ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】 作:マイマイ
今まさに、最後の戦いが始まろうとしていた……。
―ー走る、走る、走る。
金属で作られた床を鳴らしながら、レイジ達はただひたすらに走っていた。
「……本当に見張りがいないのね」
「今このヴァルハラに居るのは、僕達を除いてはロキと……あのフレアという女性しか居ませんからね」
「あれ……? 確か幹部ってもう1人居なかったっけ?」
「たしかマーダという男の幹部だったわね……」
「……どうしてかはわからないけど、あの男の気配は感じられないよ」
「……それにしても、不用心だよね。
これじゃあ『どうぞお入りください』って言ってるようなものじゃない」
「あのバリアがあったから、見張りなんか配置する必要なんかないと考えたのでしょうね、きっと」
「…………」
本当にそうだろうか、シロナの言葉に耳を傾けながら、レイジは思考に耽る。
……あの男は、とうに正気ではない。
いや、同じくアルセウスから創り出された自分も初めから正気ではなかったかもしれない。
とにかく、もうロキに人間の……世界の理が通用するわけがないのだ。
一体何を考えているのか、その目的すら既に不透明になっている以上、この議論もまったくの無意味でしかない。
しかし、今自分達にできる事は一つしかない以上、何も考えずに前を向いて歩むのみ。
――やがて、レイジは足を止めた。
彼の目の前には、何の変哲もない機会仕掛けの扉が。
だが、彼が足を止めたという事はすなわち――
「――この先に、居るのね?」
シロナの声に、黙って頷きを返すレイジ。
この先に、あの悪魔が居る。
「……………」
扉を開けようとして、ほんの少しだけレイジの中に迷いが生まれる。
ここに入れば――もう後戻りはできない。
この戦いに勝利しようが敗北しようが、自分に待っている結末は―――死。
既にアルセウスから解放された力の反動は、レイジの身体を取り返しのつかない所まで蝕んでいる。
しかしそれは仕方のない事なのだ、元からアルセウスはレイジを脆弱な創り方で生み出したのだから。
それにこの力がなければ、ヴァルハラに侵入する事も叶わなかったのだから、今更というものである。
そう、彼の結末は仕方のないものなのだ。
――だが、それでも。
根本が人間である以上、死にたくないと思ってしまうのもまた——仕方のない事だと思いたかった。
まだやりたいことがあるし、生きていたいと思う。
大切な仲間や……かけがえのない存在だってできたのだ。
それなのに、どうして死にに行く運命を受け入れなければならないというのか。
逃げてしまえ、と。
お前なら、それが許されると、内なる自分が訴えかける。
そんな決意も覚悟も必要ない、全て忘れてここから逃げてしまえばそれはどんなに。
「レイジ?」
「レイジくん、どうしたの?」
「――――」
2人の声で、我に返る。
……そして、自分の弱い心に本気の嘲りと罵倒を送りたくなった。
――もう、遅いのだ。
何もかも全てが手遅れになったのに、まだ逃げようという心があった事に恥ずかしくなる。
何の為にここまで来たのかを、レイジはもう一度思い出して。
「………なんでもない、行こう」
そっと、二度と迷える心が出ないように、固く蓋をした。
「………?」
レイジの反応に疑問を抱く2人だが、すぐさま思考を切り替え身構える。
彼女達は知らない――自分達の言葉で、彼が二度と戻れない道を再び歩んだ事に。
ガスの抜けたような音を立てながら、扉は呆気なく開かれる。
そして彼等を迎え入れたのは、1人の悪魔。
「――来たか。待ちわびたぞ、レイジ」
この上なく嬉しそうに、片手を上げて言葉を紡いだ。
ロキの傍らには、レイジを見つめるフレアの姿が。俯いているせいで、表情は伺えない。
「…………」
既にロキに対して掛ける言葉などない、黙って歩を進めていくレイジ。
しかしそれでも、ロキの表情は嬉しそうだ。
「さて……無駄話をする必要はないか、それでどうする? お前は私に何を望んでいるのだ?」
「……この世界から、消えてほしい」
叶いもしない願いを口にするが、返ってきたのは冷酷な言葉だけ。
「それは無理な願いだなレイジ、私の目的は世界の崩壊だ。――お前とて、わかっているのではないか?」
「…………」
「しかし、よもやここまで抵抗されるとは思わなかったぞ。ミュウツーも、どうやら敗北したようだ」
「カイリ達が勝ったんだ!」
「だが使えぬヤツだ、人間如き始末できんとは……ゴミにも劣る道具だった」
「っ、この………!」
「シロナさん、怒る必要なんかないですよ」
踏み込もうとするシロナを、驚くくらい静かな声でレイジは制した。
そんな彼に、シロナだけでなくカグヤも驚きを隠せない。
彼からは、ロキに対する怒りも憎しみも感じられないからだ。
あるのは――どうしようもないくらいにまで大きくなってしまった悲しみと。
……これは、“憐れみ”だろうか?
