魔女教大罪司教『傲慢』担当になってしまったTS僕っ子ロリ   作:あのさぁBOT

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第1話『死、そして怠惰と傲慢の邂逅』

 ある日、僕は死の恐怖を知ってしまった。

 何の変哲もない、いつもの学校の帰り道。冷たい枯れた風が吹く季節だった。

 

 突然、僕は通り魔に刺された。腹の奥、内臓を割いて、鉄の刃が沈んでいくのを感じた。あまりの痛みに立っていられなくなりうずくまった。

 腹が焼けるように熱い。しかし、アスファルトの地面は酷く冷めていた。

 

 遅れて、悲鳴が聞こえた。助けを求める声が聞こえた。カメラのシャッター音が聞こえた。

 あっという間に人だかりができていた。

 

 大惨事だと、それを何処か他人事のように見ている自分がいて、もうどうにでもなってしまえ、と思いもした。

 

 しかし、腹から滴る血が地を這ってどんどん広がり、僕の頬に触れた時、悟った。悟ってしまった。

 

 僕は死ぬ。もうすぐ死ぬ。助からない。

 

 嫌だ。

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやいやいやいやいや嫌だいやいや嫌だいあやだあ――!!!

 

 僕は叫んだ。心の中で。死を拒絶し続けた。

 こうやって叫び続けていれば、泣き喚いていれば、きっと誰かが助けにきてくれて自分は助かるはずだから。そう信じた。

 

 しかし、現実は無慈悲だった。

 

 だんだんと痛みは感じなくなり、意識も薄れていった。

 心の絶叫。生にしがみつく執着心。どれも虚しく、無価値なまま、僕の意識は遠くから鳴り響く救急車のサイレンと共に、虚無の暗闇へと落ちていった。

 

 

 と、いうのがおよそ10年前の話だ。

 僕はあの時、死と言う最大の恐怖を知ってしまった。幼女となった今でも夢に見る体験で、その度に枕を濡らしてしまうし、偶にちびってる。

 

 だからこそ、輪廻転生を自覚した時、僕は心に誓ったのだ。

 

 絶対に危ない目には遭わないようにすると。

 安全な場所で一生暮らすんだと。

 死ぬときは老衰で、眠るように死ぬのだと。

 そう心に決めた。

 

 そう、決めたのに――。

 

 「おや? アナタ、素晴らしい、デス!! その魔女の寵愛!! 幼く、か弱く、貧相で、矮小な子供の身でありながら敬虔な信徒であられるとは! ああ、ああああ、ああああああ!!! 実に実に実にィ! 脳が、脳が震えるぅううううううううう!!

 ――もしや、アナタ、『傲慢』では?」

 

 緑髪のおかっぱ男が、やかましい動きをしたかと思えば、急に落ち着き、こちらを見透かすような眼で妙なことを言い出した。

 そんな狂人を前にして、僕はと言えば

 

 「ヮ、ワァ……!」

 

 某小さくて可愛い奴のように、涙をぽろぽろと流して絶望していた。

 これは決して、彼が狂っているからではない。いや、それも十分にあるが、()()()()()()()()に対してだ。

 彼は、創作上の人物だ。そしてその作品は、この世界は――

 

 「ああ、申し遅れました。ワタシは魔女教大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ、デス!」

 

 リゼロじゃねぇかああああああああああああああああああああああああああああ!!ああああああああああああああもおおおおおおおおおおおおやだああああああああああああああああああああ!!!!

 

 ――正式名称『Re:ゼロから始める異世界生活』とは、死に戻り能力を貰った主人公スバルが、鬼畜過ぎる異世界で死にまくりながらハッピーエンドを目指すという作品。どれだけ鬼畜かと言うと、一歩でも選択肢を間違えると世界滅亡一直線になるような地雷がごろごろ転がっているどころか、向こうから突っ込んでくるくらいである。要はほぼムリゲー。

 そんな絶望的な世界を、死に戻り以外一般的な力しか持ち合わせていないスバルが、文字通り死ぬほど頑張って攻略していくのがこの作品の見どころである。

 

