ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
奮戦する中、カグヤ達は気づいていなかった。
——黒き悪魔が、近づいている事に
――死闘は、まだ続いていた。
「みんな、大丈夫!?」
「こっちは大丈夫……とは言いたいが、大半のポケモンがやられちまったぜ」
「っ」
オーバの言葉に、カグヤは下唇を噛み締める。
戦況は一応互角だが、こちらの戦力は既に半分以下にまでなっていた。
カグヤも既にメガニウムとクチート、更にはカメックスまで戦闘不能だ。
対するデッドポケモン達は、まだ20体以上残っている。
第二陣として現れた敵の能力は、第一陣よりも強力だったからだ。
(まだ、終わった訳じゃないんだから………!)
絶対に諦めない、最後の最後まで。
約束したのだ、レイジが来るまで持ちこたえてみせると。
普通に考えれば、彼1人がここに来たとしても、戦況は変わらないだろう。
しかし、彼ならば必ずこの戦いに勝利をもたらしてくれると信じている。
ならば、そんな彼が来るまでどうして諦められるというのか。
「カグヤ!!」
「えっ―――?」
シロナの声に、我に返った瞬間。
カグヤの身体を貫こうと、ニドキングの角が眼前まで迫り———
「チッ………!」
ふわりと、身体が浮くような感覚と共に…いつの間にかケイジの隣に移動していた。
「ケイジ……」
「グライオン、ギガインパクト!!」
標的を見失い隙を見せたニドキングの背中に、グライオンのギガインパクトが見事命中し瓦礫の中に吹き飛ばす。
「ぼさっとしてるな! 邪魔をするならここから消えろ!!」
「ご、ごめん……」
言い方は乱暴だが、彼の転移能力に助けられたのは事実なので、素直にお礼の言葉を口にする。
と、レイジから預かっているボールホルスターから、聞き慣れた声が。
〈カグヤ、どうしてわたくし達を出さないのですか?〉
声の主はティナからだ、どうやらボールから出てはダメだというカグヤの指示に不満があるらしい。
「ティナ、あなた達はレイジが来るまで体力を温存してて」
〈しかしこの状況では少しでも戦力を……〉
「ダメだよ。レイジもティナと同じ考えだったからあなた達を預けたのだけど、ロキとの戦いの時まで万全の状態を維持しないと」
あの悪魔と戦えるのは、レイジだけだ。
ならば、彼のパートナーである彼女達に無駄な戦いはさせられない。
「………?」
自分のポケモン達に指示を出しながら、カグヤはふと上を見上げた。
――カイリ達の姿がない。
ディアルガと共に、ヴァルハラに攻撃を仕掛けていたはずのカイリ達が……見当たらない。
落とされた? 否、そんな事あるはずがない。では何故―――
そこまで考え、カグヤはティナの声によって現実へと戻る。
〈っ、カグヤ、伏せてください!!〉
「えっ?」
悲鳴にも似た、ティナの声。
それに反応し、顔を上げた時には。
改眼前に、何か、黒い悪魔が、自分の首を砕こうと、拳を振り上げていた。
「――――」
死ぬ。
明確な死、逃れられない未来を理解して、カグヤの思考は停止した。
一瞬先に自分の頭蓋は跡形もなく砕かれて、痛みもなくこの世に別れを告げる事になるだろう。
それに対する恐怖などない、というより恐怖を抱いている時など彼女に与えられてはおらず……。
しかし、まだ彼女が死ぬ運命ではなかったようだ。
〈っ、く―――!〉
「―――、ぁ」
自分を守るように現れた一体のポケモン。
人間の女性とほぼ同じ体つきながら、両手に持つのは人間には成し得ない力を秘めた光り輝く双剣。
その名はティナ、レイジの一番のパートナーポケモンである。
〈カグヤ、早くこの場から離れてください!!〉
「っ、う、うん!!」
急ぎ、言われた通りその場から離れるティナ。
他の面々も、いきなり現れた存在におもわず言葉を失っていた。
………黒き悪魔。
全身は重厚な鎧に包まれ、波導遣いアスが装着していた鎧とまったく同じだ。
しかし、アスと違う点は……鎧の間から見える、見覚えのある白い尻尾。
「――――」
それを見て、カグヤ達の表情が固まった。
あれでわかる、あの存在は……。
「ティナ、下がれ!!」
ボールから飛び出し、ティナにそう叫ぶのは既に必殺の一撃を叩き込もうとしているルギア。
それに反応し、無理矢理間合いから離れるティナ。
黒き悪魔も、そんなティナを追おうと足を動かそうとして。
「くらぇぇっ!!」
全力で放たれたルギアのエアロブラストを受け、他のデッドポケモンを巻き込みながら、瓦礫の山へと吹き飛んでいった。
「フン、これでおとなしくなったか?」
〈……ルギアは、そう思っていますか?〉
吹き飛んでいった場所を睨みながら、ティナは静かに問いかける。
しかし、ルギアから返ってきた答えは……。
