマスターは絶対の存在だ、そんなマスターを侮辱していたものを許容する心など余にはない」
〈それでもです。お父様がそれを望まない以上、あなたの考えは独りよがりでしかありませんよ〉
「むぅ……」
そう言われてしまうと、ルギアとしても反論を返せない。
許す事はできない、しかしレイジが望まないのなら……確かに、自分の考えは独りよがりか。
〈皆さんも、怒りを抱くのはわかりますが、勝手な行動をなさってはダメですよ?〉
他の者にも釘を刺し、どうにか事態を収拾させるティナ。
納得できないものの、他の者達もこれ以上は何も言わなかった。
「ありがとうみんな、気持ちは凄く嬉しいから」
各々の頭を優しく撫で、軽いヒカリとアクセルは抱きかかえてやる。
「ああっ、ずるいぞヒカリにアクセル!!
マスター、余もだっこしてくれ!」
「無茶言わないで……」
いくら前より半分以下になったとはいえ、それでもルギアは巨体な部類に入るのだ、間違いなく圧死する。
そんなレイジ達をよそに、抱きかかえられたヒカリとアクセルは嬉しそうだ。
そんな二体を見て、ますますルギアは不満そうな表情を浮かべるのだった。
………。
ルギアに文句を言われながら、オーキド研究所に到着。
「ほぅ、ここがオーキドの研究所か」
「ルギア、頼むから失礼な態度をとらないでね」
釘を刺し、扉を開く。
と。
「どわっ!?」
〈わぁっ!?〉
「ピカッ!?」
いきなり何者かにタックルされ、抱きかかえていたヒカリ達ごと後ろに倒れ込んだ。
〈お父様!?〉
「な、何だ!?」
「いててて……」
一体何なんだ、そう思いながら痛む身体を押さえ顔を上げると。
「き、君は……」
自分のお腹の上に乗っているのは、一体のポケモン。
しかし、レイジにとって意外過ぎるポケモンだった。
〈あなたは――アブソル!!〉
そう、レイジにタックルしてきたポケモンは、わざわいポケモンのアブソル。
それもー―あの時、タマムシシティで彼に救われたアブソルだった。
「どうして君が……」
疑問を投げかけるが、アブソルは嬉しそうに笑みを浮かべレイジにすり寄ってくる。
「こ、こらーっ!! 誰だか知らんがマスターに馴れ馴れしくじゃれつくでない!!」
ピントのずれたルギアの怒りで、ますます事態が悪化していくが。
「こ、これは一体どうなっておるんじゃ……?」
「あっ……オ、オーキド博士」
騒ぎを聞きつけ、オーキドと……カグヤの両親であるゲンジとルリコが現場へとやってきた。
しかし、何が起きているのか理解できず、ポカンとした表情を浮かべており、どうやら期待できそうにない。
(やれやれ……)
そっとため息をつきつつ、誰からおとなしくさせればいいかなぁと、レイジは困り果ててしまった。
――それから、暫くして。
カグヤとシロナも合流し、ルギアも落ち着いてくれたので、ようやく落ち着いて話ができるようになった。
「ふむ、なるほどのぉ……随分と色々な事があったみたいじゃな」
「スイクンにホウオウにライコウ、ラティオスにラティアス……はたまたルギアにまで……」
「驚いたわ……凄い大冒険だったのね」
「うん。大変だったけど……今では凄く楽しかったかも」
「……そうだね」
確かに大変だったし、辛い事だってたくさんあった。
けれど、全体的に見れば……やはり楽しかったというのが正直な気持ちだ。
「でもカグヤ、あなたがロケット団と戦ってると聞いて、わたし達不安だったのよ?」
「ごめんなさい。でも……困ってるポケモン達を放っておけないから」
「やれやれ……誰に似たんだか」
呆れたような口調だが、ゲンジの口元には笑みが。
「ところで、バッジはきちんと集まったのか?」
「はい。私は5つで、レイジは4つです!!」
「そうかそうか、これで2人ともセキエイリーグに出場できるな」
