ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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セキエイ高原で暴れ尽くしたレックウザだったが、レイジの力によりどうにか正気に戻り空へと帰っていった。

しかしレイジは傷つき、病院へと運ばれる事になる……。


第76話 レイジの決意〜新たなる土地へ〜

セキエイ高原にある病院では、皆忙しそうに走り回っていた。

レックウザの登場により、多大な被害を受けた事による怪我人が一斉に運び込まれてきたからだ。

まさしく大災害と呼べる程の被害であったが、それでも死者が出なかったのは、レイジ達の迅速な救助活動の賜物である。

そのレイジ達はというと……とある病室に集まっていた。

 

「……あのさ。僕は怪我したの両手だけなんだから、こうやってベッドに入る必要はないんじゃないかなぁ?」

病院服に身を包み、動かない両手に視線を送りながら、レイジはやんわりと意見をしてみるが。

 

『ダメです!!』

仁王立ちしたカグヤ、シロナ、そしてティナによって却下される。

 

ちなみに、彼女達は揃ってご機嫌斜めである。

何故か? それはもちろんレイジがあれだけの怪我を負いながらも、あまり気にした様子もないから。

両手は焼けただれ、感覚が無くなってしまった程だというのに、レイジときたら「大丈夫」と軽々しい口調で言うものだから、3人はそりゃあもう怒った。

 

「で、でもさ……僕より酷い怪我の人もいるし」

「レイジだって充分重傷だよ!!」

「うっ……」

「そうよ。もっと自分を大事にしなさい!!」

「ううっ……」

〈お父様は御自分を軽く考えすぎです!!〉

「……わかった。わかったから」

 

こうまで言われては、もはやこちらが折れるしかない。

四面楚歌な状況に、レイジは泣きたくなった。

 

「病室では静かにした方がいいと思うよ?」

そんな中、室内に入ってきた男性が一人。

 

「ワタルさん……」

「やあレイジ君、ちゃんと生きてるようでなによりだよ」

「……ワタル、それは冗談で言っているのよね?」

「冗談に決まってるじゃないか、だからそうやって睨むのはやめてくれないかシロナ君」

 

冷たい視線を向けられ、ワタルは冷や汗をかきながらレイジの元へ。

 

「……ひどいものだね、その腕」

痛々しく巻かれた包帯を見て、ワタルの表情が歪む。

……レイジの手は、治療できる。

しかし、手の細胞組織の半分が死滅してしまい、元通りの綺麗な手には戻らないそうだ。

手という機能はきちんと取り戻せるが……。

 

「平気ですよ。もう二度と何も持てないわけじゃないし、それにレックウザを救う事ができたんですから、僕としては良かったと思ってます」

「……レイジ君」

今の言葉は、間違いなく彼の本心から出た言葉。

しかし、それがわかるから――恐ろしいと思えた。

僅か15歳の子供が、自分を犠牲にしてまで他者を助け、しかもそれを後悔しないなど、彼を侮辱するわけではないが正気の沙汰じゃない。

しかもそれが彼にとっての「当たり前」なのだから、驚きは増すばかり。

 

「ところでワタルさん、セキエイ高原の方は?」

「あ、ああ……相当の被害を受けてしまったよ、あれじゃあ少なくとも来年のセキエイリーグは中止になるだろうね」

「そんなに酷かったんですか?」

「スタジアムは全壊、おまけに道路や地形もメチャクチャだ。暫く休む暇はないだろうね」

「じゃあ、レイジと再戦する事は……」

「残念ながら無理だよ、ボクも色々とあちこちに行かなくちゃいけなくなったしね。

 だけど残念だ。君とは決着を着けたかったんだけど……」

「……僕もです」

「でも、もう二度とバトルできないわけじゃない。次に会った時が……決着の時だよ」

「はい、その時を楽しみに待っています!!」

「ありがとう。……ああ、そういえば忠告するのを忘れていたよ」

 

部屋から出ようとしたワタルだったが、急に何かを思い出したのか、再びレイジへと視線を向ける。

そして、先程の友好的な雰囲気を消し、はっきりと言い放った。

 

「レイジ君、君はもう二度とロケット団には関わってはいけないよ?」

 

