ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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準決勝が引き分けになってしまったレイジとカイリ。

結局、どうなるかは未定のまま夜が更けていったのだが……。


第62話 復讐鬼~冬の世界へ~

―――熱い。

 

怒りが。

憎しみが。

悲しみが、熱となって身を焦がす。

 

「は、あ……」

 

なんだ。

なんだ、これは。

なんなんだ、この――例えようのない殺意は。

この世の全てを蹂躙しても尚、収まらない程の憎しみと怒り。

それが、まるで津波のようにこの身に押し寄せる。

 

「は、ぐ、ぁ……」

 

不快、などという表現では計れない不快感。

痛くて苦しくて、脳がパンクしてしまいそうだ。

……自分は、一体何を見ているのか。

目を開いても、そこに広がるのは漆黒のみ。

全てを塗り潰す、ただの黒。

 

「は、は、ぁ……」

 

息ができない。

目を開けていられない。

なんだ、なんなんだ。

一体、誰が自分にこんな光景を見せようとしているんだ……。

 

――目を背けるな。

 

今すぐにでも逃げ出したい闇の中で。

その闇すら瞬時に消えてしまいそうな、澄んだ声が響き渡る。

 

――目を背けるな。

 

どうして?

自分はこんな闇を直視する事などできない。

こんなものを見たら、身体より先に心が死んでしまう。

 

――それがお前の使命だからだ、お前の身はこの世の全てを救う為に在るのだから。

 

声は言う。

この世の全てを救う?

……馬鹿な、そんな事できるわけがない。

自分はただの人間だ、それこそちっぽけで何もないただの人間でしかない。

そんな自分が、全てを救うなどできるわけがないじゃないか。

そもそも、全てを救うなどそれこそ神でしか……。

 

――それに等しい力を私はお前に与えたのだぞ、選定者よ。

 

……思考が凍る。

選定者、その言葉を聞いた瞬間……あらゆる思考が消え失せた。

 

――この世の全てを救う為に、そして選定の為に私はお前は生み出した。ならば……その使命を果たさずにどうするというのだ?

 

……待ってくれ。

そんな事を言われても、自分には何の事だか理解できない。

選定者って何? それにあなたは何者なの?

 

――時がくれば自ずとわかる、わからざるおえなくなる。それまでは、ただ自分の心のままに動くがよい。

 

声が遠ざかる。

待って、待ってくれ。

僕はまだ、あなたに訊きたい事が……。

 

「――レイジ!!」

「――――」

滲む視界の先に、見知った顔が心配そうな顔で自分を見つめている姿が入る。

 

「ぁ……え?」

「大丈夫か!? どこか痛いのか? 病院に連れて行った方が……」

「……カイ…リ……?」

ゆっくりと、周りを見渡す。

……選手用として設けられた、自分とカイリの部屋だ。

 

「………夢」

「お前、凄くうなされてて……おもわず跳び起きちまったぜ」

「…………」

身体中に衣服が貼りついて気持ち悪い。

まだ寒い季節だというのに、まるで真夏の中を走り回ったかのように汗だくになっていた。

 

「本当に大丈夫か? 何だったらジョーイさんを呼んで……」

「だ、大丈夫……変な夢を見ただけだから。ごめん、起こしちゃって……」

「バーカ、気にする必要なんてねえよ。

 それよか一回風呂に入って寝た方がいいぞ、顔も涙でぐちゃぐちゃだしな」

「涙………?」

 

そこでようやく、頬を伝う涙に気がついた。

……どうして、泣いているのだろう。

悲しくなどないのに、どうして……。

 

「それじゃあ俺は先に寝るから、お前も早く寝た方がいいぞ?

 もしかしたら明日はリターンマッチになるかもしれないからな」

「………うん」

ふらふらと浴室へと向かっていく。

寝巻きどころか、下着にまで被害が及んでいた。

 

(……あれは、夢?)