「……たわけが。思っているわけなかろう」
ティナの予想通りの、答えだった。
――瓦礫の山が吹き飛ぶ。
中から現れたのは、ルギアのエアロブラストをまともに受けたはずの、黒き悪魔。
「な、なんだアイツは……あれもデッドポケモンなのか?」
「……正確には違うわオーバ、だけど……あのポケモンはデッドポケモンなんかよりよっぽど厄介な存在よ」
「――ミュウツー」
「…………」
もはや、ロストの声にすら反応しない黒き悪魔―――ミュウツーは。
「――目障リダ」
鎧の隙間から僅かに見える口元を醜く歪ませ、宙に浮き攻撃を開始した。
〈みなさん、一度この場から逃げて!!〉
ティナの声と同時に、ミュウツーは七十近いシャドーボールを一斉に撃ち放つ。
まるでりゅうせいぐん、否、それを遥かに上回ったそれはまさしく暴力の塊だ。
軌道はめちゃくちゃ、カグヤ達でなく味方であるはずのデッドポケモン達にすら降り注いでいく。
「お、おいおいなんだよアイツは!! 敵味方関係なしかよ!?」
「ライチュウ、ボルテッカー!!」
「ライライライライライライ………!」
デンジの指示を受け、フルパワーのボルテッカーを叩き込もうとミュウツーに突撃していくライチュウ。
それを、ミュウツーは左手を前に掲げ――それだけでボルテッカー状態のライチュウを弾丸のように吹き飛ばした。
「ライチュウ!!」
瓦礫の山の中に消えたライチュウ、そこから起き上がってくる気配はない。
「っ、ガブリアス。ドラゴンダイブ!!」
続いてはシロナがガブリアスに攻撃を命じる。
強力なガブリアスのドラゴンダイブ、これならさしものミュウツーもダメージを受ける。
そう、誰もがそう信じていたのに。
「――邪魔ダ」
一言、たった一言そう呟いたと思った瞬間。
ミュウツーは、一瞬でガブリアスの真上に移動し、その身体を地面へと叩きつける―――!
「ガブリアス!!」
たった一撃、たった一撃でシロナの切り札であるガブリアスが、戦闘不能になった。
それを見て、全員が戦慄する。
これは夢だと、たちの悪い夢だと思いたくなった。
だが、その隙が仇となる。
シロナの眼前に、一瞬で移動するミュウツー。
その口元には、これからとるに足らない獲物を蹂躙する喜びに満ちた、狂った笑みが浮かべられている。
「シ―――」
声を出す余裕もない。
誰も彼女を助けに入る事ができず、そのまま最悪の未来を迎える事に。
「っ、………!?」
その瞬間、何か巨大な腕がミュウツーを吹き飛ばした。
「パルキア!!」
「グォアァッ!!」
雄叫びを上げながら、瓦礫の中に消えたミュウツーに追撃を仕掛けるパルキア。
その巨大な右腕には、凄まじいエネルギーが込められている。
それをいち早く察知したシロナは、全員に聞こえるよう声を振り絞って叫ぶ。
「みんな、散って!!」
叫ぶと同時に地面に倒れているガブリアスをボールに戻し、パルキアから離れる。
他の面々も、シロナの声を聞き急ぎこの場から全力で離脱する。そして―――
「ギィガギャアッ!!」
パルキアの究極技――あくうせつだんが、辺り一面をまとめて吹き飛ばした。
「うおわぁっ!?」
「きゃあぁぁっ!!」
その威力はただ凄まじいの一言であり、避難したはずのカグヤ達すらも吹き飛ばすほど。
しかし、ティナ達ポケモンの力で、全員に怪我はなかった。
「す、すげえ……なんてパワーだ……」
パルキアの超パワーに、全員が驚きほんの僅かに恐怖した。
〈…………〉
「……ティナ、倒したと思う?」
〈………カグヤは、どう思っていますか?〉
「………倒してないに、今日の夕食全部」
〈じゃあ、賭けになんかなりませんね〉
つまらなげにティナがそう呟いた瞬間。
瓦礫の山が吹き飛び、ミュウツーが再びカグヤ達の前に姿を現した。
だがさすがにパルキアのあくうせつだんをまともに受けたせいか、黒い鎧は殆ど原形を残してはおらず、ミュウツーの身体の至る所に痛々しい傷が生まれている。
「う、嘘だろ……化け物か、ヤツは」
「――バシャーモ、ブレイズキック!!」
相手が立ち上がった以上容赦などする必要はない、ケイジはすぐさまバシャーモに指示を出す。
踏み込み、炎を込めた脚をミュウツーに繰り出すバシャーモ。
だがその一撃は、ミュウツーの左手一本で止められてしまう。
「シャモ!?」
「何――!?」
そして、軽々とバシャーモを投げ飛ばし瓦礫の中に。
〈っ、まだこんな力が残って………!〉
「……ヤッテクレタナ」
憎悪に満ちた声で、再び周りへ特大のシャドーボールを生み出すミュウツー。
「フローゼル、アクアジェットだ!!」
しかし、真横から現れたフローゼルによってその技は中断された。
だがそのフローゼルは、マキシのフローゼルではない。
「ど、どうだミュウツー……ちっとは効いたろ!
