ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

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レイジ達はロキの後を追い、ティナはエルレイドと対峙する。

今ここに、最後の剣戟が始まろうとしていた。


第91話 最後の剣戟〜己の出生の果てに掴んだ答え〜

――剣戟は、激しさを増していく。

 

エルレイドとティナ、互いに展開するはサイコセイバー。

単純に、どちらが上かの剣戟が繰り広げられていた。

火花と閃光、更にはぶつかり合う度に響き渡る音はまさしく爆音。

不用意に近づけば瞬時に細切れにされるであろうそれは、開始して僅か数分で百手以上の斬り合いを見せていた。

 

〈――ハァァァァァァァァァッ!!!〉

殺気と憎しみ、ほんの僅かな焦燥感を剣に込めながら、エルレイドは一片の油断も情けもない剣戟を放つ。

まさしく神速の域、神と呼ばれしポケモンとも充分過ぎる程肉迫できる力ではあるが。

〈っ、くっ!!〉

ティナは、両の手で持つ剣でその悉くを防ぎきっていた。

 

〈っ、どうしたサーナイト!! 守るばかりで勝つ気がないのか!!〉

スカートのようなティナの下半身に切り傷が生まれ、鮮血が舞う。

〈うるさいです、ね!〉

痛みで顔をしかめながら、左の剣でエルレイドの剣戟を弾き、右の剣を地面に突き刺しそれを軸にしての後ろ回し蹴りをエルレイドの顔面に叩き込む。

〈ご………っ!?〉

大きく仰け反るエルレイド、その隙を逃さずティナは突き刺していた右の剣をそのまま振り上げる。

左右真っ二つに裂けるはずであったそれは、エルレイドが後ろに跳んだ事によって虚しく空を切った。

 

〈……女性の身体に傷を付けるなんて、紳士ではありませんね〉

 

深くはないが、決して浅くもない傷を眺めつつ、軽口を叩くティナ。

口調こそ余裕そうだが、肩で大きく息をしている彼女を見て、誰も余裕があるようには見ないだろう。

全力で戦っているのは彼女も同じ、休む暇も手加減する事もできない剣戟を繰り返して、疲れない者などいない。

 

〈安心しろ、そんなくだらない事を考えられないようにしてやるさ〉

〈………何故です? 何故あなたはこうまでわたくしを憎むのですか?

 この間わたくしに敗れたから、それだけには見えません。

 あなたのその怒りと憎しみ……まるで親の仇だと言わんばかりのそれですよ〉

〈…………〉

〈一体あなたは、わたくしの何を憎んでいるというのですか?〉

 

訊く必要など、本来ならばない。

彼は敵、彼女が愛する主人の敵である以上、斬るべき敵でしかない。

だがしかし、気になってしまったのだから仕方がなかった。

ここまでの憎しみや怒りを向けられた事などなかったから、どうしてもその理由を知りたくなった。

一体何故ですか、もう一度ティナは問いかける。

すると、エルレイドから返ってきたのは意外な反応だった。

 

〈――そうだな。逃がされたお前が知るわけもなかったか〉

〈えっ………?〉

 

逃がされた……?

皮肉めいた口調でそう告げるエルレイドに、ティナはおもわず構えを解いてしまう。

しかしエルレイドは隙だらけのティナには構わずに――彼女自身も知らない事実を口にした。

 

 

〈――お前は俺と同じくこのロケット団で創られた、人とサーナイトの融合体から生まれた特殊なポケモンなんだよ〉と。

 

 

〈――――〉

時が止まる。

エルレイドの言葉を理解するのに数秒、そしてそれに対しての疑問が生まれるまで、およそ数十秒。

〈……………は?〉

しかし、初めに出てきた言葉はそんな間の抜けたものだけ。

当たり前だ、あまりにも現実離れも甚だしい事を言われて、思考が正常に働くわけがない。むしろそんな事を言ってきたエルレイドを、笑い飛ばしてやりたいくらいだ。

 

あなたは何を言っているのですか?

