ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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トキワシティを後にして、トキワの森へと向かったレイジとカグヤ。
さて、今回の物語は………。


第4話 〜トキワの森、レイジの優しさ〜

「あはは……」

「…………」

「えっと……」

「…………」

「その……」

「…………」

「……ごめんなさい」

地面についてしまうんじゃないかと思えるほど、頭を下げるカグヤ。

 

「はぁ……まあ、予想していたし」

「うっ……」

「こんな事、今まで一度や二度じゃなかったし」

「ううっ……!」

悪気のない毒舌を受け、カグヤは胸に手を置いてうなり声を上げる。

 

――ここはトキワの森、トキワシティとニビシティの間にある森である

バッジを手に入れるために、2人はニビシティへと向けて旅をしているのだが……。

 

「早く通り抜けたいのはわかるけど、だからって一直線に走るのはおかしくない?」

なんてことはない、いつものようにカグヤが勝手に道を決めて進んだ結果、迷っただけである。

彼女に悪気がないのはレイジとてわかっている、しかしそれとこれとは話が別だ。

「あぅ……」

すっかり落ち込んでしまったカグヤだったが、自業自得なのでフォローは入れない。

ため息をつきつつ、レイジはモンスターボールを取り出し上に投げた。

ボールが開き、中から出てきたのは……。

 

「ティナ、悪いけどお願いできる?」

〈うん〉

「? ティナを出してどうするの?」

「ティナのサイコパワーで出口を探す」

「えっ、そんな事できるの?」

驚きの表情を向けると、心外だと言わんばかりの態度でティナはテレパシーを送った。

 

〈前にカグヤがパパを連れて迷子になった時も、ティナが道を探したのに……〉

「えっ……そ、そんな事あったっけ?」

「……君が9歳の時、冒険をしようって無理矢理誘って迷子になった時だよ。おまけに君は泣き疲れて眠っちゃうし」

「あ、あはは……」

ジト目で睨むレイジとティナから視線を逸らし、誤魔化すように笑った。

 

「……まあ、今に始まった事じゃないからいいけど」

〈パパ甘い、これじゃあカグヤがまたつけあがるよ?〉

「ちょっとティナ、それどういう意味よ」

〈そのままの意味〉

「なんですって!!」

「喧嘩しないの。それより早くこの森から出ないと野宿する羽目になっちゃうけど、君達はそれでもいいの?」

僕は別にそれでもいいけどね、そう言葉を付け加えるとカグヤもティナもおとなしくなった。

そんなティナを抱きかかえて、再び歩を進める。

 

「ティナ、どこに進めばいい?」

〈うん、えっと――〉

サイコパワーを展開し、正しい道を導き出そうとするティナだったが。

突如、耳をつんざくような音が森に響き、前方の空に黄色の雷が現れた。

 

「えっ……!?」

「……………」

まだ耳が痛むほどの凄まじい轟音。

空は快晴、すなわち自然のものではない。

瞬間、レイジは雷が現れた場所へと走り出した。

「ちょ、レイジ!?」

驚いたようなカグヤの声には反応せず、ティナを頭に置いて更に走るスピードを速める。

 

――やがて、いくつもの羽音が聞こえてきた

 

聞き覚えのある音を頼りに、現場へと赴くと。

「っ」

たくさんの羽音の正体、それは都合十数匹ものスピアーだった。

そして、その中央に存在するポケモン。

 

〈ピカチュウ………!〉

でんきねずみポケモンであるピカチュウが、スピアーの大群に囲まれていた。

だがしかし、両者共になんだか様子がおかしい。

スピアー達は誰が見てもわかるほど怒りに満ち溢れているし、ピカチュウは苦しそうに息を吐いている。

 

「レ、レイジ早い……ってスピアーがいっぱいいる!!? しかもピカチュウまで!?」

場に響くカグヤの声。

それを聞き、一斉にスピアー達の視線がレイジ達へと向けられた。

「あっ……」

もしかしなくても、また私余計な事しちゃった?

