ポケットモンスター 〜The Legend of Master〜【完結】   作:マイマイ

96 / 98
――最後の時が迫る

果たして、世界が選ぶのはレイジかロキか……。

選定の時まで、あと僅かとなった。


第92話 最後の選択〜最後の時〜

――歩く。

誰もいない、金属質の床を鳴らしながら目的地に向けて歩を進む。

阻む者は誰もおらず、やがて問題なくとある部屋に辿り着いた。

 

「…………」

扉の前に立つと、抵抗なく開き。

1人の男が、ゆっくりと自分を迎え入れた。

 

「――待ちわびたぞ」

「………よく言う。あの場から逃げたくせに」

 

互いの間合いは八メートル、僕もロキも一息で踏み込める距離だ。

拳を握りしめ、いつでも踏み込めるように準備と警戒は怠らない。

……しかし、と。部屋を見回した。

ドーム状の部屋は広く、天井に至っては十メートル以上はありそうだ。

中央には何かの機械、そしてその傍にはロキの姿。おそらくあの機械が神の雷を制御するものなのだろう。

 

「逃げたわけではないさ、お前と私、2人だけになる為にあの場を離れたのだよ」

「それを逃げたと言うんだ。――今すぐ神の雷を止めろ」

「それはできない相談だな、お前とて私が素直に従うとは思っていないだろう?」

 

余裕綽々な態度に、心底腹が立つ。

ロキの言う通り、言って素直に従うなど微塵も思っていない。

……やはり、無理矢理黙らせるしかないようだ。

 

「レイジ、お前は何故そこまで人間の味方をする?

 身勝手な理由で創り上げられ、人の醜さをあれだけ見てきたお前が、何故最後まで人の味方であろうと思うのだ?」

「それは僕だって同じだ、どうしてあなたは人間の敵であろうとする?

 確かに身勝手な理由で創られた人間ではない紛い物、それは間違いない。でも……自分自身を決めるのはあくまでも自分だ。

 あんたは逃げてるだけなんだ、自分が空っぽの人形である事を受け入れて、八つ当たりのように世界を破壊しようとしているだけだ!!」

 

それが許せない、あまりにも身勝手な行いは絶対に。

人としても、なにより同じくアルセウスに創られた存在としても、この男を許すわけにはいかない。

しかし、それでもロキの笑みは崩れなかった。

 

「それがどうした? 私はこの世界が憎い、だから滅ぼす。その為なら、私はどんな事だってやってやるさ」

「…………」

 

わかっていた。

もはやこの男に、何を言っても無駄だという事は。

だがそれでも……できる事ならこれ以上罪を重ねてほしくはなかった。

 

「レイジ、お前はまだ私を憐れむのか?

 優しいものだな、私のような“殺人鬼”にもまだ同情の意を向けられるのか」

「え―――」

殺人鬼……?

ロキの言葉に、首を傾げた。

この男は、一体何を言っているのか……。

「――おかしいと思わなかったのか? 何故このヴァルハラに私とフレア以外の人間が居ないのかを」

「…………」

確かに、疑問には思っていた。

このヴァルハラはロケット団にとって最高の要塞だ、それなのに監視と警備の役割になるであろう部下が居ないというのは異常とも言える。

……けれど、この男がどういった存在なのか理解できていれば、すぐにわかる事だ。

 

「――始末したんだろう、お前が全て」

吐き捨てるように言い放つと、ロキの口元の歪みが大きくなった。

「さすがだなレイジ、その物分かりの良さは恐ろしいとさえ思える」

「……どうしてだ。殺す必要なんかなかったはずなのに、どうして切り捨てるような真似を」

限りある命なのに、この男はいとも簡単に奪い去ってしまった。

内側から溢れ出そうになる怒りを必死に抑えつけながら、その理由を問いかける。

 

――けれど。

もう既に、この男が正気でない事に僕は気づいていなかった。

 

 

「いらない道具は、捨てるのが普通ではないのか?」

 

 

「――――」

言い切った。

何の罪悪感も躊躇いもなく、この男は言い切ってしまった。

自分の部下達を、いらない“道具”だと吐き捨てて、殺したと……。

「このヴァルハラは実際に私1人でも動かせるようにできている、ならばいらぬ道具など所持している必要などない」

一体何を訊いているのだお前は、そう言わんばかりの口調でそう告げるロキ。

それを見て、おもわず後ろに後退った。

……この男は、とうに人間ではなかった。

わかっていたはずなのに、改めてこの男が異常さを見て……寒気がした。

人を人とも思わぬ狂った化け物、それがロキという男の正体。

 

