ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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現れたロキ。

復讐に燃えるミュウツーが、ロキへと迫る中。

悪魔は、ミュウツーを最悪の兵器に変える言葉を呟いた……。


第86話 堕ちたミュウツー〜現れる最悪の兵器〜

「グ、ガ――ッ!!?」

「―――っ!!?」

身体をくの字に曲げ、突如として苦しみの声を上げるミュウツー。

その様子は普通ではなく、更にレイジは見た。

苦しむミュウツーを見て、この上なく楽しそうに笑うロキを――

 

「貴様は失敗作だが……失敗作なりに利用価値が残っているのでな」

「ギ――キサ、マ……」

「何故お前がああも簡単に逃げられたのか、考えた事はなかったのか?

 ――つまりは、こういう事なのだよ」

「ガ、グ、ゥ………!」

 

消える。

内側から発芽した何かが、ミュウツー自身の意志を消していく。

どんなにもがいても抵抗しても、それを止められない。

 

「感謝してもらいたいなミュウツー、私はお前の怒りや憎しみを消してやっているのだ。

 ――馬鹿な博士とその娘の記憶すら、もうすぐお前の中から消えてくれるのだぞ?」

 

だから、楽になれ、と。

歪んだ笑みを浮かべたまま、ロキは非情に言い放ち。

 

 

「ガ―――アアァァァァァァァッ!!!」

瞬間、加速度的にミュウツーの意志が消えていった。

 

 

「っ、させるか!!」

しかしそれをただ黙って見ているレイジではない、左手を右腕に添えミュウツーに突き翳す。

意識は内側に、そして力ある言葉を解き放つ。

「――在るべき姿に還るんだ、ミュウツー!!」

手から放たれる白い光。それは迷う事なくミュウツーへと当たり―――何も、変化がなかった。

 

「なっ!?」

「無駄だレイジ、もはやお前の力は届かない。人の身では、その力を完全に使う事はできないからな」

「くっ! アルセウス!!」

自分の力が届かない、驚愕よりも理解の方が早かったレイジは、アルセウスに叫ぶ。

自分では無理でも、アルセウスならば。

 

「お願いだアルセウス、ミュウツーを元に戻して!!」

「――わかった」

大きく頷きを返し、アルセウスはミュウツーに向かってレイジと同じ、けれど彼よりも更に大きな浄化の力を解き放とうとして。

 

「―――待っていたぞ、その時を」

そんな、ロキの言葉を耳にしつつ。

レイジ達は、突然現れた黒い雷に包まれるアルセウスを、見た。

 

「ぐぁぁぁぁっ!!?」

「アルセウス!?」

「ぐ、ぁ――こ、これ、は……!?」

黒い雷を浴びながら、アルセウスはその声に驚愕の色を宿す。

 

「やはり、雷の属性を守る事はできないか」

「っ、貴様……まさか!?」

苦痛に耐えるアルセウスに、ロキはますます歪んだ笑みを浮かべ、まるで預言者のように両手を天に掲げた。

「見よ! これが私の最高傑作、空中要塞『ヴァルハラ』だ!!」

 

白い世界が、砕け散る。

元の世界に戻り、雲と青い空が見える中。

 

「………おい、なんだよ“アレ”は……」

震えた声で、カイリは空を覆い尽くす存在を、指差していた。

 

………。

 

それは、まさしく要塞だった。

黒一色で統一された禍々しいデザイン、王冠のような形でそのあちこちには砲身が飛び出している。

重量感溢れるその見た目は、見るだけで畏怖の対象となりえた。

その要塞――ヴァルハラの底には巨大な剣のような物体があり、そこからアルセウスを攻撃している黒い雷が発射されている。

 

「グ――貴様、私の一部を」

「ああ。お前の『いかずちプレート』は有効活用させてもらっているよ」

「いかずちプレート……?」

「アルセウスには自分の命の一部であり、各々の属性を無効化する16のプレートを所持している。アルセウスが絶対的な力を持つ由縁だ。

 尤も……今は16のうち5つのプレートを失っているがな」

「ぐ、が、は……」

 