そんな視線をレイジに向けるカグヤだが、返ってきた視線は冷たいものだった。

だが――すぐさまレイジはカグヤの手を掴みスピアー達の元へと自ら突っ込んでいく。

 

「ちょ、ちょっとレイジ!?」

「ティナ、かなしばり!!」

〈うん!!〉

レイジがティナに命令を下した瞬間、スピアー達の動きが止まる。

ティナのかなしばりによって動きを止めているのだ、しかし。

 

〈パパ……もうダメ……〉

さすがにこれだけの数を全て止めるのは無茶な行為なのか、ティナの表情が苦しげなものに変わっていく。

程なくして、スピアー達が再び動き出す。

しかし、動き出す前にレイジはピカチュウを抱きかかえその場から逃げ出した。

「い、一体何がどうなってるの!!?」

「わからない。でも今は逃げるのが先だ!!」

後ろを見れば、完全に自分達を敵と認識したスピアー達が追いかけてきている。

 

「追ってくるー!!」

「くっ……」

「エネコ、スピード――」

「カグヤ、攻撃はしないで!!」

「ええっ!? でも追いかけられてるし……」

「スピアー達が悪いわけじゃない、もちろんこのピカチュウだって悪いとは思えない。

 だから今は逃げる事だけに専念して!!!」

「そ、そんなぁ……」

 

ムチャクチャ過ぎて反論できない。

というより、そんな余裕など今のカグヤには存在していなかった。

なにせ引っ張られて走っているのだが、あまりに速くて半分足が宙に浮いた状態になっているのだ。

これでは転ばないようにするだけでも精一杯である。

 

〈パパ、追いつかれちゃう!!〉

すぐ後ろにまで迫るスピアー達に、ティナが声を荒げた。

「っ、カグヤ、しっかり掴まってて!!」

「へ? ……ひゃあぁぁぁっ!!?」

ふわりと自分の身体が宙に浮いたと思った瞬間、カグヤはレイジによって抱きかかえられていた。

俗にいうお姫様だっこというやつで、ちなみにピカチュウは彼女のお腹の上に移動されている。

周りの木々に飛び移りながら、既に人間の身体能力を超えた動きでスピアー達を撹乱していくレイジ。

さすが幼少期はポケモンと暮らしていただけの事はある、素晴らしいというか凄まじい。

 

(というか……)

間近にレイジの真剣な表情があり、ちょっと落ち着かない。

普段の無表情ではなく、必死になっている男らしい顔。

……こんな時だというのに、頬を赤くしてしまった。

(……しばらく、このままでもいいかな?)

そんな邪な考えが頭によぎり、カグヤはまた赤くなった顔を隠すように、レイジの胸に顔を埋めて誤魔化した。

 

………。

 

走って走って走り続けたレイジ。

巨大な木の幹でできた大穴を見つけ、そこに隠れどうにかスピアー達から逃れる事ができた。

「ふぅ……」

すぐさまカグヤを地面から降ろし、彼女が抱いているピカチュウを抱きかかえる。

逃げる事はできたが、まだやるべき事は残っている。

先程から様子のおかしいピカチュウ、このポケモンの容態を確認しなければ。

 

「……ピ、カ……」

苦しそうに息を吐き、呼吸も落ち着きのないものだ。

それに、小さな右足が赤く染まっている。

(やっぱり怪我をしていたのか……)

深い傷ではないが、浅いわけでもない。

だが、これはスピアーによって付けられた傷ではないようだ。

……とにかく、今は誰に傷つけられたかを考えている場合じゃない。

モンスターボールを手に取り、リオンを外に出す。

 