今確かに、レイジはロキに対して憐れみの感情を見せている。
それに気づいたのか、ロキは忌々しげに表情を歪ませた。
「気に入らんな、その瞳……私を憐れんでいるのか?」
「そうだよ。あなたが、あまりに可哀想だから……僕は憐れんでいる」
「っ」
その言葉に、ますますロキの表情が険しくなっていく。
殺気立ち、場の空気が重くなる中で。
「消えるべきなんだ、あなたは。この世には存在してはいけない」
「ほぅ……私が存在してはいけないのならば、お前はどうなのだ?」
「…………」
「わかっているようだなレイジ、私もお前も……この世に存在すべきではない事に」
「あなたとレイジくんを一緒にしないでもらえるかしら?
レイジくんはあなたのように、この世界を身勝手な理由で傷つけたりしないわ!」
「そうだよ。レイジをあなたみたいな悪者と一緒にしないで!!」
「悪者……つまり私は悪という事か、しかし何故お前達は私を悪だと決めつけるのだ?」
「そんなの当たり前じゃない!!」
「何故当たり前だと? まさか人やポケモンを無慈悲に傷つけるからなどというつもりか?」
「……それが悪に該当する事ではないと?」
シロナの言葉に、先程まで不機嫌そうだったロキの表情が、愉快げに歪んだ。
まるで、その問いこそ待ちわびたものだったというように。
「では訊くが、お前にとっての悪とは何だ? 人やポケモンを傷つけ、殺める事か?
何故それを、絶対的な悪だと決めつけるのだ?」
「そんな事――」
決まっているではないか、そう言いかけてシロナは言葉を切った。
根本的な理由、何故他者を傷つけるのが悪になるのか。
そんな事は当たり前だ、この世界における生きとし生ける者にとってそれが悪だと誰もが知っている。
けれど何故“悪なのか”と言われてしまったら……答えは出ない。
「そうだ。この世に明確な善や悪など存在しない。人は人が定めた善悪に従って行動する。
すなわち私は、善でも悪でもないのだよチャンピオン。
そのような不透明な存在に縋らなければ人は生きていけない、ならば……この世界に価値などない」
「――――」
言い切った。
ロキは、本気で……心の底からこの世界は無意味なものだと、言い切ったのだ。
たとえ世界中の誰もが否定しても、決して曲げない強い意志を感じ――身体が凍った。
……否定できない。
ロキの言葉を否定しなければならないのに、それができない。
いやむしろ、この男の言っている事こそ―――
「――もういい」
「…………」
澄んだ力強い声が、場に木霊した。
声の主――レイジは、そう告げてモンスターボールを握りしめる。
「この世に明確な善悪がなくても、あなたの存在そのものが人を不幸にするんだ。なら――ここであなたを倒す」
「……ふん、あくまでもこのような無意味な世界を守るか」
「無意味かどうかはあなたが決める事じゃない。未来に生きる人達が決める事だ。
ここで消えるべきなんだ、あなたも僕も……この世界には必要ない!!」
「教えてやろう、甘い戯れ言しかほざけぬ貴様と貴様のポケモン達では……何もできんということをな」
睨み合う両者。
……もはや、そこに介入できる者はいない。
カグヤもシロナも、手助けをしようという選択肢を選ぶ事ができなかった。
そして――ロキの傍らに居たフレアもまた。
(…………坊や)
「――あなた、これが本当に正しい事だと信じているの?」
「…………」
「フレアさん、あなた本当は……自分のやっている事が、間違いだって気づいているんじゃないですか?」
「…………今更、生き方を変える事はできないのよお嬢さん。