数十秒もの雷がようやく止み、アルセウスの身体が重い音を響かせ地面に倒れる。

そして――ミュウツーもまた。

 

「グ、ゥ……ガ」

「どうやら、終わったようだな」

「ミュウツー……」

 

……違っていた。

もう、レイジ達の知るミュウツーではなく……ただの兵器としてのポケモンに、形果てていた。

腕や足は不自然に膨れ上がり、顔には既に生気はない。

しかし、レイジ達に向けられている感情は……殺意だけ。

何の躊躇いもなく、ミュウツーはロキの命令を受ければレイジ達を殺すだろう。

もう――誰の声も届かない。

ただの兵器と化した彼には、もう……意志というものは失われていた。

 

「テメェ……一体何をしやがった!!」

「ミュウツーの身体の中に埋め込んだプログラムを発動させるチップを呼び起こしただけだ。

 自我を失い、私の意のままに操れる兵器にする為の、な」

「酷い………!」

「私の所有物だ。私がどうしようと勝手ではないのか? それにミュウツーも辛い記憶を忘れて、ただの道具になる方が幸せだろうさ」

 

淡々と言い放つロキ、その口調に微塵の罪悪感など見られない。

 

「それが……それが人間のする事か!!」

「私に人間らしさを求めても無駄だぞレイジ、尤も……お前も同じような存在だが」

「元に戻せ! 今すぐにだ!!」

「それは無理な相談だ、こうなってしまえばもう二度とミュウツーは元に戻る事はない。

 ――このまま、兵器として生きる以外に選択肢はないのだよ」

「―――――」

 

怒りが、憎しみが。

この世全ての憎悪が、レイジに集まっていくようだ。

それほどまでに、目の前の男のやった事は許せない。

血が滲み出る程に手を握りしめ、射殺す気でロキを睨む。

しかし、それを前にしても彼は余裕を崩さない。

 

「さて……これでようやく整った。

 レイジ、これが最後になるだろうが……私と共に来る気はないか?」

「…………」

「来る気はないか……だが、もし断れば仲間の命はない、と言えばどうする?」

「っ」

 

あまりにも卑怯な物言いに、レイジの中にも迷いが生まれる。

……ここから逃げ出す事は不可能に近い。

でも、このような存在に従うくらいなら……レイジはそう思っている。

しかし……仲間の命を盾にされたら………!

 

「俺達の事なら気にすんなよ、レイジ」

「………カイリ」

「俺達だってお前と同じ気持ちなんだ、こんなヤツに従う理由なんかないぜ」

「カイリさんの言う通りです、ですから気にしないでください!」

「お前の望む通りにしろレイジ、おれ達はお前の選択を信じている」

 

誰もが、レイジの背中を押してくれている。

それが彼にとって、なによりも嬉しい事だった。

 

「……みんな、ありがとう」

迷いは、もうない。

感謝の意を示しつつ、レイジはもう一度真っ向からロキと対峙した。

「――そうか」

どこか、遠くから聞こえる声でロキは呟く。

 

「……つまらんな、お前は」

「――――」

心さえも凍ってしまうほどの、冷たい声。おもわず後ろに後退ってしまいそうになる。

 

「残念だ……この無意味な世界が壊れる様を、見せてやろうと思ったのだが」

「無意味……?」

「無意味だと思わないのか? 人間は自らを絶対者だと決めつけ、欲望のままに他者を喰らい、寄生し、肥え、増えていく存在だ。

 ――そんなものが、この世に存在していいと思っているのか?」

「そ、それ、は……」

 

その問いには、答えられなかった。

認めたくない、けど……否定する事だってできない。

人は過ちを繰り返し、その度に世界を壊し続けてきたのだ。

そんな人間が必要か、などと言われて……答えられるはずなどなかった。

 

「……まだ、人を信じる心があるのか?

 無駄だ。人はいつだって生き方を変えられないものだ、お前とてその力で身勝手な暴力を振るわれてきたのではなかったのか?」

「っ」

びくりと、レイジの身体が震え上がる。

決して消えない、過去の傷。

それが音を立てて、再び表に出ようと傷口を開いていく。

 

「私達は選ばれたのだ、この世界を……人間という愚かな存在を、消し去る役目を持って生まれた神なのだ!