「――ああ、そうか」

初めから、わかっていたのに。どうして僕は……こんな意味もない問いをしたのか。

この男は悪だ、この世界にとって……人間達にとって紛れもない悪でしかないのだ。

なら……もう、これ以上この男を生かしておく理由も意味もない。

 

「五分だ」

「………?」

「あと五分で自動的に神の雷が放出される、そうなればスズラン島がどうなるか……お前にはわかるだろう?」

「…………」

すなわち、五分以内にロキを殺しこの装置を破壊しなくてはならない。

「ああ。それでも構わないさ」

互いに正気ではなく、互いに1つの目的の為だけにここに居る。

 

――ヤツは世界を滅ぼす為に存在し。

 

――僕は世界を守る為に存在する。

 

賭けるのは互いの身体、これはポケモンバトルではなく――純粋なる殺し合いだ。

 

「っ、は―――!」

右足で四メートル、左足で四メートル踏み込み、一秒も満たない時間でロキとの間合いを詰める。

狙うは必殺のみ、一切の情も油断もなく右の拳を突き出す。

避けられない間合い、まともに受ければ骨すら砕ける。

……パンッと、乾いた音が響いた。

 

「―――っ」

それと同時に左わき腹に衝撃。

掌底を叩き込まれた、それを理解するよりも早く折り曲げた膝が胸部に突き刺さり宙に浮かぶ。

「が、ぁ………!」

息が詰まり、思考が停止する中。

首が飛びそうな衝撃が襲いかかり、受け身もできずに地面を転がっていく。

 

「ぎ、が、ぁ―――!」

肺が潰れる、チカチカとする視界が思考を奪う。

今の、は……!?

「ほぅ……頭を砕いたつもりだったが」

「ぐ、ぁ……」

今の一撃は……。

外側ではなく内側を破壊する拳、拳法家の中では禁忌とされる技。

 

「殺人、拳………!」

それも、一朝一夕で身につけたものじゃない!!

 

「どうした? よもやそんな警戒をしていなかったわけではないだろう?」

 

ヤツが近づく。

このままでは頭蓋は砕かれ、僕の命はそこで尽きるだろう。

冗談ではない、こんな所でやられるか………!

立ち上がり、拳を構え対峙する。

するとヤツはニヤリと笑みを浮かべ、口を開いた。

 

「そうでなくては面白くない、最後の最後まで足掻いてもらわねばな。しかし、命を懸けねば私には届かんぞ?」

ヤツが笑う、そんな事はわかっている。

命を懸けても届くかわからないのだ、初めから生き残ろうなどと考えてはいない。

「行くぞレイジ、最後の殺し合いだ!!」

歓喜の声を上げながら、ヤツは大きく踏み込んでいく。

しかし僕からは踏み込めない、先程のダメージが抜け切れてない状態で立ち上がったのだ、未だに膝が笑っている。

それでも負けないとばかりに、拳を突き出した。

 

 

――最後の五分。

 

僅かな時間での負けられないこの死闘こそ、僕に残された最後の時だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ミロカロス、ハイドロポンプ!!」

「エネコロロ、れいとうビーム!!」

ミロカロスとエネコロロの大技が、ヒードランとプテラの攻撃を相殺し、爆発が起こる。

煙に紛れ、アクセルが踏み込んだ。

「きあいパンチ!!」

右腕にパワーを溜め、渾身の一撃を叩き込むアクセル。

しかし、その一撃はボーマンダによって真っ向から受け止められてしまった。

 

「アクセル、下がれ!」

〈っ〉

ルギアの声が響き、アクセルはすぐさまその場を離脱しようと地を蹴り。

瞬間、ボーマンダの両腕がしっかりとアクセルを拘束してしまった。

〈なっ―――ぐぁぁぁぁぁっ!!?〉

驚く暇など与えない、至近距離からのかえんほうしゃを受け、アクセルは悲鳴を上げる。

 

「アクセル!!」

すぐさま助けに行きたい、しかしアクセルが拘束されたままでは彼も巻き込んでしまう。

だが、アクセルはボーマンダの炎に焼かれながらも攻撃を仕掛けていた。

〈っ、こ、のぉっ!!〉

至近距離からのりゅうのはどう、口から放たれたそれはボーマンダの顔面に当たり、拘束が緩んだ。

その隙を逃さずアクセルは両腕から離れ、右手をボーマンダのわき腹に添え。

「はっけい!!」

ズドンッ、と弾丸じみた衝撃を叩き込む!!