「リオン、ティナ。赤い色をしたきのみと青色の葉っぱを持ってきて、両方とも近くの木々に生えてるはずだから」

〈うん〉

リオンもわかったと一声鳴き、穴から出ていく。

「レイジ、一体何をしようとしてるの?」

「ピカチュウの薬を作る材料を持ってきてもらおうとしてるんだ」

「え、でもキズぐすりがあるのに……」

自分達のバッグの中には、オーキド博士から貰い受けたキズぐすりが入っている。

それでピカチュウの怪我を治せばいいのではないのか、カグヤはそう思って口を開いたのだが、レイジはそんな彼女の言葉に首を横に振った。

 

「もちろんそれも悪くはないけど、できるだけ自然のものを使った薬で治してやりたい。

 ましてやこの子は野生のポケモンなんだ、人間の作った薬なんかを与えるわけにはいかない」

「そ、そっか……ごめん」

「別に謝る必要なんかないよ。ありがとうカグヤ」

「えへへ……」

感謝され、照れくさそうに笑いリボンを弄るカグヤ。

〈パパ、持ってきたよ〉

ちょうどその時、ティナ達が言われた通りのものを持って帰ってきた。

 

「ありがとう。カグヤ、僕のバッグから調合用の道具とポロックケースを持ってきて」

「う、うん!!」

レイジの大きなバッグに手を突っ込み、言われた通りの道具を彼に渡す。

 

――その後の彼は、カグヤにとって見慣れない姿だった

きのみと葉を細かくすり潰し、持っていたおいしい水でペースト状にしていく。

おそらく塗り薬を作っているのだろう、それにしても手慣れている。

 

「……こんな事、いつ覚えたの?」

「僕がまだおじさんとおばさんに保護される前に、物知りなヨルノズクが教えてくれたんだ。

 尤もいくつかのポケモンに有効な薬を作れるくらいで、全て対象できるわけではないけどね」

(いや、充分すごいと思うよそれ……)

おそらく、このような薬を作れる人間など世界中探しても数える程度しかいないだろう。

ポケモンと共に生きてきたからこその知識に、ただただ舌を巻くばかり。

 

「できた……」

藍色の薬を見ながら、レイジはそう呟く。

「………ピカ」

その時、苦しそうに鳴きながら先程まで意識がなかったピカチュウが目を開けた。

「……大丈夫だよ。すぐに治してあげるから」

安心させるように笑顔を見せるレイジ。

「ピカァァ………!」

ピカチュウはレイジ達の姿を見るなり嫌悪感を露わにした鳴き声を発しながら暴れ始める。

しかし思うように身体が動かせないのか、その動きはあまりに弱々しい。

 

「待ってピカチュウ、僕達は君を傷つけたりなんかしない。

 ただ君を助けようとしているだけだ」

必死に言葉を投げ掛けるが、聞く耳など持たないかのようにレイジ達を睨むピカチュウ。

否、正確にはレイジとカグヤだけを睨んでいた。

(この子……)

〈おとなしくして。パパがあなたを助けてくれたんだよ?〉

ティナもピカチュウをおとなしくさせようと説得を試みるが、結果は変わらない。

 

「お願いだ。別に僕達を信用しなくてもいい、でもおとなしく治療を――――っ!!」

「ピ、カァ………!」

右腕に走る痛み。

ピカチュウがレイジの右腕におもいっきり噛みついたのだ。

「レイジ!!」

〈よくも………!〉

ティナとリオンが今にも飛びかかろうと身構えるが。

 

「ティナ、リオン。やめて」

他ならぬレイジに止められ、動きを止める。

 

〈でも、パパ……〉

ご主人を傷つける奴は許さない、リオンもピカチュウを睨みながらレイジに告げる。

「それでもダメ。ピカチュウだって恐がってるんだから」

痛む右腕に少し顔をしかめながらも、ティナ達を落ち着かせるレイジ。

そう言われてしまうと何も言えず、ティナもリオンもすごすごと引き下がった。

 