 他の者にはないが、私達には資格がある!!

 レイジよ、選定者であるお前の力で、この世界を変えてみせろ!!」

「…………」

 

葛藤が、レイジの頭の中を渦巻いていく。

あの男の言っている事は危険だ、従う理由も意味もない。

内なる自分は必死にそう言い聞かせている、レイジとてその言葉が正しいと理解している。

なのに――どうして、否定の言葉が口から出てこないのか。

 

「――あくまでも、くだらぬ世界に加担するか」

それは、落胆だったのだろうか。

つまらなげに、憎々しげにそう吐き捨て――ロキはヴァルハラに指示を出す。

 

「もういい。アルセウスごとここで消え去れ。さらばだレイジ、あの世で後悔するのだな」

 

放たれる黒い雷。

アルセウスですらこんなにもダメージを受けた雷など、人間が受ければひとたまりもないだろう。

明確な死、それを前にしても、誰1人として目を逸らす事なく真っ向から立ち向かって――

 

 

――瞬間、黒い雷は虚しく地面を抉り。

  レイジ達の姿は、霞へと消えていった―――

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「…………」

逃げたか……。

無駄な足掻きをするものだな、神という存在は。

 

「さて……」

踵を返し、ヴァルハラの真下に移動する。

すると、私の身体が宙に浮き、ヴァルハラの内部まで移動した。

「おかえりなさいませ、ロキ様」

頭を垂れるフレアに視線を送りつつ、私は計画を開始する言葉を告げた。

 

「フレア、進行を開始するぞ」

「…………本当に、世界を壊すのですね?」

「不満か?」

「いえ……ワタシはロキ様の命令には従います。その為に、ここに居るのですから」

「…………」

 

よく言う、という言葉は放たなかった。

フレアが私の計画に反対なのは、よくわかっている。しかし、使える駒は手元に置いておいた方がいい。

さすがに使えないからといって、この女を他の部下と同じように“処分してしまうのは勿体ない”

 

(…………長かった)

 

思えば、僅か15年という月日だったが……私にとって永遠とも思える時間だった。

だが、これでようやくこのくだらなく無意味な世界を消す事ができる。

 

――15年前、私はアルセウスの力によってこの世に生まれた。

 

私は、初めてアルセウスによって生み出された選定者。

だが1人目という事でレイジとは違い、選定者としての役割や目的は知らされていたし、肉体も初めから成人したものであったし、与えられた力もレイジとは違い……アルセウスの知識だったが。

しかし……私にはそれが許せなかった。

与えられた目的を果たすために生み出された人形ような存在、空っぽの傀儡そのものだ。

だから私は憎んだ、身勝手な理由で私を生み出したアルセウスを。

 

そして――くだらぬこの世界を、憎んだ。

しかし、それも今日で終わりだ。

伝説のポケモンの強大な力のデータ、そしてアルセウスの一部である5つのプレートを用いて造り上げたこの『ヴァルハラ』さえあれば、このような世界など簡単に滅ぼす事ができるのだから。

 

「ロキ様、アルセウス達の処分は……」

「放っておけ。アルセウスはもはや殆ど力を使う事はできんし、傷を癒やした頃には全てが手遅れになっているだろう。

 ディアルガ達如きに落とされるヴァルハラでもない、あの小僧達も……ゴミにも劣る存在だ。捨て置いても構わん」

「…………」

「どうしたフレア、まさか不服か?」

「……はっきりと申し上げても宜しいのでしたら」

「……ほぅ」

 

その言葉に、少なからず驚いた。

意見をした事ではなく、まだ油断ならないと思っている事にだ。

 

「あの坊やは、何度も奇跡を起こしてきた存在です。たとえどんなに状況が有利だとしても、坊やはそれを覆す可能性があると――」

「くだらんな。もはやレイジの事などどうでもいい存在だ。

 フレアよ、まだあの純粋な瞳を忘れる事ができんのか? もう二度と取り戻せない光の世界に恋い焦がれているのか?」

「…………」

 