とてもそうは思えない、いや……絶対に夢ではないだろう。

どうしてか、そう断言できる自分がいた。

 

………。

 

昼間は活気に満ち溢れていたセキエイ高原も、夜中では静寂に包まれている。

(眠れない……)

シャワーを浴びて汗を取り、新しい寝巻きに着替えベッドに入ったのだが……どうしても眠れず、今はこうして外で散歩をしている状況だ。

そして隣には、心配してついてきたティナが空を見上げている。

 

「ごめんねティナ、疲れてるのに起こしちゃって……」

〈そんな事お気になさらないでくださいお父様、わたくしが勝手についてきただけですから。

 それに……お父様のお心がひどく乱れておりますし……〉

「…………」

さすがティナだ、すぐに見抜かれてしまった。

「でも大丈夫、また無駄に色々考え込んでるだけだからさ」

〈それなら、いいのですが――――っ〉

突然、ある方向に顔を上げ険しい表情を浮かべるティナ。

 

「……ティナ?」

どうしたというのだろうか、空を睨む彼女からは近寄りがたいオーラが滲み出ている。

〈――お父様、あの方角からとてつもなく強いサイコパワーを感じます〉

「えっ……?」

〈それだけではありません、ひどく濃い憎しみと怒りも……。

 一体何なのでしょう、そもそもこれだけの負の感情を生物が出す事ができるのでしょうか……〉

「…………」

凄まじいまでの憎しみと怒り。

それはまるで……。

 

「レイジ、こんな夜中にどうしたんだ?」

後ろから掛けられる男性の声。

振り向くと……。

「ロストさん……レジェンドも」

そこには、ロストさんとレジェンドの姿が。

 

「明日はもしかしたらカイリと再試合をするのかもしれないのだぞ?

 疲れているだろうし、早く休んだ方がいい」

「……はい。ところでロストさん達はこんな夜中に何をしているんですか?」

「特に何をしているというわけではないが……何かが、おれとレジェンドを呼んでいるような気がしてな」

「………?」

「すまない。おれもレジェンドもよくはわからないのだが……声が聞こえたんだ」

「声、ですか……?」

「ああ。……それもシロガネ山の方からな」

「シロガネ山……」

〈お父様、シロガネ山とは……?〉

 

――シロガネ山。

その山は、カントー地方とジョウト地方の丁度境目に存在する聖なる山の名だ。

一年中氷と雪に閉ざされ、許可なく入る事は許されないほどの極寒の地。

優れた一流のトレーナーのみが入る事を許され、そこに住まう野生のポケモンや厳しい環境が、更なる高みへと導いてくれる最高峰の修行場でもあるらしい。

かつてシロナさんも、シロガネ山に登って修行をしたそうだ。

しかし……当然ながらそのような場所に住んでいる人間はいない、そもそも住むのは禁止されている。

 

「ロストさん、声ってどんな声ですか……?」

「さてな……何を言っているかもわからんし、そもそも声なのか音なのかもわからない。

 だが――この声の主に会わなければならないと、自分自身が訴えているんだ」

レジェンドも同じ気持ちなのか、賛同するように頷く。

……謎の声。

そして、ティナが感じた形容できない負の塊。

両方とも、それを感じた先にあるのは……。

 

「……シロガネ山」

ただの偶然とは思えない。

その正体が何なのかは知らないし、もしかしたら気のせいでしかないのかもしれない。

でも……確かめなければならないと、この身も訴えかけていた。

「……ロストさん」

「………?」

 

「――行きましょう、シロガネ山に」

 

〈お父様!?〉

「レイジ……?」

驚いた表情を向けるティナとロストさんには構わず、言葉を続ける。

「確かめなければならないと思います、その正体を……必ず」

「だがレイジ、おれはともかくお前にはポケモンリーグがあるんだぞ?」

〈そうですよお父様、それなのにどうして……〉

「……行かなければいけないと思ったんだ、行かないと……きっと後悔すると」

〈で、ですが……〉

「身勝手な事を言ってるのはわかってる、このままシロガネ山に行けば僕は間違いなく試合放棄と見なされて失格だ。

 だけど……それでも僕は、シロガネ山に行かないと」

 

