ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
すぐさまそこに向かうと、そこにいたのは怒りに支配されたポケモン――ミュウツーだった。
吹雪に包まれた世界の中、憎しみを撒き散らそうと襲いかかるミュウツー。
慌てて臨戦態勢に入るレイジとロスト。
氷に閉ざされた死闘が、今始まる。
「レジェンド、ほのおのパンチ!!」
既に「もうか」が発動したレジェンドが、炎に包まれた拳を繰り出す。
しかし……それを両手をかざして薄い壁を作り出し、攻撃を防ぐミュウツー。
その側面から、ティナが踏み込み一閃。
「チッ……」
軸は外されたものの、しっかりとダメージは与えられたのか、憎々しげに舌打ちをする。
「でんげきは!!」
「かえんほうしゃ!!」
まったく同時に、攻撃を仕掛けるティナとレジェンド。
「フン―――」
それを、ミュウツーは片手で防いでしまった。
(っ、強い………!)
ティナもレジェンドも手加減などしていない、既に「もうか」を発動しているのがなによりの証拠だ。
だというのに、ミュウツーの防御力は凄まじいものだった。
「そんな程度か。無駄な時間を過ごすだけだな」
〈っ、は―――!〉
踏み込み、上段から双剣を振り下ろすティナ。
それをバリアで防ぎ、見下すように口元を歪ませるミュウツー。
「不思議な技だが、こんな程度の実力では無意味だな」
〈っ、挑発がお上手ですね!!!〉
「ぬっ……?」
バリアごとミュウツーを弾き飛ばし、再び踏み込み斬り上げる。
――凄まじい剣戟。
交差する度に両者の間からは火花が散り、激突音が吹雪の中だというのによく聞こえる程に響き渡っていた。
〈あなたは、何故そこまでの憎悪をその身に宿しているのですか!!〉
「…………」
〈あなたの心に全てを呑み込む程の闇を感じられます。あなたはこの世の全てを憎んでいる!!
何故です!? 一体何故そこまでの――〉
「黙れ!!」
怒りを込めたミュウツーの声。
それに反応するかのようにバリアが肥大化し、ティナを吹き飛ばした。
空中で一回転し、問題なく着地する。
〈……焦りが見えましたね。わたくしの言葉で揺らいだのですか?〉
「貴様………人間なんぞの下僕になっている分際で……!」
〈わたくしはお父様の下僕ではなく娘です!!
それに……わたくしのお父様を“なんぞ”扱いしないでください!!〉
右の剣による薙ぎ払い。
それを右手で受け止め、左手を彼女に突き出す。
〈同じ手には二度も通用しません!!〉
顔を左に移動させながらしゃがみ込み、至近距離から放たれたシャドーボールを回避する。
「むっ!?」
それと同時に脚払いを仕掛け、ミュウツーのバランスが崩れた瞬間右の剣を振り下ろし。
テレポートにより、逃げられてしまった。
〈ちょこまかと……面倒な相手ですね〉
しかし――やはりミュウツーの強さは自分より上だと理解する。
単純なサイコパワーでは自分より上である事はわかっていたが……よもやここまでとは。
だが、自分の後ろには的確な指示を与えてくれる彼が居るのだ。
ならば、不安に思う必要などない。
「レジェンド、オーバーヒート!!」
左横からのレジェンドによるオーバーヒート。
同じように防御するミュウツーだが……さすがに先程よりパワーがあるのか、僅かに顔をしかませる。
「おのれ……邪魔をするなっ!!」
無理矢理オーバーヒートを吹き飛ばすミュウツー。
しかしその時には、ティナが間合いを詰め必殺の一撃を……。
「愚か者が!!」
〈ぐ、あぅ………!?〉
振り下ろした体勢のまま、ティナの身体が止まり宙に浮く。
「ティナ!!」
〈くっ……なんてパワーを……〉
「くだらぬ……実にくだらぬ存在が、いきがるな!!」
勢いよく地面に叩きつけられるティナの身体。
〈が、ふ―――っ!!〉
「ティナ!!」
「レジェンド、かえんほうしゃ!!」
すぐさまティナを助けようと、かえんほうしゃを放つレジェンド。
しかし、右手でティナを拘束しながら左手でかえんほうしゃを受け止められてしまう。
「くっ………!」
〈ふっ……ふふふっ〉
「……何が可笑しい!」
〈わ、わたくしの言葉に動揺するなんて……ち、ちゃんとした感情があるじゃないですか……〉
「っ、貴様!!」
〈あぐっ!!〉
「ティナ!!」
拙い、このままでは間違いなくティナは殺される。
(こうなったら……!)
