ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

68 / 98
ミュウツーを救うため、力によって彼の心を覗き込むレイジ。

だが……彼の心は、レイジの想像を絶するおぞましいものだった……。


第64話 心の試練〜ミュウツーの過去〜

「…………」

視界がぼやける。

……欠けた夢を、見ているようだ。

(これが、ミュウツーの心……?)

 

周りに映るのは、1人の男性とその娘だろうか……小さな女の子の姿。

この人達が、ミュウツーにとってかけがえのない人達なのだろう。

まるで写真のように切り取られた絵の中で、彼等は笑っていた。

とても幸せそうに、笑っていた……。

 

(……ああ、なんだ)

 

ミュウツーも、本気で人間を憎んでいるわけではなかったようだ。

だって、人間を憎んでいたら……こんな思い出を心に残しておくわけがないのだから。

 

(……フジ博士、そしてアイちゃん……)

 

知らない人の名が、頭に入ってくる。

ミュウツーの心を見る度に、彼の記憶が知識となって頭に詰め込まれる。

こちらの意志など無関係に、だからだんだんと頭が痛くなっていった。

当然だ、容器に水を入れ続ければいつかは溢れるように。

容量がある頭に、どんどん記憶と知識を詰め込んでいけば……頭がパンクする。

 

「ぁ、ぐ、は……」

 

痛い。

痛くて、泣きそうだ。

ズキズキ、などという優しい表現などではない、まるで鈍器で殴られ続けているような鈍い痛みが走る。

……意識が断裂する。

 

目を背けるな。

 

――逃げてしまいたい。

 

目を背けるな。

 

――このまま、消えてしまいたい。

 

目を背けるな。

 

内なる自分が、逃げるなと釘を刺す。

ミュウツーの心を救うまでは、逃げる事は許されない。

 

「ぐ、っ―――」

 

もっと奥へ。

ミュウツーが、どうしてこうなった原因を探らないと。

 

手を伸ばす。

手を伸ばす。

手を伸ばす。

この先へ、綺麗な思い出を抜けておぞましい記憶へと……。

 

「――――」

 

ブチッと、テレビの電源が切れるような音が耳に響いた。

瞬間、世界が暗転する。

 

「――――」

 

思考が、身体が凍りつく。

またも入ってくるミュウツーの記憶。

だけど、これ、は……。

 

「ぎっ!!?」

奇声を上げる。

「ぎ――あああぁぁぁぁぁぁっ!!!!??」

流れてくる。

ミュウツーの記憶が、それと同時に彼の激情が。

けれど、それは自分が想像したものなどとは比べものにならない程、凄まじいものだった。

 

―――殺してやる。

 

あるのは、殺意のみ。

 

―――殺してやる。

 

殺されたのだ、ある日……家族と慕っていたフジ博士とアイちゃんが。

 

―――殺してやる。

 

まるで花を摘むように、呆気なく。

 

―――殺してやる。

 

殺したのは……ミュウツーの力を自分のものにしようとした、ある組織。

 

―――殺してやる。

 

その時、彼の優しい心は砕け散った。

 

―――殺してやる!!

 

「ぐ、が、ぁ………!」

 

明確な殺意が、身体に流れ込んでくる。

信じられない、生き物とは……こうも誰かにこれほどまでの殺意を抱けるものなのか……。

身体も心も、バラバラに砕けてしまいそうだ。

許さない、その言葉がまるで自分を罪人だと告げているような気がして、死にたくなる。

否、今すぐにでもこの喉をかっ切って死んでやりたい。

耐えられない、こんな感情など人間が……生き物が抱くべきものじゃない。

ミュウツーは、こんなものをずっと心の中に抱いて生きてきたのか……。

ありえない、そんな事をすれば身体はおろか心が先に死ぬ。

 

――これが、ミュウツーを変えた記憶。

自分を兵器として創り上げたが、家族としての愛情を注いでくれたフジ博士とアイちゃんを無慈悲に奪われた怒り、憎しみが……。

 

「ぐ、ぁ、ぎぃ―――」

 

意識が保てない。

自分が、この怒りの渦の中に溶けていく。

必死に抗っても、意味をなさない。

 

――消える。

人間としての自分が、少しずつ削られていくかのように消えていく。

 

「は、あ、は―――」

 

甘く見ていたわけではない。

けれど、彼の憎しみを心の底から理解する事ができなかったのも事実だ。

その結果が、このまま消えていくというものに繋がるのか……?