「頑張ってね」
「うん!! 絶対優勝してチャンピオンになってみせるから!!」
「さーて……そいつはどうかな?」
「むっ……レイジ、どういう意味?」
「やってみなきゃわからないって事さ、僕だってチャンピオンになりたいっていう気持ちがあるからね」
「ふーんだ、私は絶対に負けないからね!!」
「僕もだ」
互いに見つめ合い、戦意をぶつけるレイジとカグヤ。
「…………」
それを見て、シロナは少し羨ましそうな視線を送っていた。
挑戦者としてバトルを楽しんでいた時、自分の傍には支えとなりライバルとなった人はいなかった。
けれど、カグヤにはレイジという支えがいる、だからこそトレーナーになって僅か一年足らずで、セキエイリーグに出場する程の実力を手に入れたのだ。
それが――シロナには少しだけ羨ましく思えた。
(まあ、今は支えが居てくれるからいいんだけどね……)
「それで、セキエイリーグまでここで過ごすのか?」
「うん。ここならゆっくり特訓できるし、それにたまにはマサラのみんなに会いたかったから」
「…………」
「そうかそうか。なら今日はみんなに会ってくるといい。みんなカグヤに会いたがっておったからのぅ」
「そうさせてもらいますね」
久しぶりに友人に会えるからか、嬉しそうに頬を綻ばせるカグヤ。
……だから気づかない、レイジの表情が強張っている事に。
カグヤを始めとして誰一人、気づく事はなかった。
………。
オーキド研究所の裏にあるポケモン達が住む中庭。
沢山のポケモン達と共に、レイジのポケモン達も楽しそうに遊んでいる。
それを優しく見つめながら……レイジは、瞳の奥に確かな寂しさを孕ませていた。
〈お父様……〉
そんな彼を、ティナと……アブソルは心配そうに見つめていた。
「ごめんねティナ、でも大丈夫だから」
〈……大丈夫な人は、そんなに心をざわつかせたりしませんよ〉
「はは……だよね」
このマサラは、故郷であると同時に……レイジにとって、辛い記憶の場所でもある。
この力――ポケモンと話す能力によって、彼はいつも1人だった。
畏怖の対象、化け物呼ばわりされた事だってあった。
だから、故郷に帰っても彼を迎えてくれる友人はいない。
もう慣れた事だ、その言葉に嘘はない。
けれど……辛くない、というのも嘘になる。
「おっ……?」
突然服の裾を引っ張られ、そちらに視線を向けると……。
「アブソル……」
ジッと自分へと視線を向けているアブソルが、口を開く。
〈――僕達がいるから、寂しくないでしょ?〉
「…………」
〈君の傍にはいつだって僕達がいるから、そんな辛そうな顔をしないで〉
「………うん」
その優しさに、レイジは胸が暖かくなるのを感じた。
そうだ、今の自分は1人じゃない。
ティナやみんな、カグヤやシロナ、そしてカイリ達が自分の傍に居てくれる。
なら、寂しいと思う必要なんかない。
「ありがとうアブソル、本当に……ありがとう」
頭を撫でながら、そっとアブソルの身体を抱きしめる。
少し恥ずかしそうにしながらも、アブソルは嬉しそうに一声鳴いた。
〈ねえ、ボール出して〉
「えっ……ボールって、モンスターボールの事?」
訪ねると、アブソルはこくこくと頷いたので、首を傾げながらも空のモンスターボールを取り出す。
すると。
「あっ!?」
〈あぁっ!?〉
なんと、アブソルは素早くボールの開閉スイッチを鼻で押し、自らボールの中に入ってしまった。
少し動いてから…ボールは動きを止める。
それはすなわち、アブソルをゲットしてしまったという意味で……。
慌ててボールからアブソルを出す。
「アブソル、何で……」
〈だって、僕も君の仲間になりたかったから〉
「えっ……」
〈あの時助けてくれた恩返しがしたいんだ、だから僕はずっと君を捜してた。