 そして、リゼロにおける鬼畜要素の一つ、魔女教の大罪司教。

 七つの大罪の内、『嫉妬』を除いた6つの権能を持った、6人(現在『傲慢』は空席)の怪物。その権能は正しくチート能力と言う他なく、正面から対峙すればまず勝ち目はない。

 また、全員が狂った思想をしており、しかも全員が自分こそ常人であると本気で思っているので説得や矯正は不可能。というか、会話が全く成り立たない。

 そして、目的のためならば誰が相手であろうとゴミのように片づける残虐性を持っている。そこに躊躇も罪悪感も無い。それが当然で、必然で、正しいことだと、確信しているのだ。

 このように一切の統率が取れていない無秩序な集団だが、一応福音書というある種の預言書に従って動いており、結果的に協力することがある。

 思想がねじ曲がったチート狂人集団、それが魔女教であり大罪司教である。

 

 そして、目の前にいる緑のおかっぱの男はそのうちの一人、『怠惰』担当ペテルギウス・ロマネコンティである。

 

 つまり。

 

 わりぃ、オレ、死んだ。

 

 「同士よ! 福音を受け取るのデス! アナタにはその権利が、資格が、寵愛が、友愛が、慈愛が、聖愛が、愛が、愛が愛愛愛愛愛愛あいあいあいあいあいいいいいいいいい!! が! あるのデス!!」

 

 ャ…! イヤッ…ッ!!

 

 彼から差し出された福音書を、僕の内なるちいかわが拒絶する。

 しかしそれは出来ない。彼の誘いを断れば、僕は殺されるだろう。見た目が幼女だからなど関係ない。彼は容赦なく引き裂ける。

 死。それは僕にとって、抗うことが出来ない恐怖だ。

 

 僕は震える膝をつき、恐る恐る福音書を受け取り、頭を深々と下げた。

 震える声で言う。

 

 「あ、ああ、ありがたく、ちょ、頂戴いたします…」

 

 ペテルギウスの顔は見えないが予想はつく。きっと彼は、狂気的な笑みを浮かべていることだろう。

 その証拠に、狂気の源泉から湧き出るガスのような掠れた笑い声が僕の耳元で鳴っていた。というか、顔を近づけすぎだろ。

 

 「ああ、なんと、ななななんと勤勉なことか! 実に実に素晴らしい、デス!! …期待していますよ、小さき信徒よ。矮小なる傲慢よ。アナタは不遜で、高慢で、尊大で、横柄で、驕っている。天に背を向け、地を睥睨し、自らを唯一無二とする……その『傲慢』を突き通すのデス。

 ……あぁ、ですが、もしも。もしも、貴方がその才能に甘んじ、磨くことをやめるというのなら。それは、それは、それはッ!

 

 ――『怠惰』……デスね?」

 

 彼は双眸をこれでもかという程にかっぴらいて、釘をさすようにそう囁いた。

 

 「は、はい……。き、肝に銘じます……銘じますので、どうかお命だけは…!」

 

 僕の返事を聞いて、彼は満足げに頷いた。

 正直言って、彼の言っていることは何一つとして分からない。僕の何に傲慢を見出したのか。大罪司教の中で最も理知的で話が通じるペテルギウスだが、それでも、彼の言葉は狂人のそれだ。理解しようとすることが間違っているのだろう。

 僕に出来ることは可能な限り彼の機嫌を取り、己の命をこの窮地から救い出すことだけだ。

 

 ペテルギウスから受け取った福音書を胸に寄せ、抱え込む。

 

 こうして僕――アンタレス・アンドロクトヌスは、大罪司教『傲慢』担当となった。

 

 

 季節は冬。白い風が、かさついた枯れ葉と共に舞っている。

 時は夕暮れ。昼は冷たい光を降らしていた太陽が、今や天と地を紅く焦がしている。

 

 とある国の、辺境にある村――否、火が立ち上り瓦礫の山と化したところにて。

 

 骸のようにやせ細った緑のおかっぱ頭の男、ペテルギウス・ロマネコンティは、先程出会った少女について思い返していた。

 

