ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
カイリは見事ケイジに勝ち、準決勝へと進む事ができた。
そして……今日はいよいよレイジとロストの試合となる……。
〈……んっ……〉
気がつくと、わたくしは外で立ち尽くしていた。
ベッドにはお父様とカイリが静かに眠っている。
いや……カイリは大いびきを掻いているから、正確には静かにという表現は間違いだ。
〈……まだ、こんな時間ですか〉
午前五時前、ようやく朝日が顔を出す時間帯だ。
だというのに、寝ぼけてボールから飛び出してしまったらしい。
恥ずかしくなり、誰も見ていないのに顔を赤くしてしまった。
〈………お父様〉
規則正しい寝息を立てながら、夢の世界に漂っているお父様。
目も覚めるような蒼く美しい髪を、無意識のうちにこの手で触れていた。
〈…………〉
今日は、いよいよロストとのバトルだ。
カイリ、カグヤ、そしてヒメカは既に準決勝へと進んでいる。
まあカイリはケイジと当たったからともかく、お父様やロストと戦わなかったカグヤとヒメカは、割とあっさり準決勝に進めたのだが。
つまり、あと準決勝に進めるのは……お父様かロスト、どちらか1人だけ。
……勝てるのだろうか、そんな不安が頭によぎる。
彼は強敵だ、特にバクフーン――レジェンドの力は桁外れだと思う。
エンジュでは、わたくしは手も足も出ずに敗れてしまった。
わたくしは強くなった、もちろん他の皆さんも。
けれど……それでも、ロストに勝てるのかと問われれば、答えを出す事はできない。
戦う前から結果などわからないのは当然だが、勝てると思うという言葉すら出てこなかった。
……恐がっていないと言ったら、嘘になる。
負けるのがではなく……お父様を勝利させられないのが、だ。
きっと負けても、お父様は「よく頑張ったね」とわたくしを労ってくれる。
しかし……わたくしは絶対に納得できないだろう。
お父様の一番のパートナーという自負がある以上、わたくしは絶対に負けられない。
これは意地だ、全てはお父様を勝利へと導くための。
――両手から光り輝く剣を取り出す。
サイコセイバー、わたくしとお父様が協力して生み出した新たな技。
この剣が、勝利を導く剣になりますようにと。
わたくしは掲げ、暫しそのまま立ち尽くしていた。
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『さあ、いよいよ準々決勝も最後の試合となりました。
はたして勝つのはレイジ選手か、それともロスト選手か!』
「……いよいよ、だね」
「ああ……」
「レイジさん、勝つ事ができるんでしょうか……?」
「わからない。ロストもかなりの強さを秘めたトレーナーだし……」
「けれど、レイジくんならきっと勝てるわよ」
背後から聞こえる声。
「シロナさん!」
振り向くと、そこには両手にアイスを持ったシロナの姿が。
「ってシロナさん……何ですかそのアイスは」
「欲しいの?」
「そういう意味じゃなくて……」
「ここに来る途中の売店で買ったの、結構美味しいからついつい買いすぎちゃった」
確かに買いすぎである、なにせ両方ともにトリプルなのだから。
なんだか緊張感が一気に薄れてしまい、カイリ達は揃ってため息をついた。
「――レイジくん、調子はどうだった?」
「朝は特にいつもと変わらなかったと思いますけど……」
「………そう」
「? 何かありました?」
「いえ……きっと気のせいね」
何故か、彼が少し焦りのようなものを抱えている風に見えたのだが……カグヤがいつも通りと言うならそうなのだろう。
「ところでシロナさん、昨日までチャンピオン席で観てたのに、今日はどうしてここに?」
「こっちの方がよく見えるから、それにあっちだとワタルが色々うるさいのよ。
実況顔負けにいちいち説明するから、反応するのも面倒だし……」
「な、なるほど……」
心底うんざりした表情を浮かべている辺り、よほど相手をするのが面倒だったのだろう。
そうこう話しているうちに、両者がフィールドまで移動する。
「始まるぜ」
「うん……」
再び、カグヤ達の周りに緊張が走る。
だというのに、相変わらずシロナは呑気にペロペロとアイスを食べていた。
しかしその瞳の色は真剣そのもの、チャンピオンとして戦いを見守る姿勢だ。
(頑張って、レイジくん……)
『両者共に、一体目のボールを取り出しました!!』
「レイジ」
「なんですか?」
「あれから、お前は強くなれたか?」
「………強く、なれたと思います」
自信はない、たとえ自分が強くなれたと思っていたとしても、結果がそれに繋がるわけではないのだから。
「お前らしいな……謙虚なものだ」
「…………」
「楽しみだ、お前とのバトルでおれはまた何かを得られるかもしれん。
そしてそれ以前に……ずっとお前と本気で戦いたいと思っていた」
「――僕もです。そして……今度こそ僕が勝ちます」
「よく言った。ならば……勝負だレイジ!!」
「――アクセル、お願い!!」
「――ルカリオ、出ろ」
「っ」
「ルカリオ……リオルの進化系」
「あのルカリオ……私のルカリオと同じくらい強いわね。よく育てられてるわ」
「えっ、シロナさんのルカリオと……!?」
つまりそれは、凄まじい力を秘めているということ。
それでは、アクセルに勝ち目は……。
(さあレイジくん……どう戦うのかしら?)