脅迫概念に近い何かが、自分を突き動かす。

そしてなにより、あの時の夢の声が言っていた言葉が……自分自身を動かしている。

 

「行きましょう、早く行かないと手遅れになる……そんな気がするんです」

「…………」

〈お父様……〉

「……おれは構わん、お前が決めた事にいちいち口出しするつもりはない」

「ロストさん……」

〈……もぅ、ルギア辺りが聞いたら怒りますよきっと〉

「なんとかなだめるよ、ありがとうティナ」

〈お父様の望みはわたくしの望みです、なら……反対する必要などありませんから〉

「五分後にもう一度ここに集合するぞ?」

「はい!」

 

善は急げ、早速自分の部屋に戻る。

もちろん周りの人達が起きないようにしながら。

……部屋に入ると、カイリは再び寝入っていた。

大いびきを掻き、寝相も悪いその姿におもわず苦笑を浮かべてしまう。

 

〈……やはり、カグヤ達には言わないのですか?〉

「これは僕のわがままでしかない、それにカイリとカグヤはポケモンリーグの為に今まで頑張ってきたんだ。

 そんなみんなを、巻き込むわけにはいかないよ」

〈でしたら、せめて置き手紙を残していった方がいいと思います。黙って行けば、間違いなく心配するでしょうから〉

「そうだね」

 

すぐさま紙に、簡潔に事の次第を書き留める。

自分はシロガネ山にある事情で行く事にした、試合放棄ということにしていいから心配しないで、と。

 

〈……間違いなく心配しますね〉

「仕方ないよ、みんな優しいから」

でも、何も言わずに行くよりはマシだと信じたい。

すぐさま私服に着替え、コートを羽織りボールを腰に装着する。

……みんなは、まだ眠っているようだ。

 

「ティナ、行こう」

〈はい〉

(……カイリ、もしリターンマッチになるとしたら、戦えなくてごめん)

寝ている彼に、心の中で謝罪をしつつ部屋を出た。

そしてすぐさま戻ると、既に準備を終えたロストさんがライコウと共に待っていた。

 

「……やはり、カグヤ達には何も言わなかったんだな」

「置き手紙はしましたから、大丈夫です」

「そういう問題ではないが……まあいい。それでは行くぞ?」

「はい。――リオン、出てきて!!」

ボールからリオンを出すと、半目の状態で大きな欠伸をした。

 

「リオン、こんな夜中に悪いんだけど、僕達を乗せてシロガネ山に行ってくれないか?」

〈それは別に構わねえけどよ、リーグ戦はどうすんだ?〉

「移動しながら話すよ、それより急いで」

〈わかった。それじゃあ乗ってくれ〉

乗りやすいように屈むリオンの背中に、ゆっくりと乗り込む。

 

〈おいティナ、お前もかよ?〉

〈何か文句でも?〉

〈……まあいいけどよ。それじゃあレイジ、行くぜ?〉

 

お願い、そう言うとリオンは早速翼を羽ばたかせ空を飛ぶ。

その下で、ロストさんはライコウの背に乗り走り出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

――シロガネ山の気候は訪れる全ての者を拒絶する。

屈強なポケモンですら生きるのに精一杯なこの地に、2人はただひたすらに山頂を目指していた。

 

(凄い、なんてものじゃない……なんなんだこの吹雪は)

 

大袈裟なくらいの厚着ですら、意味をなさないとばかりの吹雪に、心が折れそうになる。

幸いにもティナのバリアのおかげで、最悪の事態にはならないものの……ここは生き物が暮らせる世界ではなかった。

 

〈――酷い環境ですねこの山は。

 ですが……先程感じた負の塊には、確実に近づいています〉

「……うん。僕にもそれがわかるよ」

ここに来て、レイジにもティナの言っていた憎しみと怒りを感じ取る事ができていた。

そして――彼はある確信をする。

 

(やっぱり、これはさっきの……)

〈っ、お父様!!〉

「えっ……」

突然叫ぶティナの声に、レイジは顔を前に向ける。

瞬間、自分とロストに向かっていく幾つもの漆黒の球体が迫っている事に気づき。

 

