ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
そんな中、密かに女のバトルが……。
「アクセル、はどうだんだ!!」
アクセルのはどうだんが相手のプクリンを吹き飛ばし、戦闘不能へと陥らせる。
「プクリン、戦闘不能!リオルの勝ち!!
よって勝者、マサラタウンのレイジ選手!!」
「………ふぅ」
『決まったー!! レイジ選手、予選を全てストレート勝ちで本戦への切符を獲得いたしました!!』
〈父上!!〉
「おっと……」
アクセルが飛び込んできたので、慌てて受け止め頭を優しく撫でてやる。
「よく頑張ったねアクセル、ありがとう」
〈いえ、父上のお役に立てて嬉しいです!!〉
相変わらずなアクセルに、レイジは苦笑を浮かべる。
『これで予選全ての戦いが終わりました。
本戦の切符を手にした16人の強きトレーナー、一回戦の組み合わせは……これだ!!!』
モニターに、本戦に進んだ16人の写真が一斉に映る。
(……一回戦は、誰とも当たらなかったか)
運がいいのか悪いのか、カグヤ達全員が誰とも当たらずに済んだ。
『明日、いよいよ本戦が開始されます。
選ばれし16人の誰が優勝し、チャンピオンリーグに進む事ができるのか……』
「…………」
実況の声が響く中、レイジはフィールドから離れその場から立ち去る。
「――お疲れ様、レイジくん」
通路に出ると、シロナが迎えてくれた。
「シロナさん……」
「さすがね。予選を全てストレート勝ちだなんて……」
「いえ、みんなが強くなったからですよ」
「それもあるけど、なによりポケモン達が貴方を心から信頼しているからこそよ。
そして、貴方の指示が的確だから」
「あはは……ありがとうございます」
そう言われると、なんだか気恥ずかしくなってしまう。
「ところでレイジくん、貴方はこの後何か用事とかあるかしら?」
「用事、ですか?」
少し考えてみるが……本戦は明日だし、後は今日バトルしたアクセルをポケモンセンターで回復させる以外、用事などはない。
だから、レイジはすぐさまシロナの問いに答えを返す。
「特にありませんよ。けどそれがどうかしたんですか?」
「そう……なら、これから私と一緒に会場を見て回らない?」
「えっ?」
「今セキエイ大会は色々な出店が建ち並んでいるし、見て回るのも楽しいと思って」
「はあ……」
まあ確かに、気分転換にはなるかもしれない。
「いいですよ。それじゃあ行きましょうか?」
特に断る理由がなかったので、レイジは承諾の返事を返す。
すると、シロナの表情が一気に嬉しそうなものへと変化した。
「ありがとう! じゃあ早速行きましょ!!」
言いながら、レイジの右腕に自分の腕を絡ませるシロナ。
「シ、シロナさん……」
「ダメかしら……?」
「いえ、ダメとかじゃなくてですね……恥ずかしいというか、なんというか……」
シロナのような魅力的な女性にそんな事をされては、やはり刺激が強い。
しかし、シロナは嫌がられていない事を知ると、抱きついている腕の力を強くする。
(うぅ……)
どうやら、離れる気はないらしい。
こんな状態で人通りの多い所に行けば、間違いなく注目になり更には誤解を招いてしまうかもしれない。
シロナはそれでも一向に構わないが、レイジはあまり目立つ事はしたくないので、渋い表情を浮かべている。
(……まあ、シロナさんには適わないんだけど)
シロナだけでなく、どうやら自分は女性に対してかなり弱くなってしまうようだ。
最近気づいた事だが、あまり気づきたくない類の事実であった。
「レイジくん、だいぶ背が伸びたわね」
「そうでしょうか?」
「ええ。前までは私の方が高かったけど……今では私が顔を上げないといけなくなったから」
「まあ、まだ成長期ですからね……」
「ふふっ、でもレイジくんの背が伸びてくれてよかったわ。
だって、これなら周りから恋人同士のように見えるでしょう?」
「は、はあ……」
そんな事をはっきりと言われてしまうと、レイジも顔を赤くしてしまう。
そして、やはりシロナは自分に対して好意を抱いているという事実を再認識した。
(……でも、シロナさんみたいな綺麗な人が僕を好きだなんて……やっぱり信じられないな)
