ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
「――それじゃあカラシナ博士、イリナちゃん、失礼します」
「うむ、道中気を付けてな。シロナの事をよろしく頼む」
「はい。といっても……僕の方が頼りにしてるんですけど……」
「ふふっ、そんな事ないんだけどね」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんと仲良くしてね?」
「う、うん……」
イリナの言葉に苦笑しか返せない。
傍らでは、カグヤが少し面白くなさそうな視線を送っている。
少し居心地の悪さを感じながら、レイジはボールからリオンを出した。
他の者達も、移動する為にポケモンを出す。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、それとみんな、気を付けてね。――また遊びに来てね!!」
「ありがとうイリナちゃん、色々な問題が片付いたらまた遊びに来るよ」
絶対だよ、イリナの言葉に頷きを返しリオンの背中に乗る。
すぐさま上昇し、あっという間にカンナギタウンが小さくなっていく。
「よし、いよいよテンガン山だな!」
「うぅ〜……寒いのは苦手だよ……」
各々、テンガン山に向けて感想を口にする中、レイジはそんな彼等のやる気をある意味折るような事を口走る。
「……みんな、少し待っててくれないかな?」
「えっ?」
言うやいなや、レイジはリオンに指示しテンガン山とは別の場所へと向かって飛び立ってしまう。
これには、カグヤ達も驚きの事を上げてしまった。
「ちょ、ちょっとレイジ!!」
「すぐ戻るから、そこで待ってて!!」
叫ぶような大声で、追いかけようとするカグヤ達をその場に留め、レイジは行ってしまった。
一体どうしたというのだろうか、彼には考えられない強引さだ。
しかし、彼の迫力に圧されてしまい、仕方なくその場に留まる事に。
と、カグヤとシロナはじっとレイジの向かった方向を見つめながら……ある事に気がついた。
(あの方角は……)
「なんだよレイジの奴、いきなり何処に行ったんだ?」
呆れを含んだ口調のカイリ、他の面々も同じような気持ちなのは言うまでもない。
しかし、彼が何の意味もなくこんな事をするとは思っていないので、本気で怒ったり呆れたりしているわけではないが……理由くらいは言ってくれてもいいのではないか。
そんな事を考えるカイリ達だが……カグヤとシロナの言葉で、彼の真意を理解した。
「……アスに、会いに行ったんだよ」
「…………」
アス――エイチ湖で死闘を繰り広げ、レイジの力によって最悪の事態から救われた波導遣いの少女。
しかし、レイジの力でも完全な浄化には至らなかったようで、今ではシンオウ最大の都市であるコトブキシティの大病院で治療を受けている。
聞いた話では、あれから一週間経っても意識が戻らないと言っていたが……レイジは、そんな彼女の様子が心配なのだろう。
もちろん見舞いをした所で彼女の容態が回復するわけではない、単なる自己満足だと彼も理解している。
だが、それでも彼はテンガン山に行く前に彼女の姿を見ておこうと思ったのだろう。
……救った者として、最低限の事をするために。
「……ホントに真面目だよな、アイツ。っていうかそんなんなら別に俺達を連れて行っても……」
「誰にも見られたくないのよ、今の自分を」
「えっ……?」
シロナのその言葉に、カグヤを除く全員が首を傾げるが、彼女は何も言わずに沈黙を貫く。
――今の彼は、不安定な状態だ。
少しずつ、けれど確実に心の闇を大きく広げている。
怒り、憎しみ、悲しみといった負の感情が、彼の中に生まれてしまった。
こんな状態で、もしロケット団――ロキに出会ってしまったら……彼がどうなるか、わからなくなる。
(その時は……私達みんなで止めないと……!)