 

「――ぎ、ぐぅ」

 

嫌だ、そんなものは認めない。

まだ死ねない、死ぬ事など許さない。

まだやるべき事がある、明確な夢が……希望が自分にはある。

そして……自分を待っている人がいるのだから。

こんな所では……。

絶、対、に……。

 

「ミュウ、ツー……」

 

手を伸ばした。

必死にもがいて、惨めったらしく生に執着しようとして――

 

――何かが、自分の手を優しく握ってくれた。

 

「―――、あ」

 

確かな感触。

小さな感触だから、きっと自分よりずっと小さな子供の手。

その手が、自分をこの地獄から救おうと引っ張り上げてくれた。

 

「は、ぁ………」

痛みも、身体を消そうとする激情も無くなっていく。

 

「………君、は?」

感触を頼りに、虚空に問うた。

返事はなく、けれど……暖かな感触はそのままだ。

「ミュウツーを、助けてほしいの?」

なんとなく、本当になんとなくそう言っているように思えて、おもわずそんな事を口走っていた。

 

「…………」

返事はない。

でも、それに答えるように暖かさが消えていく。

 

――そうだよ、と。

自分に対して、そう答えてくれたような気がした。

 

「……ありがとう」

既に消えてしまった存在に、感謝の言葉を。

その後、暗闇の中ゆっくりと歩を進める。

そして――ようやく見つける事ができた。

 

「――ミュウツー」

暗闇の中で、必死に泣くのを我慢している子供のようにうずくまりながら。

ミュウツーは、声に反応して顔を上げた。

しかしこれは先程のミュウツーではなく、おそらく過去の姿。

それを証拠に、身体は小さく顔にもまだあどけなさが残っている。

「……君は、何を望んでいたの?」

恐がらせないように、目線は彼に合わせ、ゆっくりと問いかける。

すると、彼は……。

 

「――お父さんに、アイちゃんに会いたい」

と、泣き出す一歩手前のような声で、答えてくれた。

 

「…………」

 

寂しかった……辛かったのだ、彼は。

博士とアイちゃん、ミュウツーにとって家族だった人達を奪われ。

捕まり、兵器としての自分になるよう強要された。

何の罪もない彼が、罪人に仕立て上げられたのだ。

傷だらけで、悲しみに包まれた心は……もう、二度と治らない。

決して逃れる事などできない過去がある限り、彼はこれからも家族だと思っていた人達を思い出しては心を傷つける。

 

――だが、それでも。

二度と治らない心でも、癒やす事だって……きっとできるはずだ。

小さな彼を抱き上げ、優しく抱きしめる。

 

「ミュウツー……君が天国に行くまで、博士とアイちゃんには会えないんだ……」

「やだ……会いたい、会いたいよ……」

「ダメだよ。君はまだ生きてる……君は自ら命を断ったら、きっと2人は悲しむよ?」

「でも………」

「君は、まだ生きてなくちゃダメだ。

 博士やアイちゃんは君に生きてほしいから、兵器としてじゃなく君を家族として受け入れた。

 だから……そんな2人の想いを、無駄にしたらダメだ」

「けど、ボクは兵器だもん……いっぱい、いっぱい殺しちゃうよ!!」

「そんな事させない。君は兵器じゃない、れっきとした今を生きている生き物だ。

 たとえ生まれが普通じゃないとしても、それが真実である事に変わりはない」

 

彼は兵器じゃない、そんな事は認めない。

たとえその為に生み出されたとしても、フジ博士やアイちゃんがそう願ったように……彼を兵器になどさせない。

 