もちろん彼女の想いを疑っているわけではないが、どうしてもそう思ってしまうのもまた無理からぬこと。
それだけ、彼女が魅力的だと思っているからだ。
(………うっ)
出店が建ち並ぶエリアへと赴いた瞬間、レイジの表情が僅かに歪む。
やはりというか……周りからの視線が痛い。
それは当然だ、ここにいる人達の殆どはトレーナーやポケモンの知識に深い人達ばかり。
すなわち、シロナがどういった人物かを知っている。
シンオウ地方最強のトレーナーであるシロナが居るだけでも注目の的だというのに、男と一緒に居たら注目度は倍増だ。
しかしシロナはそんな視線に気づいていないのか、それとも見せつけたいのか、ますますレイジの身体へと密着してくる。
針の筵……と言うと聞こえが悪いが、今の心境はだいたいそれに近いかもしれない。
(……まあ、シロナさんが楽しそうだから、別にいいんだけどね)
楽しんでいる彼女を見ると、こちらもついつい顔を綻ばせてしまう。
せっかく楽しんでくれているのだ、こんな視線くらいで台無しにするのは忍びない。
だから、なるべく気にしないようにしながら歩く事にした。
「ねえ、レイジくん」
「何ですか?」
「レイジくんは、優勝する自信はある?」
「ないですよ」
間髪入れずにそう答えるレイジに、シロナはおもわず彼の顔を見上げた。
「あるわけないです、本戦まで勝ち進んだトレーナーはみんな凄く強いですから。
特に……カイリとロストさんは」
あの2人には、勝てないとすら思っている。
カイリもロストも、超一流のトレーナーだからだ。
いずれぶつかるかもしれない相手だけど……正直、当たりたいとは思っていない。
「恐いです、負けるのが。自分が信じたみんなが負ける姿を見るのが。
でも……自信なんてないけど、僕は僕自身ができる事だけを考えて戦うだけです」
というより、自分にはそれしかないのだ。
余計な作戦や戦略を考えても、かえって自分らしさを失うだけ。
だから、レイジはただ自分の心のままに現在の心境をシロナへと告げた。
「……レイジくんらしいわね」
「難しく考えたくないだけです」
「いいえ。そうやってどんな状況でも自分自身を保つ事は、当たり前のように見えてとても難しいものよ。
けれどレイジくんにはそれができる、すなわちレイジくんは凄いトレーナーだってこと」
「……シロナさんには適いませんよ」
「うぅん。今の貴方は私を負かすほどの力を持ってると思う。
それこそ――チャンピオンになれる程の力を」
「……チャンピオン」
贔屓目で見ているだけではなく、本気で言ってくれているのだろう。
けれど……やはりレイジにはとてもそうは思えなかった。
考えもつかないのだ、チャンピオンになっている自分の姿が。
ただ彼は、ポケモンを慈しみ支え合って生きてきただけ。
だから……やはり自分には分不相応な立場だ。
………。
その後、レイジとシロナは様々な場所を歩き回った。
子供っぽいシロナに苦笑を浮かべたり。
シロナに憧れる子ども達に囲まれ、互いの関係をからかわれたり。
始終レイジにとって、精神上なかなかによろしくない状態ではあったものの……楽しかった。
そして今は、人通りの少ないベンチの上で休んでいる。
「……ごめんなさいレイジくん、私のせいで慌ただしくなってしまって」
「いえ、気にしないでください。それに……結構楽しかったですし」
偽りではなく、本心からの言葉に、シロナも笑みを返す。
「やっぱり貴方は優しいのね」
「そうでしょうか?」
「ええ。そんな貴方だから私は――」
―――好きになったのよ。
優しい笑みで、レイジの顔を見ながらの告白。
「あ、えっと……」
面と向かって言われると、やはり照れてしまう。
「レイジくん、顔真っ赤よ?」
「それは……」
「ふふっ、こういう所は可愛いわね」
「…………」
ジト目で睨むが、赤い顔なのでシロナにはまったく通じずますます笑みを深めるばかり。
なので、レイジは諦めたようにため息を返した。
と。
「いたーーーっ!!!」
「えっ?」
「あら……」
反対側からとんでもないスピードで突撃してくる1人の少女。
そして、レイジの前で止まると頬を膨らませ声を荒げた。
「ちょっとレイジ、なんでシロナさんとデートしてるのよ!!