「リオン、急降下をしながらかえんほうしゃ!!」

すぐさまリオンに指示を出し、その球体を迎え撃った。

レイジの指示通り、急降下をしながら球体を避け、回避できないものはかえんほうしゃで蹴散らしていく。

下でも、ロストはルカリオを繰り出しライコウと共に迫り来る球体を破壊しながら進んでいた。

 

〈これは……シャドーボール!?〉

球体の数は、減るどころかますます増えていく。

「くっ……ルギア、エアロブラストだ!!」

ボールを投げると同時に指示を出す。

ルギアも場に出た瞬間、特大のエアロブラストで球体――シャドーボールの大群をまとめて薙ぎ払った。

 

「まったく、ずいぶんと非常識な事をする輩がいるようだな。

 しかし……余に対してこのような愚行を侵すとは愚かなり!!」

「……見えた。山頂だ!」

空中でリオンをボールに戻し、落下しながらルギアに掴まるレイジ。

ティナは先に地面へと着地し、彼等の後を追った。

 

「……随分と強い者がこの先にいるようだな。マスター、努々油断するなよ?」

「わかってる。ルギアは戻ってて」

ルギアをボールに戻し、地面に着地すると同時に走り出す。

そして――山頂に辿り着いた瞬間。

 

――どくりと、鼓動が速まった。

 

「――――」

立っている。

吹き荒れる吹雪も、無意味だと言わんばかりに、そこには……一匹のポケモンが立っていた。

「……あいつは」

隣に立つロストとレジェンドの表情も、ひどく強張っている。

だがそれは、レイジとティナとて同じだ。

そして――そのポケモンはゆっくりと口を開く。

 

「貴様等……ワタシに何の用だ?」

威圧感溢れる、凄まじく低い声に身体が震える。

 

〈お父様、わたくしが感じた憎しみの主は……このポケモンです〉

「……わかってる。僕にもわかるから……」

ありえない憎悪をその身に宿したポケモンに、レイジの頬に冷や汗が伝う。

「……お前だったのか、あの声の主は」

やはり、ロストとレジェンド、そしてティナが感じ取った存在は同じだったようだ。

 

「………貴様、人間か」

「僕はレイジ、君の名前は?」

逃げ出したい衝動を必死で抑えつけながら、問いかけるレイジ。

その問いに、ポケモンはゆっくりと答えた。

 

 

「……ミュウツー、そう呼ばれていた」

と。

 

 

「ミュウ、ツー……!?」

「……聞いた事のない名だ、ポケモンなのか?」

「そんなバカな……だって、あの計画は途中で消えたはずじゃ……」

「レイジ、一体何を言っているんだ?」

「……オーキド博士から聞いた事があるんです、かつて……幻のポケモンであるミュウの細胞を利用して、完全なる兵器としてのクローンポケモンを創り出す計画があったと」

「クローン、だと!?」

「けれどその計画は事故により、初めから無かった事として処理されたと博士は言っていたのに……どうして」

 

そう、本来ならばミュウツーというポケモンはこの世に存在する事はないはずなのだ。

しかし、事実としてミュウツーは今目の前に存在している。

だからこそ、レイジは混乱していた。

 

〈お父様、今はそのような事を言っている場合ではないようですよ〉

「えっ……」

殺気が膨れ上がる。

見ると、ミュウツーが自分達に対して臨戦態勢を……。

 

「待ってくれミュウツー、僕達は君と戦う為に来た訳じゃ――」

「黙れ!!」

迫るシャドーボール。

「レジェンド、かえんほうしゃ!!」

それを、レジェンドのかえんほうしゃが相殺する。

 

「貴様………!」

「レイジ、戦うしかないようだぞ!」

「で、でも……」

「こちらに戦う意志がなくても、向こうはおれ達を殺す気だ!!」

「…………」

「人間は……この世界は、全て消し去る!!」

「っ、ティナ。サイコセイバーだ!!」

 

とにかく、今は戦うしかない。

たとえ、自分自身が望んでいないとしても……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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