交換するか、それともこのまま戦うか……。
「アクセル、相手はルカリオだけど……このまま戦うよ!!」
〈えっ……あ、はい父上!!〉
「…………」
僅かに眉を潜めるシロナ。
「……シロナさん、どうかしましたか?」
「……なんでもないわ」
「………?」
明らかになんでもないようには見えないが、試合に集中する為にカグヤは視線を向けた。
「先攻はロスト選手から、それでは……試合開始!!」
「ルカリオ、はどうだん」
「アクセル、こっちもはどうだんだ!!」
アクセルとルカリオ、両者のはどうだんがぶつかり合い――破られたのはアクセルのはどうだん。
「かわしてインファイト!!」
「こちらもインファイトだ」
はどうだんを避け、一気に踏み込み拳の連打を叩き込むアクセル。
しかし、それは吸い付くようにルカリオの拳に止められてしまう。
「くっ……はっけい!」
「ボーンラッシュ」
はっけいを繰り出そうとした瞬間、ルカリオはボーンラッシュを展開しアクセルを殴り飛ばす。
〈がっ………!?〉
「そのまま追撃しろ」
間合いを詰めるルカリオ。
「バレットパンチで弾き飛ばして!!」
〈くっ――うぉぉっ!!〉
脚で吹き飛ばされる自分の身体を支えながら、振り下ろされるボーンラッシュを弾くアクセル。
「とびひざげり!!」
すぐさま左の脚でとびひざげりを仕掛ける―――!
が、それはルカリオの右手で受け止められ瞬時に投げ飛ばされた。
身体を回転させながら、フィールドに着地するアクセル。
『こちらもさすがと言った所でしょうか、序盤から激しい戦いを繰り広げています!!』
「くっ………」
やはり強い、こちらの攻撃を確実に止めるだけではなく、反撃すら行うとは……。
(……妙だな)
歯を食いしばるレイジとは違い、ロストは眉を潜めていた。
自分は有利な状況、それを疑っているわけではないが……アクセルに技のキレがないように見える。
予選を見てきた限りでは、レイジとアクセルのコンビネーションは見事だった、それは今も変わらないかもしれない。
だがしかし、それでも今までよりキレがなくどこか違和感を感じるのだ。
それに……レイジの様子もどこかおかしい。
この間戦った時とは違う、どこか焦りの色が見え隠れしているような……。
「アクセル、踏み込んでクロスチョップ!!」
「ルカリオ、両腕でメタルクローだ」
繰り出されるアクセルのクロスチョップ。
それを、両腕によるメタルクローで真っ向から受け止めるルカリオ。
「くそ……っ!!」
(レイジ、何を焦っている……?)