2人っきりになるなんてズルイ!!」
(どちらかと言えば、そういうのはシロナさんに言うべきじゃ……)
「シロナさんも、抜け駆けするなんてズルいですよ!!」
「ごめんなさいカグヤ、でも……早い者勝ちという言葉があるでしょ?」
「むぅー……じゃあこの後は、私とデートするよレイジ!!」
言いながら、レイジの腕を引っ張り無理矢理立たせるカグヤ。
しかし、そうはさせまいと反対側の腕を掴み引っ張るシロナ。
「ちょっとシロナさん、今まで散々レイジと一緒に居られたんですからいいじゃないですか!!」
「ダーメ、私だってレイジくんと一緒に居たいんだから、そんな事許さないわよ」
がーっ、と怒るカグヤと、どこか楽しそうに笑うシロナの間に挟まれたレイジ。
(腕が痛い……それに、耳元で騒がないでほしい)
好意を抱いてくれるのは嬉しいが、ほどほどにしてほしいと思うのは我が儘……なのだろう。
元はといえば、自分がさっさと答えを出さないのが悪いのだ。
だから2人だって、こうして甲斐甲斐しく自分にアピールしているのだから。
(ちゃんと考えるとは言ったけど……)
その答えのきっかけになるものすら、今の彼にはわかっていない。
自分の心、自分の気持ちがわからないというのは、存外に歯痒いものだと思い知った。
(僕の答えは、どこにあるんだろうか……)
一方―――カイリ達はというと。
「ジャローダ、リーフブレード!!」
「ハガネール、アイアンヘッド!!」
ミカン、そしてヒメカと共に本戦へ向けてトレーニングに励んでいた。
ジャローダのリーフブレードを、ハガネールは真っ向からアイアンヘッドで迎え撃つ。
激しくぶつかり合う両者だが。
「ハガネール!?」
ジャローダの攻撃が、ハガネールの巨体を文字通り吹き飛ばした。
(……やっぱり、カイリは強い)
2人のトレーニングを傍らで見ながら、ヒメカは唇を噛みしめる。
この一年での彼の成長度は、凄まじいまでのスピードだった。
特に、セキエイリーグに向けての僅か三週間の特訓では、それに拍車を掛けている。
また、彼の手持ちもまた凄いメンバーだ。
伝説のポケモンと呼ばれるラティアス――カノンもそうだが、なにより凄いのは彼にとって初めての手持ちとなったゴウカザル。
あの激闘の果てに手に入れた「オーバードライブ」に「ブルーフレア・バースト」の威力は、間近で見た事があるが凄まじいという表現しか浮かばないほどだった。
おそらく……彼が一番チャンピオンリーグに出場できる可能性が高いだろう。
贔屓目ではなく、本気でそう思えるほどに彼は強くなったのだから。
(……なんだか、カイリが遠く感じるようになってしまったわ……)
旅立ちの日は、あんなに頼りなくて自分が居なければまともな旅なんてできないと思っていたのに、レイジと出会い数多くの戦いを経験して……今では、あんなにも強いトレーナーになった。
それが、ヒメカにとって少しだけ寂しく感じてしまう。
あんなに近くに居たのに、いつの間にか自分よりずっと前を走って夢に向かっている。
その事実が、ヒメカにとって寂しく思えた。
「ヒメカ、どうかしたか?」
「…………」
顔を上げると、心配そうに視線を向けるカイリの顔が映った。
「……なんでもない、それより調子はいいみたいね」
「まあな。明日からいよいよ本戦なんだ……。自分のできる事はやっておかないと!!」
意気込むカイリに、ヒメカも柔らかな微笑を返す。
「お互い、頑張らないとね」
「ああ。ヒメカも明日絶対勝てよな、負けたら承知しねえぞ?」
「わかってるわよ。カイリこそ気合いが空回りしないでよ?」
わかってる、そう言いながら再びミカンの元へと戻りトレーニングに励むカイリ。
(……私も、頑張らないと)
自分とて、強いトレーナーになる為にこのセキエイ大会に出場したのだ、たとえ誰が相手であっても負けたくはない。
そう思いながら、ヒメカはボールからロールを取り出した。
「ロール、明日に向けて特訓よ!」
力強く頷き、ロールは気合を入れた。
―――いよいよ始まるセキエイ大会本戦。
しかし——それは同時に宿命の対決が迫っているという意味になる。
果たして、優勝は誰の手に渡るのか―――
To.Be.Continued...