ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
レイジとカグヤ、そして彼等が旅で出会った者達が、セキエイ高原へと集まろうとしていた……。
――カントー地方は今、熱気に包まれていた。
ある者はテレビにかじりつき、またある者はとある場所へと向かう。
ポケモントレーナーにとって最高峰となる、大舞台。
カントー地方、セキエイリーグ。
その開幕日が、いよいよ今日になった。
「…………」
まだ陽が空に昇ったばかりの早朝。
そんな朝早い時刻だというのに、栗色の髪の美少女――カグヤはしっかりと目を覚まし、静かに自室で佇んでいた。
(いよいよ今日なんだ……セキエイリーグが、始まる)
故郷であるマサラタウンから旅立っておよそ丸一年。
新米トレーナーだった自分が、沢山の出会いと経験を経て…セキエイリーグに出場しようとしている。
自身の夢であるポケモンマスターになる為に、避けては通れない道。
「――頑張ろうね。みんな」
モンスターボールに入った、自分にとって最高のパートナーと呼べるポケモン達に優しく語りかけるカグヤ。
服を着替え、お気に入りの白いリボンを髪に結び準備完了。
あの日、旅立ちの朝と変わらぬ格好で、カグヤは部屋を出た。
「あ………」
下に降りると、台所には見知った背中が朝食の準備を始めていた。
その背中に、カグヤはいつものように挨拶を告げる。
「レイジ、おはよう」
名を呼ばれ、レイジは振り向き挨拶を返した。
「おはようカグヤ、今日は早いね?」
「うん。目が冴えちゃってるのかな? レイジこそ早いね」
「うん……僕も、早く目が覚めちゃったんだ。
やっぱり、緊張してるんだと思う」
少し不安げに、けれどそれ以上にどこか楽しげにレイジは言う。
それを見て、カグヤは笑みを浮かべた。
「私もすっごく緊張してるよ。でも……それ以上にワクワクしてるかな」
「僕もだよ。緊張してるけど……ワクワクする気持ちの方が大きい」
「えへへ……同じだね私達」
「うん、そうだね」
穏やかな笑みを見せるレイジに、カグヤはほんの少し気恥ずかしそうに笑う。
遂にきた大舞台の日。
しかし、2人にはいつも通り振る舞える事ができれ嬉しく思えた。
(……あっ、もしかしてこれってチャンス?)
今この場にいるのは自分達2人だけ。
邪魔者はおらず、周りに漂う雰囲気も悪くはない。
(……チュー、しちゃおうか)
思い立ったらすぐ実行、カグヤはおもむろにレイジへと顔を近づかせる。
「えっ………」
「…………」
――10センチ
―――5センチ
――――3センチ
近づく唇と唇。
互いの吐息が当たる距離まで近づいた時。
「はーい、そこまで」
図ったかのようなタイミングで、シロナが2人を引き離した。
「あーっ!!」
「シロナさん……」
「おはようレイジくん、そしてカグヤ……抜け駆けはズルいわよ?」
「むーっ、あともう少しだったのに……」
「…………」
残念そうに呟くカグヤと、顔を赤らめるレイジ。
(カグヤって、意外と抜け目ないのね……)
そしてシロナは、カグヤを止める事ができて、ほっとするのだった。
………。
朝食を食べ終え、一足先にセキエイリーグ会場へと赴くレイジ達。
着いた時には、既に出店などが建ち並べられており、すっかりお祭り状態になっていた。
「ここが、セキエイリーグ会場……」
「…………」
緊張が増す。
しかし、高揚した気分のおかげでその緊張はいいものへと変わった。
「それじゃあ2人とも、また後でね」
「えっ?」
「シロナさんはどこに行くんですか?」
「私はまがりなりにもチャンピオンという立場だから、キミ達と一緒に居たら色々とうるさくなってしまうでしょう?
それにちょっと行かなきゃいけない場所があるから、後で落ち合いましょう?」
そう言って、一足先に会場へと向かっていくシロナ。
「……チャンピオンって大変なんだね」
「シンオウ地方で一番強いトレーナーだから、やっぱり周りの注目を否が応でも集めちゃうものなんだよ」
「という事は、私もチャンピオンになったら変装して街を歩かなきゃダメって事だね!」
「……まあ、間違ってはいないけどね」
しかし、もうチャンピオンになった前提で話を進めるのはどうかと思う。
内心苦笑していると、後ろから軽く肩を叩かれ聞き慣れた声が自分の名を呼んだ。
「よっ、レイジ!」
「カイリ、それにヒメカにミカンさんも!!」
「久しぶりだね!」
「そうね。と言っても三週間程度だけど……相変わらず元気そうでよかったわ」
三週間振りに会う親友達は、相も変わらず元気そうだ。
その事実に、レイジ達の表情も安心したものに変わる。
「ところで……この三週間、少しは強くなったか? 俺達はすげえ強くなったぜ」
「もっちろん!!」
力強く頷くカグヤ。
それに満足したのか、カイリも満面の笑みを返す。
「ところでレイジ、お前ちゃんとフルメンバーを揃えたのか?