ワタシは、坊ややお嬢さんのように強く生きる事はできない」
「そうやって諦めたら何も――」
「人はね、誰もが強く生きれるわけではないのよ」
「…………」
その言葉で、カグヤは何も言えなくなる。
フレアにはフレアにしかわからない苦しみや悲しみがある、それをむやみやたらとわかった気でいるのは……傲慢でしかない。
……だが、それでも。
「それでも……諦めたらそれで終わりです。
自分にはできないと、できるわけがないと諦めたら……もう、何もできないんです」
カグヤは、この言葉を信じたかった。
………。
「ヒカリ、お願い!!」
「出ろ、テッカニン」
(――始まるのね)
世界の命運を決めるバトルなど、なんと無意味なものか。
トレーナーはそんなものの為に存在しているわけではない、しかし……もうレイジ達に任せるしかないのだ。
「さあ、精々楽しませろ!!」
「っ」
テッカニンの身体に、禍々しい紫色のオーラが立ち上る。
それと同時に、テッカニンのパワーが先程とは比べものにならないほどアップした。
「ロキ……またこんな非道な“薬”を………!」
「私のポケモンだ、どう扱おうが勝手ではないのか?」
「くっ………!」
「ピカピッ!!」
「えっ……?」
〈レイジ。レイジの力でピカをパワーアップさせられないの?〉
「それは……」
方法なら、ある。
アルセウスの力を用いれば、可能だ。
しかし……それを使えば身体にかなりの負担がかかってしまう、そんな事をするわけには……。
〈ピカ達なら大丈夫だよ! だから信じて力を使って!!〉
「ヒカリ……」
「どうした? 来ないのならこちらから行くぞ。――テッカニン、れんぞくぎり」
羽音を響かせながら、両腕でヒカリに攻撃を仕掛けるテッカニン。
そのスピードは速く、通常の速さではない―――!
――だが。
「内なる力よ、我が命に従い――その力を解き放て!!」
レイジがその言葉を紡いだ瞬間――ヒカリの姿がその場から消える。
「ぬっ……テッカニン、後ろだ!!」
すぐさま後ろに振り向き、両腕を振り上げるテッカニン。
それと同時に、ヒカリのアイアンテールと真っ向からぶつかりあった。
「ピカッ!?」
「くっ!!」
全身を優しく淡い青色のオーラで包んだヒカリの口から、驚愕の声が。
今の自分のスピードに反応できるとは思わなかったのだろう、だがすぐさま表情を引き締めテッカニンから離れる。
「10まんボルト!!」
「ピーカチュゥゥッ!!」
「かわしてれんぞくぎりだ」
三つ叉の槍のような10万ボルトを回避し、テッカニンは右腕でヒカリを吹き飛ばす。
「ピ……カッ!!」
空中で後ろ宙返りをしながら着地し、更に踏み込んできたテッカニンの攻撃を左に跳んで避ける。
着地と同時に跳び上がり、反撃に移った。
「アイアンテール!!」
「ピィィカッ!!」
一回転し勢いをつけたアイアンテール。
それを、テッカニンは両腕を交差させ完全に受け止めてしまう。
「かみなりだ!!」
「ピィィィカ…チュゥゥゥゥッ!!!」
アイアンテールを繰り出した格好のまま、特大のかみなりでテッカニンを包み込むヒカリ。
それを防げるわけもなく、まともに受けて地面に落ちるテッカニン。
「シャドーボール」
落ちながら、同じく落下していくヒカリの腹部にシャドーボールを叩き込んだ。
「ピカァッ!!」
空中で回転しながら、勢いよく地面に転がっていくヒカリ。
「ヒカリ!!」
「ピ……カ……」
かなりのダメージを受けたのか、なかなか立ち上がれない。
そこへ、テッカニンの追撃が迫る―――!