甘いと言えるくらいの優しさを持つレイジは、それ故に予想もできない危険さも宿している。
そんな彼だからこそ、1つの感情に支配された時には……。
(大丈夫……彼は1人じゃないのだから……)
胸の内に宿った僅かな不安を拭うように、必死で自分にそう言い聞かせるシロナ。
そんな彼女を見ながら、カグヤはただジッとレイジの向かったコトブキシティの方向を見つめ続けていた。
………。
――コトブキシティは、シンオウ最大の都市である。
テレビコトブキやポケッチカンパニーなど、数多くの高層ビル群が建ち並ぶ都会の街。
もちろん、そこにある病院も他の追随を許さない大病院だ、その中をレイジは歩いていく。
程なくして辿り着いた先は……集中治療室。
その中では、痛々しい姿でベッドに横たわる少女が居る。
波導遣いアス――尤も、このアスという名が本名かどうかはわからないが、彼女は未だ眠りの世界から抜け出してはいなかった。
「…………」
彼女を見ながら、医師の話を思い出す。
……彼女は、常人ではとうに死亡している程の薬物を投与されていたらしい。
どれも劇薬などに分類される、まさしく悪魔の薬と呼べるようなものを。
波導遣いとしての優秀な肉体と、無意識下で本能が発動していた波導の力により、どうにか生き長らえていたが……既に廃人に等しい状況になっており、完治する可能性は低く……仮に完治するのにも数年という長い年月が必要となるらしい。
それを聞いた時、レイジはロケット団――ロキ達に対する怒りや憎しみよりも、悲しみの感情が大きくなった。
―――どうして、こんな事を平然とやってのけるの?
―――どうして、人間はこんなに醜いの?
どうして、どうして、どうして、ドウシテ―――
疑問ばかりが頭を占め、それはまるで呪いのようにレイジを襲う。
人間など、生きている価値などないのではないか?
ホウオウの言った事は、正しかったのではないか?
人間など、この世に必要とする存在では………。
「―――っ」
そこまで考えて、レイジは振り払うように頭を振る。
ふざけるな、そんなものは極論でしかない、人間全てがこの世に必要としない存在というわけではないのだから。
……けれど、じゃあ必要とされる人間って、どんなものなのか。
こんな事しかできない、こんな事をしでかす人間の何処に、必要とされる部分が――
〈お父様〉
厳しい口調の声が、レイジの思考を無理矢理中断させる。
我に返り、視線を向けると……そこには先程の口調と同じくらい厳しい表情を浮かべたティナが、ボールから飛び出していた。
〈……お父様、1つの感情に囚われる事などないようにお願い致します〉
「ティナ……」
〈お父様のお気持ちはわたくしとて……いえ、誰もが理解できます。
しかし、その問いは人では永遠に探す事ができないものです。ですから……あまり、1人で抱え込まぬように〉
優しく、安心させるようにレイジを抱きしめるティナ。
暖かな彼女の体温が伝わり、レイジの中に芽生えていた闇が、少しだけ形を潜める。
ありがとう、そう言って静かにティナから離れたレイジの表情は、ようやくいつもの彼のものに戻っていた。
これで安心できたわけではない、しかしひとまず大丈夫だろう、ティナはそう判断し勝手にボールから出た事に謝罪しながら、再びボールの中に戻っていった。
そして、レイジは再びアスへと視線を向け、聞こえているとは思っていないが……彼女に声を掛ける。
「……目が覚めたら、君の名前を教えてくれ。そして……僕と友達になってね」
それはささやかな願い、ほんのちっぽけな……彼らしい願い。
眠る彼女に届きますようにと願いながら、彼は病院を後にする。
……テンガン山へ、行かなければ。
全ての謎、自分の出生がそこでわかるかもしれないのだから。
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――テンガン山。
シンオウ地方を真っ二つに分断するかのように聳え立つ、巨大な山。
上を目指すと、そこには強力な吹雪と野生のポケモン達が、容赦なく侵入者を始末するために牙を向く。
「ゴウカザル、かえんほうしゃ!!」
「ヒノ、かえんほうしゃ!!」
迫る野生のポケモン――チャーレムやドータクンを蹴散らしていく。
先頭を歩くティナも、なるべく被害を最小限にする為に、サイコキネシスで動きを止めていく。
「くっそ……ここの野生のポケモン達、結構強いな……」
この面子、そして自分達のポケモンならばさしたる苦戦はしないものの、こうも連続で現れるといい加減嫌になってくるものだ。
それに、この山の厳しい環境もカイリを苛立たせる要因となる。
幸いにも山道はあるので断崖絶壁を登っていくなどという事はないが、吹雪のせいで視界はかなり悪く、なにより空気が薄く冷たい。これは始まりの地の環境といい勝負かもしれない。
