ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
「ティナー」
「……ヒカリ、どうかしましたか?」
読んでいた本から視線を逸らし、ティナはこちらに走ってきたヒカリに顔を向けた。
「何読んでるのー?」
「お父様の本ですよ。ヒカリも読んでみますか?」
うん、と頷きティナの膝に乗り彼女が読んでいた本に目を向ける。
「…………」
「どうですか? わたくしは面白い本だと思いますけど……」
「………………難しい字がいっぱい」
唸るようにそう呟くヒカリ、今にも知恵熱が出てきそうだ。
そんな彼女に苦笑を送りつつ、本を閉じる。
「レイジもティナも、よくこんな難しい本読めるね?」
「わたくしはラルトスの時からよくお父様と本を読んでいましたから」
「そっか……そういえばレイジもよく本を読んでるもんね」
「ええ。最近は色々ゴタゴタしていましたし、せっかくの休日ですからまとめて読んでしまおうと思いまして」
そう言うティナの横には、まだ読んでいない十数冊の本が積まれている。
それを見て、ヒカリはげんなりと表情を歪ませた。
「そういえば、リオン達はどうしてますか?」
「えっと……リオンは外に散歩、アクセルは鍛練、ソウルはお昼寝、ルギアは……わかんない」
「わからない?」
「うん。「余だけで行かねばならぬ所がある」とかで、レイジにも行き先告げずに飛んでっちゃった」
「………?」
おかしい、ヒカリにならともかくレイジに何も言わずに行くなんて、彼女らしくない。
それに、なんだか前のバトルから彼女の様子がおかしかった。
……それが何か関係しているのだろうか。
「……ティナ、どうしたの?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「もぅ……ルギア、どうしたのかな?」
「大丈夫ですよ。ルギアは子供……ですけど、お父様を困らせるような事はしない……と、思います」
言ってて、だんだんと不安になってきた。
とはいえ彼女の事だ、ひょっこり帰ってくるだろう。
「ヒカリも遊びにいってきたらどうですか?
せっかくの休日なのですから、自分の時間を過ごした方がいいですよ」
「うーん……でも、レイジがいないとつまんないよ。
ねえティナ、レイジどこ行っちゃったの?」
「お父様でしたら、カグヤとシロナの2人に引っ張られて、今頃出店周りでもしてますよ」
行く前からげんなりした表情をしていたレイジを思い出し、苦笑を浮かべてしまった。
まあしかし、彼はあのような性格だから、2人に引っ張られてひぃひぃ言っているだろう。
……羨ましい、実に羨ましいものだ。
「そっか、レイジ今日はデートだもんね」
「………そう、ですね」
そうはっきりと言わないでほしい、ちょっとヘコんだぞ今。
「でもティナはよかったの? レイジがデートに行ってるんだよ?」
「…………」
またもグサッとくるような言葉を吐き出すヒカリ、ちょっとマジでやめてください。
「ティナもレイジの事大好きなのに、一緒にデートしなくてよかったの?」
「……ヒカリ、その……色々と事情というものがありまして」
こういう時、子供って残酷だなぁと思ってしまうのは、ティナの心が荒んでいるからではない、決してない。
大事なので二回言ったが、とにかくティナは極力カグヤ達の邪魔をしないと誓ったのだ。
損をしていると自分でもわかっている、でも邪魔はできない。
サーナイト故に、カグヤとシロナが如何にレイジに恋慕の情を抱いているのかがわかるし、それに……。
彼女自身は否定するものの、やはり人間とポケモンという種族の違いが、彼女にこのような行動をとらせていた。
たとえ恋い焦がれたとしても自分はサーナイト、人間である彼とは……。
人間とポケモンが結婚した事例もある、しかし……それで彼が幸せになるのかと言われれば……答えは出せない。
(言い訳ですね……こんなものは。ただ恐いだけなのに……)
彼に本気で想いを伝えて、拒絶されたくない。
そんな不安があるなら、初めから言わなければいい。
それは逃げ、傷つきたくない故に歩みを止める行為でしかない。
だが、それだけティナの中で彼の存在が大きいのもまた事実。
「もしかして、カグヤやシロナに遠慮してるの?