あまりにも馬鹿馬鹿しすぎますよ、とうとう脳がやられてしまったのですか?

罵詈雑言を並べて、おもいっきり笑ってやりたかった。……なのに。

ティナは何故かそれができずに、気がついたらエルレイドの言葉に耳を傾けていた。

 

〈……それは、一体どういう意味ですか?〉

〈言葉通りの意味さ、お前と俺は人間とサーナイトの融合体から生まれたポケモンだ〉

〈人とポケモンの、融合体?〉

まったくもって意味が分からない、エルレイドの言っている言葉の意味が理解できない。

〈かつてロケット団では、人とポケモンを融合させ新たな生命体を創り上げる研究が行われていた。人にもポケモンにも負けない新たな生命体、それを兵器として活用しようとしていた〉

〈っ、なんて非道な……あなた方はどこまでこの世界の理を反すれば気が済むのですか!!〉

そんな研究、生命の尊厳など一欠片も考えていないような非道なものだ。

新たなロケット団の事実を知り、ティナの表情は怒りに満ち溢れる。

しかしエルレイドはそれには構わず、言葉を続けた。

 

〈だが、実験は悉く失敗に終わった。

 自我を失った者、急激に身体を崩壊させていった者。研究はすぐに止まってしまった〉

〈っ、あなたは……わたくしを怒らせる為にそんなくだらない事を言っているのですか!!〉

今すぐにでも、エルレイドの身体を粉微塵に切り刻んでやりたい。

その非道な研究で、一体どれだけの人間とポケモンが犠牲になったのか、それを考えるだけではらわたが煮え繰り返そうだ。

だが、エルレイドはその口を閉じたりはしない。

 

〈気にならないのか? 自分の出生を、自分が何の為に生まれたのかを〉

〈…………〉

〈いや……聡明なお前なら、もうわかっているのかな?〉

〈………わかりたくもありません。第一あなたの言っている事に根拠などあるわけが〉

〈では訊くが、何故お前は普通のサーナイトとは姿形が違う?

 人間と同じ五本指の足と手、人間の女と同じような胸部の膨らみ。

 自分が普通とは違うと思った事が、ただの一度もなかったと言えるのかな?〉

〈…………〉

 

否定してやりたい。

でも……エルレイドの言葉に否定をする事はできなかった。

 

――普通のサーナイトとは違う自分の姿形。

 

――普通のサーナイトとは比べものにならない、強大なサイコパワー。

 

そのどちらも普通とは明らかに違う、更に不明である自分の出生。

それを、エルレイドは知っていると言った。

だがそれは当たり前かもしれない、何故なら彼の主人であるロキも彼女の事を知っていたから。

でも……その先は知りたくない。

虚言だろうが真実であろうが、もし知ってしまえば……今までの自分の存在意義が。

 

〈実験のほぼ全てが失敗に終わる中、唯一……成功した個体があった。

 それは人間の女とサーナイトの融合体、後にも先にもそれだけだった〉

〈それが、わたくしだとでも――〉

〈いや違う。その話には続きがあってな、そのサーナイトは普通のサーナイトどころか他のポケモンすら凌駕する凄まじいサイコパワーをその身に宿していた。

 しかしそのサーナイトはあろうことかロケット団の兵器としての立場を拒んだ、それだけならば洗脳なり薬漬けするなりすればよかったのだが……ヤツは、自分の力の殆どを“タマゴ”に宿したのだ〉

〈――――〉

〈ここまで言えばわかるな? つまりお前は……ロケット団によって創り上げられた人間とポケモンの融合体――そのサーナイトから生まれたポケモンだ〉

 

衝撃が、ティナの全身に響き渡る。

あまりにも突拍子のない真実、嘘としか思えない作り話。

なのに、どうして。

 

――どうして、それを否定する言葉が頭に浮かばない?