「えっ………」

「今回のレックウザの件だけじゃない、今まで君はロケット団と関わりを持ったせいで何度も死にかけたんだ。

 後の事はボク達国際警察に任せて、君は純粋にトレーナーとしての旅を続けるんだ。わかったかい?」

「だ、だけど……」

「君はまだ子供だ。こんな事に関わる必要なんかない!」

 

レイジの言葉を呑み込むような厳しい口調で、ワタルは告げた。

その迫力に圧され、おもわず押し黙ってしまう。

 

「……シロナ君、君からもよく言っておいてくれ。この子はもう……あんな連中と関わってはいけない」

「…………」

「シロナ君?」

「……わかったわ」

 

少し間を置き、ワタルの言葉に頷くシロナ。

頼んだよ、そう言い残しワタルは今度こそ部屋を後にした。

 

「…………」

 

俯き、先程告げられたワタルの言葉を思い返す。

君は子供、そんな事言われなくてもわかっている。

自分は何の力もないただの子供、ワタルやシロナのような大人じゃない。

確かに、そんな子供があんな悪魔のような連中に首を突っ込む事など、間違いどころか愚の骨頂なのかもしれない。

 

――だけど。

あの男は――ロキだけは、絶対に許せない。

あの男とは、自分自身の手で決着をつけなくてはいけない気がする。

 

「――レイジくん、貴方はどうしたいの?」

「……シロナさん?」

「貴方は、このままワタルの言った通り、ロケット団と関わりを持たずに旅を続けたい? それとも……」

「…………」

 

試すような、シロナの問い。

……答えなど、初めから決まっている。

レイジは顔を上げ、はっきりと自分の気持ちを口にした。

 

 

「――僕は、このまま逃げるわけにはいきません」

 

 

「………はぁ」

すると、シロナに呆れられたようなため息をつかれてしまう。

自分の言葉が予想通りだったのか、頭に手を置きなんだか悩んでいるようにも見える。

「……私としては、もう二度と貴方には危険な事をしてほしくないのだけれど」

「すみません、でも……僕はまだ」

「わかってる。レイジくんは一度言ったら曲げないのよね。

 はぁ……そういう所も好きだけど、今回ばかりは恨みたくなっちゃう」

とは言うものの、シロナはレイジの答えに反対する気はないようだ。

自分が信じた道を歩んでくれればそれでいい、シロナのそんな優しさを感じ取り胸が暖かくなった。

 

「けどよレイジ、どうやってロケット団と戦うんだよ? あいつらのアジトの場所とか、わからないだろ?」

「今すぐに争う気はないよ、それに……今の僕じゃロキには勝てない」

これは事実だ、現時点では決して覆せない実力の差。

だから――レイジは決心した。

 

「怪我が治り次第、僕はシンオウ地方に行くよ」

「シンオウ地方?」

「でも、どうしてシンオウに行くの?」

「……“始まりの地”に帰るためだ」

「始まりの、地?」

 

聞き慣れない単語に、カイリ達は揃って首を傾げる。

始まりの地と言うくらいなのだから、どこかの土地なのだろう。

しかしシンオウ出身のカイリとヒメカ、シロナですらそんな土地の名前は聞いた事がない。

その中で、ただ一人だけレイジの言葉を理解した少女が。

 

「あっ、もしかしてあそこのこと?」

「そうだよカグヤ、僕とティナにとって故郷と呼べる場所……始まりの地だ」

「故郷って……」

「みんなは僕がカグヤの両親によって保護されて、そのまま養子になった事は知ってるよね?」

「ああ。なんでもポケモンしか住んでない人里離れた秘境に居たって……」

「……まさか」

「そのまさかですよシロナさん、僕とティナにとって全ての始まりの地……それは、シンオウ地方にあるんです」

「なる程、だから始まりの地なのだな……。

 だがレイジ、何故急にそこへ行こうと思ったんだ?」

「……確証は、ないんですけど……そこに行けば、自分の力の事がわかるかもしれないと思って」

 

