ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
そして山頂で天界の笛を吹き——現れたのは始まりの間。
その先に待っていたのは……この世界を創造したポケモン――アルセウスだった。
誰もが、声を出す事ができない。
目の前の光景がただ信じられず、けれど……夢でも何でもない、現実だと理解をするのには、そう時間はかからなかった。
「――よく来たレイジ、そして……この世界に生きる私の子達」
まるで鏡のように澄んだ綺麗な、けれど現実味が薄い声で、アルセウスはレイジ達を歓迎した。
「ぇ、あ、ぅ……?」
「……アルセウス、ここは?」
「ここは始まりの間、この地を中心として世界は創られていった……故に始まりの間と私は呼んでいる。
それより……よくここまで来たな、レイジ」
その声には、若干の喜びの色と……言いようのない厳格さを持ち合わせていた。
と、アルセウスの視線がカイリとケイジに向けられる。
「……お前達、名は……確かカイリと…ケイジだったな」
「ぅえ!? あ、はい、まぁ……」
「……それがどうした?」
カイリは何を緊張しているのか、変な声を出しているがケイジは相も変わらず目つきが悪く、まるでアルセウスを睨んでいるようにも見えた。
すると、アルセウスは2人に対しある事実を口にした。
「……ディアルガとパルキアの力、歪んだ使い方はしなかったようだな」と。
「何…………?」
「…………………は?」
一体何を言っているのだろう、初めに浮かんだ感情は疑問。
ディアルガとパルキアの力、それは一体……。
「それって……じゃあ、レイジくんの推測は当たってたのね」
「えっと……よく、わかんねえんだけど」
「お前馬鹿か? どうしてわからないんだ」
「んだとぉっ!? わかんねえもんはわかんねえんだよ!!」
「2人とも、喧嘩しないの!」
「……は〜い」
「フン……」
ヒメカに怒鳴られ、一応おとなしくなる2人。
しかし、アルセウスの言葉が理解できない……もとい信じられないのは、なにもカイリだけではなかった。
「で、ですけど……それって本当なんですか? その……カイリさんとケイジさんの力が」
「事実だ。私は偽りは告げない、彼等は……ディアルガとパルキアの力をその身に宿している」
淡々と、ただ真実のみを口にするアルセウス、しかし……やはり信じられるような内容ではなかった。
だってそうだろう、ずっと謎だったこの力の正体は、神と呼ばれしポケモンであるディアルガとパルキアのものだと言われても、すぐさま納得するのは難しい。
第一、納得した所で新たな疑問も生まれてくる。
「アルセウス、どうして2人はディアルガとパルキアの力を持っているの?」
「そうだよ! 俺はディアルガやパルキアともちろん会った事はねえし、意味分かんねえよ!!」
「落ち着け、ちゃんと説明はする。――全ては、選定のためだ」
「選定……?」
その言葉には、ケイジ以外は聞き覚えがあった。
選定――ホウオウやロキが、レイジに対して告げた単語。
それがアルセウスの口からも飛び出し、レイジ達は混乱した。
「アルセウス、選定って何のこと? ロキやホウオウも言っていたけど……」
「ホウオウは知っていて当然だ、お前にそれを伝えるよう私が指示した」
「えっ……」
「そしてロキ……あの者も知っていて当然だ、何故ならあの者は――」
「――お喋りが過ぎるなアルセウス、まだ神気取りでいるのか」
『――――っ!!?!』
その場にいた全員が、後ろに振り返る。
確認しなくてもわかる、けれど……そうせざるおえなかった。
そして、そこにいたのは予想通り――悪魔のような男。
……ロキが、この上なく不気味で嬉しそうな笑みを浮かべ、この始まりの間に立っていた。
「ロキ!?」
「な、なんでお前がここに居るんだよ!?」
「そんな事はどうでもいいだろう、しかし……アルセウスよ、私のレイジを自分の思い通りの役目を与えないでほしいものだな」
「貴様……自分の役割を忘れた挙げ句、この世界にあってはならぬ力を振りかざすとは何事か!?」
先程までの落ち着いた口調など消え、アルセウスはロキをその鋭い眼光で睨みつける。
しかしロキは気にした様子もなく、アルセウスを小馬鹿にしたように口元を歪ませ言葉を返す。
「何を言っている。この世界を選定しようなどとおこがましい事を考える貴様に言われたくはないものだな。
アルセウス、この世界は確かにお前が創り上げたものかもしれんが……既に貴様の手から離れているのだよ。古き神は……さっさと消えてしまえ」
(何だ……一体何を言っているんだ……!?)