「とりあえず今日はここで野宿するしかないね」

もうすぐ夕方となり、日が沈み夜が訪れる。

正規の道から随分外れてしまったようだし、このまま夜になって先程のスピアー達に追いかけられるのは御免だ。

「カグヤ、悪いけどティナ達の食事はお願い」

「それはもちろん構わないけど……レイジは?」

「僕はピカチュウの治療に専念しないといけないから」

言いながら、未だに右腕に噛みついているピカチュウの頭をそっと撫でる。

 

「チュウ……ピカ、チュウーーーッ!!!」

「ぐっ………!」

バリバリとレイジの身体に駆け巡っていく電撃。

しかしやはり弱っているせいか、その威力はたいした事はなくすぐに収まった。

〈パパ………!〉

「大丈夫だから、ティナ達は向こうでカグヤと一緒にごはんを食べてて。

 ピカチュウも周りに居られたら余計に休めないと思うから」

これは命令だよ、少し強引なレイジの言葉に、ティナとリオンは渋々ながらに従い彼から離れる。

 

「……それじゃあカグヤ、後はお願い」

「う、うん……わかった」

彼女も完全に納得したわけではないが、彼が一度こう言い出したらきかないとわかっているので、おとなしく彼とピカチュウの元から離れる事にした。

 

………。

 

木の内部はかなり広く、まるでちょっとした小部屋がいくつも存在しているかのように入り組んでいる。

レイジから離れ、カグヤ達は彼を抜きにした夕食にしたのだが。

(………味気ない)

味付けを間違えたわけじゃない、自分が作った食事は今日もなかなかに美味しい。

けれど、彼がいないとあまり美味しいと感じられなかった。

ポケモン達もそうなのか、いつもは食欲旺盛なエネコもポケモンフーズを残している。

そんな時、リオンが呟くような声で口を開いた。

 

「ティナ、リオンは何だって?」

自分にはレイジのような能力はないので、テレパシーを使えるティナに翻訳してもらう事に。

〈……パパの事、心配してる。あのピカチュウと一緒にさせて大丈夫なのかって〉

「…………」

大丈夫に決まってる、そんな言葉が喉元まで上がってきたが、結局口にする事はできなかった。

 

――あのピカチュウは人間を嫌っている

 

どうして、とか、何故、という疑問はもちろん浮かぶが、そんなピカチュウと2人――1人と一匹だけにさせてよかったのかと思ってしまう。

もちろんレイジなら大丈夫と信じている、彼にはポケモンと会話できる能力があるし、それを抜きにしてもポケモンに対する気遣いや愛情などは限りなく深い。

「……ちょっと見てくるね。みんなはここで待ってて」

それでも、心配なものは心配だった。

立ち上がり、彼の元へと少し急ぎ足で向かう。

 

「レイジ」

「……静かにして。今ちょうど寝た所だから」

「あっ、ごめん……」

口を押さえ、そそくさと彼の隣へ。

言った通りピカチュウは安らいだ寝顔を見せ、心地良さそうに眠っている。

 

「治療は終わり?」

「うん。後は一晩見張って何もなければ完治するよ」

疲れたのか、いつもの無表情さの中にも元気は見当たらない。

それにまた噛まれたのか、身体のあちこちに痕が残っている。

「………ごめん、ね」

その姿に、いたたまれなくなってついそんな事を口にしていた。

 

「どうしてカグヤが謝るの?」

「だって、レイジがこんなにもポケモンの為に頑張ってるのに……私は何もできないから。

 私だってレイジと同じくらいポケモンが好きで大事なのに、それなのに何もできない自分が恥ずかしくて、悔しいの」

知識がない、そう言ってしまえばそれまでかもしれない。

だがそれでも、苦しんでいるポケモンがいるのに何もできない。それが悔しい。

それに、なにより彼の――レイジの力になれない事が、一番悔しかった。

 

「……別に、カグヤが気にする事じゃない。それに、何もできないって言ったけど、それは違う」

「えっ……?」

「人には何かしらできる事がある、それが何なのかはわからないけど……きっとカグヤにもカグヤにしかできない事がある。

 だから、自分には何もできないなんて思わない方がいい」

本当に何もできなくなるから、そう言って眠っているピカチュウの頭を優しく撫でるレイジ。

その顔は優しく、目が離せなくなった。

 