でも見つからなくて……そんな時この街に辿り着いて、あの人達に君の事を聞いた〉
それで、今まで待ってたとアブソルは言う。
「アブソル……」
〈君の力になりたい、助けられたからだけじゃない。
ただ単純に、僕が君と共に戦いたいと思ったからだ〉
確かな決意、それがアブソルの瞳から感じられる。
……そこまで言われてしまっては、レイジとしても断る理由はなかった。
というより、断るなんてできない。
「――わかったよアブソル、よろしくね?」
〈うん!!〉
嬉しそうに笑みを浮かべ、レイジに飛び込むアブソル。
それを受け止めながら、レイジはアブソルの名前を考える。
「そうだな……ソウルっていうのはどう?」
〈それ、僕の名前?〉
「うん、気に入らない?なら別の名前を考えるけど……」
〈うぅん、凄く嬉しいよ。ありがとう!!〉
どうやら気に入ってくれたようだ、アブソルの……ソウルの顔を見ればよくわかる。
という事で、新しい仲間であるソウルの事を教える為、レイジは全員を集める。
「みんな、この子はソウル。僕達の新しい仲間だよ」
〈よろしく!〉
ぺこりと丁寧なお辞儀をするソウル。
デッド化していたとはいえ面識があるからか、全員が快くソウルを迎えてくれた。
特にソウルと死闘を演じたヒカリは、仲間になってくれた事が嬉しくて尻尾で握手までしている。
「むぅ……」
しかし、そんな中でルギアだけが微妙な表情を浮かべていた。
ソウルが仲間になる事が嫌なわけではなさそうだが……。
「ルギア、どうかした?」
「マスター、仲間が増えた事は余も素直に嬉しいと思う。
しかし……その分、余を構う時間を少なくするのはやめてほしいぞ?」
子供っぽく唇を尖らせるルギアに、レイジは苦笑を浮かべた。
「な、何故笑う!? 余にとっては死活問題だというのに、笑うなんて酷いぞマスター!!」
「ごめんごめん、別におかしくて笑ったわけじゃないよ。
ただ……君が可愛らしい事を言うから」
「かわっ!? ふ、ふん……そのようなおべっかを使った所で、余が嬉しいと感じると思ったら大間違いだぞ!!」
〈よく言いますね。心の中では感激のあまり今すぐ飛び跳ねたいと思っているくせに〉
「っ!!? ティ、ティナ貴様……心を読みおったな!!」
〈わたくしだって読みたくて読んだわけではありませんよ、ですが……そんなにただ漏れの感情なら、否が応でも見えてしまいますから〉
そう言うものの、ティナの表情は明らかに楽しんでいるものだ。
すなわち、彼女はルギアをからかっているという事になるわけで……。
「〜〜〜〜〜っ。も、もう許さんぞ!! 覚悟しろ!!」
羞恥により顔を真っ赤にさせながら、ティナに襲いかかるルギア。
しかし、ティナはテレポートを使い飄々とした態度でルギアから逃げていく。
〈ルギアって、単純だね〉
〈ああ。それとティナ……いい性格してるよな〉
追いかけっこを見ながら、勝手な感想を口にするヒカリとリオン。
このまま見ているのも面白いが、ルギアが本気になったらこの中庭が崩壊するので、レイジはすぐさまボールに戻した。
中で尚もギャーギャーと喚いているルギアだったが、おとなしくなるまで無視する事に。
〈あら、残念〉
「ティナ、あまりルギアをからかわないの。今のこの子は子供なんだから」
わかりました、などと言っているが口元にはまだ笑みが残っている。
やれやれとため息をつきながらも、彼も笑みを浮かべていた。
(これで6体……セキエイリーグでは、このメンバーで行こう)
新たな仲間であるソウルを迎え、レイジは来たるセキエイリーグへと向けて決意を抱く。
――激闘の大舞台まで、あと二週間。
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