フレアは答えない、それをつまらなげに見ながら、私は歩を進める。

 

「準備をしろ。目指すはシンオウのリーグ本部……スズラン島だ」

まずは各地方のリーグ本部を潰す、そうすれば煩いゴミ達の抵抗も弱まるだろう。

(……終わるのだ。これで全てが……私と共に消え失せる)

それを邪魔する者は、たとえ誰であっても許さない。

そう――たとえ神であったとしても、だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……うっ、ぁ……」

背中に軽い痛みを感じながら、レイジは目を覚ますと同時に起き上がる。

周りを見回すと、全員軽い怪我があるものの無事のようだ。

 

「ヒ、ヒメカ…ミカン、どいてくれ……」

カイリだけは、ヒメカとミカンに乗られているようだが、怪我はないらしい。

「あっ、ご、ごめん!」

「す、すみません!」

 

「ふぅ……圧死する所だった」

「……ちょっと、それどういう意味?」

「私達が重いって事ですかそれ……?」

「あ、いや、そんな事はない……」

 

失言した気づいた時にはもう遅い、慌てて弁明をしようとするカイリだが、2人の迫力に圧され言葉が出ないようだ。

……打撃音と彼の悲鳴を後ろで聞きつつ、レイジはすぐさま苦しげに横たわるアルセウスの元へ。

傷は深く、普通のポケモンならおそらく死に至る程の傷だ。

 

「ホッホー、突然なにが現れたのかと思ったら……お主だったのか、レイジ」

「っ、ヨルノズク!?」

「という事は……ここは始まりの地ね」

改めて見回してみると、沢山のポケモン達が心配そうにアルセウスを見つめている。

 

「………おい、ヨルノズクが喋ったぞ」

「そういえばケイジはここに来るのは初めてだったな」

「今はそんな細かい事を気にしてる場合じゃないよ。ヨルノズク、アルセウスの傷を治してくれないか?」

「ふむぅ……そうしたいのは山々じゃが、これだけの傷を治すには――」

 

「……構わぬ。心配しなくても大丈夫だぞ、レイジ……」

 

「っ、アルセウス!!」

血だらけの身体を起こすアルセウスに、レイジはすぐさま制止の言葉を掛ける。

「ダメだよアルセウス、今自分がどんな状況になってるのかわかってるの!?」

「大丈夫だ……今はあやつらもいる」

「えっ……?」

その言葉の意味を理解するよりも早く……それらは姿を現した。

 

「うおっ!!?」

ヒメカ達に叩かれながらも、カイリは悲鳴に近い驚きの声を上げた。

――時空が歪み、現れる三体のポケモン。

それは、シンオウに住む者ならば誰もが知っている、神と呼ばれしポケモン。

ディアルガとパルキア。

そして――存在が殆ど伝わる事が無かった、アルセウスの分身の一つ――ギラティナの姿が。

この始まりの地に、集結していた。

 

「………嘘」

その呟きは、誰のものだったのか。

その場に居る全員がディアルガ達の登場に目を見開き驚く中。

「……君達が、僕達をここに移動してくれたんだね」

レイジだけは、ディアルガ達に助けられた事を自覚し、感謝の言葉を述べていた。

それと同時に、アルセウスの傷が少しずつではあるが、治っていく。

 

「これは……」

「ディアルガ達は私の一部でもあった、故に彼らの傍に居ればある程度は回復できる」

「なる程なぁ……便利なもんだ」

これならば、アルセウスの身体についての不安は消えた。

ならば……と、レイジはすぐさま気になっていた疑問を口にする。

 

「アルセウス、そのままでいいから説明してくれないか?