なら変だよティナ、どうして遠慮なんかする必要があるの?」
当たり前で、至極まともな質問。
ただ純粋に甘えを見せられるヒカリならではの言葉に、ティナは羨ましいと思った。
ラルトスやキルリアの時はよかった、ヒカリのように何も変な事を考えずに彼に甘えられた。
しかし、サーナイトになった今では……そのような行為ははばかられた。
自分の好意を一方的に押し付けるわけにはいかない、そんなものは迷惑でしかない。
悪い方へと考えてしまう癖は、いつの間にか出来上がっていた。
(………でも)
このままでいいわけではないのも確かだ、こんな状態では彼が心配する。
「……ヒカリ」
「何?」
「……少し、お父様の所に行きましょうか?」
「うん、そうだね!!」
ヒカリを頭に乗せ、椅子から立ち上がる。
……たまには、あの時のように遠慮なく甘えてしまおう。
カグヤやシロナには悪いとは思う、こんな考え方はポケモンとして間違っているのかもしれない。
だけど……自分だって、甘えたい時だってある。
だから、ティナはサイコパワーでレイジの居場所を確認すると、少しだけ早足で駆け出した。
「……あら、どこかに出掛けるの?」
そんな彼女達を呼び止める一体のポケモン。
「ジャローダ……」
「やっほー、ジャローダ」
「普通に挨拶しなさい、それより……どこかに行くの?」
「ええ。お父様の所に」
「……デート中なのに?」
「はい。カグヤやシロナだけお父様を独占するのは許しませんから」
「あ、そう……」
しれっと言い放つティナに、ジャローダは皮肉めいたため息をつく。
「ジャローダはカイリと一緒にいなくていいの?」
「……別に、あなた達と違って年中一緒に居なくても大丈夫だから」
冷たく言い放つジャローダだが、それが本心ではないという事にティナはもちろんヒカリも気がついた。
素直じゃない、そんな言葉が喉元まで出掛かったが、言うのはやめておこう。
そう言ったら、絶対に怒り出すから。
「……何よ、なにか言いたげね?」
「いいえ、別に」
「…………フン」
そっぽを向くジャローダの顔は、僅かに赤みがかっている。
それを見て、ティナとヒカリは顔を見合わせ苦笑を浮かべたのだった。
………。
セキエイ高原は、いまだ活気に満ちていた。
大会自体は終わったが、やはりチャンピオンリーグを観戦する為に残っているのだろう。
(……みんな、楽しそうですね)
少しだけ心を覗くと、そこに浮かぶのは嬉しいや楽しいといった明るい感情のみ。
平和で、穏やかな日常。
見ていて、嬉しくなるような光景に、ティナの顔には自然と笑みが浮かんだ。
「………?」
ふと一角を見ると、凄い数の人だかりができている。
首を傾げながらも、ティナとヒカリはその場所に近づいた。
「………あ」
そこには、ある意味では予想できた光景が広がっている。
(……お父様)
というか、少し考えればわかる事だった。
人だかりの中心には、質問責めに遭っているレイジ達の姿が
それはそうだ、なにせレイジはリーグ優勝者。
カグヤは準優勝、そんでもってシロナはシンオウチャンピオンだ。
この3人が仲良く腕を組んでいれば、否が応でも注目の的になる。
きっと長い間このような状況が続いていたのだろう、3人の表情はあきらかな困り顔だ。
カグヤに至っては、デートを邪魔されているからか、僅かに怒りの色が見え隠れしている。
「……離れますか」
「助けないの?」
「仕方ないですよ。お父様達は有名になってしまいましたし……たまには、こういう意地悪をしてもいいと思いませんか?」
それに、こんな状況ではレイジとゆっくり過ごす事は叶わない。
「……ティナって、結構ひどいね」
「さあ。わたくしはそう思いませんけどね」
ジト目で自分を見てくるヒカリにもそう返し、ティナはゆっくりとその場を後にする。
(さて……次はどこに行きましょうか)
「ティナ、ヒカリ」
「あ、ソウル!」
「お昼寝をしていたのではなかったのですか?」
「うん。そうだったんだけど……」
「………?」
何やら、ソウルの表情が優れない、なにかあったのだろうか。
「ねえティナ、ちょっと来てくれないかな?」
「えっ……?」
………。
「―――これは」
案内された場所は、セキエイ高原から少し離れた森の中。
けれど、周りには何故か傷ついたポケモン達の姿が。
「僕はここで寝てたんだけど……急に空からオニドリルとオニスズメの集団が襲いかかってきて……」
「……ひどい!!」
怒りを露わにするヒカリ。
「……どうしてオニドリル達があなた達を襲ったのか、わかりますか?」
詳しい事情を知るため、近くにいたコラッタ達に 問いかける。
するとコラッタ達は怯えながらも、ティナの問いに答えてくれた。
「あいつら、この辺一帯を縄張りにしようと時々やってくるんだ。
ぼく達も抵抗してるんだけど……空から襲われたら太刀打ちできないよ」
「…………」
「ねえティナ、ピカ達がやっつけちゃおうよ!」
「うん。僕もそういう連中は許せない」
「や、やめた方がいいよ、あいつら凄く強いから」
「大丈夫、ピカ達だって凄く強いもん!!」
ドンと胸を叩くヒカリ、ソウルも同意するように力強く頷く。
「待ってくださいヒカリ、ソウル、まずは話し合いで解決できないか試しましょう」
「こんな事する奴らに話し合いなんか通用しないよティナ」
「そうかもしれません、ですが極力実力行使をするのはお父様も望まない事ですから」
「……まあ、レイジならそうするだろうけど」
「まずわたくしがオニドリル達を説得してみます、ですがどうしても無理なようでしたら――」
「あっ、また来た!!」
木の枝に立っているホーホーの声に、全員が視線を空に向ける。
そこには、たくさんのオニスズメとビジョンにポッポ。
そしてそれらを引き連れているオニドリルとピジョットの姿が。
(どうやら、あのオニドリルとピジョットがそれぞれのリーダー格のようですね)
森のポケモン達は、再び現れたオニドリル達にすっかり怯えている。
その子達を守るように木に飛び乗り、大声でオニドリル達に声を掛けた。
「あなた達、どうしてこのような事をするのですか!?