シンオウ地方で寒さに慣れている自分でも正直に言って「寒い」と感じているのだ、男性陣はともかくとして……ヒメカ達にとってかなり厳しいようで、ミカンに至っては途中でダウン寸前となり今はゴウカザルが背負っている状態だ。
ヒメカやシロナはまだ余裕があるようだが、カグヤもかなり辛そうに表情を歪ませている。
「リオン、カグヤを背負ってあげて」
それにいち早く気づいたレイジが、ボールからリオンを取り出しそう指示を告げる。
リオンもすぐさま状況を理解し、カグヤを自身の背中に。
「……リオン、ごめん」
暖かな身体にその身を寄せながら、カグヤは謝罪の言葉を口にするが、リオンはすぐさま首を横に振り安心させるような笑みを浮かべた。
「ストップ、ちょっと待って」
突如、ティナと共に先頭を歩いていたレイジは立ち止まる。
「どうした?」
「……どうやら、ここを登っていかないといけないらしい」
舌打ちを混ぜながら、レイジは顔を上げる。
その先には――吹雪で上が見えない急な崖が。
「お、おい……普通の道はないのかよ?」
「あるにはあったみたいだけど……ほら見て、どうやら崩れてしまったらしい」
レイジ達のすぐ前は、初めから無かったかのように道が断たれている。おそらく雪崩や野生のポケモン達によって山道が崩れてしまったのだろう。
飛んでいけるのならばそうしたいが、この吹雪では墜落する可能性がある以上そんな危険な真似はできない。
明らかに正規のルートではないが……ここから先はこの崖を垂直に登って山頂を目指していかないといけないようだ。
「マジかよ……こんな所、人間が登れるものじゃねえぞ」
手の掴まるような凹凸は見つからない、あるにはあるだろうがこの吹雪では見えないし、なによりロッククライムの経験などない自分達には不可能だ。
「だからこそ、こういう時はみんなの力を借りるんだよ。――アクセル、出てきて!!」
「ガブリアス、出てきなさい!!」
「な、なる程……じゃあゾロアーク、出てきてくれ!!」
レイジ達を見習うように、カイリもボールからゾロアークを出す。
「――バシャーモ、オレを背中に乗せて登ってくれ」
「レジェンド、おれも頼むぞ」
「リオンありがとう、降ろして」
声を掛けながら、カグヤはリオンの背から降りボールを取り出す。
中から出てきたのはラティオス、早速カグヤはラティオスの背に乗り換えた。
「ラティオスごめん、このまま登ってくれる?」
「わかりました」
「カグヤ、リオンのままでも……」
「大丈夫。それよりリオンは休ませてあげて?」
「……わかった。それじゃあリオン、ゆっくり休むんだ」
彼女の厚意を受け取り、リオンをボールに戻す。
「出てこい、カノン!」
カノンが入ったボールを取り出し投げる。
「カノン、ミカンをおぶってくれ。さすがのゴウカザルでも両腕でミカンを抱えながらこの断崖絶壁を登るのは無理だからよ」
「わかりました。ゴウカザル、ミカンを私の背に乗せてください」
「す、すみません……」
「気にしないでくださいミカン、この環境は寒さに慣れた人間でも厳しいですから」
「よし、それじゃあ行くよみんな」
それぞれポケモンの背に乗り、ほぼ垂直な崖を登っていく。
……言うまでもなく、ここから落ちれば間違いなく死ぬ。だから誰も下を見ようとはしない。
しかし、これならば比較的簡単に山頂へと辿り着けそうだ。安堵感を含めた息を吐き出すレイジ。
そう、このままならば楽に行けるはずだったのだが。
〈っ、父上!!〉
登りながら、レイジに対し大声で呼びかけるアクセル。
どうしたのか、一瞬だけそう思った瞬間…レイジは異変に気がついた。
「みんな、野生のポケモン達が来るよ!!」
「ええっ!?」
「げっ、マジかよこんな状況で!?」
吹雪の中から現れる野生のポケモン達。
空からはズバットやゴルバット、さらにはドータクンまで。
崖の周りにある穴からはユキカブリやユキノオー達が。
「やべえぞこれ!!」
「チッ――フライゴン、りゅうのいぶき!!」
バシャーモに掴まりながら、ボールからフライゴンを出すと同時に指示を出すケイジ。
場に出たフライゴンは、ズバット達を確実にりゅうのいぶきで落としていく。
――迫るユキノオー達のふぶき。
「っ、ラティオス、ラスターパージ!!」
「カノン、りゅうのはどうだ!!」
いち早くそれに気づいたカグヤとカイリ、ラティ兄妹の同時攻撃でふぶきごとユキノオー達を攻撃する。
それにより爆発が起き、レイジはすぐに全員へ声を掛けた。
「みんな、大技は控えるんだ!! このままじゃ雪崩が起きる!!」
「け、けどよ……ちまちま撃破してたらキリがねえぞ!!」
「それでもよ! ハク、かみなり!!」
ボールからハクを取り出すヒメカ、すぐさまかみなりを仕掛け残りのゴルバット達を撃破していく。
しかし、ドータクンから高エネルギーが発射されようと……。
(ラスターカノン!?)