「一人ぼっちじゃない……君は、一人ぼっちじゃないよ……」

頭を撫で、君は1人じゃないと繰り返し告げた。

「………ボクは、生きていていいの?」

「それが君のお父さんとアイちゃんの願いだ。

 自分の思う通りに……誰かに強要されるわけじゃない、自分の意志で生きていくんだ。

 ――もちろん、僕だってそう願ってるよ」

「…………」

 

ミュウツーの身体から、力が抜けていく。

それと同時に、彼の身体も消えていく……。

 

「ミュウツー……」

「―――ありがとう」

告げられた言葉は、ただ一言。

だけど、彼の心が少しだけ晴れてくれたと……信じたい。

 

「…………」

 

再び静寂が訪れる。

だけど、心は軽く穏やかだった。

意識を内側に。

紡ぐべき言葉は、既に決まっている。

右手を天に挙げ、力ある言葉を口にした。

 

「――在るべき姿に還るんだ、ミュウツー」

 

瞬間、周りの世界が明るさを取り戻していく。

どうやら、意識を現実へと帰す時が来たようだ。

漆黒から白一色になった世界で、最後に見た光景は……。

 

「……ありがとう、アイちゃん」

自分に向かって手を振っている、小さな少女の姿だった――

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「…………」

「マスター!!」

〈お父様!!〉

目を醒ますと同時に、泣きそうなティナとルギアの顔が視界に入る。

「……心配掛けてごめんね、でも大丈夫だから」

眠っている間、ずっと自分の身体を暖めてくれていたようだ、ルギアとティナの頭を撫でながら立ち上がる。

 

「レイジ……無事でなによりだ」

「心配掛けてすみませんロストさん、レジェンドもありがとう」

「―――」

「……………」

ミュウツーの方へ視線を送ると、彼からは戸惑いの色が感じ取れた。

 

「ミュウツー、君の憎しみと悲しみはわかった。

 確かに、あんな目に遭えば全てを憎んでも仕方ないかもしれない。

 でも、こんな事フジ博士もアイちゃんも――」

「黙れ!!」

ミュウツーの声が、彼の周りの雪を吹き飛ばす。

 

「…………」

「貴様に……貴様に何がわかる!! 父を……そして姉と慕っていた彼女を失い、ずっと兵器として生きてきたワタシの気持ちが、貴様なんぞにわかってたまるか!!」

「……そうだね。結局自分の苦しみをわかるのは自分自身しかいない。

 だから、僕は君の気持ちを真にわかってはやれないと思う」

「ならば消えろ! 二度とワタシの前でそのような戯れ言を――」

「でも、博士とアイちゃんの気持ちは、君の心を見て理解できた」

「――――」

「2人共、君に生きていてほしいと願ってた。

 それなのに、君は2人を愛していた心を捨てて憎しみを宿して生きる事を望むの?

 それが本当に正しい事だと、君は本気で思っているの?」

「黙れと言った!!」

「…………」

 

「ワタシは……この世の全てが憎い!! ワタシから全てを奪ったこの世界が!!」

「……ミュウツー」

「ちっ……マスターの優しさを踏みにじる愚か者が、これ以上同情の余地はないな」

殺気立つルギア。

 

「……じゃあ、一つ賭けをしないか?」

「賭け、だと……?」

「今から1対1で勝負する、僕が勝ったら……君はもう誰も殺さないと誓ってほしい」

「……では、ワタシが勝った場合は?」

「僕の命をあげる、もちろん抵抗はしない」

〈っ、お父様!?〉

「マスター、何を馬鹿な事を言っているのだ!!

 そのような事をせずとも、余がこやつを黙らせる!!」

「レイジ、お前はまだミュウツーを……」

「救いたい。だって……アイちゃんが僕に望んだ事だから」

「アイちゃん、だと!?

 こらマスター、そなた気絶している間に何をしておったのだ!!」

〈ルギア、少し黙っててください〉

「………どうする?」

「ワタシがその賭けに乗る必要はない、今ここで……お前達を殺せばいいだけだ」

 

「――マスター、もう限界だ」

 

「えっ……?」

瞬間、ルギアの翼がミュウツーを吹き飛ばした。

「ルギア!!」

「もうこれ以上マスターの優しさをこの者に向ける必要はない!!