「………そっか」

「そうだよ。それにそうやって悩んだりするのはカグヤらしくないし」

「何よそれー、それじゃあまるで私がいつも何も考えてないみたいじゃない」

「違うの?」

「当たり前でしょ。まったくもぅ……」

頬を膨らませるカグヤだが、すぐさま表情は笑顔に変わり……レイジの肩に頭を乗せた。

 

「……ありがと」

「別に」

素っ気ない言葉も、嫌じゃない。

本当は抱きつきたいけど、ピカチュウが起きてしまうかもしれないから我慢する。

「……そろそろ寝た方がいいよ。明日も早いんだから」

「ぅ、ん……」

だんだんと瞳の焦点が合わなくなっていく。

まだ夜になったばかりなのだが、予想以上に自分の身体は疲れているようだ。

 

「ほらカグヤ、寝袋を使わないと」

「………いい」

「は?」

「レイジの隣で寝るから……いい」

そう呟き、レイジに身体を預けるカグヤ。

抗議の声を返そうとしたが、その前に小さな寝息が聞こえてきた。

 

「………はぁ」

相変わらず、ため息をつかずにはいられない事ばかりしてくるようだ、この少女は。

まあしかし、不快とは思っていない辺り、自分も大概なので強く言えるはずもないのだが。

自分の膝にはピカチュウ、そして肩から全体にかけてはカグヤ。

両者の安らかな寝息を耳にしつつ、レイジは暫し瞳を閉じ1人と一匹の温もりを感じていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……ん、ぅ……」

少し肌寒さを感じながら、カグヤは目を醒ました。

「おはよう、よく眠れた?」

「はれ……?」

すぐ隣から聞こえるのはレイジの声。

はて、どうして自分はこんな体勢で寝ているのだろうか……。

 

「………あっ」

思い出し、恐る恐るレイジの方へ視線を向けると。

「カグヤ、みんなを起こしてきて」

彼はいつも変わらぬ無表情で、いつも通り自分の名前を口にした。

(………あれ?)

「どうしたの?」

てっきり嫌味の一つや二つや三つや四つ辺りが飛んでくると思ったのに……彼は怒った様子も呆れたわけでもなかった。

「あ、うぅん……それじゃあみんなを起こしてくるね」

少し釈然としないながらも、気にせず彼から離れティナ達の元へと向かった。

 

――そうして、彼女がこの場からいなくなった後

 

「………はぁぁ〜」

安堵したような、疲れたようなため息をおもいっきり吐き出した。

(やっぱり一晩中くっつかれたままなのは困った……)

彼女の顔が間近で見えるというのは、あまり良いものではない。

自分とて男だ、なのでああいう事をされては自然と緊張してしまうのも仕方ないだろう。

(……もう少し考えてほしいんだけど……)

そう思いつつ、ピカチュウを起こさないように立ち上がる。

 

「っ……」

看病の為とはいえ一睡もしていないからか、足がふらつき視界がぼやける。

頭を振ってぼやけた視界を元に戻してから、レイジは皆の所へと向かったのだった。

 

――そして、レイジ達が朝食を食べ終えた頃。

 

「あっ……」

ピカチュウが目を醒まし、レイジと視線が合わさった。

「おはようピカチュウ、まだどこか痛い所はある?」

ふるふると首を横に振るピカチュウに、ほっとしたように息を吐く。

どうやら治療は成功したようだ、怪我も治ったし体力も元に戻っている。

 

「それじゃあ――もう森にお帰り」

「ピカ……!?」

「ええっ!?」

ピカチュウとカグヤの驚いたような声が重なる。

「どうして驚くの?」

「だ、だって……ゲットしないの?」

ピカチュウもカグヤと同じ疑問を抱いたのか、こくこくと彼女の問いかけに同意するように頷いている。

 