「やべ――っ!?」
「リオン、ブラストバーン!!」
ラスターカノンが発射されると同時に、ボールからリオンを出す。
そして、迫るラスターカノンに真っ向からリオンはブラストバーンを撃ち放った―――!
少しずつ押されていくラスターカノン。
そこに、追い討ちとばかりに攻撃を繰り出した。
「ラティオス、はかいこうせん!!」
ブラストバーン、さらにはかいこうせんによって、ラスターカノンを粉砕しドータクンを撃ち落とした。
これで空からの脅威は消えたものの、まだユキノオー達が残っている。
攻撃を仕掛けるのは簡単だが、ユキノオー達の居る場所に下手な技を仕掛ければ、間違いなく雪崩が起きてしまうだろう。だが、かといってこのままでは……。
「くっそー、足場さえありゃあこんなに苦戦しねえのによ!!
おいケイジ、お前空間を渡る力があるなら山頂まで俺達全員を転移させろよ!!」
「無茶を言うな。自分の頭の中にイメージできる場所しか転移はできんし、第一長い距離を転移できるか」
「なんだよ、使えないなその能力!!」
「なんだと!? お前が言うな!!」
「んだとぉっ!?」
「お前達、喧嘩してる場合か!!」
ぎゃーぎゃーわーわーと騒ぐカイリとケイジ。
しかし、彼のある言葉にレイジとヒメカは反応を示す。
「足場……………っ、そうか!!」
「フィー、リフレクターよ!!」
レイジがある事に気づくと同時に、いち早くヒメカはフィーを場に出し指示をする。
そしてフィーは、“自分の足元にリフレクターを展開する”
これはゾロアークとの戦い、さらにはロストとのフルバトル時に使った戦法、リフレクターやひかりのかべで空中に足場を作る戦法だ。
「ヒカリ、君はひかりのかべだ!!」
ヒメカの一瞬後にヒカリをボールから出し、同じように空中に足場を作っていく。
「フィー、サイコキネシス!!」
フィーの瞳が光り、ユキノオー達の動きを封じ込めた。
それと同時に、レイジとカイリは別のボールを手に取り最後の勝負を仕掛ける。
「ソウル、足場を渡ってかえんほうしゃ!!」
「エレキブル、10まんボルト!!」
最大パワーで放たれた炎と雷は、一体も逃す事なくユキノオー達を捉えていく。
耐えきれず倒れる者、そのまま逃げ出す者、違いはあれど……ようやく不安定な場所でのバトルは終わったようだ。
「――ふぅ〜、あぶねえあぶねえ」
「みんな、ご苦労様」
ボールにポケモン達を戻し、すぐさま移動を再会させる。
またいつ野生のポケモン達が現れるかわからない以上、いつまでものんびりとはしていられないからだ。
………。
「つ、着いた……」
山頂に到着すると同時に、カイリは長いため息を吐き出しながらその場に座り込んだ。
しかし無理もない、ここに来るまでに更に二回、野生のポケモンに襲われれば誰だってこうなる。
「……ここが、テンガン山の山頂」
「そう、そして山頂はやりのはしらと呼ばれているの」
「やりのはしら……」
なる程、確かに槍のような尖った岩がいくつも連なっている。それに……中央には一枚の壁画が。
「こいつは……ディアルガとパルキア」
「それだけじゃない、ギラティナもの壁画もあるよ」
「ギラティナ?」
「……ディアルガとパルキアと同じく、幻のポケモンであるギラティナ。
この世界を安定させる為に、裏の世界に存在する……アルセウスの分身の一つ」
「アルセウスの……」
「…………」
更に奥へと進み、すぐさま行き止まりである崖に辿り着く。
「………?」
しゃがみ込み、その場に積もった雪を払いのけると……そこには、何か文字が書かれていた。
「なんだこれ?」
「古代文字のようだが……シロナ、読めないか?」
「……ダメね。こんなの見た事ないわ」
考古学者であるシロナですら、こんな文字は見たのは初めてだった。
しかし……この文字を見て、レイジはどこか遠い声で呟く。
「……天界の笛を持つ選定者、この地において世界の行く末を決める選定を行う為に、この場所に立ち天界へと響く音色を奏でよ」