 そんなにこの世の全てを憎むなら、余は貴様を生かしてはおけぬ!!」

「ルギア、ダメだ!!」

叫ぶが、聞く耳持たずにミュウツーへと向かっていくルギア。

 

「くっ………!」

無理矢理にも止めなくては、意識を集中させ手を突き出す。

「在るべき姿に還――――っ!!?」

しかし、力を使おうとした瞬間膝が折れ雪の中に倒れ込んでしまった。

 

「そん、な……!?」

力を使いすぎた。

もう、あの力は使えない。

 

〈お父様!!〉

「あ、く……ルギアを、止めない、と……」

〈お父様……〉

 

ティナの中で、迷いが生まれる。

レイジの指示に従うか、それとも……このままミュウツーを倒すか。

レイジの指示に背く事はティナにとって許されない事だ、しかし……これ以上ミュウツーを野放しにしていたら、彼は間違いなく殺される。

それに、ティナもルギアと同じくレイジの優しさを踏みにじったミュウツーに、怒りを抱いている。

……このまま、止めない方がいいかもしれない。

そう思い、ティナは心の中でレイジに謝罪の言葉を告げつつ、ルギアの戦いを傍観する事にした。

 

「ミュウツー、貴様の悲しみがどんなものかは余も知らぬ!!

 だが、そんなお前の心を救おうとしたマスターの想いを踏みにじった事だけは、絶対に許すわけにはいかん!!」

「黙れ!! たかたが人間がワタシの心を救おうなどと、おこがましいにも程がある!!」

「我等と人間は同等の存在だ!! たとえ我等より力が弱くとも、劣っているわけではない!!」

 

ルギアのハイドロポンプが、ミュウツーを岩に叩きつけた。

 

「貴様ぁっ!!」

「今の貴様はただ泣きじゃくる子供と大差ない、いい加減……大人にならぬか馬鹿者が!!」

「黙れぇっ!!」

シャドーボールを撃ち放つミュウツー。

それを、はかいこうせんで相殺するルギア。

爆発が起き、その余波で両者共に吹き飛ばされ岩に叩きつけられた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

連戦でさすがに疲れの色を見せ始めるミュウツー、肩で大きく息をしている。

「かぁっ!!」

「チッ―――!」

その隙を逃さず、ミュウツーの足元を凍らせようとふぶきを放つルギア。

すぐさま回避しようとするミュウツーだが――

 

「ぐっ!!?」

今まで蓄積されたダメージが身体を蝕み、回避を遅らせてしまう。

ふぶきによって、ミュウツーの足元が凍りつく。

すぐさま抜け出そうとするが、それより先にルギアの必殺の一撃が完成する方が速い―――!

 

「トドメだ。消えてしまえ!!」

「くっ………!」

ルギアのエアロブラストに、防御も回避も間に合わない。

死を覚悟しながらも、ミュウツーは最後までルギアを睨みつけ……。

「ルギア、やめて!!」

戦いの場に響く1人の少年の声が、ルギアの動きを止めていた。

 

「マスター……そなた、この期に及んでまだ」

ルギアの抗議の声には構わず、ミュウツーの元に。

「…………何故だ」

「えっ……?」

「何故、そこまでしてワタシを救おうとする? ワタシはお前を殺そうとしてるのに、何故……」

「だって、ミュウツーには生きていてほしいから」

「……たった、それだけの理由で、お前は命を懸けると……」

 

「それが僕の生き方だ、誰かに強要されたわけじゃない……自分で決めた道だから、たとえ変に思われたって、最後まで貫き通す」

 

「――――」

その、真っ直ぐな瞳は。

ミュウツーの中にある、何かを……少しだけ、薄めてくれた。

「……ミュウツー?」

顔を上げる。

そして――驚いた。

「ミュウツー……」

彼の瞳から、涙が零れていく。

少しずつ、けれど確実に。

すると、彼はぽつりと呟いた。

 

「——ワタシの負けだ」

 

涙で瞳を濡らしながら、今までにない穏やかな声で。

彼は、そう告げ己の敗北を認めていた―――

 

 

 

 

To.Be.Continued...

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。