「別にそんなつもりなんか初めからなかったよ。

 ピカチュウさえ元気になってくれれば充分だし、それに……ピカチュウは人間が嫌いでしょ? そんなこの子をゲットするなんて、可哀想だよ」

「それは、そうかもしれないけど……」

 

では彼は、無償でピカチュウを救うつもりだったというのか。

ただ助けたいが故に、傷ついたりしたというのか。

……彼ならば充分にありえるかもしれない。

ポケモンに対してだと彼は人が変わる。

いつもは面倒事に関わろうとしないのに、ポケモンが関係していると自ら首を突っ込んでいく。

また――彼の危うい面が表に出てしまったようだ。

 

「さあ、そろそろ出発しないとまたこの森で野宿をする羽目になるよ。ティナ、道案内は宜しくね」

バッグを持ち、ティナを抱き上げる。

「カグヤ、どうしたの?」

「う、うぅん……なんでもない」

まだ言い足りない事があったが、やめておいた。

彼が決めた事だ、いちいち自分が口出しする権利などない。

そう思い、カグヤもリュックを背負いエネコを肩に乗せ、外に出ようとした時だった。

「ピカ!! ピカピ、ピカチュウ!!」

必死に自分達を呼び止めようとするピカチュウの声が聞こえ、そちらに振り向く。

 

「……ピカチュウ?」

一体どうしたというのか、ピカチュウは必死に何かを伝えようとしているようだが……。

その言葉を理解したレイジは、おもわず目を見開いた。

「えっ……今なんて?」

「レイジ、ピカチュウは何て言ってるの?」

〈……自分も一緒に連れていってって言ってる〉

「えっ……」

ティナが伝えてくれたピカチュウの言葉は、カグヤにとっても驚きの内容だった。

初めはあれだけ自分達に敵対心を抱いていたのに、一体この一晩で何がピカチュウの心を変えたのか。

 

「……でもピカチュウ、僕達は否が応でも人間達が住む所に行かなければいけない時もある。

 そうしたら、君はまた嫌な思いをしてしまうよ?」

「ピカ、ピカチュウ。ピーカ、チュウ!!」

「……今度はなんて言ってるの?」

〈それでもいい。あなたに恩返しがしたい。傷つけてしまったあなたの、助けになりたい〉

「……ピカチュウ」

その申し出は、正直嬉しかった。

全てではないけれど、自分に心を開いてくれたのだ、嬉しくないわけがない。

しかしそれでも、ピカチュウの事を考えると承諾は……。

 

「レイジ、ピカチュウの気持ちを考えてあげなよ」

「えっ……?」

「ピカチュウは他ならないレイジと一緒に居たいって言ってるの。

 もちろんレイジの考えている事だってわかる、でもね……私がピカチュウだったら、そんな事は関係なしにレイジについていきたいって思うよ」

だからこそ、人間嫌いであるはずのピカチュウがそんな事を言っているのだ。

カグヤの言葉に、まだ少し迷いを見せるレイジ。

 

「チュウ……」

そんな彼に、ピカチュウは足に擦り寄ってきた。

大丈夫だから、そんな気持ちを彼に伝えるかのように。

「…………」

「ほらレイジ、ピカチュウの気持ちを汲み取ってあげなくちゃ」

その言葉で、ようやくレイジの心が折れた。

腰から空のモンスターボールを取り出し、ピカチュウに向ける。

するとピカチュウは鼻でボールの開閉スイッチを押し、自らボールの中に入ってしまった。

 

「ピ、ピカチュウ……」

「あははっ、よっぽどレイジが気に入ったみたいね」

「あはは……」

なんともいえない表情を浮かべながら、レイジはカグヤと一緒に外へと出る。

朝の日差しが木々の隙間から差し込み、おもわず手で瞳を覆った。

 

――その時、遠くからいくつもの羽音が聞こえてくる。

確認しなくてもわかる、この音は……。

 