今の自分の力は、まだ未完成だ。

そんな確信めいた感情が、レイジの中に存在している。

そして同時に、この力を自分のものにしなくては……ロキを倒す事ができないとも思っている。

だから帰るのだ、ゲンジとルリコからレイジという名を貰ってから一度たりとも戻ろうとしなかった、第二の故郷へと。

 

「あの男は僕が止めてみせます、僕が止めないといけない気がするから……」

「…………」

 

レイジの強い決意の言葉に、シロナは再びため息をつきたくなった。

彼が自分で決めた道だ、とやかく言えるような事ではないが……。

本音を言えば、彼女もワタルと同じくレイジを止めたい。

こんな、彼の心を傷つけるだけの戦いになど、巻き込みたくない。

けれど、それは他ならぬレイジが認めないだろう。

たとえ無理矢理遠ざけたとしても、彼は納得しない。

なら、止めるなどという選択肢は無駄になるだけだ。

 

〈……お父様、本気で戦うおつもりですか?〉

「本気だよ。ティナはやっぱり反対?」

〈当たり前です〉

即答で返し、ため息をつくティナ。

 

〈わたくしだけではありません、ここにいる皆さん全員反対しているに決まっているではありませんか。

 お父様はこれ以上戦わなくていいのです、ただのトレーナーとしてやっていけばいいではありませんか〉

それは、全員の言葉を代弁した願い。

もう危険な事はするな、もうこれ以上傷つく必要なんかない。

その願いを聞き入れてほしくて、ティナの口調にも熱が入る。

 

――尤も。

 

「……ごめんねティナ、ごめんねみんな。

 それでも僕は、あいつを……ロキを止めたいんだ、自分の手で」

初めから、彼が素直に聞き入れてくれるとは、誰も思っていなかったのだが。

 

「……まあ、レイジならそう言うよな」

「もぅ……レイジってば頑固だよね、私そんな風に育てた覚えはないよ?」

「少なくとも君に育てられた覚えはないよ、カグヤ」

「決まり、だな」

「しゃーねえ、最後の最後までとことん付き合ってやるか!」

「えっ……」

「なんだよそのえっ、てのは? 言っておくがな、俺だってお前と同じくロケット団には借りがあるんだ。

 このままおめおめと引き下がれるかよ」

「カイリ……」

「それによ……お前は俺達にとって大切な仲間で友達だ。なら、協力するのは当然だろ?」

 

カイリの言葉に賛同するように、全員が力強く頷く。

……そんな中で、ティナはそっとため息をついていた。

 

(もぅ……お父様を止めてくださいよ)

止めるどころか背中を押すなど、呆れてしまう。

まあ、でも……。

(わたくしも、同じ気持ちなのですけどね……)

だから、否定する事など絶対にしないのだ。

 

………。

 

「シンオウ地方って、やっぱり寒いんですか?」

「そうね。特に今の季節は特に寒いかも、カントーの貴女達じゃ少し厳しいわよ?」

「うひゃあ……ちゃんとコートとかマフラーとか用意しないと」

カグヤとシロナの楽しそうな会話は続く。

……何故か、レイジの病室で。

 

「……あのさ、どうしてここで会話するの?」

ちなみにカイリ達はとっくに帰った、つまり今は2人っきりならぬ3人っきり。

ポケモン達は気を利かしてボールの中に……入っていない。

ティナとルギアは、ボールから出てレイジを守るように警戒している。

 

「ねえ、ティナ、ルギア、別に襲われたりしないから大丈夫だよ。疲れてるだろうから、ボールに――」

「ダメだ」

〈ダメです〉

「何で?」

「決まっておろう。カグヤとシロナがマスターに変な事をせぬか見張るためだ!!」

「はぁ?」

 

一体何を言っているのだろう、この娘御は。

的外れなルギアの言葉に頭が痛くなる。

 

「ルギア、変な事って何?」

「なっ、そ、そのようなこと説明できるか!!