ボーマンダの巨体は吹き飛ばされ、脇で戦うヒードランを巻き込んだ。

 

「今よ!! ミロカロス、アクアテール!!」

「エネコロロ、ギガインパント!!」

「ルギア、エアロブラスト!!」

「命令するでないわ!!」

全員による一斉攻撃、それは見事にヒードラン達を包み込み大爆発を引き起こした。

……それが最後の力だったのか、ミロカロスとエネコロロは倒れ、アクセルも膝をつく。

 

「ミロカロス、戻りなさい」

「エネコロロ、ありがとう」

無理もない、既に戦闘不能になっているはずだというのに、気力だけで立っていたのだから。

本当によく頑張ってくれた二匹に、カグヤとシロナは感謝の言葉を口にした。

 

「……おい女、アクセルをボールに戻せ」

〈ルギア、僕はまだ〉

「たわけが、そんな身体で何ができる。お前は余に「アクセルは限界まで戦って散った」などという戯けた事を言わせる気か?

 マスターは必ず生きて帰るように願っているのだ、たとえどのような理由があろうとも……その誓いを破る事は絶対に許さぬ」

 

たとえ仲間でもだ、鋭い眼光を向けながらルギアはアクセルにそう告げる。

そう言われてしまうと、アクセルはもう何も言えなかった。

フレアも彼の心中を察したのか、アクセルをボールに戻す。

 

「さあカグヤにシロナ、まだ敵は残っているぞ!!」

煙が晴れていく中、ルギアは鼓舞するようにそう叫ぶ。

瞬間、煙を吹き飛ばすような炎がカグヤ達に向かっていく。

しかし、ルギアはハイドロポンプでその炎を相殺する。

「ちっ……まったくしぶとい奴らだ」

「仕方ないさ、こんな程度でやられるとは思ってなかっただろう?」

悪態を吐くルギアに、ボールから出たラティオスはそう返しながら、身構える。

ダメージは小さい。

殆ど、と言えば語弊があるものの、それでも致命傷には程遠い。

こちらの技を殆ど相殺されたのだ、ダメージが小さくても仕方がないだろう。

 

(…………あまり、長くは保たぬか)

 

今の現状では――こちらが負ける、ルギアは冷静に認めたくない未来を肯定した。

ヒードラン達はロキによって異常なパワーアップを遂げた、本来ならばこれらに対抗できるのはレイジの手持ちのみ。

カグヤとシロナのポケモン達は充分に強い、しかし規格外の存在を倒すには至らないのだ。

おまけに、パワーアップしたルギア自身も……あまり長くは保つ事ができないのが現状だ。

……それでも、勝つしかないのだ。

そんな未来など認めない、みんなで帰り……またあの騒がしくも楽しい旅に戻るのだ。

自分を叱咤し、ルギアはもう一度全身に力を込めてヒードラン達を睨み。

 

〈――どきなさい〉

後ろから、全身が凍り付くような低く冷たい声が、聞こえた。

 

「――――」

振り向けない。

聞き慣れた声、味方である彼女だとわかっているのに、ルギアだけでなく誰もが振り向き彼女の姿を見る事ができなかった。

やがて、彼女達の横をゆっくりと通り抜ける一匹のポケモン。

 

――ティナが、血だらけの身体を隠す事なく現れた。

 

「………ティナ」

声が掠れる。

違うのだ、目の前の彼女はいつものティナではないとわかってしまう。

カグヤ達も同じ事を考えているのだろう、誰も彼女に近づけない。

今の彼女は、あのロキよりも恐ろしいと思えた

 

〈……カグヤ、怪我はありませんか?〉

「えっ、ぁ、う、うん……」

〈他の者達も、命に関わるような傷は負っていませんね?〉

「あ、ああ……」

 

そうですか、安堵の息を吐きながら僅かに空気が緩めるが――すぐさま刺すような殺気と威圧感が再び彼女の内側から溢れていく。

一体何があったのか、理由はわからないが……今の彼女は怒りに満ち溢れている。

下手をすると、敵と認識した者全てを無慈悲に殺戮してしまうかもしれない。

 

〈お父様は、ロキの所へ?〉

「そ、そうだ……」

〈……では早く行きましょう、お父様の戦いを見届けなくては〉

 