――意識を、奥底に沈ませる。
使いたくはないが、ティナの命には代えられない。
「――在るべき姿に還るんだ、ミュウツー!!」
光が、ミュウツーを包み込んでいく。
この力ならば、怒りに支配されたミュウツーも必ず……。
「小僧、貴様ワタシに何をした!!」
「っ、そんな………!?」
力が通じない。
確かにレイジから放たれた力はミュウツーを捉え、デッドポケモン達やスイクンの時のように、呪縛から解放されたはず。
それなのに……ミュウツーは苦しげな表情と声を出すものの、その身に宿す怒りは少しも消えていなかった。
(そんな馬鹿な……この力はあらゆるポケモンに通用するはずなのに、どうして………!)
〈っ、は―――!〉
だがこれでティナの拘束が緩んだのか、どうにかミュウツーの呪縛から逃れレイジの隣に。
「ティナ、大丈夫!?」
〈なんとか、と言いたい所ですが……凄まじいサイコパワーですね。わたくしでも脱出できませんでした。
――でも、どうしてお父様の力が〉
「…………」
この力は、異常な状態になったポケモンを正常に戻す力がある、デッド化の呪縛や今のミュウツーのように、怒りに我を忘れている者にも、通用するはずなのだ。
それなのに、まったくではないもののミュウツーの怒りが消えてはくれない。
それほどまでに深い怒りと憎しみなのか、それとも他に理由が……。
「……無駄な時間はこれで終わりだ。このまま死ね!!」
「っ」
ミュウツーの周りに現れる、漆黒の球体。
「シャドーボールか……!!」
(けど、あの数は尋常じゃない………!)
十や二十ではない、それこそ数え切れないほど沢山だ。
まるで、この世の終わりに降ってくる黒い禍凶星のようだ。
あれを受けるなど、できるわけがない。
〈――レジェンド!!〉
それぞれの主人を守るように、前に出るティナとレジェンド。
「ティナ!?」
「レジェンド!!」
〈任せてください、全て消してみせます!!〉
「……ティナ」
「死ねっ、人間共!!」
一斉に放たれるシャドーボール。
それに焦点を合わせ、ティナとレジェンドは身構えそして――
「薙ぎ払うんだ!!」
「レジェンド、シャイニングフレア!!!」
最強の技で、それに真っ向から向かっていった。
「ぐぁ———!」
「う、ぐ………!」
眩い光がレイジ達から視覚を奪い、衝撃が彼等を後ろの岩場まで吹き飛ばす。
「っ、ぐ……!?」
後ろの頭に響く凄まじい衝撃と痛みで、一瞬意識が遠のいた。
「ぐ、ぁ……が」
暖かい液体が、頬を伝い雪の上に落ちる。
それが血だと気づきつつも、光に包まれたティナ達の元へ。
「――――」
そして……レイジの思考は停止した。
………。
パチパチという音は、この吹雪の世界でも燃えているからだろうか。
しかし、そんな事どうでもいい。
レイジの足下で倒れているのは。
「……ティ、ナ……」
敗れ、傷だらけになったティナとレジェンドの姿が……。
「ティ、ナ……?」
彼女からの返事は返ってこない。
ピクリともせず、端から見ているとまるで……。
「――死んだか」
「――――」
つまらなげに、そう吐き捨てるミュウツー。
その身体には数多くの傷跡が見受けられるものの、ティナ達とは違い確かに立っていた。
「………死んだ?」
そんなはずない、そういう風に見えるだけで、まだ生きている。
「無駄だ。たとえ生きているとしてもワタシに殺される、貴様等と一緒にな」
「……君は、何故そこまで生きとし生ける者を憎む? 何が君をそうさせるの?」
「……気安いな小僧、貴様なんぞに教える義理があるとでも?」
「そうだね……だけど、君の瞳の中にある深い悲しみを、僕は知りたいと思ってる。
――だから、君がどうしてこんな事をしているのか、教えてほしい」
「…………」
憎しみを込めた瞳で、レイジを睨むミュウツー。
その瞳に込められた感情は、それだけで人を射殺すほどのものだ。
それでも、レイジは臆する事なく近づいていく。
〈お父、様……ダメ、です。近づいては……〉
意識を取り戻し、手を伸ばすティナだが、身体が動かせずレイジを止める事ができない。
「……どうやら殺されたいらしいな」
互いの距離は一メートルも満たない、ミュウツーは自分から近づいてきた獲物に嘲笑を送りながら、右手を翳す。
ミュウツーにとって、人間であるレイジを殺すなど造作もない。
少し力を込めれば、それこそ簡単に彼の顔など握り潰せるのだ。
「…………」
レイジは何も言わず、ミュウツーに手を差し伸べる。
「っ」
レイジの頬から、鮮血が舞った。
見ると、決して浅くない切り傷が生まれている。
「――貴様、恐怖心はないのか?」
「あるよ。今だって恐くて足が震えてる。だけど……君の心が泣いているから」
「……ワタシの、心」
「だから、君の心を見せてほしい……」
「っ、ワタシに触れるな!!」
「ぐっ!!」
吹き飛ばされるレイジ。
「レイジ!! ――ぐ、ぁ!!」
「っ、ロストさん!?」
レイジを守るため、彼と岩の間に割って入りクッションになるロスト。
骨の軋む嫌な音を響かせながらも、ロストは立ち上がる。
「レイジ、あれは……ミュウツーは、ここで完全に倒しておかなければならない存在だ。
気持ちは分かる、だが……今回ばかりは相手が悪すぎる」
「でも……」
「小うるさい人間が……これ以上ワタシの前に存在するな!!」
再び、先程と同じく数多くのシャドーボールがミュウツーの周りに現れる。
「くっ………!」
ティナとレジェンドはダウン、しかし他のポケモンではあれだけの攻撃を防ぐ事はできない。
(ここまでか………!)