 というかカグヤ、わかってるくせにそんな事を訊くでない!!」

何を想像しているのか、顔を赤くしてそんな事を言うルギア。

しかしカグヤは、首を傾げるばかりでまるでわかっていない。

 

「くぅ……こやつ、どこまで天然なんだ……」

〈ルギア、はしたない事を考えないでください、恥ずかしいですね〉

少し冷たい視線を送るティナに、ルギアはますます顔を赤くさせ反論を返す。

「ばっ、べ、別に余はそこまで変な事は考えておらぬ!!」

でも変な事は考えていたんだな、そういうツッコミが喉元までせり上がってきたが、レイジは大人なので何も言わない。

なんだか変な空気になってしまったが、ここでまた場を混沌に陥れるような行動をとる女性が1人。

 

「ねえルギア、変な事って……もしかしてこういう事かしら?」

言いながら、レイジの顔に自らの顔を近づかせるシロナ。

レイジは動けず、少しずつけれど確実に彼と彼女の唇が近づき……。

 

「ストップ!!」

グワシッ、という音が聞こえてきそうな勢いで、シロナの頭がおもいっきり掴まれた。

もちろん、彼女の邪魔をしたのはカグヤである、その表情はあきらかに不機嫌そうだ。

 

「ズルいですよシロナさん、ジャンケンに勝った方が先です!」

「そっちかよ!?」

 

おもわず、全力でツッコミを入れるレイジ。

てっきり止めてくれるかと思ったのに、まさかの参戦に頭が痛い。

しかし、ここで救世主が現れてくれた。

 

〈待ってください!!〉

「待たぬか!!」

「ティナ、ルギア……」

よかった、今度こそ大丈夫だろう。

そう思い安堵したレイジだったが、その希望はまたもへし折られる事になる。

 

〈わたくしもジャンケンに参戦します!!〉

「余はジャンケンができぬから、別の方法で決めるぞ!!」

「お前達もかよ!?」

 

見事でキレのあるツッコミだったが、今の状況では見事にスルーされるのみ。

 

(……何でこんな事に)

あーだこーだと言い争っている彼女達を尻目に、レイジは付き合ってられないとばかりに布団に潜る。

あと一言言っておきたい、病院内では静かにしてください。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――なんだか、慌ただしい帰郷になりそうね」

「なーに、そんなに急ぐ旅にするつもりはないんだし、のんびりフタバタウンに帰っても問題ないだろ」

のほほんと言い放ちながら、カイリはさっそく荷物をまとめ始めていた。

「ところでミカンはどうするんだ? 俺もヒメカもレイジについていく事に決めたけど……ミカンまで付き合う必要は」

「いいえ、私もついていきます。カイリさんの傍に……い、居たいですから」

「お、おぅ……そうか」

 

もじもじと赤い顔でそんな事を言われたものだから、カイリも顔を赤くして照れ隠しにぶっきらぼうな口調で返す。

端から見てると初々しいカップルのようで、ヒメカとしてはまったくもって面白くない。

無意識に握りしめていたモンスターボールから、ミシミシと軋む音が聞こえてくるほどだ。

 

「あ、あの……カイリさんのお父様とお母様を、紹介してくれませんか?

 あっ、でもまだそういう意味とかじゃないですからね?」

「あー、うん……わ、わかってる」

「…………」

 

ミシミシがピキピキという音に変わり、なんとも信じられないがモンスターボールにヒビが入っている。

ちなみに空のボールだから、ヒメカのポケモン達は揃って安堵のため息を吐いていたのだがそれはさておき。

 

「で、でも……カイリさんのお父様とお母様と仲良くできたら嬉しいです。そ、その……今後の為にも」

「えっ、こ、今後って……?」

仲むつまじいカイリとミカン、何気に大胆な発言を繰り返す彼女に、遂にヒメカの堪忍袋がブチ切れた。

「うがー!!!」

バキッ、と空のモンスターボールを握り砕き、暴れ始めるヒメカ。

 

「ちょ、どうしたんだよヒメカ!?」

「あわわ、落ち着いてくださいヒメカさん!!」

 

お前が全ての元凶だろうがコラー!!

かくして、恋する乙女の我慢はすぐに切れ暫くガブリアスのげきりんの如く暴れまわった、もちろんこんらん状態にはなってないのであしからず。

……それにしても、ヒメカはあまり堪え性というものがないのかもしれない。

だがしかし、妬きもちだから仕方ないといえばそれまでである。

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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