そこに現れたのは、ヒメカに肩を貸してもらっている傷だらけのカイリ。
「カイリさん!!」
すぐさまミカンがカイリの元に向かう、既にその瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「よ、よぉミカン……まだ大丈夫だったか」
「カイリさん、どうしてこんな怪我を………!」
「ち、ちょっとミュウツーにやられてな……ディアルガのヤツはまだダウンしてやがる……。
俺達を庇うために、自分を犠牲にしやがったから……」
息をするのも苦しそうだ、しかしここで疑問が浮かぶ。
ミュウツーにやられたのなら、ヒメカとてタダでは済まなかったはずだ、だというのに……彼女には傷一つ見当たらない。
どうして……そんな疑問が浮かぶと同時に——その理由を理解する。
「……まさか、カイリさん『時戻しの力』でヒメカさんの傷を……」
「ア、アハハ……ま、まあな」
「わたしは大丈夫って言ったのに、傷だらけの身体で『力』を使って……しかも、ディアルガに使う余裕を残さなかったのよ……」
呆れと申し訳なさを混ぜたような彼女の口調に、カイリはますます居心地が悪くなる。
が、ケイジの言葉ですぐさま現状を再認識した。
「何をやっているんだカイリ!! ミュウツーはまだ倒れてないぞ!!」
「わ、わかってる……フローゼ―――ぐっ!?」
フローゼルに指示を出そうとして、苦しそうな呻き声を上げ膝を折るカイリ。
「っ、エンペルト、ハイドロカノン!!」
これ以上カイリを戦わせるわけにはいかない、そう判断したミカンはカイリのフローゼルの代わりに自分のエンペルトでミュウツーに追撃を仕掛ける。
「――邪魔ダ」
しかし、ハイドロカノンはミュウツーに当たる寸前で霧散してしまい。
「メタグロス、だいばくはつ!!」
その隙にミュウツーの眼前にメタグロスを出し、至近距離でのだいばくはつ―――!
爆撃じみた音を響かせ、爆発でミュウツーの身体が消えてしまうが、ミカンの攻撃は終わらない。
「エンペルト、ふぶき!」
メタグロスをボールに戻しながら、エンペルトに指示を出すミカン。
ふぶきを放ち、煙を吹き飛ばしながら見事ミュウツーを追撃する。
だいばくはつが効いたのか、ハイドロカノンのように弾かず両腕を交差しふぶきを防ぐミュウツー。
「ジバコイル、でんじほう!!」
更にジバコイルを出し、でんじほうでミュウツーの身体を電撃で包み込んだ。
「グ、ォ………!」
僅かに聞こえた、ミュウツーの呻き声。
(これで決めないと……後がない―――!)
これだけの化け物相手にチャンスがやってくるなど皆無だ。
だから、何がなんでもこのチャンスを逃すわけにはいかない―――!
「エアームド、エアスラッシュ!! ドータクン、ジャイロボールです!!」
今度は両手でエアームドとドータクンを同時に出し、未だ続くエンペルトのふぶきと共に攻撃を仕掛ける。
(次で決める!!)