「アクセル、そのままとびひざげり!!」
「ルカリオ、受け止めろ」
鍔迫り合いになりながらのとびひざげりを、ルカリオは踏むように脚を動かしアクセルの攻撃を防ぐ。
「離れて!! その後に『テトラコンビネーション』だ!!」
「っ、レイジくんまだそれは早い―――!」
おもわず口に出すシロナ。
アクセルは一度間合いを広め、すぐさまテトラコンビネーションの為に再び踏み込んだ。
繰り出されるバレットパンチ。
それを、ルカリオは全て弾いていく。
〈っ、りゃあ―――!〉
続いてとびひざげり。
しかし、それも片腕で防がれ。
「勝負を急ぎすぎだレイジ、ルカリオ――『フォースアサルト』!!」
「何!?」
〈ぐっ……!?〉
アクセルの脚を掴み拘束した状態で放ったのは……あくのはどう。
攻撃を与えると同時に、ルカリオはアクセルの脚を離し瞬時に別の攻撃を仕掛ける。
それは――りゅうのはどう。
〈がは―――っ!?〉
受け身などできず、地面を削りながら吹き飛んでいくアクセル。
そこに、間合いを詰めたルカリオのかわらわりが炸裂———!
〈ぐ、ぁ………〉
身体は止まったものの、大きく地面にめり込みアクセルが動かなくなる。
そこへ、トドメとばかりにはどうだんが撃ち込まれた!!
「アクセル!!」
「リオル、戦闘不能!! ルカリオの勝ち!!」
『まず先に一体目を撃破したのは、ロスト選手のルカリオだ!!
流れるような連続攻撃は、もはや見事としか言いようがないぞー!!』
「そんな……レイジさんが先に負けた……」
「あのルカリオ、かなりつええ………」
「…………」
「……なんか、レイジおかしいよ」
「えっ?」
「おかしいって……何がだよカグヤ?」
「上手く説明できないけど……レイジ、どこか焦ってる……」
いつもの彼なら、もっと慎重にバトルをするはずだ。
だというのに、攻撃一辺倒になって……あんな戦い方をする彼を、カグヤは見た事がなかった。
「……カグヤも、気づいたみたいね」
「シロナさん……」
「貴女の言う通り、レイジくんはどこか焦ってる……早く有利な状況にしたくて、アクセルとのコンビネーションもどこかぎこちないものになっていたし……。
それにあんなに早い段階で『テトラコンビネーション』を使うなんて、普段の彼なら考えられないわ」
「け、けど……あいつ特に様子がおかしいわけじゃなかったし……」
そう、戦う前はいつもの彼と変わらない様子だったはずだ。
だというのに、もしカグヤとシロナの言っている事が正しいなら……一体彼はどうしたというのだろうか。
「……レイジ、ロストさんに前は手も足も出なかったから……もしかしてそれが影響してるのかな……」
「あり得るわね。前はまったく適わなかったから、今回も……。
そう思って自分を見失ってしまう事もあるわ、私もそういう時があったから……」
「そんな……」
「じゃあ、このままじゃレイジの奴……」
「――このまま自分を見失えば、間違いなく彼は負けるわ」
「っ、冗談じゃねえぞそんなの……レイジ、しっかりしやがれ!!!」
「…………」
アクセルを戻すレイジ。
……どれも彼のポケモンは強すぎる、このままではどんどんやられてしまうだけだ。
そう思い、レイジはルギアが入ったボールを手に取り……。
「マスター、何を焦っているのだそなたは」
ボールの中から響くルギアの声に、レイジは動きを止めた。
「ルギア……?」
「自分は焦っていないとでも言うつもりなのか?