 

〈お前の姿形が人間に似ているのはそのせいだ〉

〈……で、では何故わたくしは〉

〈始まりの地にいたか、か?

 簡単な話だ、母であるサーナイトが最後の力を振り絞り、お前を転移させた。

 尤も無我夢中だったようだから、お前とあの小僧が出会ったのはまったくの偶然だがな〉

〈―――、ぁ〉

 

ぐらりと、身体が揺れた。

その反応を見て、エルレイドはこの上なく楽しそうな笑みを浮かべる。

 

〈やはりショックだったようだな、しかしまだ話には続きがある。

 サーナイトはお前を逃がした後死に、ロキ様はその死体を用いて新たに生命体を創り上げようとした。

 しかし成功体であるサーナイトの肉体を使っても、できたのは出来損ないの“失敗作”だけ〉

〈失敗、作………?〉

 

そういえば、と、ティナはある事に気づいた。

そうだ、そういえばエルレイドは自分を……。

そのティナの表情を見て気づいたのか、エルレイドは笑みを浮かべ。

 

〈そうだサーナイト、俺はお前の母であるサーナイトの身体を元に創られながら、お前程の力を得られなかった出来損ないの失敗作。――つまり、お前とは姉弟のようなものなのだよ〉

彼女の思考を完全に停止されるような事実を、口にした。

 

〈俺も初めは知らなかった、だが偶然その事実を知った時……俺は愕然としたよ。

 失敗作だと、出来損ないだと思い知らされた時の俺の気持ちがお前にわかるか!?

 だから俺は貴様を許さない、たとえ薬によって俺の命が尽きようとも、貴様だけは絶対に殺してやる!!〉

叫び、その念を込めた剣をティナに向かって振り下ろす。

〈――――〉

避けなくてはならないのに、動けない。

二重の事実、それを前にしてティナの思考は完全に停止した。

 

〈っ、ぁ………!〉

そして。

エルレイドの剣が、ティナの左肩から右わき腹までバッサリと斬り裂いた。

〈っ、ぐ、ぅ……〉

頭が茹だってしまうほどの熱も痛みも、今の彼女には関係ない。

ただ、告げられた言葉で思考は止まったまま。

 

〈お父、様………〉

自らが流した血の海に沈み、意識を手放した――

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「こっちよ!!」

フレアの後を追い、ヴァルハラ内部を駆け抜けていくレイジ達。

しかし……カグヤはまだフレアを信用する事はできなかった。

「大丈夫よ、カグヤ」

隣に移動しながら、安心させるようにシロナは言った。

 

「でも……」

「レイジくんは人を変えるのが上手いから、もう大丈夫。貴女だって、内心ではそう思っているんじゃないの?」

「…………」

そう言われてしまうと、返す言葉がない。

 

「後はこの道をまっすぐ行けば、制御室に辿り着くわ!!」

「よし、ならこのまま一気に――」

更にスピードを上げようとして…レイジは突如立ち止まる。

急に立ち止まった事により、カグヤとシロナはレイジの背中に顔をぶつけてしまった。

「いたた……急に止まらないでよレイジ」

「どうしたの?」

「……どうやら、あれを倒さなきゃ先に進めないらしい」

そう呟くレイジの視線の先。そこには……道を塞ぐかのように立ちふさがる、ポケモン達が。

ヒードランにプテラ、更にはボーマンダの姿が。

 

「ロキめ……時間を稼ぐつもりか!!」

すぐさまボールから現在戦えるルギアとアクセルを場に出す。

こんな所で時間を無駄にしている暇などない、ここは一気に……。

 

「待ってレイジ、ここは私達に任せて先に行って」

「えっ……カグヤ?」

「時間がないのはわかってるから、こんな所で足止めされるくらいならレイジだけでも先に行って」

「だけど、あれは……」

ロキによって限界以上の力を秘めたポケモン達だ、カグヤ達だけでは分が悪い。

 