言いながら、ティナは自らの身体から流れる血も気にせずに、歩を進めていく。

あまりにも無防備なその立ち振る舞いは、どうぞ襲いかかってくださいと言っているようなものだ。

しかし――ヒードラン達はその場から一歩も動けなかった。

ティナの全身から湧き出る覇気に、デッドポケモンが完全に萎縮してしまっているのだ。

だが、それでもプライド故か、ティナに攻撃を仕掛けようとヒードラン達が動こうとして。

 

 

「消えなさい、今すぐに」

ティナではないティナの声が、一瞬でヒードラン達の動きを凍らせた。

 

 

「――――」

もう、ヒードラン達に戦う意志はない。

いや……ないというよりも理解したのだ。

アレに手を出してはならないと、生物の誰もが持っている本能に従っただけ。

絶対的な格の違い、それを見せられてどうして戦うという選択を選べようか。

〈行きますよ〉

こちらに顔は向けず、ただ一言そう告げてティナは歩みを進める。

 

「…………」

 

そんな彼女に、言葉を掛けれる者などいるはずもなく、黙って後をついていくカグヤ達。

けれど、わかった事が1つある。

……彼女は、このまま行けば戻れなくなる、と。

何に、とか、何処へ、とか具体的な事はわからない。

だが全員が悟った、いつも優しく母性溢れるティナが、まるで怪物のように見えてしまうからだ。

怒りに身を委ね、それをある者にぶちまけようとしている。

ティナという存在が消えて、何か得体の知れないモノになってしまう気さえした。

 

「……ティナ」

だから、行かせないように震える身体を抑えながら、カグヤはティナに声を掛ける。

〈…………〉

彼女からの返事はなく、代わりに向けられたのは――拒絶の意識。

「…………」

これ以上話しかけるな、口には出さずとも彼女の心中が伝わり……今度こそカグヤは口を閉じてしまった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「――――」

 

掌底が叩き込まれる。

鈍い音が腹部に響き、意識が刈り取られそうになる。

それを我慢し、拳を突き出した。

 

――弾かれる。

それを理解すると同時に、左足に突き刺すような痛みが走った。

 

「――――」

 

頭を砕こうとする蹴りを防ぐ。

頭蓋を砕かれれば終わりだ、腕や足が折れてでも頭は守らねば。

……ロキの格闘技術は、僕なんかとは比べものにならない。

このままでは全身の骨は砕かれ、死ぬ。

しかし……僕の拳は悉く弾かれ、代わりにヤツの拳は吸い込まれるように僕の身体を砕いていく。

 

「――――」

 

意識が、力が、確実に身体から消えていく。

これでは、一体どれだけ保たせられるか、もう。

 

「―――、ぁ」

 

刺さった。

ロキの足が、比喩でも何でもなく腹部に突き刺さった。

冗談ではない、ヤツの蹴りはまるで鋭利な刃物のようだ。

しかし、その痛みには構わず左の拳でロキの顎を砕こうと放つ。

 

――弾かれ、今度は頭部を鈍器のような衝撃を生み出す拳を打たれた。

 

炸裂する閃光が、眼を焦がす。

視界はまるで血のように赤く、自分自身を維持できる意識もごっそりと持っていかれた。

それすら噛み殺し、もう一度拳を……。

もう無理だ、これ以上攻撃を受けたら絶対に―――

 

「あ」

ダンッと、背中から地面に落ちた。

何が起きたのか理解する前に、脳が衝撃と痛みでおかしくなりかける。

「―――、――」

声が、出ない。

身体のあちこちの機能が、既に再起不能だと訴えかけている。

 

……ああ、そうか。

また拳が弾かれて、左肩を掌底で砕かれた後。

膝蹴りを叩き込まれて、地面を転がったのか。

今更ながらに自分の現状を理解して、可笑しくなった。

拙い、今のは効いた、効きすぎだ。

左肩は完全に砕かれ、無事な箇所などただの一つとしてない。

息をする機能すら上手く使えず、まるで陸地に上げられた魚のように無様だ。

 

「終わりだな。所詮はそんな程度か」

 

勝ち誇ったロキの言葉にも、何も返せない。

死に体なのは、ヤツとて同じだった。

どうしてなのかはわからない、けれどヤツはこの戦いで加速度的に生命力を低下していっている。

ダメージを受けていないくせに、もうあと数分で死ぬ身体だとこちらですらわかるくらい、ヤツの身体は限界だった。

でもたとえ相手が死に体だとしても、こちらは指一本動かせないのだから、無意味なものだ。

 

――立ち上がれない。

 

――立ち上がれない。

 