余の目は誤魔化されんぞ、そなた……前にあの男に手も足も出なかったからといって、気持ちが負けているのではないのか?」
「――――」
心を見透かされたかのようなルギアの言葉に、レイジは口を閉ざす。
すると、ボールの中でルギアがため息をついたような気がした。
「迷うな、自分を信じよ。今までマスターは自分と自分のポケモン達を信じて戦ってきた、たとえそれがどんな相手であったとしてもだ。
ならば、今回も同じように戦えばよい。
余も皆も、マスターを信じておる。だから……自分を見失うな」
「…………」
「皆も同じ事を考えておる、そなたのそなたの戦いを……余も、信じているから」
暖かく、優しい信頼に満ち溢れたルギアの声。
それが、レイジの中にある焦りが少しずつ薄れていった。
「……みんな、ごめん」
「フン、マスターも人の子。故に間違いを侵すのも致し方ないとは思うが……余を従えているのなら、もう少ししっかりしてほしいものだな」
「……そうだね」
「しかし、余の言葉っ自らの過ちに気づけたのならばよし。後で余を褒めちぎるのならば許してやるぞ」
「ふふっ……ルギア、ありがとう」
構わぬ、そう告げおとなしくなるルギア。
(……レイジの雰囲気が元に戻ったか)
ようやく全力で戦えそうだ、そう思いロストの口元に笑みが浮かんだ。
『さあ、レイジ選手の二体目はどのポケモンになるのか!!』
「…………」
手に持っているルギアのボールを腰に戻す。
そして――代わりに手に取ったボールの中に入っているのは……。
「ティナ、お願い!!」
『レイジ選手、二体目のポケモンはサーナイトだ!!』
「おいおい、もうティナを出すのかよ!!」
「やっぱり、まだ焦りがあるんじゃ……」
「さあ……どうかしらね」
少なくとも、シロナには心配する必要はないと思えた。
何故なら、レイジの表情には焦りの色は見受けられないからだ。
「ティナ、か……」
「でんじほうだ!!」
「ルカリオ、ボーンラッシュで弾け」
迫るでんじほうをボーンラッシュで弾き、その勢いのままティナとの間合いを詰めるルカリオ。
「れいとうパンチ!!」
ぶつかり合うれいとうパンチとボーンラッシュ。
(互角か………!)
「かみなりパンチ!!」
「インファイト!!」
打撃音が、フィールドを包み込む。
しかし――弾き返されるティナの身体。
やはり格闘戦ではルカリオに比があるようだ。
「はどうだん!」
必殺のはどうだんがティナへと迫る―――!
それに対し、ティナはあの剣を展開した。
「ティナ、サイコセイバーだ!!」
「何!?」
驚愕の声が、ロストの口から放たれる。
――切り裂かれるはどうだん。
それと同時に、ルカリオへと迫るティナの両手には、光り輝く剣が握られていた。
「ルカリオ、ボーンラッシュ!!」
すぐさまボーンラッシュを展開し、光り輝く剣に振り下ろすルカリオだったが……。
ガラスが砕けるような音と共に、ボーンラッシュが砕かれる。
ティナの右の剣一本によって……。
〈――これで、終わりにしましょう)
左の剣で、ルカリオの身体を一閃。
その一撃でルカリオは地面へと倒れそして……。
「ルカリオ、戦闘不能!サーナイトの勝ち!!」
『なんと、見た事がないサーナイトの攻撃でルカリオがあっという間に撃破されたー!!!』
「……あれが、サイコセイバーか」
凄まじい威力に、カイリ達は言葉を失った。
(……どうやら、立ち直ったみたいね)
先程とは違う彼の様子に、シロナも笑みを浮かべた。
「もどれルカリオ。……たいしたものだ、この間とはまるで桁違いにパワーアップしたようだな」
「はい。ティナは強くなりましたよ」
「それでこそ、本気で戦う価値があるというものだ。――出ろ、ゲンガー」
ボールから飛び出し、ふわふわと怪しく浮游するゲンガー。
「………ティナ、戻ってくれ」
〈えっ?〉
ティナが首を傾げるのと、レイジが彼女をボールに戻したのはほぼ同時。
その行動に、ティナだけではなくロストも眉を潜めた。
流れを掴んできたというのに、ここでティナを戻すとは……。
「…………」
ボールを腰に戻し、別のボールを手に取る。
「――ほぅ。ようやく余を出すのか」
「うん。ここで一気に流れを掴むよ」
「良い判断だと思うぞマスター、それに……余も戦えないのは非常につまらぬ」
「……そうだね。そろそろ君の力を見せてやらないと」
「うむ! マスターの言う通りだ!!」
「………?」
違和感と、プレッシャーがあのボールから感じられた。
「ゲンガー、気をつけろ」
あのボールの中に入っている存在は、今までとはあきらかに違う。
そう感じ、ゲンガーに注意を呼びかけるロスト。
そして――レイジは天高くボールを投げ、名を呼んだ。
「――ルギア、お願い!!」
To.Be.Continued...