しかし、そんな中――レイジ達を守るようにボールからルギアが飛び出してきた。
「たわけが!! さっさとティナを戻して余を出さぬか!!」
「ルギア……」
「それだけの力を持つ存在である貴様が、人間なんぞに力を貸すというのか………!」
「貴様なんぞにとやかく言われる筋合いはないぞミュウツーとやら、余は余の意志でマスターに従っている。
――貴様のように、頭ごなしに人間やポケモンを憎むような石頭では、一生理解できぬかもしれんがな」
「…………」
ミュウツーの殺気が増す。
「フン、このような小さき挑発に乗るとは……存外に子供よな」
「黙れ………! 貴様に何がわかる!!」
「わからぬさ。余は他者の心を読むなどという能力は持っておらぬ。
しかし――今の貴様はただ愚かしいだけだ、目の前の現実から目を背けただ悲しみを紛らわすために周りを犠牲にしようとしている。
そんなもの、余からすれば無意味で無価値なものにしか思えぬわ」
「貴様ぁぁぁっ!!」
激昂するミュウツーに、ルギアの表情が僅かに歪み冷たいものになる。
まるで、今のミュウツーを本気で憐れむように。
「誰かに愛されるというのは、素晴らしいものだぞ?
余も、最近までそれを知らなかったが……それはとても尊くかけがえのないものだ。
それが何故わからぬ?何故知ろうとしない?」
「っ、ワタシにはそんなもの必要ない!!」
「必要ないのなら、何故そんなにも感情を露わにする必要がある?
さっきまでの余裕は一体どこに行った?」
笑うルギアに、ミュウツーの怒りは加速度的に肥大していく。
「お前が何を恐れているのかは知らんが、自分自身を偽るな!!
周りを巻き込む事などするでない!!」
「黙れぇぇぇっ!!!」
一斉に撃ち出されるシャドーボール。
だが、その威力は先程のとは違い……ひどく不安定だ。
「――たわけが」
それを、エアロブラストで一掃した。
「なっ!?」
「フン、そのように揺らいだ心で余に勝てると思っているのか?
くだらぬな、余を誰だと思っているのだ?」
「な、何故だ……何故ワタシの攻撃が」
「揺らいだ心で放った攻撃など、余には通じぬ。
――ミュウツー、覚悟せい!!」
「くっ………!!」
「待って、ルギア!!」
完全に息の根を止めようとするルギアに、レイジの声が響く。
「っ、マスター、何故止める!!」
「ミュウツーを殺したらダメだ、だって彼は身勝手な人間達の欲望で生まれたんだ。
それなのに、このまま消えたりしたら……一体彼は何のために生まれてきたのかわからなくなる」
「た、たわけが!! そのような事を言っている場合か!!
こやつはマスター達を殺そうとしておる、その後は無関係な人間達も殺めようとしておるのだぞ!? だというのに、何を世迷い言のような事を言っているのだ!!」
「それでも、失っていい命なんかない。
命はこの世に代わりなんか存在しない、ミュウツーは……ここにしか居ないんだから」
言いながら、ミュウツーに近づいていくレイジ。
「マスター!!」
「っ、近づくな!!」
放たれるシャドーボール。
しかしその軌道は大きく外れ、遙か後ろの岩にぶつかった。
「恐がらないで」
「っ、近づくなと言ったはずだ!!」
その後もシャドーボールを放ち続けるミュウツーだが、その全てはレイジから外れる。
「…………」
「マスター……」
「ミュウツー、君の心を……僕に見せて」
恐がらせないように、優しい口調でそう言いながら、ミュウツーの身体に手を伸ばす。
尚も攻撃を仕掛けようとするミュウツーだが、何故か躊躇いの表情を見せたまま彼を見つめるのみ。
そして――レイジの手がミュウツーに触れた瞬間。
「―――、ぁ」
短く声を漏らし。
レイジはミュウツーに寄りかかるように倒れ。
そのまま、眠ったように意識を失った――
To.Be.Continued...