――立ち上がれない。

 

もしかしたら本当は既に死んでいて、意識だけがしぶとくこの世をさまよっているのかもしれない。

……だけど、それでも。

立ち上がらなければ、全部嘘になる。

守るという約束も、倒すという誓いも。

全部が全部嘘になって、無くなってしまう。

そんな事は認めない、認められない。

だから……早く、立って、アイツを、倒さな、いと……。

 

「レイジ!!」

「――――」

聞き慣れた声が響く、けれど何を言っているのか理解できない。

 

「無粋なものだな、邪魔をしに来たか」

若干の怒りを含んだ言葉を吐き捨てながら、ロキは現れた者達に視線を向ける。

そこには……カグヤにシロナさん、更にはフレアさんにルギア、そして。

〈…………〉

「――――」

 

待て。

あれは……“誰だ”?

カグヤ達と共に居るサーナイト、もちろんあれが誰かなど答えは一つしかない。

それなのに、本気であれが誰かがわからなくなった。

あの柔らかな物腰や、慈愛に満ちた雰囲気すら微塵も感じさせず。

目の前の存在を殺すためだけに存在する、そんな空気を内側出す彼女が……本当にティナだというのか?

 

「使えん奴等だ、足止めにすらならなかったか」

「これで終わりよロキ、あなたを守るものはもう何もない」

「…………」

「おとなしく投降しなさい、今までの過ちを身をもって――」

 

 

〈――償う必要などありません。この男は……今この場で、殺します〉

 

 

「――――」

「え………」

誰もが、耳を疑った。

シロナさんの言葉を遮ったティナが発したものは、到底信じられるような内容ではなかった。

……どうしてだ、今のティナからはロキからの憎悪しか感じられない。

この男を憎むのはわかる、でも……彼女の憎しみは周りの比ではなかった。

 

「――エルレイドを殺したのかサーナイト、さすが成功作だ。失敗作とは出来が違う」

〈気安く話しかけるな、貴様なんぞに声を掛けられたら虫唾が走る〉

抑揚のない声で、無表情のままティナはロキを睨みつけた。

〈ロキ、わたくしはあなたを許さない……エルレイドを、彼を失敗作だと決めつけ彼の苦しみや憎しみすら道具にしたあなたを……絶対に許さない〉

「えっ………?」

失敗作? 成功作?

聞き慣れない単語が飛び出し、ロキとティナ以外の全員が首を傾げる。

 

〈……わたくしは、かつてロケット団が行っていた実験――人間とポケモンの融合体の唯一の成功作であるサーナイトから生まれたポケモンです〉

「なっ!?」

「人間と、ポケモンの融合体……!?」

〈そしてあのエルレイドは、わたくしの母であるサーナイトの肉体を用いて創られたポケモン。

 ――すなわち、わたくしと彼は姉弟と呼べるような間柄でした〉

『――――!!?』

 

衝撃が、場を支配する。

正直、ティナが告げた内容はあまりに信じられないようなものだ。

けれどこの状況で与太話などする理由も意味もなく、更に……ロキがティナの話を聞き、楽しそうに顔を歪めたのを見て……その話が真実だと認めざるおえなかった。

 

「その通りだよサーナイト、しかし……お前が再び私の前に現れるとは思わなかった。あの時ばかりはさすがの私も運命というものを信じたよ」

〈何故だ。あなたはエルレイドの苦しみを知っていたはず。己を失敗作だと思い悩み苦しんでいた時の絶望感を、あなたはわかっていたはずだ。

 なのに――なのにどうして、あなたはエルレイドを肯定しなかった!!

 お前は失敗作などではないと、何故救いの手を差し伸べなかったのだ!!!〉

 

魂からの叫びが、ティナから放たれる。

自分を劣悪な存在だと決めつけていた彼を、何故救わなかったのだと、ロキを責め立てた。

それを、アイツは……。

 

 

「失敗作で敗者でもあるエルレイドを、何故救わなくてはならないのだ?」

つまらなげに。

本当につまらなげに、冷たく言い放った。

 

 

〈……………………………………は?〉

その言葉に、ティナは間の抜けた声しか返せない。

本気で、心の底からロキの言葉がわからないかのように……。

「何故救わねばならないのかと言ったのだよ。

 いいかサーナイト、この世には不完全なものが満ち溢れている。不完全な人間、不完全なポケモン、不完全な心、不完全な善悪。

 それらはこの先何があろうとも変わらず、むしろ酷くなっていくばかりだ。そんな存在に、何故救いの手を差し伸べなくてはならないのだ?」

〈っ、あなたという者はどこまで………!