「マスター、余とアクセルもここに残ろう。

 ロキはもう手元にポケモンを残してはおらぬ、後はマスターが……全ての決着を」

「ルギア……」

〈父上、母上とカグヤは僕達が守ります!! ですから父上は早くロキの元へ!!〉

「アクセル……」

「レイジくん、今は私達を信じて。必ず勝ってもう一度貴方の元に戻るから」

「ロキを倒せるのはレイジだけ、なら私達はその手助けをする事しかできないから……だからお願い、行って!!」

「カグヤ、シロナさん……」

 

「っ、ちっ―――!」

舌打ちをしながら、ルギアは前方にハイドロポンプを撃ち放つ。

それはヒードランから放たれたブラストバーンとぶつかり合い、視界を奪う水蒸気を生み出した。

 

「行け、マスター!! このようなくだらぬ戦いに、終止符を打ってくれ!!」

〈父上の道は、僕達が切り開きます!!〉

「…………」

 

正直言って、心配ではある。皆をここに残す事に、不安がないわけではなかった。

でも――自分を信じてくれる皆の為に。

何より、全ての決着をつけるためにも……立ち止まる事は許されない。

 

「―――っっっ」

 

歯を食いしばり、全速力で走る。

何も考えず、ヒードラン達の所へ向かって真っ直ぐに。

恰好の的を見て、プテラとボーマンダは揃って口からはかいこうせんを放とうとして。

 

「ミロカロス、ハイドロポンプ!!」

「エネコロロ、ギガインパクト!!」

プテラをミロカロスが、ボーマンダをエネコロロがそれぞれ壁際まで吹き飛ばし。

〈邪魔だ、この木偶の坊が!!〉

レイジの前に立ちふさがったヒードランを、アクセルが渾身のとびひざげりで壁にめり込ませた。

 

「みんな、無茶だけはしないで!!」

そう言い残し、レイジは奥へと消えていく。

「……無茶だけはしないで、か」

「この場合、無茶をしないようにするのが無茶なんだよね……」

大技をまともに受けたというのに、ヒードラン達はすぐさま立ち上がった。

 

「……おい、そこのフレアとかいう女」

「何かしら?」

「お前はポケモンを持ってないのか?」

「生憎とね……」

「ちっ、使えぬヤツだ……仕方ない。アクセル、お前はその女の指示で戦え」

〈えっ?〉

「気に入らぬがそやつのトレーナーとしての実力は高い、余はともかくお前はどちらかというと指示があった方が戦いやすいだろう?」

〈そ、それはそうだけど……〉

「グダグダ言うとらんでさっさと構えろ!! ――来るぞ!!」

 

ルギアの声を皮切りに、一斉に攻撃を仕掛けてくるヒードラン達。

 

「ミロカロス、みずのはどう!!」

「エネコロロ、ふぶき!」

「くらえっ!!」

「アクセル、はどうだんよ!!」

〈わ、わかった!!〉

それを真っ向から迎え撃つカグヤ達。

爆音が響き、それが死闘の開始となる合図となった………。

 

………。

 

暫く走り続け……レイジはふと足を止める。

急がなくてはならない、それはわかっている。

みんなが自分の為に命を懸けて戦っている、それもわかっている。

だけど……最後に、少しだけ。

少しだけでもいいから、この世の別れを惜しみたいと思ったのだ。

……後悔は、もうしない。

 

(みんな、今までありがとう……)

 

自分を仲間だと言ってくれた人が居た。

自分を愛してくれた人が居た。

その全てに頭を下げて、レイジは再び歩を進める。

 

――さあ、最後の戦いへ。

未来を守るために、もう戻れない死地へと……彼はもう二度と歩みを止める事はなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

〈――――、ぅ〉

痛みと熱が、ティナの意識を無理矢理覚醒させる。

しかし、すぐさま薄れていく意識……それをどうにか繋ぎ止めながら、起き上がろうとして。

〈っ、ぁ、ごぶ……!〉

激しい痛みと共に、吐血してしまった。

 