「テッカニン、はかいこうせん!!」
「ヒカリ、立って!!」
「ピ、カ……」
もう遅い、テッカニンのはかいこうせんは発射され、凶悪な光線がヒカリを包もうとして……。
間一髪、両手両足に力を込めて跳び上がり、はかいこうせんを回避した。
「10まんボルト!!」
「ピーカチュゥゥッ!!」
回避と同時に放たれる10まんボルト。
直線上に走り、はかいこうせんの反動で動けぬテッカニンを包み込む!!
「今だヒカリ!! ボルテッカー!!」
「ピカピカピカピカピカピカピカピカ………!」
黄金の光に包まれ、突撃していくヒカリ。
そして――ボルテッカーの衝撃がテッカニンを弾丸のようなスピードで吹き飛ばす!!
「…………」
無言でテッカニンをボールに戻すロキ。
「ピカ…ピカ……」
「――ヒカリ、戻って」
肩で大きく息をするヒカリを、ボールに戻す。
やはり疲れは大きいのか、暫くはまともに戦えないだろう。
しかし、それはレイジの力も起因している。
ロキのポケモンは全員非道な薬で限界以上の力を引き出されている、まともに戦えばティナ達に勝ち目はない。
だから、レイジもアルセウスの力でティナ達を限界以上までパワーアップさせている。
もちろんロキに比べれば負担はないが……決して小さいわけではない。
すなわち、今のティナ達は通常よりも戦える時間が少ないという事だ。
「――出ろ。メタグロス」
「リオン、お願い!!」
「……相手はメタグロスか、炎タイプのリオンなら有利だけど……」
「…………」
「? シロナさん、どうかしましたか?」
「……うぅん、なんでもないわ」
「メタグロス、コメットパンチ」
「リオン、ほのおのパンチだ!!」
踏み込み、メタグロスのコメットパンチを真っ向から炎の拳でぶつけ合うリオン。
だが――リオンの拳は身体ごと大きく後ろに吹き飛ばされた。
「かえんほうしゃ!!」
地面を削りながら炎を吐き出すが。
「ラスターカノン」
その場でラスターカノンを放ち、かえんほうしゃが相殺された。
「グォァッ!!?」
更にラスターカノンはかえんほうしゃを放ったリオンにまで届き、壁に叩きつける。
「リオン!!」
「グ、ァ……」
「コメットパンチ」
膝をつくリオンに、跳び上がりながらコメットパンチを繰り出すメタグロス。
そして、リオンの腹部にコメットパンチが深々と突き刺さった。
「リオン!!」
「グ――ガ、アァァァァッ!!!」
このままでは壁に激突する、だというのにリオンは口を開きブラストバーンを放つ。
技を繰り出した直後のメタグロスに回避できるわけもなく、まともに炎を浴び地面に倒れた。
それと同時に、勢いよく壁に叩きつけられ――リオンは動かなくなる。
「リオン、戻って」
「…………」
互いに戦えなくなったポケモンを戻し、次のボールを。
「……なんか、あっという間にバトルが終わっちゃうな……」
「それだけ互いの一撃一撃が凄まじいのよ、神々の力をその身に宿しているから、きっと私のポケモンじゃ一撃も保たないわね」
「ソウル、お願い!!」
「――グゥゥゥゥ」
「…………」
威嚇するソウルに、ロキは冷たい瞳を向けるだけで、ポケモンを出そうとしない。
「どうした? まさかもう終わりか!!」
「…………遊びは終わりにしようか」
「え――」
ボールを手に取り、投げつけるロキ。
開かれ、中から出てきたのは……。
「――エルレイド」
かつてティナと死闘を繰り広げたエルレイドが、場に出現した。
……しかし、とレイジは疑問を浮かべる。
確かにエルレイドは強いポケモンだ、おまけにロキの力で大幅なパワーアップを果たしているだろう。
だが……パワーアップしてるのはこちらも同じ、圧倒的な戦力差になるとは思えない。
そう――“普通”ならばだ。