この森に住むポケモン達が困っているではありませんか!!」
「なんだ貴様は?」
「わたくしはサーナイトのティナ、この森のポケモン達から話を聞きました。
何故森のポケモン達と共存する道を選ばないのですか!?」
「そうだよ。どうして無理矢理奪おうとするのさ!!」
「自分達の身勝手な理由で、誰かを傷つけるなんておかしいよ!!」
ヒカリもソウルも、オニドリル達を説得してようと声を荒げる。
しかし……そんな彼女達の言葉を聞き、オニドリル達は一斉に笑い声を上げた。
「共存だぁ? どうしてそんな事をしなくちゃいけないんだ?
弱い奴は強い奴に従ってればいいだけじゃねえか!!」
「なんですって……!」
「オレ達は強い、こいつらは弱い。
だったら、弱い奴等は強いオレ達に従えばいいんだよ!!」
「そんな……力で他者を押さえつけて、何になるというのですか!?」
「ダメだよティナ、こんな奴等に何言ったってきかないよ!!」
「……僕もそう思う。このままじゃまたみんな傷ついちゃうよ!!」
「………っ」
「邪魔するなら、無関係のお前達だって容赦しねえぞ!!」
「くっ……」
戦うしかない。
半ば予想できていた事態とはいえ、不本意だ。
けれど、関係ないポケモン達を傷つけるオニドリル達を許すわけにはいかない。
「かかれっ!!」
一斉に襲いかかってくるポッポ、ビジョン、オニスズメ達。
「ヒカリ、ソウル、威力を弱めた10まんボルト!!」
すぐさまヒカリとソウルにそう指示を出し、同時に自身も10まんボルトを放つティナ。
向かってくるビジョン達をまとめて電撃で包み込む。
「なにぃっ!?」
「どうですか? 今は威力を弱めましたが……まだやるというのでしたら次は容赦しません!!」
「ティナは甘いなぁ」
「と言いつつも、ちゃんと威力を弱めたじゃないか」
「だって……ねぇ?」
「くっ……!」
「さあ、どうするのですか!?」
「この……調子に乗るなよ!!」
「っ」
こちらに向かって、攻撃を仕掛けてくるオニドリルとピジョット。
「みんな、逃げて!!」
攻撃を仕掛ける事はできる、しかし今は周りのポケモン達を逃がすのが先だ。
オニドリルのドリルくちばし。
ピジョットのつばめがえし。
2つの技がティナ達を襲い、ポケモン達を吹き飛ばしていく。
「ぐっ………!」
予想以上のパワーだ、直撃を受けていないのにダメージを受けてしまった。
すぐさま追撃しようとするが、空中に逃げられ攻撃が届かない。
いかにサイコキネシスだとしても、五十メートル以上離されてしまっては攻撃できない。
(このままじゃ……!)
「ひゃはははっ、このままトドメだ!!」
再び攻撃しようと降下してくるオニドリルとピジョット。
(お父様なら、一体どうする……?)