〈パパ………!〉

「わかってる」

短くそう返し、スピアー達が来るのを待つ。

「って、逃げないの!?」

「説得はしてみる。もしそれでもダメなら……悪いけど、強硬手段に出るしかない」

そんなやりとりをしていると、スピアー達はあっという間にレイジ達を囲むように展開した。

虫ポケモンが苦手なカグヤは表情に不安の色を滲ませながら、レイジに抱きつくように寄り添う。

 

「スピアー、僕達は君達に何かしようだなんて思ってない。

 だから怒りを鎮めて巣に帰ってくれないか?」

精一杯の誠意を込めて、スピアー達を説得しようとするレイジ。

だが、そんな彼の言葉など聞く耳持たずとばかりにスピアー達は殺気立っていく。

「というか、何でスピアー達はこんなに怒ってるの!?」

「怪我をしたピカチュウが間違えてスピアー達の巣に入っちゃったんだ。

 ピカチュウも慌てて説明したんだけど、聞いてはくれなかったって」

「何よそれ。ピカチュウが悪気があったわけじゃないのに、頭が硬いスピアー達ね!!」

「仕方ないよ。スピアー達にとってはたまったものじゃないんだから。

 でも……僕の仲間、いや……家族を傷つけようとするなら、逃げるわけにはいかない」

瞬間、ボールの一つが勝手に開いた。

 

「ピカチュウ……」

「ピカ……」

バチバチと電気袋から放電しながら、既に臨戦態勢に入っているピカチュウ。

「……ごめんねピカチュウ、当てないように10万ボルト!!」

「ピーカチュウゥゥゥッ!!!」

命令を聞き、凄まじい電撃が辺りに放出される。

もちろんレイジに言われた通り、スピアー達には当てないようにしながら。

しかし、この牽制は効果があったようで、スピアー達の間に動揺が生まれていた。

 

「次は当てる。痛い目に遭いたくなければこのまま帰ってくれ!!」

「ピカ!!!」

レイジの言葉は本気だとわからせるように、スピアー達を睨むピカチュウ。

……やがて、スピアー達はすごすごとその場から少しずつ立ち去っていった。

(………ごめんね)

自分の身勝手な願いを聞き入れてくれたスピアー達に対して、レイジは謝罪の言葉を心の中で口にした。

 

「――さあ、行こう」

再び静かになってから、気分を切り替えようとレイジは声を出し、歩き始める。

「ピカ!!」

「っと……」

すると、突然ピカチュウが自分の身体によじ登り頭に乗っかってきた。

〈あっ、そこはティナの場所だよ!〉

抱きかかえられているティナが抗議の声を上げるが、それを無視しピカチュウはレイジの頭に頬擦りを繰り返す。

〈む〜、パパから離れてよぉ!!〉

「ちょ、ちょっとティナ、暴れないで」

「あはは。モテモテだねレイジ」

「……見てないで助けてよ」

と、いきなり歩を止めるレイジ。

 

「どうしたの?」

「……忘れてた。君の名前を付けてあげないとね」

「ピカ?」

「そうだな……君は女の子だし、ヒカリ……っていうのはどうかな?」

「……ピカ!!」

どうやら気に入ってくれたようで、満面の笑みを見せてくれるピカチュウ改めヒカリ。

「いいなー。よーし、私もレイジに負けないようにポケモンゲット、頑張るぞー!!」

「フニャーッ!!」

高らかに宣言するカグヤとエネコに、レイジ達は揃って苦笑を浮かべる。

 

――こうして、ピカチュウという新しい仲間を手に入れたレイジ

次はニビシティでジムリーダーとのバトル。

 

(勝てればいいけどね……)

隣で楽しそうに笑みを浮かべているカグヤを見ながら、そっと彼女が勝てるようにエールを送ったのだった。

 

 

 

 

To.Be.Continued...




※キャラクター1【レイジ】の項目を更新しました。
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