 確かに不完全な存在かもしれない、だがエルレイドは自分を劣悪だと思いながらも己の心のままに生きた!!

 それを侮辱する事などこの世の誰にもできないはず!!〉

「それは強者の綺麗事に過ぎない、お前とてエルレイドを敗者にし自身が勝者になったが故に、そのような戯れ言をほざく事ができるのだ。

 サーナイト、欠陥品は欠陥品。何の価値も意味もない存在であり、その者が生きている道理には繋がらない」

 

「そんな事ない!! そんな事なんてないよ!!」

〈…………カグヤ〉

「私、難しい事はよくわからないけど……エルレイドは凄く強かった!!

 本気でそう思えるくらい、エルレイドは強かったよ!!」

「……………」

 

たとえ敵同士だったとしても、彼は強かった。

戦ったのはティナだったけど、彼を見るだけでもその内側に宿る強さはわかる。

だから、ティナの言う通り……彼を侮辱する事はこの世の誰にもできはしない。

だがそれでも、ロキの心は変わらなかった。

 

「――くだらないな」

〈なっ………〉

「どんな言葉で取り繕うとも、現実は決して変わらない。

 ではお前達に訊くが、エルレイドのように自分に対し劣等感を抱いている存在を、全て救う事ができるのか?」

「…………。」

 

―――煩い。

 

「その綺麗事で、この世界を変えられるのか?」

 

―――黙れ。

 

「世界は変わらない、善悪の区別もない人間の前では、お前達の言う善意とやらは食いつぶされるだけ」

 

―――もう、これ以上。

 

「欠陥品を救う術は、永遠にない」

 

―――その口から、言葉を出すな!!

 

「―――、あ」

 

立ち上がれ。

これ以上、あの存在をこの世に存在させておくな。

 

「あ、あぁぁ――」

 

壊れたっていい、消えたっていい。

元よりこの身体は死に行くもの、ならばどうして躊躇う必要があるのか。

 

「あ、あぁぁぁ……!」

 

お前は何を守ると誓った?

何を救い、何を助けると誓ったのだ?

約束を果たす為にも、こんな所で………。

 

「あ、あぁぁ」

 

こんな所で、終われるわけがない!!

 

「――ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

立ち上がる。

ビキビキという何かが欠けるような音も、全身を動かせまいと襲う痛みすら振り払って。

地を蹴り、真っ直ぐロキの元に拳を叩き込む!!

 

「ぬっ―――ぐっ!?」

〈お父様!?〉

「おおおああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

ここで少しでも止まればそれで終わりだとわかったから、自分の身体を誤魔化す為に叫び続ける。

 

「貴様、まだ――」

「ああぁぁっ!!」

ロキが立ち上がる前に、もう一度拳を叩き込んだ。

……その衝撃で、右手の指が折れた。

それには構わず、折れた左腕でヤツの顎を砕く。

「ぐっ………!?」

一撃、二撃、三撃!!

殴って殴って殴り倒してまた殴る。

両腕の感覚はなく、自分が何をしているのか曖昧になりながらも更に殴る。

 

「ご、が………!?」

だが、ヤツの拳が僕を軽々とカグヤ達の元まで吹き飛ばしてしまった。

「ぐ、が、ぁ………!」

ああそうだ、今のは偶然奇襲が上手くいっただけに過ぎない事くらいわかっているさ………!

だけど効いてないわけじゃない、もっともっと殴ればいつかは倒れる、なら立ち上がれ、こんな所で倒れてなんかいられない、アイツだけは許せない、許すわけにはいかないのだから立て。報いを受けさせなくてはならない、償いをさせなくてはならない、その為にはまだ足りない。こんな程度じゃ足りるわけがない、だから立て、全身が砕ける痛みも苦しみも何もかも忘れてさっさと立ち上がれ―――!

 

「ぁ、ぐ………」

「しぶといな。まだ死なないか」

「……まだ、死ねない。お前を……この世から消すまでは、まだ!!」

走る。

ヒョロヒョロとした情けない走り、子供だって追い抜けるくらいの早さだけど確かに走る。

感覚のない右腕に力を込めて、拳を作り振り上げる。

 

――ヤツも、真っ向から僕を迎え撃ってきた。

 

互いの一撃が最後になると、どちらからともなく理解しながら。

 

――僕とヤツの拳が、交差した。

 

 

 

 

To.Be.Continued...

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。