 ――ロキの事、そして僕達の事を」

「…………」

「確かに。このまま何も聞かないままにはできないか……」

「……わかっている。今こそ全てを話そう」

 

………。

 

――アルセウスから聞いた話は、常人には理解できない内容のものだった。

 

ロキがレイジより前に創られた選定者であり、反旗を翻したので新たにレイジを創った事も。

更に敢えて未熟な状態で創った彼を守るべく、彼と時を同じくして生まれた普通の人間に、ディアルガとパルキアの力の一部を与え、彼と巡り会えるように細工した事も。

全て、とてもじゃないが信じられるような話ではなかった。

 

「じゃあ、俺やケイジは力こそあるけど……」

「そう。力こそあるが普通の人間の家系に生まれた人間だ」

「……最初から、レイジと出会うように仕組まれてたのかよ。

 ポケモントレーナーになりたいって思った事も、初めからプログラムされてたのか……?」

「それは違う。あくまでレイジと出会えるようにしただけだ。

 ――お前の感情や夢は、お前だけのものだ」

「フン…随分と傲慢な計画を立てるんだな、お前は。ロキが反旗を翻しても仕方がない」

 

身も蓋もないケイジの言葉、しかし誰も彼の言葉を否定できる者はいなかった。

アルセウスの気持ちも確かにわかる、だがだからといってこの選択が正しいとは……。

 

「とりあえずこの疑問は置いておきましょう、どの道どんな方法を用いても明確な答えなんて出せないのだから」

パンパンと手を叩き、場の雰囲気を変えるシロナ。確かに彼女の言う通りだと、カイリ達は1度思考を別のものに切り替えた。

「とにかく今は、ロキを止めんとな」

「……あれを、か」

今思い出すだけでも、寒気がする。あの巨大な要塞ヴァルハラを打倒する手段などあるのだろうか。

 

「とりあえず、私は全国のポケモン連盟と国際警察にコンタクトを取って戦力を集めるわ」

「お願いします、シロナさん」

「さて……後はヴァルハラが今どこにいるかだが……」

「っていうか、ロキは何処に向かってんだ?」

「おそらく各地方のリーグ本部だろうな」

「へ、何で?」

「お前馬鹿が? 各地方のリーグ本部を潰せば、その地方のトレーナーに対して混乱を招く事ができる。

 それに、自分達の絶対的な力を世界に見せつける事ができるだろうが」

「な、なる程……ってかケイジ、馬鹿は余計だぞ馬鹿は」

「フン」

 

いつも通りの口調にカイリは怒鳴り散らしてやりたかったが、状況が状況なので我慢する。

 

「だとすると……一番近いスズラン島に」

「おそらくは、な」

「――ロストの言う通りだ。ロキは今スズラン島に向かって進行している」

「えっ、どうしてそんな事がわかるの?」

「私の瞳は世界中の物事が見える千里眼だ。ロキの行動くらいならわかる」

「うはぁ……さすが神様だなぁ」

「……何が神様なものか、私は過ちを繰り返す人間と……いや、人間とは比べものにならない程の愚か者だ」

 

悲しげに自嘲するようなアルセウス。

それでも――彼が放つ言葉は、嘲りでも罵倒でもなかった。

 

「……後悔は何も生み出さない、大切なのは反省して今の自分に何ができるかだよ、アルセウス」

「レイジ……」

「まあ、この言葉は僕のものじゃないけどね……」

そう呟きつつ、レイジの視線はカグヤへと向けられる。

――これは、いつか彼女が言っていた言葉。

この言葉で、レイジがどれだけ救われたか……おそらく彼女はわかっていないだろう。

案の定、視線を向けられたカグヤはちょこんと首を傾げるだけ。

 

「今の自分に、か……そうだったな、今の私にはそのような後悔をしている場合ではなかった。

 ――ディアルガ、パルキア、ギラティナ、お前達はレイジ達に協力してやってくれ。

 私も行きたいが、はっきり言って足手まとい以下だからな」

アルセウスの言葉に、大きく頷くディアルガ達。

「ふへぇ……シンオウ神話に伝わる神様達が味方かよ……ゴージャスどころじゃねえな」

「各地方への移動手段としても戦力としても申し分はないだろう、だが……それだけではまだ届かない」

 

「えっ……」

「届かないって、ロキには勝てないって事か!?」

「あやつには私の一部である5つのプレートが備わっている、それにあの要塞の戦力も考えると……まだ足りない」

「そんな………!」

 