この連続攻撃の後に、切り札であるハガネールのフルパワーアイアンテールで攻撃すれば、いかにミュウツーとて大ダメージは避けられないはず。
そう思い、ミカンはハガネールを出そうとボールを手にした瞬間。
「―――ナメルナァァァァァッ!!!!」
怒りに満ち溢れたミュウツーの怒声がそのまま衝撃波となり、ミカン達をまとめて吹き飛ばしてしまった。
「きゃあぁぁぁっ!!」
「ぐ、おぉぁぁっ!!」
瓦礫にぶつかる者、地面を転がっていく者。
それは平等に暴力となって……収まった時には、ミュウツー以外立っている者はいなかった。
「ぐ、ぁ……」
痛みに耐え、立ち上がろうとするカイリ。しかし身体が鉛のように重くなり、動いてはくれなかった。
そこに、ミュウツーはゆっくりと近づいてくる。
(……殺され、る)
死の恐怖と、勝てない悔しさがごちゃ混ぜになった思考は、カイリに諦めという逃げ道を作り出す。
みんな倒れた、自分のポケモン達だって殆ど戦えない。
なら……もうこれ以上戦った所で。
「――待、て。ミュウ、ツー」
「…………」
立ち止まり、その場で後ろに振り向くミュウツー。
そこには、先程の声の主であるロストが、レジェンドと共にミュウツーと対峙していた。
「まだだ……まだおれ達は、負けてない」
「邪魔ダ、先ニ殺サレタイヨウダナ」
満身創痍になっている相手にも、ミュウツーは微塵の情も見せる事はない。
左手をロストに向けて翳し、その命を狩ろうと力を込める。
だが、それでもロストとレジェンドは一歩も譲らずに、ミュウツーを睨みつけていた。
「おれはお前の主人だ、絶対に……お前を止めてみせるぞ」
「…………」
(ロスト、さん……)
彼は、ミュウツーを倒すのではなく……助けようとしている。
自分のポケモンとして、過ちを繰り返させないために……命を懸けて。
(………俺、は)
なんて弱いのか。
こんなに簡単に諦め、戦意を喪失するなど……ディアルガの力をこの身に宿しているのに、そんな事は許されない。
この力は、レイジを――そして大切な仲間を守るために存在しているのだ。
ならば、こんな所で諦める事など許されない。
「ぐ……ぁ、おぉぉあぁぁぁぁ………!」
バラバラになってしまうと思える程の痛みも苦しみも関係ない、己の身体に渇を入れる為に叫びながら――カイリは立ち上がった。
「はぁ…はぁ…はぁ……ミュウツー、これ以上は……やらせねえ!!」
「…………」
「……そうだな。やられっぱなしというのは、癪でしかない……」
「………ケイジ」
「ミュウツー……俺達人間は、お前達ポケモンと比べて何の力もない弱い存在だ。
でもな……心の強さだけは、ポケモンにだって負けないくらい強いんだぜ!!」
諦めない心、それだけで戦いに勝利する事などできるわけがない。
それでも負けないと誓った心は時に、何者にも勝る力を生み出す事だってあるのだ。
「……………」
暫し、無表情でカイリを見つめていたミュウツーであったが。
「――クダラナイ、ナ」
そう呟き、笑いながら。
足元に倒れているカグヤの髪を掴み上げ、その華奢な首を締め上げ始めた。
「なっ―――!」
「くっ、レジェンド、かえんほうしゃ!!」
すぐさまカグヤを解放しようと、レジェンドがかえんほうしゃを放つが、ミュウツーの周りに現れたバリアによって霧散してしまう。
「やめろぉぉぉっ!!」
「かっ…は……!」
息ができない。
ミシミシという音に比例して、カグヤの意識が薄れていく。
もちろん抵抗しようともがくものの、まったく意味をなさず視界も霞がかってきた。
「ぅ、ぁ………」
だらんと力なく手を下げ、カグヤの意識はもう殆ど残されてはいない。
「……レ、イ、ジ……」
死を自覚し、最後に思い浮かべたのは……最愛の少年の顔。
(ごめん、ね……)
それは、何に対しての謝罪だったのか。
人生最後の涙を流し、カグヤは意識を手放す。
――しかし。
カグヤはまだ、この世の別れをする事は、なかったようだ。
鈍い音と共に、ミュウツーが吹き飛ばされる。
「えっ………」
もちろん、カイリ達でもポケモン達が行った事でもない。
しかし、ミュウツーの強固なバリアを砕きあまつさえその顔面に“蹴り”を叩き込んだのは……カイリ達のよく知る人物だった。
「っ、ゲホッ、ケホッ!」
急に呼吸が行え、激しく咳き込むカグヤ。
一体何故自分はまだ生きているのか、その疑問は苦しみによってあやふやなものになるが、聞き慣れた声によってその意識は瞬時に覚醒した。
「――間に合ってよかった、カグヤ……大丈夫かい?」
「――――」
ここでようやく、カグヤは自分が誰かに抱きかかえられている事に気づく。
しかし、この声は……。
すぐさま顔を上げると、そこには――自分の大好きな優しい笑みを浮かべた“彼”が居た。
「――レイジ」
「さあ、最後の決着をつけるよカグヤ。僕達がまた楽しい旅を続けられるようにする為に!」
To.Be.Continued...