カグヤはともかく、お前は一体足りなかっただろ?」
「うん、それは大丈夫だよ。そういうカイリ達はどうなの?」
「当然、俺が最高だと思えるメンバーになったぜ」
「わたしも、自分の知識をフルに使って最高のメンバーを揃えたわ」
「カイリさんもヒメカさんも凄い気合いで、私も特訓に付き合ったんですが……凄かったですよ」
「へぇ……」
それは期待できそうだ、早く戦いたいという衝動に駆られてしまう。
「とりあえず受付に行って選手登録しようぜ?」
「そうだね、行こう」
5人揃って会場の中へと入る。
そこには既に沢山のトレーナーが、思い思いに過ごしていた。
「……どの人も、強そうだね」
「そりゃあこの大会に出られるんだ、かなりの実力者なのは間違いねえだろ」
「…………」
確かに、どのトレーナーからも強いオーラを感じ取れる。
さすがにワタルやシロナ程ではないにしろ、それでも充分過ぎる程に強い。
(これだけの人数から、たった1人だけが優勝できるのか……)
当たり前の話ではあるが、それでもそう思うと少しだけ戦意が鈍ってしまいそうだ。
「…………?」
ふと、人垣の一角へと視線を向けるレイジ。
「レイジ、どうかしたのか?」
「…………」
感じる。
周りのトレーナーを上回る強いオーラを。
それも……1人ではなく2人も。
(こっちに、来る……)
おもわず拳を握りしめ、その正体を見破ろうとその場で待っていると。
「えっ……?」
「なっ!?」
その正体は、レイジ達にとって意外な人物達だった。
「ん……? ああ、やはり来たかレイジ」
「フン……相変わらず緊張感の欠片もない顔だなレイジ」
対照的な言葉。
「な、なんでお前がここに居るんだよ!?」
1人に向かって、カイリが睨みながらそう叫ぶ。
しかしそれも無理からぬ事である。
レイジが感じた強きオーラの正体は……。
「――ロストさん、ケイジ」
とある事件で知り合った記憶喪失の青年ロストと。
冷たく鋭い目つきの少年ケイジだった。
ちなみに、カイリが叫んだ人物は当然ケイジである。
あの時の事は、やはり彼の中で拭えない確執を生んでいたようだ。
「…………」
睨み合う両者。
その間にレイジが割って入り、彼等に問いかけた。
「2人はどうしてここに?」
「おれ達も出場するためだ、セキエイリーグにな」
「ええっ!?」
「ロストさんも、ですか?」
「ああ。相変わらず自分の記憶は戻らないが……やはり根がトレーナーだからか、出場してみたいと思ったんだ。
――それに、またお前と戦ってみたいと思ってな」
「…………」
鋭い眼光。
言葉こそ柔らかいものの、その視線は強者のものだ。
「……ロストさん」
「お前の実力がどこまで上がっているのか、見せてもらうぞ」
「……レイジ、本戦で待つぞ」
それぞれ言い残し、人だかりの中に消えていくロストとケイジ。
「…………」
緊張で、身体が震えた。
「あいつ……まさかセキエイリーグに出てるなんて」
「ケイジだけじゃない、ロストさんもよ……」
「うぅ……凄いトレーナーが来たね」
「……それでも、自分と自分のポケモン達を信じて勝つだけだ」
それだけを考え、ただ突き進むのみ。
「そうだね、自分と自分のポケモン達を信じれば、きっと勝てる!」
「おっしゃ、燃えてきたぜ!!」
「燃えるのはいいけど、まずは選手登録よ」
「そうだったな、早く行こうぜ!!」
「はいはい……」
焦るカイリを宥めつつ、レイジ達は受付へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「うへぇー、広い部屋だな」
選手登録後、案内された部屋へと赴いたレイジとカイリ。
「これだけの部屋を各々に渡すなんて……凄いもんだな」
自分達2人共同の部屋とはいえ、明らかに普通の部屋に比べ豪華だ。
「なあレイジ、お前はどんなメンバーなんだ?」
「……そういうカイリは?」
「俺は秘密、ライバルに教えるわけにはいかねえからな」
「じゃあ、僕だって教えられないよ」
「そりゃそうだな、けど……絶対にお前には負けないぜ」
「…………」
「確かにこの大会は強豪揃いだ、ロストさんもケイジも、カグヤもヒメカもすげえ強いと認めてる。
でも……俺がこの大会で一番強いと思ってるのはレイジ、お前だ」
「カイリ……」
「一番の親友だからこそ、俺にとって一番勝ちたい相手だ。
だからレイジ、本戦まで負けんなよ?」
「……うん。カイリもね」
当たり前だ、そう言ってニカッと笑うカイリに、レイジも笑みを返す。