 ペテルギウスにとって、福音書に記されていたとはいえ、あの邂逅は想像以上であった。

 魔女教徒としての長い年月、彼は多くの信徒を見てきた。しかし、あのような魂は初めてだった。

 一見すれば、ただ恐怖に震えるだけの無力な幼子。しかし、その瞳の奥には、彼が知るどの狂信者よりも「凄惨なまでの生への固執」が渦巻いていた。

 

 「ああ……素晴らしい。実に見事な『傲慢』デス……!」

 

 ペテルギウスは自身の頭を抱え、身体をくの字に曲げながら悦悦と独り言ちる。

 

 「己が死を何よりも恐れ、世界よりも自分の命を上位に置く! 全人類が、全理が、自らを救うために存在すべきだと……その魂が、その震える指先が叫んでいる!! あぁ、なんという自己中心的! なんという尊大! 自らの生存こそが至上命題であるという、揺るぎなき勤勉な『傲慢』ッ!! 脳が、震えるぅううッ――!!」

 

 アンタレスと名乗った少女の本質。

 彼女が抱く「死にたくない」という切実で臆病なまでの本能を、ペテルギウスは「自分以外のすべてを犠牲にしてでも生き残るべきだという傲慢な選民思想」だと解釈したのである。

 彼がそう解釈するに至った最たる要因は、彼女の態度にあった。

 隣人が、友人が、親族が、目の前で息絶えているというのに、そのことに怒りも悲しみも感じることなく、彼女の目が、自らの生存のみを考えていたからである。

 

 「期待していますよ、アンタレス。アナタのその『傲慢』が、どれほどの福音を世界に刻むのか……。ワタシも、ワタシもッ! よりよりより勤勉にならなければッ!」

 

 ペテルギウスは満足げに、血の匂いが漂う村を後にした。

 

 一方、その頃。

 アンタレスは、自身の実家があった場所で、真っ青な顔をしてガタガタと震えていた。

 

 「終わった……。人生二回目にして、早々に詰んだ……」

 

 手元には、不気味な装丁の福音書。

 開いてみても、そこには解読不能な文字列が並んでいるだけに見える。だが、不思議と「何を書いているか」ではなく、「何をすべきか」という直感が、冷たい指先が脳を撫でるような感覚で伝わってくるのだ。

 その度に、自分は魔女教徒になってしまったのだと実感する。じわりと背中に汗がにじんだ。

 

 「嫌だ……。魔女教徒なんて死亡ルート一択じゃないか。関わったら最後、スバルくんに倒されるか、ラインハルトに消し飛ばされるか、あるいは身内に消されるかしかない……!」

 

 しかも、よりによって『傲慢』。

 原作のスバルが歩んだかもしれない、あるいは空席だったはずの、ある意味最も不吉な座。

 

 「に、逃げなきゃ…。でも、もしそれが裏切りと判断されたら、あの狂信者たちが追いかけてくるんだよね……? 逆らったら『怠惰』ですねって言われて、見えない手でミンチにされるんだよね……?」

 

 前世で通り魔に刺された時の、あの内臓が焼けるような熱さと、アスファルトの冷たさがフラッシュバックする。

 死ぬのは嫌だ。痛いのは嫌だ。怖いのは嫌だ。

 

 「生き残る……。生き残るためなら、なんだってしてやる。大罪司教のフリだって、猫を被ることだって、なんだって……!」

 

 彼女は涙を拭い、ギュッと福音書を抱きしめた。

 

 「よし……まずは、なるべく目立たず、かつ『私はめちゃくちゃ傲慢ですよー』っていう雰囲気だけ出そう。仕事は部下に丸投げして――いるかわからんけど、とりあえず自分は安全な奥地で震えてる……。うん、それなら『傲慢』っぽいし、安全……だよね?」

 

 少女の浅知恵は、過酷な世界に放り込まれる。

 

 魔女教大罪司教『傲慢』担当、アンタレス・アンドロクトヌス。

 史上最も臆病で、史上最も「死」を拒絶する少女の、血塗られた(本人は全力回避希望の)物語が幕を開けた。

 

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