「エルレイド、“アイシクルセイバー”だ」
「なっ――!?」
エルレイドの右腕——刃になっている腕が氷に包まれる。
あれはまさしく、ティナのアイシクルセイバーだ。
「ティナと“同類”のエルレイドが、アイシクルセイバーを使えないとでも思ったのか?」
「同類……?」
「エルレイド、倒せ」
短くそう指示を出し、瞬時にソウルの間合いに入るエルレイド。
「ソウル、後ろに跳ぶんだ!!」
「っ」
首の皮一枚で攻撃を避けるソウルだが、額から僅かに血が流れ顔をしかめる。
「シャドークロー!!」
着地と同時に踏み込み、漆黒の爪を振り上げる。
それを、氷の刃で軽々と受け止めるエルレイド。
「くっ……!」
「フレイムセイバー」
「何……!?」
氷の刃でソウルの攻撃を受け止めながら、同時に左手に炎の剣を生み出し上段から振り下ろす。
このままでは攻撃を受ける、そう判断したレイジはすぐさま次の指示を出した。
「あくのはどう!!」
至近距離でのあくのはどうが、エルレイドのフレイムセイバーとぶつかり合い爆発を引き起こす。
噴煙の中から飛び出してくるソウル、無事着地はするが所々痛々しい傷が彼女に確実なダメージを与えている事を知らしめていた。
(凄いパワーだ……!)
だが、このバトルだけは負けるわけにはいかない。
ソウルにもレイジの心中を理解したのか、再び闘志を瞳に宿す。
しかし――エルレイドは予想外の言葉を放ってきた。
〈―――サーナイトを出せ!!〉
「何………?」
「……エルレイド、どういうつもりだ?」
ロキにも予想外だったようだ、訝しげな表情を見ればすぐにわかった。
どうやらエルレイドは命令違反を犯しているらしい、ロキに対して忠実心の塊のような彼が、だ。
「エルレイド、私はサーナイトと戦えと命令したわけではない、だというのに勝手な真似は」
〈俺はあのサーナイトを倒さねばならないのですロキ様、そうでなくては俺はずっと“失敗作”のままだ!!〉
「…………」
(失敗作……?)
一体エルレイドは何を言っているのか、並々ならぬ闘志を宿しているので、彼がティナとの一騎打ちを望んでいるのは理解できたが……。
〈どうしたサーナイト、あの時の決着を今つけてやる!! 俺は、貴様だけには絶対に負けられない!!〉
焦燥感や不安すら感じさせる、エルレイドの必死な叫び。
それを理解できない中、ティナはボールから勝手に場に出現した。
「――ティナ」
〈お父様、勝手なお願いだとは重々承知しております。
ですが……わたくしにはエルレイドの願いを叶える事が正しいと思えました。
ですからどうかお願いします、彼の相手は……わたくしに〉
口ではそう言いつつも、既にティナの瞳にはエルレイドしか映っていない。
たとえレイジがダメだと言ったとしても、ティナはエルレイドと戦うつもりだろう。
しかし、レイジは初めからティナの願いを聞き入れるつもりだった。
「ティナ、君の望むままに」
〈お父様……〉
「君がそう願ったのならば、僕から言うことは何もないよ。――ソウル、よく頑張ったね。戻るんだ」
〈……ありがとうございます、お父様〉
彼の優しさに感謝しながら、ティナは再びエルレイドと対峙する。
〈あなたは何故そこまでわたくしを敵視するのかは知りませんが、わたくしは負けるわけにはいきません!!〉
〈それはこちらも同じ事だ、貴様だけは……生かしてはおけない!!〉
(………この殺意は)
わからない、何故ここまでエルレイドは自分に殺意を抱くのが、ティナには理解できなかった。
しかし、エルレイドは自分を本気で殺したいと思っている、まるで彼女自身の存在自体を許さないかのように。
「…………」
一触即発の空気の中、レイジは違和感を感じていた。
(おかしい……何故ロキはエルレイドを戒めないんだ……?)