「よし、開会式まで時間あるしメシでも食いに行こうぜ?」
「うん」
部屋を出て、選手用の食堂に向かう2人。
食堂には既にトレーナー達が各々食事を楽しんでいた。
「ん……?」
そんな中、とある一角に人だかりが。
何やら殺気立っているが……何だろうか。
気になり、近づいてみると……。
「あ……」
「っ、またあいつ……何かやったのかよ」
悪態をつくカイリ。
そこには、とあるトレーナーと……ケイジが睨み合っていた。
いや、睨み合っているというより……睨んでいるのはトレーナーだけで、ケイジは相手にすらしていないようだが。
「ケイジ」
「? レイジか……何の用だ?」
「何の用というか、何をしたの?」
「別に、ただこいつが自分が優勝するといきまいていたから、現実を教えようとしただけだ」
……どうやら、また暴言を吐いて騒動を起こしたらしい。
前のような冷たさはなりを潜めたようだが、こういう余計な所は変わっていないようだ。
「おい、謝れよ」
「謝る必要などない、このトレーナーが優勝などできるものか」
「っ、そんなのやってみなきゃわかんねえじゃねえか!!」
「ハッ、敵を庇うなんざおめでたいヤツだな。
少しは強くなったようだが、そういうバカな所は変わってない」
「この野郎……!」
殺気立つ両者。
今にもバトルが始まりそうな雰囲気になってきたので、レイジはため息をつきながら両者に割って入る。
「2人とも、決着は大会で着ければいいんじゃないか?」
「レイジ……」
「……フン、こんなヤツよりオレはお前と戦いたいんだがな」
「……カイリを甘く見てると、負けるよ?」
「…………」
ほんの少しだけ、ケイジはレイジを睨んだ後。
ケイジは、そのまま何も言わずに食堂を出て行った。
「っ、あの野郎……絶対ぶっ倒す!!」
「はいはい。わかったから落ち着いて。――大丈夫ですか?」
「あ、ああ……すまないな」
「いえ……」
「くっそー……レイジ、さっさとメシ食っちまおうぜ!!」
よほど腹が立ったのか、乱暴な物言いでさっさと席に向かうカイリ。
(まったく、気持ちはわかるけど過剰に反応し過ぎだよ……)
しかし、裏を返せばそれだけケイジを意識している証拠だろう。
尤も、カイリは絶対に認めようとしないだろうが。
「レイジー」
と、カグヤ達も食堂へとやってきた。
5人で席に座り、各々注文を頼む。
「何かあったの?」
「………別に」
ぶっきらぼうに言い返すカイリに、カグヤは首を傾げる。
「気にしなくていいよ、それより……みんなセキエイ大会のバトルルール理解してる?」
「えっと……最初はAからHの8グループに分かれて予選を行って……各グループの一位と二位が本戦に行けるんだよね?」
「予選と本戦の一回戦までは3対3、準々決勝からはフルバトル……」
「色々考えなきゃいけないよな……」
「フルバトルはともかく、3対3はポケモンが限られるからね。
よく考えて、メンバーを決めていかないと」
「うぇー……俺、そういうの苦手なんだよな」
「私もー……」
「やれやれ……」
「カイリ、情けないこと言わないの」
「カイリさん、ファイトですよ」
「おー……サンキューなヒメカ、ミカン」
「…………」
まずは予選を勝ち抜かなければ、本戦には行けない。
いくら意気込んでも、予選で負けてしまえば無意味だ。
……今は、一つ一つできることを考えよう。
………。
――喧騒が、フィールドを包み込む。
周りのトレーナー達は全員真剣な表情で、フィールドの上を立っていた。
もちろん、レイジ達もその中に入っている。
(……始まる)
始まるのだ、セキエイリーグが。
開会式の言葉が述べられる中、レイジはただ空を見上げる。
……ここまで、長かったと思う。
たった一年、けれどこの一年は……自分を変える大事な一年だった。
その集大成を、この大会で見せることができるだろうか。
「………?」
視線を感じ、そちらへ顔を向けると。
(シロナさん、ワタルさん……)
そこには、自分に手を振っているシロナと、静かに開会式を見つめているワタルの姿が。
どうやらチャンピオン用の特等席のようだ、彼女はあそこから観戦しなければいけないらしい。
(……見ててください、僕の戦いを……成長した僕の姿を)
決意を胸に宿し、黙ってシロナを見つめ返す。
……何故か頬を赤らめ視線を逸らされた。
――遂に始まったセキエイ大会。
予選を勝ち抜き、レイジ達は本戦を目指す。
戦いは、すぐそこまで迫っていた―――
To.Be.Continued...