こちらの事など完全に忘れた様子で、アルセウスとロキが意味がわからない会話を繰り返している。
それに気づいたのか、それとも思い出したのか、ロキはレイジへと視線を向け……彼等が抱いている疑問を解き放った。
「そうだった……きちんと説明しなくては、わからぬか。
――全ては、この傲慢な神が世界を選定するなどというくだらぬ考えを持った事から始まる」
「世界を、選定……?」
「レイジ、お前は……この世界に生きる生物達が完全な存在だと、思っているか?」
「えっ……」
「カイリ、お前はこの世界に生きる者達は、このまま生を謳歌していいと思っているか?」
「なっ――そ、そんなの当たり前だろ!!」
「当たり前……では訊くが、何故当たり前だと思う? そこに至る絶対的な理由は何だ?」
「そ、それは……」
そう言われてしまうと、答えられない。
人間は――いや、この世界に生きる者達は、何故生きていていいのか。そんな疑問など……今まで1度たりとも考えた事などない。
理由を話せ、そう言われても答えられるはずなどなかった。
「そう、この世に生きる者達は自分達が生きているのは当たり前だと思っている。
そしてそれはいつしか「自分達が世界を動かしている」などという理解できぬ極論に達し……この世界そのものを、自分達の道具か何かと勘違いする者まで現れた」
自分達が世界の覇者であると、そう考えた者達によって戦争が起こり、長い年月を経て創られていった自然は、消えていった。
傲慢で、身勝手な人間達によって。
「人は過ちを繰り返し、それを見ていたアルセウスはこう思ったそうだ」
――人は、生きている価値があるのか、と。
「しかしそう一概に決めつける事もできない、そう思ったアルセウスは次の行動に移った」
――人間が、生きるべき存在かどうかを確かめよう、と。
「アルセウスはすぐさま自分の力の一部を与えた人間を創り上げた。もちろん自分の出生など全ての記憶を継げずにだ。
何故ベースを人間にしたのか? それはその人間すら選定の対象とする為。自分の力に溺れるか、それとも正しい使い方ができるのかを、見定めるためだ」
「――――」
「ここまで言えばわかるだろうレイジ? お前が一体何者であるかを」
「…………ぁ」
楽しそうに、そう告げるロキに、レイジは何も答えられない。
………待て。
それはつまり、自分はアルセウスに―――
「ふざけた事ぬかしてんじゃねえ!!」
「っ」
カイリの怒声が、レイジの思考を中断させる。
視線を向けると、怒りに満ち溢れた表情で彼はロストを睨みつけていた。
「そんなデタラメ並べやがって………! んなこと信じられるはずがねえだろうが!!」
「信じられないのなら、何故そこまで必死に声を荒げるのだ?
――理解したのだろう? その話が真実であり……そして、レイジの正体が何であるのかを」
「っ、そ、それは……」
「……まあいい、レイジも私の口から直接言わねば納得できないようだからな」
そう言うと、ロキはレイジへと改めて視線を向け――信じられぬ事実を、口にした。
「——レイジ、お前はアルセウスによって創られた人間だ。
この世界に生きとし生ける者が存在する価値があるかどうか、それを選定する為に力を得た存在なのだよ」と。
「…………」
笑いたくなった。
但し、それはあまりに突拍子のない事を口にしたロキにではなく。
ある意味で、自分の予想通りであった真実に対してだが。
「なっ―――」
「ア、アルセウスが……創り上げた人間!?」
カグヤ達全員の視線が、レイジへと注がれる。
「……天界の笛を持つ選定者、この地において世界の行く末を決める選定を行う為に、この場所に立ち天界へと響く音色を奏でよ。
あの文字で、ある程度の予想はできてた……」
「ほぅ……さすがだな、頭の回転の良さは賞賛に値するものだ」
「………アルセウス、けど僕はもう一度確認がしたい。ロキの言っている事は、全て真実なの?」
アルセウスへと視線を向け、抑揚のない声で問うレイジ。
するとアルセウスは、そんな彼に対してはっきりとした口調で、真実を告げる。
「――そうだ。お前は……私が創り上げた選定者の1人。私の力の一部をその身に宿した……私の分身と呼べるべき存在だ」
「…………」
わかりきっていた。わざわざアルセウスに訊かなくても……わかっていたのに。
まだ、心のどこかでは認められないと思っているのだろうか。
「う、嘘だろ……」
「レイジが、アルセウスに創られた……人間?」
「身勝手なものだろうレイジ? アルセウスは自らが世界を創ったからといって、それを自らが好きにしていいなどという考えを持っているのだ。
人間の傲慢さを責める前に、まず自分の傲慢さを償ってほしいものだ」
どこか、怒りすら抱いているようなロキの声。
しかし――レイジはそんなロキの言葉を、真っ向から否定した。
「――そんな事、どうだっていいよ」