――彼女の身体は、既に死に体だ。

 

エルレイドの一撃はそれほどまでに深く、むしろ生きている方が不思議だと言えるくらいだ。

やはり普通のポケモンではないからか、それが幸福なのか不幸なのかはわからないが……。

 

〈――いいザマだな、サーナイト〉

そんな彼女を、勝ち誇った顔で見下すエルレイド。

ティナもどうにか睨み返すが、痛みにより苦しんでいるようにしか見えない。

 

〈どうだ? 失敗作である俺に殺される気分は。

 しかしこうもあっさり勝負がつくとは思わなかった……所詮成功作といっても、あんな主人の元では生温い力しか手に入らんか〉

〈っ、訂正、しな、さい……お父様を、侮辱、するの、は………〉

〈やめておけ。動くどころか喋る事すらまともにできんくせに。だが少々呆気なかったな、もう少し手こずるかと思ったが〉

そう口にしつつ、エルレイドはティナの右足を掴み逆さに持ち上げる。

 

〈くっ………!〉

〈どうだサーナイト、同じ肉体を元に生まれた俺達だが……真に勝っていたのは俺の方だったようだ〉

〈……わたくしは、そんな事どうだっていい。

 確かに、ショックではないと言えば嘘になりますが……わたくしは、お父様の娘である事は変わらない……〉

〈ハッ、娘だと? 笑わせるなよサーナイト、いくら言葉で強がりを見せようが、その荒れた心は隠せていないぞ?

 お前は、自分が兵器である事にショックを受けている。認めたくないからそうやって自分自身を誤魔化している。

 まったくもって笑える話だなサーナイト、いくらお前が否定しようが事実は変わらないというのに〉

〈…………〉

エルレイドの声は、ティナに現実だけを突きつける。

 

――お前は兵器だ、と。

 

――他者を蹂躙する為だけにうまれてきたのだ、と。

 

今までの自分、ティナとしてレイジと共に過ごしてきた自分の全てを、否定されるような真実が、確実に彼女の心を砕いていく。

 

〈だがそんな苦しみなどすぐに無くなる、貴様はここで俺に殺されるのだからな。――その後は、お前が父と慕うあの人間を始末してやるさ〉

揺るがない勝利に、エルレイドの気分は高揚するばかり、だからティナに対して暴言を吐き続ける。

こんな死にかけの存在、もはや気にする必要などないと思っているからだ。

〈――――〉

だが。

それが間違いだと、エルレイドはまだ気づかない。

彼女にとって、レイジという少年がどれだけ大きな存在なのかを、まるでわかっていなかった。

 

〈―――そうか。あなたはそんなにわたくしを怒らせたいのですね〉

〈な―――ぐぉっ!?〉

ティナの呟きに耳を傾けた瞬間、エルレイドは右の頬に蹴りを入れられたたらを踏んだ。

その隙にティナはエルレイドの手から脱出し、静かに言葉を紡ぐ。

〈全てあなたの言う通りですエルレイド、わたくしは……自分自身を否定したい。 できる事なら、聞かなかった事にしたいくらいのショックを受けています〉

ですが、と。彼女は今までよりも遥かに凛とした表情で言い放った。

 

〈たとえわたくしが兵器だろうとも、今のわたくしはお父様の娘であるティナです!!

 この身体も、この力も全てお父様の為に存在しているのです!!