あの男の性格からして、このような勝手な真似をしたエルレイドを止めるはずだ。
しかし、止めるどころか好都合だと言わんばかりの表情を浮かべて――
「っ!!」
ぞくりと背筋に悪寒が走り、レイジは地を蹴ってロキへと向かう。
拙い、このままあの男を野放しにしては……。
「さすがだな。その鋭い勘は賞賛に値するぞ」
「し―――!」
充分に勢いと足の力を込めて、回し蹴りを放つ。
避けられない最適の間合い、人間の骨など容易に砕けるレイジのそれを。
ふわりと、まるで羽根のように軽やかな流れでロキは回避し。
がら空きとなったレイジの腹部に、掌底を叩き込んだ―――!
「が………!?」
メキッ、という嫌な音を腹部から響かせながら、冗談みたいなスピードで後ろに吹き飛んでいくレイジ。
「きゃっ!!」
それはカグヤ達すら巻き込み、その隙にロキは部屋から出て行く。
すぐさま起き上がり、後を追おうと立ち上がろうとしたレイジだったが。
「ぐ、が………!?」
激しい痛みが腹部を襲い、その場にうずくまってしまった。
「レイジ!!」
「ぐっ――は、早く追わないと」
「っ、ダメ。扉が開かなくなってる!!」
「ええっ!?」
「くっ、なら僕の力で扉を………」
「待ってレイジ、ここは私達に任せて!! ラティオス、ラスターパージ!!」
「ミロカロス、ハイドロポンプ!!」
ボールからそれぞれラティオスとミロカロスを場に出し、扉を破壊しようと攻撃を仕掛ける。
しかし、扉は破壊どころか傷一つ付かなかった。
「そんな!?」
「――この扉は特殊な材質で作られているの、その程度じゃビクともしないわ」
「っ、何自慢げに言ってるのよフレアさん!!」
「だから、もしもの時はこのカードキーを使うのよ」
「えっ………?」
言うやいなや、扉のすぐ脇にある差込口にカードを入れるフレア。
すると、ガスの抜けたような音と共に、扉が呆気なく開かれる。
「……フレアさん」
「止めないの? ロキ様はおそらく神の雷を発動させるつもりよ」
「神の雷……っ、アルセウスを傷つけたあれか!」
拙い、あんなものを放たれればひとたまりもない。
アルセウスでもあれだけのダメージを受けたのだ、戦いで傷ついたディアルガ達でも止める事はできない。
〈お父様、エルレイドはわたくしに任せて早く行ってください!!〉
「わかった!!」
「制御室はこっちよ。ついてきて」
「……罠じゃないの?」
「…………」
フレアは否定しない。
警戒するカグヤとシロナだったが、レイジは違った。
「フレアさん、急いで案内して!!」
「坊や……」
「レイジくん、彼女はロケット団の幹部なのよ?」
「僕にはこの人が根本からの悪だとは思えません。フレアさん、お願いします!!」
こくりと頷き、戦闘を走るフレア。
それを見て、カグヤ達は慌てて後を追ったのだった。
To.Be.Continued...