本当にどうでもいいように、彼は言った。
その言葉は、カグヤ達だけでなくロキすら驚愕するようなものだった。
「何………?」
「確かに、自分の出生には少なからずショックを受けてる。
どうして、とか、なんで、とか……考えてないと言えば嘘になる。
だけど……たとえ僕が何であったとしても僕は僕だ、『マサラタウンのレイジ』という自分は、決して揺るがない!!」
自分が何者であろうと構わないと言ってくれた人達が居た。
そして今も自分を見守ってくれている仲間達が、居てくれているのだ。
ならばどうして、そんな言葉で自分を見失わなければいけないというのか。
「……うへぇ、お前切り替えはええな」
「そういうカイリは、自分の力がディアルガのものだって知って、ショックだった?」
「んなわけねえだろ。でもお前のは内容の大きさが違うじゃねえか」
「フン、お前とレイジを一緒にする時点で間違いなんだ」
「んだとぉっ!? そういうお前だって内心ではショックを受けてんじゃねえのか!?」
「そんなわけないだろう、確かに驚きはした。
だが……レイジの言ったように自分は自分だ。それだけで充分だろ?」
つまらなげに言うケイジに、カイリはまあな、と笑みを返す。
そう、ただそれだけの話なのだ。
そんな事実に自身を乱す程、少年達の心は弱くない。
「…………」
レイジ達のやりとりを見て、ロキの顔には驚きの色が。
それは当然だ、この言葉でレイジの心に揺さぶりを掛け、一気に自分のペースに持ち込もうと思っていたのに、まったくの効果なしだったからだ。
そして、カグヤ達もロキと同じくレイジ達の心の強さに驚きを隠せなかった。
でも彼らしいと、カグヤは自然と笑みを浮かべていた。
(……やっぱり、レイジは強いね)
迷いのない彼の言葉に、カグヤは素直に感嘆する。
……しかし彼女は気づかない。
彼が己を保ったまま真実だけを受け入れる事ができたのが、自分と……シロナ達の言葉によるものが大きい事に。
「それに今はどうだっていい、今は……この場であなたを止める事だけを考える。
これ以上、あなたのせいで悲しみを増やさないために!!」
全ては、これが終わってからの話だ。
内に宿った疑問は今は奥底に追いやって、レイジは…レイジ達はロキと対峙した。
「……よもや、ここまで強いものになっていたのか、お前の心は」
「僕の心は強くなんかない、支えてくれる仲間達が居るなら、どんな事だって立ち向かっていけるんだ」
「お前みたいに、1人じゃないからいくらでも強くなれるんだよ!!」
「…………」
〈おかしな真似はしないように、もし少しでも動いたら……一刀の元に斬り捨てます〉
既に、ティナの両手にはサイコセイバーが握りしめられており、脅しではない本気の殺気をその身に宿していた。
と、その時――ロストが持つモンスターボールから、あるポケモンが姿を現す。
「――ミュウツー」
「…………」
ロストの声にも反応を返さず、ミュウツーはロキをその鋭い眼光で睨みつける。
その顔は怒りに満ち溢れ、その身に纏うのは……殺意のみ。
〈……ミュウツー、お気持ちはわかりますが、勝手な行動をなさってはなりませんよ?〉
彼の心中を知っているティナは、その身に宿す激情を肯定しつつも、彼を優しく落ち着かせようと言葉を紡ぐ。
けれど、彼からの反応はなく緊張が深まる中、ミュウツーは己が怒りを懸命に抑えながら、ロキに対し口を開く。
「――何故だ。何故貴様は博士とアイを殺した? 彼等が一体貴様に何をしたというのだ?」
(………ミュウツー)
悲しみに満ちた、痛々しい口調は、聞くだけでレイジの心に鈍い痛みを発した。
しかしそれを嘲笑うかのように、ロキは言葉を返す。
「驚いた。何を言うかと思えば……まだそんなくだらない問いかけをしてくるとは思わなかったぞ、ミュウツー」
「くだらない、だと……!?」
「くだらないさ。兵器として生み出された存在だというのに、感情に振り回されるとは……貴様は所詮、失敗作だな」
本気の侮蔑と嘲りを含んだ言葉。
彼は、一欠片もミュウツーの大切な存在を無慈悲に奪った罪悪感を、抱いてはいない。
「き―――」
そして、それは。
ミュウツーにとって、何よりも許せない言葉であり。
「貴様ぁぁぁぁっ!!」
「ミュウツー!!」
〈ミュウツー、やめなさい!!〉
レイジとティナの制止の声すら届かないまでの怒りを、与えるものだった。
鬼のような形相で、右手に凄まじいサイコパワーを宿しながら、ロキへと向かっていくミュウツー。
それはまともに受ければ、人間の身体など粉々に粉砕してしまう威力を持っている。
しかしロキはその場で動く事はなく、不適な笑みを浮かべるのみ。
――そして、ミュウツーの手がロキに触れる瞬間。
彼は、悪夢を呼び寄せる言葉を、紡いだ。
「――因子、解放」
To.Be.Continued...