 たとえお父様自身に兵器である自分を否定されたとしても、わたくしは自らの意志でこの道を歩んでいる、それは……誰にも文句は言わせません!!〉

 

難しく考える事など、なかったのだ。

自分を育ててくれた人がいた、自分を強くしてくれた人が居た。

全てはその人の為に、全身全霊を以てこの力で支えるだけ。

ならば――こんな事実に心を揺さぶられる必要はないし、何よりも。

 

〈――わたくしのお父様を馬鹿にしたのは、これで二度目ですね。

 エルレイド、あなたは学習するという事を知らないのですか?〉

何よりも彼女にとって、その事実は絶対に許さない。

〈き、貴様……まだ抗うか!!〉

〈煩いですよ。悔しいのでしたらさっさとかかってきなさい〉

〈っ、この死に損ないがぁぁぁぁっ!!!〉

怒りに満ち溢れた表情のまま、サイコセイバーを展開したエルレイドが突撃する。

互いの距離は僅かに十メートル、これでは二秒と待たずに踏み込まれてしまうだろう。

 

――だから。

この二秒間が、最後の勝負となる。

 

〈…………〉

 

両手を前に突き出し、剣を握る構えを取る。

展開されるはサイコセイバー、しかしいつもの双剣ではなく………一本の大剣と化したもの。

それを上段に上げたまま構え、静かに息を吐く。

刹那――サイコセイバーの光が加速度的に増していき、更には大きさまで変わっていく。

それは大剣から槍並の長さとなり、尚も伸びていき…彼女の三倍はあろうかという大きさにまで膨れ上がった。

 

〈なっ―――〉

それに気づいたエルレイドだったが、既に遅く今更自分の攻撃を止める事はできない。

拙い、あれに触れればそれで終わりだ。

絶対的な破壊力を持っていると理解しているのに、エルレイドは止まれない。

そんな彼に気づき、ティナはただ一言。

〈―――さようなら〉

そう告げて、地を蹴り踏み込んだ。

そして、必殺の間合いに入った瞬間、天井を破壊しながらエルレイドへと光の剣を叩き込む!!

 

〈ぐ、ぁ………!〉

 

ぶつかり合う両者の剣。

しかし、破壊力の差は明らかだった。

どうにかエルレイドが防いでいるだけで、いずれティナの剣は彼の身体ごと一刀両断にする事だろう。

それほどまでの、圧倒的な破壊力。

 

〈あなたは、ロキと共に互いを高めてはこなかったのですか?〉

〈な、に!?〉

〈わたくしのこの力は、お父様との絆と努力の果てに得る事ができた力。

 互いに助け合い、互いを高めながら歩んできたわたくし達とあなた達では……そもそも勝敗など決まっていたのですよ〉

ティナの剣が、エルレイドの剣を押し潰していく。

〈さようならエルレイド、あなたの過去は同情できるものでしたが……全てを救う事はできませんので、あなたはここで……楽になってください〉

〈……な、何故だ……何故俺は失敗作でお前は成功作なんだ……〉

〈成功も失敗も関係ありません、今この瞬間を生きているなら……それに捕らわれずに高みを目指せばよかったのです。――では、そろそろ終わりにしましょうか〉

ヒビはどんどん大きくなり増し、今にもエルレイドを押しつぶしそうだ。

 

そして――ティナの剣は、エルレイドの剣を砕き。

その剣の持ち主ごと、光に包み込んでしまった。

 

………。

 

〈…………〉

終わった。

膝をつき、ほっと一息つくティナ。

〈……勝てましたよ、お父様〉

今回は本当に危なかった、後もう少しで完全に心が砕けそうだったが……。

彼女の脳裏に、彼との旅の思い出が思い浮かび、もう一度生きる気力が蘇ってくれた。

 

〈――さようならエルレイド、この事実は信じますが……わたくしには関係のない事です。

 わたくしの名前はティナ、レイジという父を持つ……ただのサーナイトです〉

 

信じられぬ過去の果てに掴んだ答えを口にする。

しかし、既に彼女の言葉にエルレイドは応える事はできない。

さあ、戦いはまだ終わっていない。

傷は癒えず、死に体である事には変わりないが、行かなくてはならない。

己の身体に渇を入れながらティナは立ち上がり、静かに部屋を出て行く。

 

 

――倒した者の、想いを宿しながら。

 

 

 

 

To.Be.Continued...

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