「えっ………!?」
「お、おい……レイジ、もしかしてお前……これが読めるのか?」
「…………」
カイリの問いに、どうにか頷きを返しながら、レイジは自分自身に対し驚いていた。
何故、自分はこのような文字が読めるのか、シロナですら解読ができない古代文字を、何故……。
それに――選定者という言葉は、ひどく自分を混乱させる。
あの時、エンジュにてホウオウが、そしてロキが自分に対して告げた言葉も……。
「―――、ぁ」
手が、震える。
行ってはならない、行かない方がいいと、内なる自分が訴えている。
ここから先に行けば、お前は間違いなく人として生きる事は―――
「…………」
バッグから、レジギガス達に渡された笛を取り出す。
……立ち止まってなど、いられない。
自分は遊びに来たわけではないのだ、たとえこの先に何が待っていたとしても……全てを受け入れるだけだ。
もう一度自分にそう言い聞かせ……レイジは、笛を口に含み音色を奏で始めた。
〜〜♪
わかる。
このような楽器、今まで使用した事などないのに、まるで身体が覚えているように音を出せる。
美しく、儚く、それでいて尊く力強いその音色は、瞬く間にカグヤ達を魅了し息をする事すらも忘れさせた。
それだけでは飽きたらず、あれだけ吹雪いていた気候も……まるでレイジの奏でる音色に圧されてしまったかのように、雲ごと消え去ってしまう。
そして――“それ”は唐突に現れた。
「…………」
笛から口を放し、前を見る。
広がるのは、見渡す限りの崖。
しかし、先程とは違う点が一つある、それは……。
「これは……!?」
「な、何これ……階段?」
そう、崖の前に現れたのは黄金の階段。それが遥か上空にまで続いている。
「………行こう」
笛をバッグに戻し、レイジは躊躇う事なく階段を登っていく。
その光景に、暫し放心していたカグヤ達だったが……すぐさま慌てて彼の後を追う。
「な、何なんだよ……これ」
宙に浮かぶ階段など見た事はない、自分達は夢を見ているのではないか、そう思えてしまう。
そんな中で、レイジは何も言わず何も考えずただひたすらに階段を登っていく。
と、ボールからティナが飛び出してきた。
〈お父様、申し訳ありませんが……何が待っているかわかりませんので、念の為外に出ておきますね〉
「………うん。お願いねティナ」
〈……お父様?〉
「…………」
(違う……いつものお父様と)
何故か、近づきにくい雰囲気を纏っているのだ、今の彼は。
まるで自分達などこの場に居ないかのように、彼は階段を登っている。
その疑問を彼自身に告げる事ができず……やがて、唐突に階段は終わりを迎えた。
辿り着いた先は――白い世界、音も何もないまっさらな空間。
「ここは……!?」
辺りを見回しても、白い景色しかなく現在地を把握できない。それどころか自分達は何故こんな所に居るのかも……。
―――長かった。私にとって刹那の時だとしても……やはり、この時間は永遠と思える程に長かったな。
『――――っ!!?』
この白い世界全体から響くような声に、全員が身構える。
「だ、誰だ!? 出てきやがれ!!」
「大丈夫だよカイリ、大丈夫だから」
「えっ………」
そう告げるレイジは、ひどく落ち着いていて……皆から少し離れてから、“神”の名を呼んだ。
「出てきて―――アルセウス」
『――――』
その場に居る誰もが、レイジの言葉を聞き思考を凍らせる。
そして、“ソレ”は彼の声を応じ、姿を現した。
白い身体の四足歩行の巨大な生物。
腹部だとおもわれる場所には、黄金に輝く輪っかのようなものがあり……その身から感じる力は、ただ圧倒的だった。
それは本能に近い、絶対的な覇者と呼べるべき存在、この世のどんな摂理にも適わない唯一無二の存在。
シロナから聞いた、この世の全てを創り上げた神と呼ばれしポケモン。
――アルセウスが、この世界に降臨した。
To.BeContinued...