考えろ、考えるのだ。
レイジならどうするのか、最良の策を探らなくては………。
「ぐおっ!?」
「うぁぁっ!?」
「えっ……?」
右横から直線に放たれる強力な炎が、オニドリルとピジョットをまとめて吹き飛ばす。
ティナ達が炎が放たれた方向へと視線を向けると。
「――ティナ、みんな、大丈夫か!?」
「リオン!!」
「ぐっ……な、なんだてめえは!!」
「うるせえよ。よく事情は知らねえけどな……俺の仲間を傷つける奴等は絶対に許さねえ!!」
「リオン、一度下に降りてわたくしを背中に乗せてください!!」
「おう!!」
「させるかよ!!」
「ヒカリはオニドリルに、ソウルはピジョットに10まんボルト!!」
リオンに狙おうとするオニドリル達に、攻撃を仕掛けるヒカリとソウル。
避けられてしまうが、その隙にティナはリオンの背中に乗り空へと飛び上がる。
「リオン、一気に勝負を決めますよ!」
「わかってらぁっ!! 指示は頼むぜ!!」
「わかりました!!」
「くそっ……まだだ!」
「っ、いい加減にしなさい!!」
「頭冷やしやがれ!!」
もう一度ドリルくちばしとつばめがえしを放つオニドリルとピジョット。
それに対し、ティナとリオンは。
「リオン、そのままフレアドライブ!!」
「うぉぉぉぉっ!!」
全身に炎を這わせ、突貫するリオン。
その炎の中で、ティナは両手にサイコセイバーを展開させる。
それを槍のように突き出し、フレアドライブのパワーを上乗せさせ。
向かってきたオニドリルとピジョットを、まとめて吹き飛ばした!!!
きりもみしながら、地面に落ちていくオニドリルとピジョット。
「へっ、ざまあみやがれってんだ!!」
「…………」
勝敗は決まり、リオンは勝ち誇ったようにそう言い放つ。
一方……ティナの表情はなんともいえないものになっていた。
………。
「――もう、このような事はやめてください」
うずくまっているオニドリル達に、ティナは静かにそう告げた。
「二度とこのような事をしないと誓えるなら、わたくし達もこれ以上の事は致しません。ですから、このまま帰ってください」
「……ティナは本当に甘いなぁ」
後ろからヒカリのそんな言葉が聞こえたが、ティナは構わずオニドリル達の答えを待つ。
「……わかった。もうこんな事はしない」
「…………本当に?」
「ああ、本当だ」
――無論、嘘だ。
こんな奴の言っている事など無視すればいい、このまま奴等が帰った後再びここを襲えば。
「わたくし、嘘は嫌いなんです」
「――――」
たった一瞬で首筋に添えられた剣を見て、オニドリル達は言葉を失う。
「一応もう一度言っておきますが……もし、またこのような事したら……今度は、怪我だけでは済みませんよ?」
冷たい瞳が、オニドリル達を射殺すような勢いで睨む。
声も重く、形容できない恐怖が否が応でも湧き上がってくる。
それはオニドリル達だけではなく、味方であるヒカリ達ですら恐怖を感じるほどに……。
「ぅ、あ――」
「ではもう一度訊きましょう。もう二度と……このような事は致しませんね?」
口調は柔らかく、いつもの彼女となんら変わりない。
けれど、その中に込められているのは……凄まじい殺気。
そんなものを見せられては、彼等にはもはや頷く以外の選択肢は選べなかった。
「わ、わかった。約束する!! もう二度とこんな事はしない!!」
「…………本当に?」
「ほ、本当だ!! もう二度と誰かを襲ったりはしない!!」
必死の懇願、もはやプライドや邪な感情など含む余裕などない。
それが通じたのか、それとも哀れに思ったのか、ティナはそっと剣を離す。
瞬間、恐怖に支配された叫び声を上げながら、オニドリル達は一斉に飛び立っていった。
「…………」
視線を皆に向けると、森のポケモン達は怯えた表情をティナに向けていた。
それを見て、ティナは一礼しその場を後にする。
「ちょ、ちょっとティナ!?」
「…………」
「ティナってば!!」
「……大丈夫ですよヒカリ、わたくしは大丈夫です」
「…………」
力なく微笑むティナに、ヒカリ達は何も言えず視線を逸らす。
(………人間もポケモンも、同じ愚かな行為に走る存在なのですか?)
このような光景を見る度に、ティナの心は傷ついていく。
仕方ないと言えばそれまで、けれど……仕方ないという言葉では決して済まされない。
「……いちいち気にしてたら、お前の心が保たないぞ?」
「リオン……」
ティナの肩に手を置くリオン。
「気にすんなとは言えねえ、けどな……気にしすぎても、どうしようもねえんだ。
お前は正しい事をした、もうあいつらもあんな事はしねえよ」
「………そう、ですね」
確かに彼の言う通り、気にした所でどうしようもない。
(でも……)
一体、どちらが正しいのか、答えは出なかった。
――人間とポケモン。
この種族達は、果たして本当にこのまま生きていていい存在なのか……。
(……忘れましょう)
浮かび上がった考えを振り払い、少しだけ歩くスピードを速める。
……この答えは、きっと一生出ないだろう。
人間とポケモンが存在する限り、きっと……。
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