アルセウスがそう言うのだ、間違いなくそれは真実なのだろう。

だとすると、もう打つ手が……。

しかし、アルセウスにも手がないわけではなく、彼の瞳は――レイジを捉えていた。

 

「レイジ」

「えっ……」

 

「今から、お前の力を完全に解放する。それならば……ロキを打倒できるかもしれん」

 

「僕の、力を……?」

「そうだ。もう方法はそれしかない。

 だからお前は暫しここに残り、力を解放してから合流しろ」

「…………わかったよ、アルセウス」

戦いの場に遅れる、それに対し一抹の不安はあるが、そう言われてしまえばそこまでだ。

 

「みんな、どうにか僕が行くまで――」

「お前が来るまでに、ロキをぶっ倒してもいいんだよな?」

「――――」

ニヤリと、意地の悪そうな笑みを浮かべ、カイリはレイジの言葉を遮ってそう言い放つ。

それには、さすがのレイジもキョトンとした表情を浮かべるが。

 

「……そうだね。僕も楽がしたいからそれでお願い」

すぐさま、笑みを浮かべて減らず口を言い返した。

 

「よっしゃ、そんじゃあ行くとするか!!」

「パルキア、転移の方はお願いね?」

うなり声のような鳴き声を上げつつ、全員を背中に乗せるパルキア。

質量の都合上ディアルガとギラティナは一緒に空間転移は不可能なので、先に行ってもらった。

 

「みんな、僕のポケモン達を先に連れて行ってくれ。少しでも戦力は多い方がいいだろうから」

言いながら、ボールホルスターごと手持ちポケモンをシロナに手渡す。

「ありがとう。レイジくん、貴方が来るのを待ってるわ」

「できれば私がピンチになった時にお願いね、王子様に助けられるお姫様な気分を味わいたいから」

「はいはい……」

大事な戦いの前だというのに……そんな事を思いつつも、いつもの彼女らしくて安心した。

そしてパルキアの雄叫びと共に、彼等の姿が消えた。

 

(みんな……頑張って)

「さて……では早速始めるとするか」

「うん」

「ホッホッホー、これお前達、レイジ達の邪魔になるからあっちに行っておれ」

気を利かせてくれたのか、周りに居るポケモン達と共に、ヨルノズクはレイジ達から離れてくれた。

 

「――リラックスしていればいい、苦痛や痛みは発しないからな」

「うん」

「…………しかしレイジよ、お前は本当にいいのか?」

「えっ……?」

「ロキから言われた言葉を、まだ心のどこかで引きずっているようだが」

「…………」

 

『無意味だと思わないのか? 人間は自らを絶対者だと決めつけ、欲望のままに他者を喰らい、寄生し、肥え、増えていく存在だ。

 ――そんなものが、この世に存在していいと思っているのか?』

 

『……まだ、人を信じる心があるのか?

 無駄だ。人はいつだって生き方を変えられないものだ、お前とてその力で身勝手な暴力を振るわれてきたのではなかったのか?』

 

アルセウスの言葉で、あの時ロキに対して告げられた言葉を思い出す。

……人間は、愚か者でしかない。

自分を含めて、救いようのない愚かな存在だ。

それを否定する事は、レイジにはできなかった。

だが、それでも―――

 

「――それでも、僕はこの世界と……この世界に生きる人達が大好きだから、信じる心は捨てられない」

この長い旅で見つけた答えを、今ここではっきりとアルセウスに告げた。

 

「――――」

「僕はそう信じてる、だから……もう迷わないよ」

世界を選定するつもりなどない、でも……自分の目と心で見てきたこの世界を、無くしたいとは思えなかった。

「………そうか」

呟く言葉はたった一言、けれどそれでレイジにはアルセウスの心を理解する事ができた。

 

「――では、今から私の力をお前に流す。

 さすれば、ロキも打倒できる力を持つ事ができるだろう」

 

――しかし、とアルセウスは言葉を一度切る。

 

そして、レイジに対しあまりにも非情な事実を口にした。

 

 

「レイジ、完全に解放した力を全て解き放った時には残念だが、お前の身体は力に耐えきれず、消滅するだろう。

 すなわち――力を使えば、お前は“死ぬ”事になる」

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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